おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#7「仲良し花火を打ち上げろ!」

ひゅるるるる〜〜〜〜…… パァン!!
「たーまやー! かーぎやー!」
 甲高い音の後やってくる、爆発音。そして広がる炎の花々。美しい空の絵画を見て、ミオは叫んだ。
 トモル、ダイも歓声を上げる。空に浮かぶは、巨大な花火。3人の笑顔が、鮮やかに染まる。美しい、河川敷の花火大会。ミオは、トモル、ダイと一緒に、ここに遊びに来ていた。

「う…ん…」
 そして、目を覚ました。天井を見上げる。もう、すっかり見慣れた天井。ガリレオの研究所の天井。
「夢…か…」
 あそこは確か、去年みんなで行った花火大会…。眠い頭で、ミオは思い出した。
 とりあえず起き上がり、ベッドから降りる。ミオは研究所に置いてあった、子ども用のパジャマを着ていた。髪も結わえず、そのままベランダに出た。外には既に太陽が昇り、トモルとダイもベランダに立っていた。一緒に、ベアロンまでいる。何かを話しているようだ。
「なんの話をしてるの?」
「あ、ミオ、おはよう」
 自分より一回り小さいダイが、ミオを見上げて言った。それから、質問に答える。
「夢の話だよ」
「夢?」
「そう。今日オレたち、不思議な夢を見たんだ」
「ボク達、2人して同じ夢を見たんだよ」
「へぇ…。あなたたち、仲いいものね。夢まで同じなんだ」
「ああ…。ほら、去年3人で行った花火大会。あの時の夢だよ」
「え、うそぉ!? わたしもよ!」
 これを聞いて、ミオは大声を上げた。2人も同じように驚いた。
「えっ!? なんでだろ!?」
 驚き、ざわめく3人を見て、ベアロンが何かを悟ったかのように、つぶやいた。
「…もしかしたら、今度のミッションは…」
 言いかけた時、ユリーカタワーの声がした。
≪エリアA4に出動せよ。エリアA4に出動せよ≫
「ミッションだ!」
 言うと同時に駆け出すトモル。待ってよ、とミオ、ダイも後を追った。その後姿を、ベアロンは黙って見送った。

「急げ急げ!」
 ガリレイが叫んだ。ユキオたちが部屋に下りてくるのを見ると、走ってブルーペガサスに乗り込んだ。
「全員揃ったな!?」
「いえ、まだ、スズカが」
「なに?」
 操縦席から振り返る。席が1つ空いている。と、ペガサスのドアが開いて、口紅をつけながらスズカが出てきた。
「遅いぞ、スズカ」
「そんな事言ったって。身だしなみぐらい整えさせてよ」
 口紅をポケットにしまうと、今度は櫛を取り出し、髪をとかし始めた。
「髪なんかとかしてる場合じゃないだろ」
「なによ! 女の子の気持ちなんて、全然わかってないんだから!」
「とにかく行くぞ」
 ガリレイが言うと、ブルーペガサスを載せた台が上昇し始めた。そして、丸い部屋につく。壁が少しだけ動いて、「A」と書かれた扉が目の前に来る。
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!!」
 ガコ、と操縦桿を引くと、ジェット噴射が出て、ブルーペガサスが前進を始めた。
 扉が開き、激しい上昇下降をさせるあの通路が現れた。一気に下って、一気に上る! そして、光に包まれた。

