おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#5「電気を取り戻せ!」

「いただきま〜す!!」
 元気な声が、青い屋根の研究所…ガリレイの研究所に響く。2連続の豪華料理を目の前に、スズカは目を輝かせていた。
「ああ、幸せ♪ こんな豪華な料理が毎日毎食食べられるなんて…。次も絶対勝つわよ!!」
「勝つでチュワン!!」
 2人(1人+1匹)は、「オー!」と片手を挙げて、また食事に戻った。

「全く、どうしてこんな料理なんだバド。やっぱり、オイラがいないとダメバドね」
 ブツブツと文句を言いながら、乾パンを口に運ぶバドバド。その横で、トモルはものすごい速さで質素なご飯を食べていた。
「ごちそうさま!」
「よくそんなに食えるバド…」
「なんたって、ユリーカストーンのためだからな! 栄養たくさんつけて、次こそ勝たないと!」
「じゃぁ、これもあげるバド」
「うおっ!?」
 バドバドが目の前に差し出した料理を見て、トモルは一瞬ひいた。
「あ、ああ、いいとも」
 無理矢理乾パンを口に入れたが…慌てて水を流し込んだ。やはり、まずいものはまずいのだ。
 と、その時だ。
≪エリアB1に出動せよ。エリアB1に出動せよ≫
「ミッションだ!」
 立ち上がるトモル。「食わずにすんだ」と言う安堵の表情がわずかに見て取れた。

「レッドペガサス、発進!」
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
 両博士が操縦桿を引くと、両ペガサスからジェットが噴き出る。そして…いつも通り、ジェットコースター並みの走路を駆け抜けた!

 空間に亀裂が入り、そこからペガサスが現れた。
「ここは…?」
 辺りを見渡す子ども達。と、ミオが眼下の景色に気がついた。
「わぁ…綺麗…!」
「え?」
 ミオに続き、下を見る。そこには、とても美しい夜景が広がっていた。色とりどりのネオンサイン、窓から漏れるまばゆい光、ライトアップされた街路樹…。人工的な光の美が、そこに広がっていた。
ジャン!
 両ペガサス内に、「ユリーカ情報」の音が流れる。
「ユリーカ情報だ!」誰かが言い、全員がモニター前に詰め寄った。
≪電気はどうやって作られ、どうやって各家庭に送られるのか。
 ラジコンや扇風機、ドライヤーなどにはモーターが使われている。発電機とモーターは、同じものである。
 モーターは、電気を流すと回転するが、逆に、モーターを回転させると電気が起きる。これは、コイルの中に磁石を出し入れしたり、コイルを磁界の中で回転させたりすると、コイルに電気が流れるからだ。発電所ではこの仕組みを利用して電気を作っている。
 火力発電所では、石油や石炭、天然ガスなどを燃やして水を沸騰させ、蒸気の力でタービンを回して電気を作っている。
 発電所で作られた電気は超高圧変電所を通り、一次変電所、中間変電所、配電用変電所を経由して配電線へ送られる。発電所で25万V以上の高電圧で送り出された電気は変電所を通るたびに電圧が下がり、柱状変圧器で、100Vまで下げられてはじめて各家庭へと届けられる≫
「そーなんだ!」
 子ども達が顔を上げた。長い旅をしてきた電気たちが、いま、こうして目の前に広がる明るい夜景を生み出しているのだ。
「電気って、ずいぶん長い旅をしてくるのねぇ」
「かわいい子には旅させよ、だね」
「全然違うバド」
 子ども達がモニターに顔を戻すと、「MISSION 5」と表示された。
≪ミッションナンバー5。現在停電中の第4地区に電気を点けよ≫
「第4地区?」
 子ども達は一斉に窓に詰め寄り、辺りを見渡した。このミッションをクリアするためには、まず、第4地区を見つけなければならない。
「あ、あそこか!」
 それは苦無く見つかった。光り輝く都市の中、一画だけ、四角い暗闇がある。あそこが第4地区に違いない。
「よし、行こう」
 両博士はペガサスを操作し、第4地区へと飛んだ。
 飛びながら、子ども達は考えた。「停電中の第4地区に電気を点けよ」と言う事は、停電の原因を取り除け、と言う事だ。
「停電の…」「原因…?」
 トモルとユキオは、あごに手をやり、考え始めた。ユリーカ情報が、脳裏を横切る。
≪…どうやって作られ、どうやって…≫≪…発電所で作られた電気は…≫≪…を経由して配電線へ送られる…≫
「配電線だ!」
 トモルとユキオは同時に叫んだ。
「きっと、どこかの配電線が切れてるんだ!」とトモル。
「それを修理すれば、停電が直るに違いない」とユキオ。
 両博士は同意の印に頷いた。「それに違いない」
 両ペガサスは低空飛行を始めた。ビルの間を飛び、切れた配電線を探す。その配電線の向こう…ビルの中で、困っている人々の姿が、ミオの目に映った。
『どうなってるんだ、これは!』『停電よ、停電!』
『何も動かない!』『仕事にならないぞ!』
 停電の原因は不明。頭を抱える人。あちこち走り回る人。パソコンの電源スイッチを連打する人。ブレーカーを上げ下げする人。街は混乱していた。
「みんな困ってる…」
 ポツリと呟いたミオの言葉を、ガリレオが受け取った。
「そのようだ。電気と言うのは、今の生活には欠かせないものなんだ」
「そんな事より、早く切れたところを探すバド!」
 バドバドが飛び跳ねて急かす。「わかってるわよ」とミオは外を見た。
「切れた箇所、切れた箇所…」「配電線、配電線…」「どこだどこだ…」
 両チームとも、まるでうなされたかのように同じ言葉だけを繰り返し、切れた配電線を探す。
「どこにも無いじゃない〜〜っ!!」
 最初に痺れを切らしたのは、スズカだった。悲鳴にも近い叫び声をあげる。
「どこよどこよ。一体どこが切れてるって言うのよ!! 異常なんて無いじゃない!!」
「落ち着け、スズカ。まだ探していないところはたくさんある」
 ユキオはモニター画面を見た。第4地区の地図が映し出されており、第4地区をさらに細かく区分している。
「ガリレイ博士。ここはもう、調べ終わったのでは?」
「ああ。そうだな」
 ピッピッピッとキーボードを操作する。いまいる区分が光った。光っていない区分がまだたくさんある。その中のどこかに…。

