メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで……


メビウスの輪ψ冥福ψ
ようこそ、メビウスの輪へ。わたしは語り手のメビウス。
今回は、個人の話ではなく、少し飛躍した、世界のお話…。
2001年9月11日アメリカ。そこで起こった悲劇。
物語は、そこから始まります…。
メビウスの輪ψ冥福ψ

2001年9月11日アメリカ・ニューヨーク 午前8時40分
 ここは、世界の心臓部とも言える、アメリカはニューヨーク。人々は、今日もあくせくと働いていた。
 そんな中、世界貿易センタービル、通称「ツインタワー」の中でも、人々が稼動していた。24時間フル活動する110階建ての超高層ビル。その高さが、ここで働く人間の多さを物語る。街の中で、2本だけずば抜けたタワーは、全身がガラス張り。朝の日差しを受けて、散漫と輝いていた。
 一方、そのビルのすぐ近くでは、どうやら火事が起こっているらしい。一部の暇人たちが、その火事の周りを取り囲んでいた。中には、ビデオ撮影までしている人もいた。
 その時だった。
 普段ならば全く気にしない、ゴゥッと言う航空機の音がした。しかし、この日は違った。
ドオォォン!!
 突如、大きな爆発音が、上空でした。
「何事だ!?」
 何が起こったかわからず、誰もが混乱した。ただ、ものすごい音がして、何かの破片が上から落ちてくる。誰もが、上を見上げた。そこには…想像を絶する光景が見えた。
 タワーが、黒煙を上げている!!
 何が起こったかわからず、とりあえず逃げる人、固まる人、様々だ。その直後、またも航空機が飛んできた。
「危ない!!」
 そう叫ぶ間もなく、航空機はもう1つのタワーへと激突・爆破。
 全ては、一瞬の出来事だった。瞬く間に煙に包まれる超高層ビル。ビルからは、我先にと人が飛び出してくる。野次馬でさえ、逃げ出した。
―ここにいたら、更なる惨事に出会う!―
 誰もがそう思った。そして、それは当たった。
 ビルが、潰されるかのようにして崩れ去った。もうもうと煙を上げ、その姿を一瞬で消した。もはや絶望的な状況。逃げ遅れた人々が全員、がれきの生き埋めになった。おそらく、生きて出られることはないだろう…。

アメリカ 大統領官邸(ホワイトハウス)
 この事件は、すぐに大統領と、同時に世界中に報じられた。
「なんだと!?」
 大統領は驚きのあまり叫んだ。一体、何事だというのだ? 事故か? 事件か? それとも……。
「テロか?」
 その可能性は、すぐに肯定された。この事件は、テロだ!

9月11日午前8時 航空機内
 いたって普通の旅客機、ボーイング767。92人の乗員乗客を乗せ、大空を飛んでいた。機内では、親子連れが、カップルが、一人旅の人が、みな一様に楽しげだった。
「ねぇ、ロサンゼルスまではあとどのぐらい?」
 女が、男に話しかけた。
「え〜っとね…ん?」
「どうしたの?」
「いや……」
 どうしたんだ…? 男は思った。乗務員が、何か慌しい。どちらかと言うと、怯えている。ただの気のせいか? 一体、何が起こったというのだ…?
「どうしたんですか?」
 男は、たまらずスチュワーデスに聞いてみた。
「あっ!? あっ、いや、いえ…その…」
 その時だった。
《アルカーイダ、ばんざい》
 突然、妙な放送が掛かった。
《この飛行機は、我々が占拠した。これからお前達は、我々と共に、全てを捧げるのだ。ばんざい》
「なんだそれは!?」
 全くわけのわからない放送だ。だが、全員がこれだけは理解できた。
―この飛行機は、ハイジャックされた!―
「ちょっと、どういうことよ!?」
「オレに言うなよ!」
 機内は完全に混乱した。一体、どうなるんだ!?

同時刻 ロサンゼルス住宅街
Prrrrrr....
 電話が鳴った。
「はいはいはい、ちょっと待って」
 婦人は朝ごはんの片づけをいったん止め、電話に出た。
「ハロー?」
《母さん…?》
「あら、どうしたの? いまどこ? 空港?」
《ごめん…もう、2度と会えないかもしれない》
「………えっ?」
 婦人にはわけがわからなかった。突然、何を言い出す?
《いま、飛行機の中なんだ。だけど……》
「だけど…?」
『ハイジャック』と言う単語が、どうしても出せない。しかし…言わないわけにもいかない。だが、言えない。
《ともかく、僕はきっともうダメだ。このまま、死ぬ》
「ちょ、ちょっと待ってよ、どういうこと!?」
《……母さん、驚かないでくれ》
「え、ええ。わかったわ」
《……実は……ハイジャック…されたんだ…飛行機が…》
「………え? じょ……冗談でしょ!?」
《冗談じゃない。本当だ。彼らは、ツインタワーに突っ込むと言っている…》
「ツインタワー…? ツインタワーって、あの…!?」
《そうなんだ…。だから、たぶん…》
「ちょ、ちょっと待って! ウソでしょ、冗談でしょ!?」
《…愛してる、母さ》
 そこで、電話が途切れた。時刻は、午前8時42分。一体何が起こったのか。彼女がそれを知るまでに、そう長い時間は掛からなかった。

