おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#2「恐竜化石を回収せよ!」

「こんな生活…」
 スズカの声がする。
「こんな生活…」
 地獄から轟くような、うめき声がする。
「こんな生活…」
 一瞬の溜め。そして、爆発!
「もう、いやあぁ〜〜〜っ!!!」
 スズカの叫び声が、ガリレイの研究所から漏れた。
「静かにしろ、スズカ」
 ユキオが冷静に制する。ユキオは、乾パンを一口、かじった。
「そんな事言ったって、もう3日もこんな食事ばっかりじゃ…! わたし、お化粧道具も持ってきてないのよ!!」
 泣きそうな声で、訴えた。「もういやぁっ!」と、銀のお盆を前へ押しやり、その場に伏せる。
「スズカ、怖いでチュワン…」
「見た目はそんなだけど」とピグル。
「その料理には、みんなに必要な栄養分が、全部入ってるのよ。エネルギー源の糖質、体を作るタンパク質、お肌を綺麗にするビタミンA、エネルギー代謝に使われるビタミンB…」
 ピグルが1つ1つ説明する。「だけどぉ」とスズカはやっぱり愚痴る。
「ずっとこんな料理だったらどうしよう…」
 スズカに影響され、コータまでもが言い始める。
「大丈夫だ。次のミッションでは、絶対に勝つ」
 ユキオが志気を高める。
「そのためにも、今は食べておくんだ」
 そう言って、宇宙食のようなチューブに入った水を、グイと飲んだ。
「はかせぇ。次のミッションはいつ来るの?」
「う〜む…。ミッションがいつ来るかは、おれにもわからん」
「…もし、ずっと来なかったら、どうなるでチュワン…」
「嫌な想像はするな!!」
 子ども達は身を乗り出し、チワワンに怒鳴った。
「こ…怖いでチュワン…」

「いただきま〜す」
 トモルたちが一斉に食べ始める。しかし、食べながら、ミオが呟いた。
「でも…もう何日も帰ってなくて、お母さんもお父さんも心配してないかな…?」
「うん…ボクも早く家に帰りたい…」
 ダイが嘆く。と、そこへバドバドが茶々を入れた。
「きっと、いなくなって清々してるバド! もうダイの事なんか忘れてるバド!!」
「っ!? そ、そんなぁ…」
 ダイが突然、目に涙をにじませた。
「ちょっとバドバド! 何てこと言うのよ!!」
 ミオの怒鳴り声にも、バドバドは「へっ」と取り合わない。
「大丈夫だ、ダイ」
 トモルはダイの肩に手を置いて、言った。
「ゲームを完成させれば、元の世界に帰れるんだ。だから、ゲームを完成させてやろうじゃんか!」
「うん…そうだね」
 ダイは少しだけ、元気を取り戻したようだ。