「無ぇっ!」
 トモルが突然叫んだ。どこにも、異常は見つからない。だんだんイライラしてきたようだ。
「博士ぇ。どこにあるんだよぉ」
「そ、そう言われても…困っちゃうんだよなぁ…」
 目の前のモニターを見る。既にほとんどの区分が光っている。と言うか、今いるところで最後だ。
「これだけ探しても無いって、どう言う事かしら…?」
 ミオは首を傾げ、ダイも一緒に首を傾げた。
 ダイの脳裏に、ユリーカ情報が流れる。
≪…発電所で作られた電気は超高圧変電所を通り、一次変電所、中間変電所、配電用変電所を経由して配電線へ送られる…≫
「もしかして…!」
 ハッとして、顔を上げた。全員がダイに注目する。人差し指を一本挙げ、ダイが言った。
「もしかして、変電所が原因じゃないの?」
「変電所?」
「ほら、ユリーカ情報で言ってたじゃん。電気は、変電所を通って配電線へ送られるって」
「それは、あるかもしれないな」
 ガリレオが操縦席から答えた。
「第4地区全部が停電していると言う事は、配電線1本が切れているのではなく、配電用変電所に異常があると考えた方が自然だ」
「おっしゃぁ! じゃぁ、早く行こうぜ!」
「ああ」
 ガリレオは頷き、キーボードを叩いた。第4地区の配電用変電所は…。
「ここか!」
 ガリレオが操縦桿を引き、レッドペガサスが急加速する。目指すは、第4地区配電用変電所!

