おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#9「無人島の大レース!」

≪エリアC3に出動せよ。エリアC3に出動せよ≫
「ミッションだ!」
 誰が言うでもなくそう叫び、8人と2匹は急いで各ペガサスへと駆けた。
 ペガサスに全員が乗り込むと、ペガサスを乗せた台がせり上がる。そして、円形の部屋に着く。周りには、AからEまで書かれた5つの扉。グルグルと壁が回り、「C」と書かれた扉が、目の前にやってきて、止まる。
「レッドペガサス、発進!」
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
 両博士が操縦桿を引くと、キュイイィィ・・・と言う高い音がして…ゴウッとジェット噴射が出る。ペガサスがゆっくり加速して…Cの扉を駆け抜ける!

 空間に亀裂が入った。そしてそこから、レッドペガサスが現れる。現れるとすぐに、レッドペガサスは着陸体勢に入り、地面に下りた。
 着陸すると、子ども達は辺りを見渡した。周りは森だらけ。少し離れたところに、山が見える。特に、目立ったものは何も無い。
「こんなところで何するのかしら…?」
「お?」
 空間に、もう1つ亀裂が入った。そこから、今度はブルーペガサスが現れる。ブルーペガサスもすぐに着陸体勢に入り、地面に下りた。
「来たな、ユキオ…。今度こそ、負けないぜ!」
 トモルがコブシを握り締めて、言った。
ジャン!
「ユリーカ情報でチュワン!」
 チワワンが反応し、全員がモニターに詰め寄る。さぁ、今度のユリーカ情報は…!?
≪山の天気は変わりやすい。それは、山は平地と違い、地面の起伏が激しいからである。
 普通、空気は地面に近いほど暖かく、上に行くほど冷たくなる。だが、山には起伏があるため、暖かい空気と冷たい空気が混じりあい、雲が発生しやすい。雲が発生しやすいと言う事は、天気が変わりやすい、と言う事である。
 山の天気の変化は、雲の形から予想することも可能である。うろこのような絹積雲(けんせきうん)、黒味がかった濃い灰色の乱層雲、一般に入道雲と呼ばれている積乱雲などは、雨や雪、暴風などの前触れの雲である。
 他にも、太陽に暈(かさ)がかかったり、霧や虹が発生したり、普段は聞こえない遠くの音が聞こえるときなどは、天気が下り坂になることが多い≫
「そーなんだ!」
 そしてすぐに、ミッションが言い渡された。
≪ミッションナンバー9。小熊の像に急行せよ≫
「小熊の像?」
「博士、小熊の像なんて、どこにあるの?」
 そんなものは、辺りを見渡してもどこにも無い。ガリレオもガリレイも、コンピューターを操作していた。
「ああ、いま、検索をしているところだ」
 ピ、ポ、パ…デジタル音がしばらく鳴った後、モニターに地図が表示された。
「どうやら、山の向こうの池のほとりみたいだな」
「山の向こう…って、あの山の事?」
「ああ、そうみたいだ」
「よ〜し、それじゃぁ博士。早速行こうぜ!」
「ああ」
 ガコ、とガリレオは操縦桿を引いた。が…………。
「…あれ?」
「なんで動かないバド?」
「…どうやら、今回のミッションは…」

「またかっ!!」
 ガリレイは思わず、コブシを壁に打ちつけた。
「博士、どう言う事!?」
「今回のミッションは、ブルーペガサスを使わず、自分たちの力だけで行けと言う事だ!」
「え〜、そんなぁ…! あの山を歩いて越えろって言うの!? そんなのわたし、嫌だぁ!」
 早速スズカが愚痴る。目の前の山は、相当高い。オマケに、森だらけ…。歩いて越すには、かなりの体力を要するだろう。
「でも、行かないと負けちゃうでチュワン。向こうより先に、早く行くでチュワン」
 そう言うと、チワワンは足早に席から飛び降りた。が、
「待った」
 と、ブルーペガサスを降りようとするチワワンを、ユキオが止めた。
「単純に歩いて行くんじゃなくて、何か別の方法を考えよう。必ず、良い方法があるはずだ」
 そう言って、山に視線を戻した。