 空間に亀裂が入り、ブルーペガサスが現れた。そして、そのまま着地する。すぐ横を、川が流れている。
 その川の対岸上空に亀裂が入り、レッドペガサスが登場した。夕焼けの赤と、レッドペガサスの赤が、見事に調和していた。レッドペガサスもそこにそのまま着地する。
ジャン!
「ユリーカ情報でチュワン!」
 チワワンが言うと、「!」が表示されたモニターに、全員が詰め寄った。見計らったように、画面が切り替わった。
≪打ち上げ花火の内部には、『星』と呼ばれる光の花びらになる火薬、また中心には、破裂させるための火薬が詰められている。それらを『玉皮(たまがわ)』という硬いボール紙で包み、打ち上げると『親道(おやみち)』といわれる導火線に火がつき中心部に火が伝わる。
 いろいろな色の花火になるのは、金属化合物が火薬の中に混ぜてあるからだ。例えば、赤い色はストロンチウム化合物、黄色はナトリウム化合物、緑はバリウム化合物、青は銅化合物などである。
 花火の玉の大きさによって、打ちあがる高さと花火の大きさが決まる。例えば、三寸玉は120メートルの高度まで上がり、大きさは直径60メートルになる。五寸玉は高度190メートル、直径は170メートル。尺玉になると、高度330メートル、直径は320メートルにもなる。
 火薬の混ぜ方によって、菊、牡丹、柳、小割、蝶々、土星、ヤシなど、いろいろな種類の花火が夜空に輝く≫
「そーなんだ!」
 トモル達は思わず、今朝見た夢を思い出した。去年の花火大会の夢…。もしかして、あれは予知夢?
 神秘的な思いに浸っていると、ユリーカタワーの声が続けた。
≪現在、この川の両側に住む、バビ族とペポ族が対立し、戦いを始めようとしている。そのため、バビ族のリーダー・バビーと、ペポ族のリーダー・ペッポが、両村の間にある吊り橋で、仲直りの話し合いをしに出かけた≫
 モニター画面には、バビーとペッポ、それぞれの写真が表示された。バビーの体は完全にサル。服は着ているが、全身に少しごわついた茶色い毛が生えていて、しっぽもある。ペッポの体も明らかにサル。服は着ているが、全身に柔らかい乳白色の毛が生えていて、しっぽもある。
≪もし仲直りに成功したら、山の頂上から仲直りの合図の花火を打ち上げ、里の仲間に知らせる予定になっている≫
 そこでモニター画面がまた切り替わり、「MISSION 7」と表示された。
≪ミッションナンバー7。2つの種族を、仲直りさせよ≫
「仲直り?」
 首をひねる子ども達。そんな事言ったって、どうすればいいんだ?
「とにかく、リーダーとか言う人に会ってみよう」
 腕を組んだまま、ユキオが言う。
「ああ、そうだな」
 と、ガリレイは操縦桿を引いた。が…。
「……あれ?」
 動かない。2度3度やってみるが、やはり動かない。
「歩け…と言う事か」
「え〜、またぁ!?」
 心底嫌そうにするスズカだが、どうしようもない。見れば、トモル達もレッドペガサスから降りて、歩き出している。ここでグズグズしている暇はないのだ。
「こんなところで愚痴っていても仕方が無い。行こう」
 ユキオが言うと、スズカは渋々後に続いた。