「ここが、第4地区の配電用変電所だ」
 ゆっくり減速しつつ、ガリレオが言った。ダイの推理が正しければ、ここのどこかに切れた配電線が…。
「あったわ!」
 ミオが指差した。そこには、確かに切れた配電線…。熱くなっているのか、配電線を覆うゴムが溶けていて、いまも煙を上げている。そしてさらに、バチッバチッと放電までしている。
「でも、どうやって直すの?」
 ダイが聞くと、「マジックハンドを使おう」とガリレオがキーボードを操作した。
ガコン
 と物々しい音を立て、レッドペガサスの底部から巨大なマジックハンドが現れた。操縦桿の横から、ゲーム機のコントローラーのような物も一緒に登場する。トモルがそれを握った。
「よし、じゃぁこれで…」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 慌ててミオがトモルを止めた。「なんだよ…」と膨れ面で答えるトモル。
「ユリーカ情報を忘れたの!? 配電所からは、ものすごい高電圧で電気が送り出されてるのよ! そんな物に金属が触れたら、感電して死んじゃうわ!」
「あ…そっか」
「じゃぁ…シールドを張ろう」
 ガリレオが、またキーボードを操作すると、レッドペガサスが光に包まれた。これが「シールド」らしい。
「さぁ、これで大丈夫だ」
 ガリレオの声がするや否や、トモルはコントローラーをいじくり、マジックハンドをゆっくり配電線に近づけた。グッとマジックハンドが配電線を掴む。感電は…しない。
グググググググググ…
 ゆっっくり…と、配電線の切れた両端が近付く。あと少し、あと少し…。
ピタ
 くっ付いた! その瞬間、レッドペガサスの底部からノズルが現れ、配電線に接着剤を吹き付けた。トモルが、マジックハンドを配電線から離す。配電線は、そのままだ。
「や…やったか…!?」
 シン…と静まり返る。数瞬後、その静寂を、あの声が破った。
≪ミッション・クリア≫
 突然青い閃光が空中に現れ、中から知識の石、ユリーカストーンが登場した。
「やった…! オレたちが勝った!!」
「やったぁ!」
 子ども達とバドバドは、大ハシャギで飛び跳ねた。

≪ミッション・ロスト≫
「え〜っ!!」
 ブルーペガサス内に響いた声を聞き、子ども達が同時に声を上げた。
「もう負けたの!?」
 スズカが叫んだが…ユキオが、腑に落ちない顔をした。どうも、おかしい気がする。何かが引っかかる…。
 その理由は、外を見てわかった。
「…停電が、直っていない」
「え?」
 スズカ、コータ、チワワンも外を見る。ガリレイも外を見た。
 街では、まだ人々が困り果てている。頭を抱える人。あちこち走り回る人。パソコンの電源スイッチを連打する人。ブレーカーを上げ下げする人。街は未だに混乱していた。
「もしかしたら、システムエラーかも知れんな」
「システムエラー??」
 ガリレイの言葉を、コータが反復する。システムエラー…現実世界では、決して使わない言葉。
「ああ。前にも言ったが、このゲームはまだ完成していないんだ。だから、ところどころにバグ…つまり、欠陥がある。今のメッセージも、ただのエラーで、本当はまだ負けていないに違いない」
「そっか! まだチャンスはあるって事ね!」
 それがわかり、スズカはホッとした。
「さぁ、停電の原因を探るぞ」
 ガリレイの言葉に子ども達は頷き、改めて窓の外を見た。
「ん…?」
 と、ユキオが窓の外の一点を見つめた。遠くの丘の上で、何かが煌々と光っていた。建物だ。建物が光っている。
「ガリレイ博士。あれ…」
「なんだ?」
 ユキオが窓の外を指差す。光り輝くナゾの建物を見て、ガリレイが首をひねった。
「…なんだ? あれは…」
「もしかして、あれが停電の原因でチュワン?」
「わからん…だが、行ってみよう」
 ガリレイが操縦桿を引くと、ブルーペガサスは一気に加速した。