≪エリアD2に出動せよ。エリアD2に出動せよ≫
「! ミッションよ!」
 スズカはそう言って、立ち上がった。
「よし…次こそトモルたちに勝つんだ」
 ユキオも立ち上がる。コータ、ガリレイ、チワワンも立ち上がり、部屋を後にする。
 ブルーペガサスに乗り込んだ4人と1匹。目の前に、「D」の扉が現れた。
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
 ガリレイが言い、操縦桿を思いっきり引いた。
 ゴゥン、とジェット噴射が出て、ペガサスが進む。扉にぶつかる! …直前で、扉が開く。
 またしても、ジェットコースターのような走路。上昇下降するたびに、「うぐ…」と子ども達はうめく。
 空間に亀裂が入った。そして、そこからブルーペガサスが現れる。
「やっぱり、まだあの走路には慣れないな…」
「目が回るでチュワン…」
 そして、横からレッドペガサスも現れた。
「ミオ、トモル、ダイ! 負けないわよぉっ!!」
 スズカが、レッドペガサスに向かって叫んだ。
ピーピーピー…
 何かの電子音がして、操縦席の目の前に、モニターがせり出してきた。ガリレイがすぐさま、「ユリーカ情報だ!」と叫んだ。
ジャン!
 モニターの画面に、「!」マークが表示される。子ども達がモニターに詰め寄ると、画面が切り替わった。
≪地球上では、何十億年と言う長い歴史の中で、様々な種類の生き物が誕生し、そして絶滅して行った。そんな大昔の生き物たちの生態を現在に伝えるのが、化石である。
 生き物の死骸が川や海、湖の底に沈み、その上に泥や砂が積もり、骨などの硬い部分だけが残った物が化石である。
 積み重なった地層から出る化石によって、時代がわかる。例えば、マンモスの化石が見つかれば新生代、アンモナイトや恐竜なら中生代、三葉虫なら古生代と大きく分けられる。
 大昔、地球の大陸は1つにまとまっていた。だが、約2億年前の中生代に大陸は動き出し、現在の5つの大陸に分かれ始めた。それがわかるのも、化石のおかげなのだ≫
「そーなんだ!」
 子ども達は、思わず言った。
 だが関心するのもつかの間。すぐに画面が切り替わり、「MISSION 2」と表示された。
≪現在、このエリアでは、海底地震によって貴重な化石が崩れようとしている。そこで、ミッションナンバー2。海底の地層に埋もれた恐竜の化石を、直ちに回収せよ≫
「化石の回収…」
 子ども達が呟く。海底の地層…海底…って事は…。
「まさか、海の中に潜るのぉ!?」
 最初に言ったのは、コータだった。
「当たり前じゃない! 海底化石を探すのよ!」
「え、やだよ! だって、海の中だよ!」
「大丈夫だ。このペガサスは水中にも潜れる」
 ガリレイが意気揚々と言う。もう、海に潜る気満々だ。
「早く潜って、今度こそミッションをクリアするんだ」
「そんな! 危ないよ! 危険過ぎる!!」
 コータが抗議する。だが、誰も耳を貸さない。
「ミッションをクリアしないと、元の世界には戻れないんだぞ!」
「そうよそうよ!」
「トモルたちには、負けていられない」
「その通りでチュワン!」
「レッツ・ゴー!」
 反対派はコータのみ。ブルーペガサスは、海へと潜っていった。

「博士! 早く潜ろう!」
 トモルがガリレオに訴えかける。
「そうは言ってもなぁ…。一応、ペガサスで海に潜ることは出来るけど…」
「じゃぁ、早く行きましょうよ!」
 ミオも急かす。もう、ブルーペガサスは海に潜っていた。
「だけど…今、海底では地震が起こってる…君たちを危険な目に遭わすわけにはいかない!」
「でも、ミッションをクリアしないと、元の世界に戻れないんでしょ?」
 ダイも一緒に急かす。バドバドは、全く無関心のようだ。黙って会話を聞いている。
「だったら、早く行こうよ、博士!」
「う〜ん…困っちゃうんだよなぁ…」
 仕方がないなぁ…と、ガリレオは操縦桿を引いた。レッドペガサスの高度が下がり…海へと、潜った。

「うわぁ…」
 子ども達は、思わず感嘆の声を上げた。
 ペガサスの周りで、たくさんの魚たちが泳いでいる。ここは熱帯だったらしい。色鮮やかな熱帯魚が、あちこちを遊泳していた。
 両ペガサスはさらに海底へと向けて突き進む。次第に辺りが暗くなり、両ペガサスともライトをつける。海底が見えてきた。
「海溝だ…」
 ユキオが呟いた。
 海溝(かいこう)とは、「海の溝」と書くように、海底にある深い溝の事だ。
「え? ちょっと、まさかあの中に入る気じゃないよね…?」
 まさかね? と言う口調で、コータが問いかけた…が、それに答える者はいない。
「ね…ねぇ…?」
 思わず苦笑いする。それに答えるように、ガリレイが操縦桿を握り締めた。そして、海溝へと潜っていった。