 トモル達は、橋へ向かって、山道を延々と歩き続けていた。
パシッ
「いてっ!」
 その時、何の前触れも無くトモルの頭に何かが当たった。
「どうしたの?」
 とダイ。トモルは「?」顔で頭をさすり、いま当たった物を拾い上げた。
「…クルミだ。クルミが空から降ってきた」
 そう言って空を見上げた。…その時!
ビュンビュンビュン!
 大量のクルミが、トモル達目掛けて飛んできた!
「うわぁっ!?」
「な、なにこれ!?」
「! あそこ!」ミオが前方の木を指差した。「あそこから、誰かがクルミを投げてきてる!」
「とにかく一旦、隠れるんだっ」
 ガリレオが言うと、全員慌ててすぐ横の茂みに隠れた。
「・・・・・・・」
 すぐに、クルミの襲撃が終わった。全員、茂みから頭だけ出し、外の様子を伺った。…誰もいない。
「あそこよ」ミオがもう一度、さっきと同じ木を指差す。「あそこから、誰かがクルミを投げてきたのよ」
「こんな卑怯な事をするのは、ガリレイ博士たちに違いないバド!!」
「いや…ガリレイ博士は確かにわたしのライバルだが、こんな卑怯な手を使ったりはしないよ」
「そうバド? じゃぁ…ユキオか、スズカか、コータの誰かバド!」
「ユキオだって、こんな卑怯な事はしないさ!」
「スズカだって」「コータ君だって」
「じゃぁ、チワワンバド?」
「そ、それは…」
 チワワンだけは、トモルたちには否定できない。口ごもっていると、バドバドが突然叫んだ。
「いや、違うバド!! チワワンだって、こんな事はしないバド!!」
 すると突然、バドバドが茂みから飛び出した。
「バドバドッ!?」
 ミオが慌てて引き戻そうとするが、バドバドは聞く耳を持たない。
「いいバド! オイラが行って、犯人を捕まえてくるバド!!」
 今日のバドバドは一味違う。ズン、ズン、ズン、と地を踏みしめ、一歩一歩木に向かって歩みを進める。さぁ出て来い、犯人よ!
ビュンビュンビュン!!
「痛いバド痛いバド痛いバドォッ!!」
 フルスピードで駆け戻り、一気に茂みに飛び込んだ!
「こ、怖かったバド…」
 バドバドに、全員の冷たい視線が集中した。
「戻ってくるの、早すぎない…?」
「よし、じゃぁ…」
 と、トモルが身をかがめて、茂みの中を移動し始めた。
「トモル、どこ行くの?」
「あの木だよ。あの木にいる奴がクルミを投げてるんだろ? だから、こっそり近づいて、背後から捕まえてやるんだ」
 音を立てないように、静かに…。トモルがゆっくり、木に近づく。
「…! それじゃぁ、ボクは…」
 バッとダイが茂みから飛び出す! そしてそこに仁王立ちし、両手を広げた。
「お〜い、こっちだこっちだぁっ!!」
 そう叫んだ瞬間、大量のクルミがダイめがけて投げつけられた!
「うわぁっ!!」
 少し離れたところまで逃げ、またすぐに仁王立ちする。「こっちだこっちだ!」と、また叫ぶ。
「あ、相手の注意を引きつけてるのね!」
 ダイの意図がやっと解り、ミオも茂みから飛び出した。そして、ダイと同じく仁王立ちし、両手を広げた。
「ほ〜ら、こっちよ!!」
 ミオが叫ぶと同時に、大量のクルミがミオ目掛けて飛んできた!
「キャァッ!」
 一瞬本気で驚き、ミオは遠くへ逃げる。そこで両手を振り、さらに注意を引きつける。
 その間に、トモルはそっと茂みの中を移動し、木の背後へと回った。相手にばれないように、静かに木を上る。さぁ、いったいどんな奴が、何の目的でこんな事をやってるんだ…?
 トモルはついに、相手の後姿を捉えた。随分小柄な奴だ。トモルの身長の半分ぐらいしか無さそうだ。相手は完全にミオとダイに夢中で、トモルの存在に気付いていない。息を潜め、そっと近付き…
「くらえっ!」
 トモルは行き成りそいつに飛びついた!
ドシン!
 そして一緒に地面に落ちた。
「どうだっ! 捕まえたぞっ!」
 ちょっと体をうってしまったが、今はそれどころではない。ガリレオやバドバド、そしてミオ、ダイが駆け寄ってきた。
「何するバビ! いきなり襲い掛かるなんて、卑怯バビ!!」
「いきなり襲い掛かったのは、そっちだろっ!」
「ええい、放すバビっ!」と、そいつはトモル達を強引に放した。
 そこで初めて、トモル達は、相手の姿をはっきり見た。
「あ、お前は…!」
「バビ族リーダーの、バビーじゃない!」
「そうだバビ。おいらがバビ族のリーダー、バビーだバビ。お前ら、ペポ族の仲間だバビ!?」
 どうやら、何か誤解をしているようだ。とりあえず、まずはこれを解こう。
「わたし達は、別にペポ族とは関係ないわよ?」
「そうだよ。ボク達は、バビ族とペポ族を仲直りさせに来たんだよ」
「仲直り? フンッ。冗談じゃないバビ。あいつらなんかと、仲直りするものかバビ」
 断言されてしまった。今回のミッションは、この2つの種族を仲直りさせる事…。この様子では、簡単では無さそうだ。