 死者2千数百人。アメリカ政府は、このテロの犯人特定に、全力を注いだ。それには、長い時間は掛からなかった。犯人は、国際テロ組織《アルカーイダ》。その首謀者名までもが、具体的に特定された。アメリカは、彼らへの報復を誓った。
 とは言えど、素直に報復できるわけでも、首謀者が現れるわけでもない。そのためには…軍隊を起動し、排除するしかない。首謀者のいる、アフガニスタンから。
 こうして、対テロ戦争と名付けられる戦争が始まった。
―国際的なテロを防ぐ―
 これを目的に。
 これに関連して、あれよあれよと世界的な調査も同時に始まった。
 北朝鮮とイラクの核兵器捜索が、始まったのだ。
 アメリカは、イラクに宣戦布告し、戦争が始まった。
 全ては、世界中の話題となった。
 ツインタワーが崩壊して、2千数百人が死亡した。
 そして、そこからアフガニスタンへの攻撃、イラク戦争…。
 その死者は、米兵死者数だけで150人近くに上り、ツインタワー崩壊・イラク戦争の民間人を含めた死者数は、ゆうに1万人を超えた。
 この事実に、世界中が非難し、悲しみを覚えた。
 何故罪もない人々が死なねばならないのか。
 何故こんなことになったのか。
 これ以外、道は無かったのか。
 一体、何故………。
 死者数、推定1万人。悲しみにくれる人、大多数。
 その数は、いまなお増え続けている。
 しかし、生まれたのは悲しみだけではない。
 これらを通し、アフガニスタンやイラクの情勢が世界中に伝わった。
 世界中のボランティア団体が、そこに駆け寄り、そこにいる子ども達を、救った。
 治せる病気にかかり、死亡した子。飢えて死んだ子…。
 たくさんの子ども達を慈しみ、いま生きている子ども達を救おうと、みな必死に頑張っている。
 そして同時に、戦争を食い止めようと。
 死者数、1万人。この数を、これ以上増やさないようにと…。


2004年某月某日 日本
「え〜っと…どこにあるかな…?」
 ここは、日本のとある図書館。1人の大学生が資料を探していた。
「あっ」
 大学生は、誤って本を落としてしまった。彼は慌ててしゃがみこんだ。と、ある統計データが彼の目に飛び込んできた。
―平成14年度自殺者数 3万2143人―
 しかし、彼は気にも留めず、本を拾い上げ、資料探しに戻った。

教訓;遠くで苦しんでいる人たちを救うのは結構なことだ。だがしかし、もっと近くにも苦しんでいる人がいることを、忘れてはならない。

〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜
なんだか、ボクにしては妙に重いテーマに取り組んでしまい…書いている自分自身が、結構沈んでいる状態であります…。
う〜ん…でも、この間新聞であの自殺者数の統計を見た瞬間に、この物語が脳裏に浮かんだんですよねぇ。
そしたらもう、なんと言うか…書かなきゃいけないような気がしてしまいまして…。
不謹慎でしたかね? やっぱ。
あ、ちなみに、テロ組織の機内放送。あれ、全くの妄想ですので。
実際はどんな機内放送が流れたか、ワタクシは知りません。ってか、流れたのかどうかすら、知りません。
ただ、流した方が話がスムーズに進んだので…。
いい加減な小説家だなぁ…。

どうでもいいけど、今現在、この「冥福」を含めて、メビウスの輪、なんと4編も平行して書いてるんですよねぇ。
どれか1つにまとめろよ、って感じですけど。
でもまぁ、これが書き終わったわけだから、後3つ…。
う〜ん…一番書きやすいのは果たしてどれだろう?
まぁいいや。書きたいのから書いてりゃ、書き終わるでしょ、そのうち。
ってか、「摩探」も平行して書いてるんだよね…。
これ書き終わっても、まだ4編の小説が残ってます。
それでは、早く他のも書きたいので、この辺で。また次回、会いましょう。

作;黄黒真直

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