「ガリレオ博士…わたし達も、早く!」
 潜っていくブルーペガサスを見て、ミオが言う。
「と、言われても…困っちゃうんだよなぁ…」
 操縦桿を握ったまま、ガリレオが言った。
「いくらなんでも、あの中に入るのは危険すぎる…。ユリーカタワーが言うには、今は海底地震も起こってるって話しだし…」
「海底地震なんて、ヘッチャラだよ!」
 トモルがコブシを握り締め、ガリレオを説得する。
「それよりも、早く行かないと、ユキオたちに先にミッションをクリアされちまう! 急がないと!」
「そうは言ってもなぁ…迷っちゃうんだよなぁ…」
「だけど、ミッションをクリアしないと、元の世界には戻れないんでしょ?」と、ダイ。
「う〜ん…そのとおりなんだけど…」
「じゃぁ、早く行こうよ、博士!」
「しょうがないなぁ…」
 渋々操縦桿を引くガリレオ。レッドペガサスも、ゆっくりと、ユキオたちが入っていったのとは別の海溝に、潜って行った。
 と、その時だった。
ゴォン!
 突然の轟音! 海溝の壁が揺れ、海水が揺れる! 一緒に、両ペガサスも揺さぶられた!
「きゃぁっ!?」
「バッ、バド!?」
 ガツン! と、バドバドは壁に思いっきり頭を打ち付けた。
「なに、今の…」
 床に倒れるバドバドを拾い上げつつ、ミオが聞く。席に座ると、膝の上にバドバドを載せた。
「海底地震だ…やっぱり、このまま進むのは危険すぎ「博士! 上!」
 トモルが叫んだ。ガリレオは驚いて上を見上げる。…岩盤が降ってくる!
「うわぁっ!?」
 慌ててペガサスを操る! 何枚も降ってくる岩盤を、巧みな操作で避けた。
「やっぱり危険だ!」
「大丈夫だって、博士! オレたちが、こんなところで負けるわけがない!」
 トモルが力説した。

「危ないよ、やっぱり! 危険だよ! 帰ろうよ!!」
「うっるさいわね!!」
 コータとスズカの言い争いが続いていた。
「そんなに帰りたいなら、自分ひとりで帰れば良いじゃない! ペガサス開けるから!」
「え〜!!」
 泣きそうな声を張り上げる。ユキオもチワワンも、コータを見る。
「いいか、コータ。これはミッションなんだ。クリアしなければ、元の世界に戻ることは出来ない」
「そうは言ってもさ…どうせ10個集めなきゃダメなんだろ? だったら、1個ぐらい向こうに取られたって…」
「そうは行かない!!」
 ユキオ、スズカ、ガリレイ、チワワン、全員が一斉にコータを怒鳴りつけた。
「ここまで来て、帰るわけには行かないんだ!」
「ああ、その通りだ! これは試練だ!」
「だから、絶対化石を掘り出すのよ!」
「ゴーゴー、でチュワン!」
「な、なんでそんなに熱いんだよ、みんな…」
「熱血だぁっ!」
「ガリレイ博士、熱いでチュワン!!」
「このチーム分け、誰がやったんだよ…。 …って、ガリレイ博士、操縦! 手、離してる!!」
「あ、うおぅっ!?」
 慌てて席に戻り、ガリレイが操縦桿を握り締めた。ブルーペガサスはしばらく揺れた後、また真っ直ぐ進み始めた。
「帰りたい…」
 コータが泣きそうな声で呟いた。

「ん?」
 少し落ち着いたとき、ユキオが外を見て呟いた。
「博士。ペガサスを止めてください」
「あ? ああ…」
 ガリレイは、指示通りにペガサスを止める。が、意図がわからない。
「スズカ、恐竜が生きていたのは何時代だ?」
「えっ!? そんなこと、突然聞かないでよ!! コータ、いつ?」
「え? 確か…中生代。約2億年前。ユリーカ情報ではそう言ってた」
「そして同時にそれは、アンモナイトの生きていた時代でもある…。博士。左右の壁を照らしてください」
「ああ、わかった」
 やっとユキオの意図がわかった。左右の壁を探し、アンモナイトの化石を発見すれば、それはつまり…。
「あった! アンモナイトの化石だ!」
「と言う事は…」
「ああ。ここの地層の岩礁は、中生代のものなんだ。つまり、この辺を探せば…」
「恐竜の化石が見つかるのね!?」
「ああ!」
「やったぁっ!!」スズカとチワワンが、飛び跳ねて喜んだ。
「…ん?」
 その時、コータが何かを見つけた。