「まだぁ? わたし疲れちゃったぁ」
 スズカがダルそうに言った。もう、ずっと歩きっぱなしである。
「我慢しろ、スズカ。ほら、もう橋は目の前だ」
 ユキオが前方に見える橋を指差した。全く、いつもいつも世話が焼ける。
 その時、スズカの腕の中にいたチワワンが、突然そこから飛び降りた。
「あ、チワワン?」
 チワワンは少し前の方まで走り、カーブの先を確認した。
「誰か来るでチュワン」
 そして、スズカ達に言った。
 言った直後、カーブから誰か現れた。明らかに、人間ではない。出てきた相手は…ペポ族のリーダー・ペッポだった。
「あ、ペッポ!」
 スズカが無礼にも、いきなり呼び捨てにした。それを聞き、ペッポは、
「あなた達は…?」
 と聞いてきた。
「あ、俺たちは…」ユキオが説明する。「俺たちは、バビ族とペポ族を仲直りさせに来たんです」
 それを聞くと、ペッポは「そうか…」と言い、近くの岩に座り込んだ。
「でも、もう無理ペポ。さっきまで仲直りの会議をしていたけど…結局、喧嘩別れしてしまったペポ…」
 全員がペッポに歩み寄る。仲直りが出来なかった…。しかし、仲直りさせなければならない。
「そもそも、ケンカの原因はなんなの?」
 スズカが聞いた。「はぁ…」と小さくため息をついて、ペッポが話し始めた。
「花火ペポ」
「花火? わたし、花火ってだ〜い好き♪」
 スズカが嬉しそうに、空に向かって言った。
「たーまやー、かーぎやー…」
「? スズカ、なにそれ?」
「知らな〜い。花火見てた時、大人の人たちがそう言ってたの」
「それって、昔の花火屋の名前だ」
 スズカとコータの疑問に、ユキオが得意げに答える。
「江戸時代に、玉屋と鍵屋と言う有名な花火屋があったんだ。そこで、花火を見た時は、『たまや、かぎや』と言って、ほめるようになったんだ」
「へぇ…。ユキオって物知りね」
「ぼくの話を聞いてくださいペッポ!!」
 黙って聞いていたペッポが、突然叫んだ。「あ、ごめんごめん…」と、ユキオが頭をかく。ペッポは膨れ面を見せたが、すぐに続きを話し始めた。
「ぼく達ペポ族と、向こうのバビ族は、一年に一度、お祭りを開いているペポ。そのお祭りの時、必ず花火をあげるんだペポ。いつもは、向こうとこっちでお祭りの時期がずれてるのだけど、今年は重なってしまったんだペポ。
 花火を打ち上げるためには、安全のため大量の水が必要ペポ。でも、ちょうどいい水源が、ここには1つしかないペポ。川は1つ、種族は2つ…。それで、どちらが川を取るか、ケンカが始まったペポ」
 ペッポはそう言って、谷の下の方に目を向けた。
「いま、山のふもとの村では、戦を始めようとしているペポ。仲直りできたら戦をやめて、できなかったら戦をして、川を勝ち取る…。戦はしたくないから仲直りをしようとしたのだけど、出来なかったんだペポ…」
 そしてまた、ため息をついた。
 くどいようだが、今回のミッションは「2つの種族を仲直りさせよ」だ。と言う事は、この問題を解決すれば、ミッションクリアとなるのか…?
「そんなの簡単じゃな〜い!」
 スズカが言った。「え?」と全員がスズカを見る。
「お祭り、止めちゃえばいいのよ!」
「……。そう言うわけには行かないペポ…。他にも、やる日をずらすと言う意見も出たけど、どっちがずらすか決まらなかったペポ…」
「大体、それじゃ何の解決にもなってないだろ」
 コータが突っ込んだ。「なによ…」とスズカが膨れ面になる。
「それじゃぁ…そうよ! 川から用水路を引いて、2つの村に大きな池を作って、そこで花火を打ち上げればいいじゃない!」
「それも無理だったペポ。やろうとしたけど地盤が固くて掘れなかったペポ。それに、今から掘っても、お祭りには間に合わないペポ」
 次々と来るダメだし。さすがのスズカも、音を上げた。