「こうなったら走って行くしかねぇぜ!」
 さすがはレッドチームの熱血漢。トモルは言うなり、レッドペガサスの出口に向かって走りだした。
「あ〜、こら、待つんだ、トモル」
 そのトモルを、ガリレオが止める。理由はユキオと同じだ。
「何か別な方法を考えるんだ。それに、周りは原生林…迂闊に入って迷ったら、二度と抜け出せなくなるぞ」
「ちぇ…。じゃ、どんな方法があるんだよ?」
「それは…そうだなぁ…」
 ガリレオは考え込んで、上を見上げた。窓から、太陽が見える。それを見て…ガリレオは、閃いた。
「そうか。自然の力を利用すれば良いんだ!」
「自然の力?」
「太陽だ。太陽の光を利用するんだ!」

「ソーラーカーを作るなんて、よく考え付いたね、博士」
 ソーラーカーを組み立てながら、ダイが言った。
 レッドチームの4人と1匹は、一生懸命ソーラーカーを組み立てていた。部品は全てレッドペガサス内にあったものだ。そもそもこれは、組み立て式のソーラーカー。ネジを何本か締めれば、それで完成だ。
「ちぇ…。こんなもの作ってる暇があったら、走った方が速いのによ」
 トモルはさっきから愚痴ってばかりいる。そんなに走りたかったようだ。だがまさか、山を越えた向こうにある像まで、走り続けるのは無理だろう。
「あ、あれはなんだバド?」
 突然バドバドが、空を指差した。そこには、青い巨大な風船…熱気球があった。
「あっ…まさか…ユキオっ!?」
 トモルは思わず、ソーラーパネルを抑えていた手を離した。ガン、とソーラーパネルが頭に当たる。
「い、いてぇ…」
「ハハハ! トモル、今回の勝負も、俺たちがもらったな!」
 ユキオの声が、熱気球から聞こえる。全員、勝ち誇ったような笑みを、こちらへ向けていた。
「諸君! 先に失礼させてもらうぞ。ハハハハハ!」
「じゃぁね、みんな。お先にぃ〜! バイバ〜イ♪」
 スズカがこちらに向けて手を振ったのがわかった。先を越されてしまった!
「博士! 急いでよ!」
 トモルは地団太を踏みながら、ガリレオに訴えた。

「あ〜…気球って快適ねぇ♪ おいで、チワワン」
 スズカはチワワンを抱きかかえ、籠から顔を出して外を眺めた。とっても良い眺めだ。
「これで、気持ちいいそよ風が吹いてたら、最高なんだけどなぁ…♪」
「それは残念だが無理だな」
 ガスバーナーをいじりつつ、ガリレイが横から言った。
「熱気球は言うまでも無く風によって移動している。つまり、風と同じ速度で移動しているわけだ。だから、気球の上は常に、無風状態となる」
「なんだ〜…つまんないの」
「でも…なんで気球って、空を飛ぶんだろう?」
 今度はコータだ。やはりガスバーナーをいじりつつ、ガリレイが答える。
「秘密はこれだ。このガスの炎によって、気球の中の空気を温める。温められた空気には、『上に行く』と言う性質がある。そのため、熱気球は上昇するんだ。そして、さっきも言ったように、横移動は風によって行う。だが、便利な気球にも、若干の欠点があって…」
「欠点?」
「ああ、それは…」
「あ、見ろ!」
 ガリレイの話を遮り、ユキオが突然言った。ユキオは立ち上がり、下方を指差している。そこには、赤く細長い車が。
「あれ、トモルたちじゃないか?」
「ウソ!? もう追いつたの!? 博士、もっとスピード上げてよ!」
「あ、ああ…」
 ガリレイはガスバーナーを操作し、少しだけスピードを上げた。