「おかしいわ…」
 ミオが言った。
「何がさ?」
 トモルが答えた。
「見てよ、下。まだ停電が直ってないわ!」
「え?」
 レッドペガサスは、既に街の上空へ来ていた。3人と1匹は、ミオの言うとおりに眼下の街を見た。そこは…まだ、暗闇に包まれていた。
 ポカン、とする子ども達。おかしい…配電線は、既に修理し終えたと言うのに…。しかも、ユリーカストーンも手に入った。なのに、何故?
「博士!」
 トモルが、ガリレオに言った。
「博士、もう一度街へ行って、停電を直そうぜ!」
「ああ、そうだな」
 ガリレオが頷いた。ミオ、ダイも頷いたが…バドバドだけが、完全否定した。
「何でだバド。そんなの、面倒バド! もうユリーカストーンも手に入れたんだから、とっとと帰って美味しいご飯を食べるバド!」
「そう言うわけには行かないわよ!」ミオが叫んだ。
「みんな、停電になって困ってるんだから…。助けてあげないと!」
「そんなのどうだっていいバド!」
「よくないわよ!!」
 ミオの怒声に、バドバドは思わず黙り込んだ。
「みんな、ここがゲームの世界だって事忘れてるバド…」
 吐き捨てるように呟いたが、誰の耳にも届かなかったようだ。レッドペガサスは、既に下降を始めていた。
「あれ? 博士、あれを見て」
 今度はダイが口を開いた。ダイが指差す方に、なにやら光り輝く一本の線があった。
「あれは…配電線?」
「すごい勢いで電気が流れてる…」
 配電線は黄色く輝き、光が波打っていた。明るい光が、一定方向へどんどん進んでいる。
「博士。この電気が流れ込む場所、行ってみようぜ!」
「あ、ああ…」
 ガリレオは操縦桿を引いた。レッドペガサスが急発進し、電気の流れ着く先を追った。

「これか…光の正体は」
 ユキオが、目の前にある、光り輝く建造物を見て、言った。
 ブルーペガサスの目の前には、今、白い光を放つ不思議な建物があった。
「なんなのかしら、ここ…」
「入ってみるでチュワン」
 チワワンが提案し、ガリレイはキーボードを操作した。
「この建物は、全体にかなり高圧な電気が流れている…。念のため、シールドを張ろう」
 そう言った時、ブルーペガサスが光に包まれた。シールド完了。ブルーペガサスは、ゆっくりと光る建物に入っていった。
 建物の中は、配電線でいっぱいだった。その全ての配電線に電気が流れ、その電気は一定方向に進んでいた。
「あそこ…電気が流れてるの?」
「そうみたいだな」
 光り輝く配電線を指差し、コータが聞く。ユキオが目を鋭くしながら答えた。何か…何か、恐ろしい気配を感じる…。
「だが、おかしいな…」
 ガリレイが、誰にも聞こえないように呟いた。
「いくら配電線に電気が流れたって、配電線が光るわけが無い…。まるで、我々を誘い込んでいるような……」

ヴォゥン…
 怪しい音がして、赤い光が「それ」に灯った。
ヴォゥン…
 黒い、いびつな形をした薄い板…。その中央に、赤く光るナゾの半球。
ヴォゥン…
「それ」は、ブルーペガサスの気配に気付き、赤い光をさらに増した。
ヴォゥン…
 電気が、「それ」に流れ込んだ。
ヴォゥン…

 ガリレイは、辺りを警戒しながら、ゆっくりとブルーペガサスを奥へ進めた。配電線が太くなる。「いったい、ここは…」ガリレイは小さく呟いた。
 子ども達も、不安そうに席に座ったまま、辺りを警戒する。ここは一体…。
「ねぇ、もう、出ない…?」
 コータが言った。だが、誰も返事をしない。
「ねぇ、みんな…」
 コータの声が小さくなる。何を言っても、誰も答えてくれなさそうな雰囲気だ。
 と、その時だった。
ガコン!
 すごい音がして、ブルーペガサスが揺れた!
「キャァッ!? な、何!?」
「わ、わからん!」
 ガリレイが慌てて体制を整え直し、辺りを見る。
「ギャァッ!?」
 全員が一斉に悲鳴を上げる! 体中を、電気が流れた!
「な、何が起こったの!?」
「つ、捕まった!」
ガチャガチャガチャ!
 操縦桿を荒々しく操作するガリレイ。だが、ブルーペガサスは全く反応しない…動かない!
「うわぁっ!?」
 またしても、体中に電気が流れる! シールドがほとんど効いていない!
「捕まったって、どういう意味!?」
「わからん! とにかく、操作が全く聞かん!!」
ガチャガチャガチャ!
 いくら操縦桿を動かしても、全くペガサスは動かない。
「仕方が無い!」ガリレイは叫び、操縦桿の横の、取っ手のようなレバーを引いた。
「脱出するぞ! イクジットスイッチ、オン!」
ガコッ
 が…虚しい音がブルーペガサス内に響いただけで、ペガサスが反応しない。
「な…。イ、イクジットスイッチが作動しない!?」
ガコッガコッ
 何度もレバーを回す。だが、全くワープしない。
「ど、どういう事!?」
 一体、何が起こった!?
ビー、ビー、ビー
 その時、ペガサス内にまた音が響いた。モニターが現れ、そこにトモルの顔が映る。通信機能だ。
「トモル!」
 ユキオが、苦痛に顔を歪ませながら叫んだ。
『どうした、ユキオ!』
 トモルが叫んだ。