「それで仲が悪くなったの?」
 ミオがバビーに確認した。「そうバビ」とバビー。
「それなら…そうよ。2つの村に、それぞれ川から用水路を引いて、池を作っちゃえばいいじゃない」
 ミオが提案した。スズカと同じ考えと言う事を、彼女はもちろん知る由も無い。
「無理バビ。地盤が固すぎて、とても掘れなかったバビ。みんなでやっても、何年もかかるバビ。これからやったんじゃ、とても間に合わないバビ!」
「あ…そう…」
「…いや。それなら、わたしたちが用水路を引こう」
 ガリレオが言った。「え?」と全員がガリレオを見る。
「ガリレオ博士…そんな簡単に安請け合いしちゃって、いいの?」
 ミオの問いかけに、大丈夫、と言う風にガリレオがうなずいた。
「レッドペガサスを使えばいいんだ。今は動かないが、ミッション終了後なら動く。レッドペガサスなら、どんな固い地盤でも、用水路ぐらい簡単に作れるさ。それでいいかい? バビー」
「…。オイラはそれでいいバビ…。でも、ペッポの奴が、それで納得するかどうかわからないバビ…」
「ぼくは初めから、仲直りしたかったペポ」
「バビッ?」
 突然、背後からペッポの声がした。驚いてバビーが振り向く。するとそこには、ペッポがいた。そしてもちろん、ユキオ、スズカ、コーター、チワワン、ガリレイ…全員そろっていた。
「バビー」
 ペッポが一歩一歩バビーに歩み寄る。
「この人たちも、その人たちと全く同じ提案をしてくれたペポ」
 ペッポとバビーが、近接距離で向き合う。ペッポが手を差し出した。
「もうお互い、争う必要は無いペポ。これからも、また、2つの種族で仲良くやっていくペポ」
 ペッポが差し出した手を、バビーはジッと見た。そして、フッと笑った。
「ああ、その通りバビ」
 バビーは、ペッポの差し出した手を、力強く握った。

「良かったでチュワン!」
 2人にチワワンが駆け寄って、横を飛び跳ねた。仲直り完了。ミッションクリアだ!
「ぜ〜〜んぜんっ! 良くなんかないバド!!」
 そのチワワンに、バドバドが駆け寄って怒鳴りつけた! 「チュワン?」とチワワンが目を白黒させる。
「今回のミッションは『仲直りさせろ』バド! これじゃ、どっちが勝ったかわからないバド!!」
 バドバドの訴えを、一瞬誰も理解できなかったが、直後、
「あ」
 と全員が呟いた。
「全く、勘の鈍い奴らバド! どうするバド!」
 その時だ。
ワーーッ!!
 と、山のふもとの方から、大歓声が聞こえた!
「な、何事バド??」
「大変ペポ! 戦が始まろうとしてるペポ!」
「早く、報告をするバビ!」
「報告…?」
 バビーとペッポは、同時に、山の上の一本杉を見た。一本杉のすぐ横には、丸い満月がある。
「あの月が一本杉にかかる前に、山頂から花火を打ち上げて、仲直りの報告をするバビ!」
「それをしないと、一本杉に掛かった瞬間、みんなが戦を始めてしまうペポ!」
 言うや否や、バビーとペッポが走り出した! 全員、それをあっ気にとられて見ていたが…突然、全員が悟った。
「…。まさか!」
 今回のミッションは、「仲直りさせろ」ではないのだ! 「仲直りさせ、報告をする」ここまでが、ミッションなのだ! その報告方法は打ち上げ花火。だから、ユリーカ情報は花火だったのだ。
「急ぎましょう、博士!」
 最初に言ったのはユキオだった。「ああ」とガリレイが言い、橋に向かって走り始めた。その後を、スズカ、コータ、チワワンも追う。
「オレたちも急ごう!」
 と、トモルも走り出した。ガリレオ、ミオ、ダイも後を追い、山頂を目指した。
 両チームは橋の入り口で別れた。ユキオたちは橋を渡り、反対の山の頂上へ。トモル達は、そのまま上へ!
「急ぐバビ!」
 さすがサル…ではなく、山の種族。山登りは早い。急いでトモル達も後を追う。
 すっかり日が暮れた山道。暗いが、月明かりで何とかなる。
「ねぇ、今回のミッションは、お互い協力した方がいいんじゃないの??」
 走りながら、ダイがトモルに問いかける。
「いや…そう言うわけにはいかないさ! オレ達が先にミッションをクリアして、ユリーカストーンを10個集めないと、オレ達も、ユキオ達も元の世界に戻れなくなっちゃうんだ!」
「そうよ。そのためにも、わたし達、がミッションをクリアしないと!」
「そうか…そうだよね」
 ダイの問いかけで、ガリレオも思わずダイを見ていたが…その視線がふと、ミオの髪に移った。かなり揺れている。明らかに、走っているせいだけではない。
「…風が出てきたな…」
 ガリレオがポツリと呟いた。
「着いたバビ!」
 バビーが、急いで山頂の中央に置いてある、打ち上げ台に駆け寄った。5個の発射台と、同じ数の三寸玉の花火玉。トモル達も急いで駆け寄り、発射台の中に花火玉をそれぞれ1つずつ落とした。
「トモル達は、危険だから離れなさい」
 ガリレオが言うと、子ども達はガリレオに駆け寄った。そして、バビーが火打石で導火線に火をつけて、それを発射台の中に落とす。
パンッパンッパンッパンッパンッ!
 5つの爆発音の後、
ひゅるるるるる・・・・
 と言う音と共に、花火玉が120メートルまで上がった。
パンパン、パンパンパン
 甲高い音の後やってくる、爆発音。そして広がる炎の花々。美しい空の絵画。これで…ミッションクリアに…
「・・・・・・・・・・・・・・・。あれ?」
 …ならない。何も聞こえない。
「どう言う事、博士?」
「う〜ん…」
 ダイの質問に、ガリレオが唸る。何故だ。何故ミッションクリアにならない…?
「なんでクリアにならないの!?」
「あ、見るバビ!!」
「!?」
 バビーが突然、山のふもとを指差して、叫んだ。戦が…中止になっていない! 全員が、相手目指して川を渡り始めているではないか!
「まさか! ふもとのみんなには、花火が見えなかったの!?」
 ミオがふもとと空を交互に見る。雲が、勢い良く流れている。ガリレオは思わずミオを見て…ハッと気づいた。
「風だ…」
「風?」
「そうだ。ミオ、今は、キミの髪がたなびくほど強い風が吹いているんだ。おそらく、上空ではもっと強い…」
「! もしかして、風で花火が流されたバビ!?」
「たぶん…だから、村のみんなには花火が見えなかったんだ」
「でも、もう花火は無いバビよ!」
 バビーの言葉に、全員が騒然とし…負けを、覚悟した。