「まずは、どこに恐竜の化石があるか、だな」
 トモルたちは、作戦会議を開いていた。ミオが、ユリーカ情報を思い出す。
「ユリーカ情報によれば、恐竜の生きていた時代は中生代…」
「中生代って事は、2億4700万年前から、6500万年前までだね」
 ダイが得意気に言う。
「博士。ここの地層がいつの物か、調べられないの?」
「調べられるとも」
 黒いボードに手をかざし、キーボードを表示させる。ピッピッピッといくつかボタンを押すと、ペガサスの底部が割れ、ショベルカーの先端のような物が現れた。
 ガリレオはそれを操作し、近くの壁を一部削り、採取する。採取された壁の一部が、ペガサス内に出てきた。それをそのまま、機械にかける。
「なにをやってるの?」
 ミオが後ろから覗き込む。トモルもダイも、興味津々だ。
「地層の年代を調べているんだよ」
 ガリレオが説明する。
「いつの時代に、どのような微生物がいたか…いつの時代に、どのような地質だったか…いつの時代に、どのような火山灰が噴出されたか…。これらの事は、過去の研究である程度解明されているんだ。だから、逆に言えば、地層を調べて、そこにある微生物の化石や、地質、火山灰などがわかれば、その地層がいつの物か、わかるんだ」
「そう…なんだ」
 トモルが、わかったようなわからなかったような声で言った。

「どうした、コータ。化石を見つけたか?」
 ユキオが聞く。
「いや、そうじゃないけど…あの魚、変な形…」
 コータが外を指差した。暗闇の中で、確かに魚らしき物が動いている。
「あれは…シーラカンスだ!」
 ガリレイが驚愕の声を上げた。「シーラカンス?」と子ども達は聞き返す。
「ああ、そうだ。白亜紀…6500万年前に絶滅した生物だ」
「え? でも、いま、目の前に…」
「そのとおり。シーラカンスは絶滅したと思われていたが、1938年、南アフリカ沖で発見された生物なんだ。そして、その姿形は、白亜紀の化石とほとんど全く変わっていない」
「変わっていない?」
「そう。このように、ある生物種がその数を減らしながらも、現在まで形を変えずに生き残っているものを、『生きた化石』と言うんだ。動物のサイや、植物のイチョウ、ハスなども、生きた化石と呼ばれているのだ」
「そうなんだ」
「すご〜い! なんだか、生命の神秘に出会えたって感じ!」
 スズカが手を合わせ、目を輝かせた。
 と、その時だった!
ゴゥン!
 またしても海底地震が彼らを襲った! 壁が揺れ、海水も揺れ、ペガサスも揺さぶられる!
 岩盤が剥がれ落ち、砂埃が舞った。視界が砂に遮られる。
 ………。
 そして、十数秒後、視界が晴れた時…シーラカンスは、消えていた。

「よし、間違いない。これは、中生代の地層だ」
 ガリレオ博士が言うと、3人と1匹が歓声を上げた。じゃぁ、ここを掘って行けば…!
ゴゥン!
「キャァッ!?」
 またしても海底地震が彼らを襲った! 壁が揺れ、海水も揺れ、ペガサスも揺さぶられる!
 岩盤が剥がれ落ち、ガリレオは、またそれを避けるはめになった。
 見事なペガサスさばきで岩盤を避ける。当たったら、ひとたまりもない。ガリレオは必死だった。
「これで…平気かな…?」
 不安そうに上を見上げる。薄暗い海が広がっている。
「あ、博士。あれ…」
 ミオが前方を指差した。

「あ〜、いなくなっちゃったぁ。シーラちゃん」
 スズカは勝手に命名していた。
「どこに行ったんだ?」
 身を乗り出して、ユキオが思わず辺りを見渡す。周りは暗闇と、壁と、落ちた岩盤…。
「シーラカンスなんてどうでも良いから、早くミッションをクリアして帰ろうよ!」
 度重なる地震で、コータの不安は頂点に達していた。「そうだな。シーラカンスより、ミッションが先だ」と、ユキオも同意した。が、その時だった。
「あ! 見て!」
 スズカが前方を指差す。その先には、岩盤が数枚落ちている。そして、その岩盤の下。わずかな隙間に…
「シーラちゃん!!」
 スズカが叫んだ。
「大変! 岩の下敷きになって、動けなくなってる! 早く助けてあげないと!!」
 男性陣に訴えかけるスズカ。
「待てよスズカ。今回のミッションはシーラカンスを助けることではなくて、恐竜の化石を発掘する事だ。シーラカンスは関係ない」
「そんな事言わないでよ! 閉じ込められちゃったままじゃ、可哀想じゃない!!」
「閉じ込められてるのはこっちだよ!!」
 コータが即座に叫んだが、スズカは耳を貸さない。
「ねぇ、助けてあげましょうよ!! あのままじゃ、お腹が空いて、苦しくなって、そのまま…そのまま……!!」
 スズカの力説に、そのまま放って去っていく事に、ユキオは段々罪悪感を覚えてきた。それに、お腹が空く苦しさを、彼らは今、よくわかっている。3日も連続で非常食だか宇宙食だかわからない乾パン。それも、朝、昼、晩、三食連続。食欲もわかず、空腹感は満たされない…。
「わかった…助けるよ」
 ユキオが負けた。
「博士。いいですか?」
「………」
 ガリレイは小さくため息をついて、操縦席に座り直した。
「お前たちの好きにしろ」