「ソーラーカーって良いわね。わたし、気に入っちゃった♪」
「ソーラーカーは、太陽の光を利用して走っている。つまり、太陽がある限り、永遠に走り続ける事が出来るんだ。オマケに排気ガスも出さないから、環境にも良い」
「へぇ…。ソーラーカーって最高だな!」
「さっきは走った方が良いって言ってたの、誰だバド…」
「ハハハハハハ!」
 バドバドの突っ込みも、トモルは笑って軽く交わす。
「あ、あれ、コータ君たちじゃない?」
 ダイが空を指差して言った。空高いところに、青い熱気球が浮かんでいる。
「よっしゃぁ! このまま一気に追い抜くぜ!」
「よし、加速するぞ」
 ガリレオがアクセルを踏むと、ソーラーカーは突然スピードを上げた。そして、あっという間に熱気球を追い越した。

「ちょ、ちょっと、追い抜かれちゃったわよ! 博士、もっとスピード上げてよ!」
「無理だ。風向きが変わった…これが限界だ!」
「え!? これ以上速くならないの!?」
「ああ、そうだ。熱気球は風を利用して進む以上、風より速くは動けず、風と反対方向に動く事も出来ない。行きたい方向と逆向きの風が吹いてしまったら、もうどうしようもないんだ」
「博士もしかして、さっき言ってた欠点って…」
「そうだ。これの事だ」
「え〜…そんなぁ…」
 スズカは悔しそうに、走り去る赤いソーラーカーを見つめた。

「やったやったぁ! これで今回のミッションは、ボク達の勝ちだね!」
 レッドチームの子どもたちは、もうすっかり勝った気ではしゃいでいた。
「ユキオ達も追い抜いたし、後は山を登って下るだけ! 一度登っちまえば、下り坂は楽だもんな!」
「結構簡単だったわねぇ、今回のミッション!」
「やったバド! 豪華料理バド!! バドッ!?」
 突然ソーラーカーの速度が落ち、バドバドはその場にこけた。ソーラーカーはそのまま減速し、ついには止まってしまった。
「どうしたんだよ、博士!」
「太陽が、隠れてしまった…」
 ガリレオが空を見上げる。子どもたちもつられて空を見上げた。雲が綺麗に太陽を隠している。辺りも少し、薄暗くなっていた。
「困っちゃったなぁ…。ソーラーカーの最大の弱点が出てしまった…。ソーラーカーは太陽さえあれば走り続けるが、逆に太陽がなければ、少しも走る事は出来ないんだ…」
「そんな…早くしないと、ユキオ達に…!」
「そんなところで休憩とは、ずいぶん優雅なドライブだな!」
 その時、上空からユキオの声がした。思わず、もう一度空を見上げる子どもたち。青い熱気球が、また頭上を通っている。いつの間にかに、風向きが元に戻っていたらしい。すごいスピードで、トモルたちを追い抜いた。
「じゃ、お先に失礼! ユリーカストーンは、わたし達がいただくわ!」
 ホーッホッホッホッ…スズカの高笑いを残し、熱気球はどんどん遠くへ飛んでいった。
「は、博士ぇ!!」
「仕方がない…押して行こう…。また太陽が出るのを、待つしかない…」
 子ども達はソーラーカーから降り、ガリレオはソーラーカーのハンドルを握った。
「こんな事になって…面目ない…」
「だから走った方が良いって言ったんだよ…」
「さっきは最高って言ってたバド」
 バドバドの突っ込みに反応する気も起きない。早く太陽が出ない物か…と、トモルは空を見上げた。ガリレオも同じ事を思って、空を見上げた。早く太陽が…。
「…ん? あの雲は…」
 ガリレオは、目の前に広がる雲を見て、呟いた。あの雲は…あの、濃い灰色の雲は、確か…乱層雲。

ピシャーン!!
 雷鳴が轟き、雨が降り始めた。トモルたちは、すぐ近くにあった洞穴に入り込んだ。少し狭いが、雨は防げる。山の天気は変わりやすい。さっきまで、あんなに晴れていたのに…。
「くっそう…。もう我慢できない!」
「トモル、どこ行くのよ!?」
 ミオがトモルの肩をつかむ。トモルは今にも、この豪雨の中を駆け出しそうだった。
「決まってるだろ! 走って小熊の像に行くんだよ!」
「そんなの無茶よ! この雨よ!?」
「だけど…!」
 トモルは歯を食いしばって、恨めしげに空を見上げた。山の天気は変わりやすい…なら、早く晴れてくれ!