 レッドペガサスのモニターには、光る建物のシルエットが映し出されていた。そしてその中に、ブルーペガサスの姿がある。建物の中に、ブルーペガサスがある…そう言う証拠だが、明らかに様子がおかしい。突然動きが止まって、一切動かなくなった。それに気付き、トモルがたまらずブルーペガサスに連絡したのだ。
「どうしたんだ、ユキオ! 何が起こったんだ!」
『わか‥ない!』
 雑音が混ざる。画面がぶれる。モニターの異常ではない。ブルーペガサスの異常だ!
「とにかく、ミッションはもう終わったんだ! 今すぐ脱出しろ!」
 トモルのセリフに、スズカが食いついた。
『ちょっと待ちなさいよ! ミッションはまだ終わってないわよ!』
「何言ってるのよ!」ミオが叫んだ。「メッセージを聞かなかったの!?」
『あれは、単なるシステムエラー! そう言ってわたし達を騙して、ユリーカストーンを横取りする気ね!』
「違う! ミッションはもう、オレたちがクリアした!」
『でも、停電が直ってないじゃない!』
「これを見ても、信用しないのか!?」
 トモルは、モニターの目の前にユリーカストーンを差し出した。
『ゆ…ユリーカストーン!?』
 ユキオの声だった。モニターの画面に、ユキオの顔が現れる。
『どう言う事だ!? あれはシステムエラーじゃなかったのか!?』
「どっちだっていい! とにかく今は、すぐに外に出るんだ!」
『それが…出来ないんだ!』
「出来ない? どう言う事なんだ?」
 ガリレオが聞くと、ガリレイが答えた。
『わからん! 操縦桿も、イクジットスイッチも、全く効かないんだ!』
「どうしてぇ!?」
 ダイが叫んだ。両ペガサス間に、混乱が走った。
「わかった、ユキオ! そこにいろ! 今すぐ、オレたちが助けに行く!」
『やめろ! 来るな! ここは危険すぎる!』
 ユキオが恐怖に引きつった顔で叫んだ。もしトモル達まで来て、彼らも「捕まって」しまったら…。自分たちは、元の世界に戻るどころか、死んでしまう!
『トモル! こ‥は電圧‥高す‥る!』
 雑音が、突然増える。画面が、極限までぶれる。
『だ‥ら、電気を断‥切っ‥く…』
ブツッ
 モニターが、黒く染まった。通信が、途絶えた。トモルは、目を見開いた。
「ユキオ!!」

「トモル、トモル!?」
 突然真っ黒に染まった画面を見て、ユキオが絶叫した。通信が途絶えてしまった!
「うわぁっ!?」
 そして、体中に走る電気! ユキオたちは、苦痛に顔をゆがめた。
「どうなってるのよ、これぇっ!!」
 スズカが泣き叫ぶ! ガリレイは、既にイクジットスイッチに触れるのを諦めていた。キーボードを色々いじくるが、ほとんど操作が効かない!
 あらゆる操作をすると、モニター画面が変わった。ブルーペガサスの絵が端に表示され、周りにペガサスの情報が出る。
「まずい…」
 それを見て、ガリレイは驚愕の声を出した。まずい、まず過ぎる…!
「どうしたのさ、博士!」
「ブルーペガサスのエネルギーが吸い取られて…シールドが、消えかかっている!」
「えぇっ!?」