「ま、負けたの!?」
 5つの爆発音と花火を見て、スズカが悲鳴を上げた。
「いや…」と、ユキオは山のふもとの方を見て、言った。
「まだ、戦を止める気配が無い。村のみんなに、花火が見えなかったに違いない」
「え…? なんで?」
 コータの問い掛けに、ガリレイが答えた。
「…風か。風が吹いているんだ! だから、花火が風で流されて、村のみんなには見えなかったんだ!」
「やったじゃない! じゃぁ、まだチャンスはあるって事!?」
 発射台に駆け寄り、喜ぶスズカ。そのスズカの腕の中で、チワワンが言った。
「でも、今これを打ち上げても、向こうと同じ結果になるでチュワン」
「あ…そっか…」
「で、でも、もう時間が無いペポ!」
 泣きっ面で一本杉を指差すペッポ。月は、今にも一本杉にかかりそうだ。待ってくれ、もう少しそこにとどまっていてくれ!
「どうしたらいいんだよ!?」
 コータまで泣きっ面になる。ガリレイもユキオも、月と花火玉を交互に見て考える。どうする…? 早く良い方法を考えなければ、またミッションエンドになってしまう!
 その刹那。スズカの脳裏に、ユリーカ情報が流れた。
≪花火の玉の大きさによって、打ちあがる高さと花火の大きさが決まる≫
「そうよ! 尺玉よ! ここにある花火を全部使って、大きい尺玉を作っちゃえばいいのよ!」
「そうか! それなら、ちょっとぐらい流されても、村のみんなに花火が見える!」
「スズカ、頭いいでチュワン!」
「当然よ!!」
 スズカの自画自賛も耳にせず、ユキオが花火に駆け寄った。
「早速作ろう!」
「待て! 素人や子どもが火薬を扱ってはいけない!」
 花火玉に駆け寄る子ども達を、ガリレイが止める。
「そうペポ。ここはぼくに任せるペポ」
 ペッポが花火玉に歩み寄り、解体を始めた。なるべく早く、尺玉を作らなければならならい。
「それじゃぁ、その間、俺たちは発射台を作ろう」
「?」と、スズカがユキオを見る。「だってそうだろ?」とユキオ。
「ここには、小さい発射台しかない。尺玉を打ち上げるためには、それなりの大きさの物が無いと」
「あ、そっか」
 子ども達とガリレイ、そしてチワワンは、発射台の改造を始めた。
 残り時間はあとわずか、果たして、間に合うのか…!?