 ミオが指差した先には、白っぽい巨大な物があった。
「あれは…なにかの化石だ!」
 ガリレオは、ペガサスのライトを操作し、巨大な物全体を照らす。
「間違いない。あれは、恐竜の化石だ!」
「ホントに!?」
 ダイが前に出てきて、ライトの当たっているところを見る。確かに、恐竜の化石がそこにはある!
「じゃぁ博士。早速発掘してよ!」
「ああ」
 黒いボードに手をかざし、またボタンをいくつか押す。ペガサスの底部が開き、今度は平たい回転ドリルが現れた。化石を傷つけないように、その周りを四角く切り取っていく。ガリガリガリガリ…と言う音と共に、切れ込みが入って行った。
 あっという間に切り取り作業が終わり、ガリレオはドリルをしまった。そして次に、ピストル型の機械を底部から出した。
パシッパシッパシッ
 と言う音がして、機械から鉄製の杭が飛び出した。杭は、ロープで機械とつながれている。この杭を化石の周りに刺し、そのまま引っ張るのだ。そうすれば、恐竜化石が岩盤ごと離れ、引き上げる事が出来る。
 が…。
 カンカンッと言う軽い音を立て、杭がはじき返された。
「だめだ…岩盤が硬すぎて、杭が刺さらない…」
「そんなぁ! せっかくここまで来たのに!?」
 どうしよう…と、4人と1匹は目の前の化石を見る。やがて、トモルが決心したように言った。
「博士。ペガサスの中に、潜水服はある?」
「あ、ああ…あるが?」
 それを聞くと、「しめた!」とトモルの顔が輝いた。
「じゃぁ博士。オレ、行って来ます!」
「い、行って来るって、どこに…?」
「もちろん…」
 トモルは、前方を力強く指差した。
「海底に決まってるだろ!!」
「ええ〜っ!?」
 ミオ、ダイが同時に大声を上げる。
「そんな無茶な!」ガリレオが叫ぶが、時既に遅し。トモルは後方のドアを開け、ペガサス内の倉庫へ入って行っていた。
「…。犬も歩けば棒にあたる。論より証拠。ボクも行く!」
 ダイも立ち上がって、トモルの後を追った。
「ちょっと2人とも! …全く、もう知らない」
 ミオは膨れ面で腕を組み、椅子に座りなおしたが…
「…。わたしも!」
 と、楽しそうに後を追った。
「あ、おい、待ちなさい…!」と言うガリレオの声も虚しく、素早く潜水服を身に着けた3人は、すぐに外に出た。
 3人は、ペガサスからぶら下がる杭を1本1本手繰り寄せ、化石の前まで持って行く。そして、カン、カン、と金槌で杭を打ち始めた。
 薄暗い海底に、金属のぶつかり合う音が響く。岩盤は硬いが、打つたびに、少しずつだが杭が刺さっていく。3人の作業が、なおも続く。ガリレオとバドバドは、その3人を、ただただ見守っていた。
 数分で、全ての杭を打ち終わり、トモルたちは手でガリレオに合図した。ガリレオは頷き、ペガサスを発進させる。ガコ…と言う低い音と共に、岩盤が化石ごと岩壁から剥がれた。トモルたちはそれぞれ、杭のロープにつかまる。ガリレオは、化石と共に、彼らを海上へ引き上げた。
〔すごい…。良くやったぞ、トモル、ミオ、ダイ…。君たちはまるで、困難を楽しんでいるようだな…〕
 ガリレオは、少し微笑んだ。

