メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで……


メビウスの輪βお願いβ
こんにちは。わたしは語り手のメビウス。
今回のテーマは「願い事」。
ある日、ある女性の元に妖精がやって来た。
その妖精は、なんと彼女の願い事を何でもかなえてくれると言う…。
それから、彼女の生活は一変した…。
今回の話は、なにか願い事がある…そんな人は、あまり見ない方がいいかもしれません…?
メビウスの輪βお願いβ

 香川和歌子(かがわわかこ)は平凡な女性だった。
 大学を出たばかりで、いま勤めてる会社にも数ヶ月前に入社したばかりだ。
 特にこれと言った能力も無く、かといって不出来と言うわけでもないので、会社にとっても毒にも薬にもならない存在だった。
 そんなある日の事だった。
 香川が自分のアパートに帰宅すると、部屋の中になにかがいた。
 始めは部屋も暗く、なんだかわからなかった。人形かと思った。電気をつけて見た。パパッと音を立て、部屋の蛍光灯がついた。と同時に、部屋の中にいたものが驚いたのか、かすかにビクッと動いた。
「な…に…?」
 香川は恐る恐るそれに近づいた。それは明らかに人間の形をしていた。が、どう見ても人間ではない。身長が30cmぐらいしかないのだ。
 それは香川の方をきっとみすえていた。人形のようにも思えたが、その背中にははとても人工的なものとは思えない、薄く透き通った綺麗な羽がついていた。
 そして、それは瞬きをした。
「ヒッ」
 香川が驚いて声をあげると、それも一瞬驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻し、話し始めた。
「わたしは…妖精…」
「え…? 妖精…?」
「そうです…。女王様から、あなたに仕えろとの指令がありまして…ここにやって来ました…」
 夢かと思った。
 当然だ。しかし、そんな香川の心情を察したのか、香川がほっぺたをつねる前に妖精が言った。
「夢ではありません…。現実です…。本当です…」
「でも…そんな妖精なんて…。それに、一体なんのようなの?」
「あなたの願いをかなえて差し上げます…。いくつでも…」
「え? わたしの…?」
「ええ…あなたの…」
「本当に?」
「本当です…。ただし、常識の範囲ですが…」
 やったぁ!
 香川は心の中でバンザイをした。
 願い事をかなえてくれるのだ。なんでも。常識の範囲で。
 香川は考えた。
 何が良いだろうか? 願い事はいくらでもある。
 金、家、恋人、出世、ペットetc...
 でも、やっぱりあれが一番だろう。
「じゃあ、まず最初の願い事…わたしを、美人にして」
「わかりました…」
 妖精はそういうと、香川の頭の上を飛んで、粉のようなものをふりかけた。
「…これで、あなたは明日起きれば、立派な美人になっていますよ…」
「ありがとう!!」
 香川はお礼を言って、すぐに着替えて寝た。よく考えたら夕食も食べてないし、入浴もしていない。だが、そんなものはどうでもよかった。明日、朝起きれば、自分は美人に変貌しているのだ。
 興奮してなかなか眠れなかった。が、いつしかスヤスヤと寝息をたてはじめた…。