「ど、どうするの!?」
 ミオまでもが泣き叫んだ。ライバルたちの危機。まさか、放っておくわけには行かない!
「電気を…電気を断ち切るんだ!」
 トモルが窓に駆け寄った。眼下には、ものすごく太い配電線が、何本も輝いている。それら全ての中を、電気が流れ、光る建物に注ぎ込まれていた。
 電気の流れる方を目で追うと、途中でそれらは小さな機械に集まり、そこから一本になっている。あの一本を断ち切ってしまえば、電気は中へ送り込まれる事は無い。そうすれば、ユキオたちを救い出せる!
「博士! あの配電線を切ろう!」
「ああ、それしかない!」
 急いで一本になっているところへレッドペガサスを飛ばす。キーボードを操作し、巨大なはさみのようなものを、レッドペガサスの底部から出した。それと同時に、シールドを張る。トモルがコントローラーを手にして、配電線にカッターを近づけた。
「うわぁっ!?」
 シールド突破! 電気が、トモル達の体を貫いた!
「くそっ…!」
 トモルは、再度カッターを近づけた。が…
「ギャァッ!?」
 またしても、電気がトモル達の体を突き抜ける! シールドが全く効いていない!
「そんな…。ユキオォッ!!」
 トモルが叫んだ!

「建物全体のエネルギーが、強くなっている!」
 ガリレイが叫んだ。ブルーペガサスのエネルギーが減ると同時に、建物のエネルギーが増えている…。生きているかのごとく、建物がブルーペガサスのエネルギーを吸収している!
「このままじゃおれたち、感電死してしまうよ!!」
 その瞬間、また電気が流れる! ユキオは、頭をフル回転させた。
 何か…何か、脱出する方法があるはずだ! シールドのメーター、そしてエネルギーのメーター。そのどちらもが見る見る内に下がっていく。ユキオは冷や汗をかいた。そして、冷や汗をかけばかくほど、人体は電気を流しやすくなる。そんな事、ユキオは知らない。知っていても、どうしようもない。
「うわぁっ!」
 電気が貫く! その瞬間…ユキオの目に、ある物が飛び込んだ!

ヴォゥン…
 怪しい音を立て、より一層赤みを増す「それ」。
ヴォゥン…
 まるで、ブルーペガサスのエネルギーを吸い取っているようだ。
ヴォゥン…
 いや…「まるで」ではなく、正真正銘…「それ」が、吸い取っていた。
ヴォゥン…

 ユキオは素早く、「ある物」と、そこから出る配電線を見つけた。
「ガリレイ博士! 何か、導線のようなものはありますか!?」
「導線!?」
「ええ」
 ユキオは頷いた。そして、先ほどからずっと回転を続けている「ある物」を指差した。
「あそこに、ブルーペガサスを使って、電気を流し込みます」
「な…なんだと!?」
「ちょっと! 何考えてるのよ! そんな事したら…」
「みんな死んじゃうでチュワン!!」
 チワワンが苦しげに叫び声を挙げた。「死ぬ」と言う言葉に、コータが過剰反応した。
「いやだよ! そんなの!!」
「だが、これしか方法は無い!」
 断固として譲らぬユキオ。どちらにしろ、このままでは全員感電死してしまう。ならば…やるしかない!
「博士!」
「わ…わかった!」
 ユキオに気圧され、キーボードを操作するガリレイ。果たして、これは効いてくれるのか…?
 運のいい事に、ユキオが望んでいたとおりの物が、ブルーペガサス底部から現れた。金属で出来た、2本の導線。先端には、ユーフォーキャッチャーのような、マジックハンドがついている。
 ユキオはコントローラーを操作し、一方を回転する物に、もう一方をそこから続く導線につなげた。
「ぎやゃあぁぁ〜〜っ!!?」
 ものすごい悲鳴! ブルーペガサスの外を、中を、超高電圧の電気が貫通した!
「し、シールド、70%!」
 ガリレイが思わず読み上げた。
「シールド、60%!」
 あっという間にシールドが失われていく。だが、それと同時に、回転する物は、より一層その速さを増した。
「シールド、50%!!」
 ユキオは、歯を食いしばった。