ガゴォン…
 砂塵を巻き上げながら、岩が崩れた。シーラカンスが、岩の隙間から脱出し、自由の身となった。
「やったぁ! 脱出成功! 良かったね、シーラちゃん♪」
 それを見て、スズカが言う。ユキオが小さくため息をついた。
「それじゃ、いよいよミッションに取り掛かろう。さっき見たとおり、この周りは中生代の地層で囲まれている。つまり…」
「ああ!!」
 と、その時、ガリレイの大声が響いた。何事だ!? と、3人と1匹がガリレイの周りに集まる。
「これを見ろ!」
 ガリレイは目の前のモニターを指した。そこには、化石の付いた岩盤を運ぶ、レッドペガサスの映像が映し出されている。
「シーラカンスを助けている間に、先を越されてしまった!」
 ガリレイが叫ぶ。事態を飲み込み、騒ぎ出す子ども達。
「えぇ!? じゃぁ、わたし達も、早く恐竜の化石を…」
「無駄だろう。今から探したって、トモルたちより先に発掘できるとは思えない」
 そう言って、ユキオはまた小さなため息をついた。

ザザーン…
 波の音がする。トモルたちは、砂浜へ恐竜化石を引き上げていた。
「よし、これで良いか?」
 完全に砂の上に引き上げた恐竜化石を見て、トモルが上空を見上げる。前回と同じなら、ここであの声が…。
≪ミッション・クリア≫
 トモルの予想通りだった。ユリーカタワーの声がして、恐竜化石が輝き始めた。すると、すぐに光は小さな玉になり、光が薄れると、中からユリーカストーンが現れた。トモルが、それを手の上に載せる。
「や………やったぁっ! また勝ったぁ!!」
 子ども達は、飛び跳ねた。

≪ミッション・ロスト≫
 ブルーペガサス内に、ユリーカタワーの声が響く。「負けたぁ…」と言う落胆のため息がする。
「だがしかし…シーラカンスを助けられたから、よかったじゃないか」
 ガリレイが、ペガサスを海上へと飛ばしながら、言う。真っ先にスズカが反応した。
「そうよね…その通りよね。シーラちゃんが助かったんだし!」
 ブルーペガサスが、海上へ出る。ガリレイは、操縦桿の横の、取っ手のようなレバーを引いた。
「イクジットスイッチ、オン!」
 レバーを90度回転させる。瞬間、ブルーペガサスが光り…そして、消えた。

 トモルたちは、脚立を使って、2個目のユリーカストーンをユリーカタワーに納めていた。ピカ、とストーンが光り、赤い屋根の研究所兼家の方を向く。そして、ユリーカタワーの頭にある、ピンクのクリスタルから、淡いピンク色の霧が噴射され、ガリレオの研究所兼家に降り注ぐ。
「これで2個…あと8個か!」
 脚立から下りてきて、タワーを見上げるトモル。「まだまだ先は長いわねぇ」とミオが呟く。
「ま、いいじゃん。1個1個集めていけば、そのうち10個たまるさ!」
「チリも積もれば山となる、だね」
「ちょっと違うと思うけど…」ミオが言う。「ま、良いか」
「じゃ、博士。早く帰って、ご飯にしようぜ!」
 トモルは、あの豪華料理を思い出し、よだれを垂らしそうになった。

「みんな。今回も頑張ったわね」
 ガリレイのお手伝い、ピグルが言った。
「みんなが頑張ったのは、わかるんだけど…ね」
 申し訳無さそうに、続けた。
「ユリーカストーンの争奪戦に負けたから、食事は、こんなのだけど…」
 悲しげな、落胆した子ども達を見て、ピグルの声は、どんどん小さくなっていった。
「やっぱり…結果が全てだな…」
 ハァ、とユキオが呟いた。

 闇夜の中、ユリーカタワーは、ガリレオの研究所から聞こえてくる楽しげな笑い声だけに、そっと耳を傾けていた。

⇒Next MISSION「激流をさかのぼれ!」

本を閉じる inserted by FC2 system