次の日の朝
 香川は早速鏡の前に座った。
 鏡の中の自分を見た。
 そして…昨日のことは、夢じゃなかったと確信した。
 そう、香川は美人に変貌していたのだ。
「わぁ…」
 香川は自分の顔をなでた。
 自分でもウットリするほどの美人だ。しかし、それでいて自分の特徴は残していて、「自分」と言う雰囲気をかもし出していた。
 見違えるような美人になったが、誰だかわからないほど変貌したわけではないのだ。と言うか、香川の顔のまま美人になったのだ。香川の顔のまま、「美人」と言うオーラを顔中から…いや、体中からかもし出しているのだ。
「すごい! すごいわ! ありがとう!!」
「いえ…。気にいっていただけば、幸いです…」
「もう、気にいったどころじゃないわ! 最高よ!」
 香川はルンルン気分で朝食を作ろうとして、ふと止まった。
「ねぇ…代わりに朝食を作って…なんてことも頼めるの?」
「ええ…」
「じゃ、お願いするわ」
 香川がいうと「わかりました…」と言って、妖精はテーブルの上で羽ばたいた。
 また粉のようなものがその羽から降り注がれ、気がつくとそこには香川がいつも作るような朝食が出来上がっていた。
「わっ! すごい…。わたしがいつも作ってる料理…」
「気にいっていただけば、幸いです…」
「ありがとう!」
 香川はそう言って朝食を食べ、会社へ出かけた。一緒に妖精もついてきた。
 香川がちょっと心配そうな目付きをすると、「大丈夫です。他の人には見えません…」と妖精は言った。
 会社につくと、社内中の視線が香川へ降り注がれた。
 同僚は口を開けてこちらを見て、課長はメガネをつけたり外したりを繰り返している。清掃員までがあんぐり口を開けて香川を見た。
「わ…和歌子さん…。変わりましたね…。どうしたんです? 一晩で…」
 同僚が話し掛けてきた。
「ちょっと…ね」
 香川はフフンと鼻を鳴らしなて、自慢気に胸を張った。
「なんか変わったんだけど…何が変わったのかしら? なんか、美人になったような…そのまんまのような…??」
 ま、わかるはずもないわね。
 香川は心の中で微笑した。

その日の晩
 香川は今度は妖精に昇給を願おうとした。が、そこで思いとどまった。
 別に昇給を頼まなくったって、いくらでも金が入ってくる方法があるじゃないか。
「ねぇ妖精さん。わたしが宝くじを買ったら、必ず当たるようにして」
「わかりました…」
 妖精はまた、香川の上で羽ばたいた。
 次の日、香川は辞表を出し、帰りに宝くじを買って帰った。

 それからと言うもの、香川の生活は一変した。
 香川は毎日街中を歩き回り、まだ買っていない宝くじがあれば購入した。
 食事だって、わざわざレストランなんかに行かなくても、この妖精が豪華な食事を用意してくれる(さすがに豪華な家や土地はダメなようだ。まぁ、宝くじでいくらでも儲けられるが…)。
 レストランの雰囲気を味わいたい時だって、宝くじが100%当たるのだから、ちょっとぐらいの奮発もなんのその。香川は惜しみなく豪華なレストランに出かけていた。
「妖精さん…。恋人が欲しい…ってのはダメ?」
「いいですよ…。その辺りまでなら出来ます…」
「ほんと! ありがとう! …あ、でも…変な人は来ないわよね?」
「大丈夫です…。ちゃんと希望通りの人と出会えます…」
 妖精が言った通りだった。

次の日
 今日は香川は物静かなバーに出かけていた。
〔たまには、こういうところも静かでいいわね。『マスター、カクテル1杯』な〜んて言ってさ〕
 そのときだった。
 隣の席に誰かが座った。
 どんな人だろう? と思ったわけでもなんでもないが、なんとなくチラリと見てみると、なんとも好青年だった。年齢は…香川と同じか、少し上ぐらいだろう。会社勤めと言う雰囲気は感じ取れないが、なんとなくお金持ちっぽい感じがした。親が大富豪かなにかなのだろう。いや、もしかしたらこの顔だ。どこかのモデルでもやっているのかもしれない。
 香川がじっとその青年の顔を見つめていると、青年が視線に気付き、香川の方を見た。
 香川は慌てて目をそらした。
 そして、その日は注文したカクテルを飲み、すぐに帰った。

 帰ってからも、その青年の顔が頭にあった。目に焼きついていた。まぶたを閉じればその暗闇に彼の顔が映り、まぶたを開ければ脳裏に浮かび上がる…。
〔なんであの人の顔ばかり…。チラリと見ただけなのに…? もしかして、恋!?〕
 キャーッ!! だとかそんなバカなぁ! だとか、色々な思想が頭に浮かんでは消えた。
 だが、次の日から香川は毎日そのバーに行った。