「! 電圧が下がっている!」
 ガリレオが驚いて叫んだ。「なんだって?」とトモル。
「間違いない。確かに、電圧が下がっている!」
 もう一度叫ぶガリレオ。そして、キーボードを叩いた。
「そうか…! タービンを回しているんだ!」
「タービン!?」
 子ども達はモニターに詰め寄った。
「じゃぁ、ここ、もしかして発電所なの!?」
 ダイが叫んで聞く。「そうだ。そうに違いない」とガリレオが答えた。
「タービンを回転させると電気が生まれるが、逆に電気をタービンに流すと、タービンは回転を始める…。いま、ブルーペガサスを介して、電気をタービンに送っているんだ! そうやって電気を消費させ、電圧を下げているんだ!」
 ガリレオは素早く解説し、トモルに言った。
「配電線を切るなら、今のうちだ!」
「わかった!」
 コントローラーを操作するトモル。カッターをゆっくりと配電線へ近づける。
「キャァッ!?」
 まだダメだ! だが、もう一度!
 トモルはもう一度、カッターを配電線へ近づけた。
バチッ!
 またしても電気が流れる。だが、さっきより弱い。このまま行けば、もう少しで、耐えられる電圧になる!
バチッ!
パチッ!
パチッ
パチン…
「切れた!」
 同時に、トモルが叫んだ。電気を断ち切る事に、成功した!
「しかし…」
 と、ガリレオは目の前の建物を見上げた。
「建物全体は、まだ高電圧のままだ…」
 光り輝く建物を見ても、トモルたちは、不安がる事しか出来なかった。

「! 電気の供給が途絶えた!」
 モニター画面を見て、ガリレイが叫んだ。
「! きっと、トモルたちが配電線を切ったんだ! あとは、ここに残っている電気を消費するだけだ!」
 ユキオは、猛スピードで回転するタービンを見つめた。電気は、確実に消費されている。
「シールド40%!」
 だが…それと同時にシールドも消える。自分たちの痺れ具合は、全く変わらない!
「シールド30%! シールド25%!」
 シールドが消えるのも、時間の問題だ。もし、この高電圧の中で、シールドが消えてしまったら…。ユキオは、恐怖に身震いした。
「シールド20%! シールド15%! シールド10%!」
 ガリレイの声に、ユキオは焦りを感じてきた。
 本当に、自分の作戦は正しいのか? 本当に、成功するのか? だが…ここでやめるわけにはいかない!
「シールド8%! シールド5%!」
「いやぁっ! 早く…早くなんとかしてよ!!」
 コントローラーを握るユキオの手に、力が入った。
 絶対、うまく行く。絶対、成功する!
「シールド3%! シールド2%! シールド1%!」
「いやあぁっ!!」

・・・・・・
・・・・・・
 …ユキオたちは、ゆっくりと顔を上げた。
 死んで…いない! 生きている!
「た、助かった…!?」
 ユキオは目の前を見た。タービンは、回転を停止させていた。配電線は、輝きを失っている。
ビー、ビー、ビー
 モニターに、トモルの顔が現れた。
『ユキオ!』
「トモル!」
 感動の再会…。2人は笑って、お互いに言った。
「やったな!」

ヴォゥン…
 赤い光が、白い光に変わった。
ヴォゥン…
 それと同時に、黒い板全体が白く光り輝き始めた。
ヴォゥン…
 そして一瞬、強く白くなったかと思うと…
パキン…
 小さな音を立てて砕け散り、「それ」は消えて無くなった。

 空間に亀裂が入り、ユリーカタワーの目の前に、レッドペガサスが現れた。
 トモルが脚立を上り、ユリーカストーンをはめる。ストーンが輝き、塔が回転して、淡いピンク色の霧が噴射された。
「でも…今回のミッションは、結局なんだったのかしら…?」
 ミオが言った。それは、誰もが思っている事だった。
「停電の原因が、配電線じゃなくて、古い発電所だったなんて…」
「…もしかしたら…」
 ガリレオは一瞬言葉を区切り、ユリーカタワーを見上げた。
「もしかしたら、ユリーカタワーも知らない、“何か”が、この世界で起こっているのかも知れないなぁ…」
「何かって…何が?」
「う〜ん…。そう言われても、困っちゃうんだよなぁ…」
「・・・・・」
 子どもたちは、ガリレオと一緒にユリーカタワーを見上げた。何かがって…何が起こっているって言うんだ?
「…ま、別にいいじゃん。細かいことはよ!」
 頭の後ろで腕を組み、トモルが能天気な声を出した。
「それより、早く帰ってメシにしようぜ!」

 この世界で何が起こっているのか…? 疑問に答える事も無く、ユリーカタワーは煌々と輝くスポットライトを浴びていた。


⇒Next MISSION「料理で勝負せよ!」

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