「出来たペポ!」
「こっちも出来たわ!」
 あっという間に、巨大な花火玉と、発射台が出来上がった。月は、ほとんど一本杉に掛かっている!
『戦を始めるバビー!』
『絶対勝つペポー!!』
 山のふもとから、不吉な声が聞こえた。見ると、両種族の距離は、もうほとんど無い。いつでも戦を始める気満々でいる。
「急いで、ペッポさん!」
「わかってるペポ! 離れるペポ!」
 ペッポの指示に従い、速やかに発射台から離れるスズカたち。ペッポも、火を発射台の中に入れると、すぐさま伏せた。そして…
バンッ!
ひゅるるるるるる・・・・
 一瞬の溜め。
バーーン! ・・・・・
 高度330メートル、直径320メートル。巨大な花火が、2つの山の中間で花開いた。そして、言うまでも無く、村の両種族にこの花火が見えた。
『おお! 花火ペポ!』
『仲直りできたバビ!』
 両種族の者たちが、次々と声を上げる。
『戦は中止バビ!』
『元に戻るペポ!』
 その号令と共に、川から引いていく両種族。山頂からその様子を見たユキオたちは、ホッと胸を撫で下ろした。
ピカー…
 すると、発射台の中が光り、そこから青く丸い閃光が現れた。そして、光が薄れると、中からユリーカストーンが現れた。
≪ミッション・クリア≫
「や…やったぁっ!!」
 全員飛び跳ねて喜び、笑った。
「ああ。だが、今回はまだ仕事が残っている」
 そう言って、ユキオはペッポを見、ガリレイを見た。
「ガリレイ博士。早く、池を作りましょう」
「ああ、そうだな」
 ガリレイが、軽く頷いた。

「6個目か…」
 ユリーカタワーを見上げて、コータが言った。これで、やっと6個目。残りは4個。コータは、自分の腕の中のユリーカストーンを見て、
「ねぇ、ところでみんな」
「何よ?」と、スズカ。他の2人と1匹も、コータを見る。
「おれ思ったんだけど、これって、1つユリーカストーンを取れば、前の全部がこっちの物になるんだろ? だったら、9個目まで取られても、最後の10個目だけ取れば、元の世界に戻れるんじゃないか?」
「ダメよそんなの!」
 真っ先にスズカが反論した。ググイ、とコータに詰め寄る。
「食事の事を忘れたの!?」
「そうだ。それに、トモルに負けるなんて、そんな事は俺のプライドが許さない!」
「まぁ…そう、だね…」
 プライドはともかく、食事の件は、コータも参っている。なんの反論も出来ない。
 コータはそのまま脚立を上り、ユリーカストーンをはめた。いつも通り、ユリーカストーンが光り、青い屋根の家、ガリレイの研究所の方を向く。いつも通り、ユリーカタワーもそちらを向き、淡いピンクの霧が噴射された。
「やったぁ♪」
 パンッと、スズカはユキオと手を叩き合わせた。
「今夜の料理は、どんなご馳走かしら♪」
 本当に嬉しそうに言う。確かに、食事の件は重要事項かもしれない。
「…あれ? なぁ、みんな…」
 しかし、その喜びにコータが水を差した。
「何?」
 スズカが答え、他の2人と1匹も、コータを見る。コータは、ユリーカタワーの上方を指差した。
「なんで…前の5個が、こっちへ来ないんだ?」
「………。ああっ!?」
 コータに指摘され、やっと気付いた。確かに、前の5個は、以前相手チームのままになっている!
「な、なんで!?」
「何が起こったの!?」
 混乱し、立ち尽くす子ども達。
「ガリレイ博士、どういう事!?」
「これも、システムエラーなの!?」
 スズカの問いに、ガリレイは叫んだ。
「わからん‥! 俺にも、さっぱりわからん!!」
 いったい、何故だ!? 何が起こったんだ!?

 …混乱をよそに、ユリーカタワーは、黙ってガリレイの研究所を見つめていた。


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