 そうして何日か過ぎたころ、その青年が話しかけてきた。
「毎日…会いますね」
「えっ。 あ・・・ああ、そうですね」
「僕は金沢映一(かなざわえいいち)って言うんです。あなたは?」
「あ、えと…香川和歌子って言います」
「そうですか。 …マスター、彼女にいつもの」
「あいよ」
「え…? わたしに…?」
「お近づきの印に」
「あ、ありがとう」
 それから、2人はたびたび会うようになり、お互いにたくさん会話を交わし、電話番号その他を教えあい…いつしか、恋人同士となっていた。

「ちょっと時間がかかりましたが…お気にさわりませんでしたよね…?」
 妖精が恐る恐る聞いてきた。
「大丈夫よ。ありがとう。おかげで素敵な彼氏が出来たわ」
「あ、それならいいんです…よかった…」
 妖精はほっと一息ついた。
 お気にさわったら、女王様に怒られるのかしら?
 香川はそんなことを考えたが、妖精には聞かないでおいた。
〔…そういえば…この子とあってからもう数ヶ月も経つのに、わたしはこの子について何も知らないわね…。妖精であるってことぐらいで、名前も知らないし…〕
 あと知ってることと言えば、妖精の女王からの命令で自分のところに来た、と言うことぐらいだ。
〔…ま、いっか〕
 香川は気にしない事にした。

 それから、香川と金沢は結婚し、そして妖精の手助けもあって、2人は幸せな生活を満喫していた。
 いつしか子どもが生まれ、そしてその子どもが成長し、結婚し、孫が生まれ……香川…いや、金沢和歌子も、年老いてきた。
 80を過ぎたころ、映一がパッタリ死んだ。
「映一さん……! 妖精さん…」
「無理です…」
 妖精は即答した。
「いくらのわたしでも、事故死でも無い限り、生き返らせるのは不可能です…。女王様ですら、不可能なのですから、わたしのような下等妖精にはとても…」
「そう……」
 和歌子は泣き崩れた。

 そして、5年ほど経ったとき、和歌子は映一の後を追うことになった。
「わたしも…もうダメかしらね…」
「………」
 妖精はすまなそうに目をそらした。
「ねぇ、妖精さん…3つ程教えて…」
「なんでしょう…?」
「わたしは死後、いまのままだと天国に行く? 地獄に行く?」
「…かろうじて、天国…ですね」
「そう…わかったわ…。これで、安心して死ねるわ…」
「そうですか…。それで…他の二つは?」
「妖精さん…あなたの名前、聞いてなかったわね。それと…どうしてわたしのところに来たか…」
「ああ…そうでしたね…。わたしの名前はリボン…。しがない天の予算委員ですよ…」
「予算委員!?」
 天にも予算委員などがあるのか…和歌子は仰天した。
「ええ…。予算委員…。それで、いま天もお金が足りなくて…。だから、つまらない人生を送っている人間に、楽しい人生を送らせて、その代金として……」
 妖精リボンは、どこに持っていたのだろうか、なにやら伝票のようなものを取り出した。

教訓;自分の人生は、自分で切り開かなければならない。

〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜
え〜、キグロです。
いかがでしたか? 今回のお話は。
読んでる途中で、「いいなぁ、こんな妖精来てほしいなぁ」なんて思った方、いるんじゃないですか?
事実、ボクも書いてる途中で思いましたからね。「いいなぁ…」って。結末知ってるのに。
本当は今回の話、当初の予定ではもうちょっと先まであったんですよね。
妖精が代金を言って、「和歌子は、開いた口が塞がらなかった。」と最後に1文書こうとしてたんですよね。
いやホントに、一つの物語でも、書いてるうちに当初の予定以外のいくつもの結末が頭の中で出来上がっちゃうんですよね。
だから、物語の結末が予定とは違ってる…なんてことも(いいのか?
でも負けない。
ちなみに今回の話。7月7日…そう、七夕に書き終えたんですよね。
なんか微妙……。
では、いつになるかわかりませんが、また次回!

作;黄黒真直

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