「きゃぁ〜っ!!」
 スズカはチワワンを抱きかかえ、しゃがみ込んでいた。風雨に晒され、熱気球は大きく揺れていた。
「は、博士、どうにかならないの!?」
「雲の上だ! 雲の上に出るんだ!」
「雲の上!?」
 ガリレイは、さっきからずっとガスバーナーをいじくっている。だがこの雨の中…なかなか思うように、気球を操れない。
「く…ダメだ! やむを得ん。一旦不時着するぞ! みんな、しっかり捕まってろ!」
「きゃぁ〜〜〜っ!!」
 スズカの悲鳴が、いっそう大きくなる。気球が揺れ、一気に下降を始めた。
「うわああぁぁあぁぁぁあ〜〜っ!!」
ガサガサバサバサ…
 枝を折り、葉っぱまみれになりながら、熱気球は森の中へ不時着した。


「よし…雨も小降りになってきた!」
 待ってました、とばかりに、トモルが言う。他の3人と1匹に、説得するように続けた。
「この程度なら、外に出たって大丈夫だ! だから、オレが走って小熊の像まで行ってくる!」
 もはや、誰も止めはしない…。トモルはそのまま洞穴を飛び出し、走り始めた。

 一方、ユキオ達は、壊れた気球を前に、立ちすくんでいた。
「博士、直りそう?」
「直して直せない事はないが…時間がかかりそうだ」
 気球を一通り調べ終わったガリレイが、スズカに言った。子どもたちに、無念の表情が見える。
「仕方がない…ここからは、走って行こう」
 諦めたようにユキオが言うと、同意してスズカが頷いた。
「ええ、それしかないわね。わたしも走るわ。行きましょ、コータ」
「え? でも…」
「いや。この中で一番足が速いのは俺だ。だから、俺だけで行く」
「いや、待て」
 早速走り出そうとするユキオに、ガリレイが言った。
「ただ普通に走って行っただけでは駄目だ。少し待ってろ」
 そう言うと、熱気球の部品を幾つか外し、何かを作り始めた。

 トモルは息を切らして、その場に立った。視界が開けた…ここは、山の頂上。トモルはついに、ここまで来た。そして遠くの方には池があり…そのほとりに、小熊の像が、小さな点として見える。
「よぅし…こっからは下り坂! 一気に行くぜ!」
 トモルはそのまま駆け出した。下り坂なら、幾分楽だ! トモルは走って走って走って走って…加速、加速…。
「やっぱ、走るのが一番速いぜ!」
 加速、加速、加速、加速……。
「‥って、速過ぎぃっ!! だっ、誰か止めてくれぇっ!!」
「トモルーッ!!」
 ミオの声だ! ずっと後方から聞こえてくる。どうやらあれから追いかけて来たらしい。だが、トモルは今、振り向けない!
シャーーーーー…
 と言う、車輪の回転する音がする。車輪…?
「トモルーッ!」
 シャーッ! と、華麗な音を立てて、ミオがトモルの横に着いた。ミオは…ソーラーパネルを外したソーラーカーに乗っていた。
「ミオ! なんでここに!?」
「いいから、早く乗って!」
「あ、ああ!」
 ミオが手を伸ばすと、パシッとトモルがミオの手をつかんだ。そのままトモルは、「とりゃぁっ!!」とジャンプし、ソーラーカー(ソーラーパネル無し)に飛び乗った。
「これ…どうしたんだ?」
「すごいでしょ。博士が作ったのよ。ソーラーカーのパーツを使ってね!」
 パーツも何も、ほぼ大部分なのだが、走らなくて済んだトモルは、ホッと一息ついた。ミオの長い髪が、目の前でなびく。
「ま、とにかくこれで、オレ達の勝ちは決まったな!」
「それはどうかな、トモル」
「!?」
 今度は、ユキオの声がした。後ろの方から、ユキオがやってくる。四角い台車のようなものに、ガリレイの白衣を船の帆のように付けていた。あくまで風を利用し、トモル達に追いついて来た!
「この勝負、まだ終わってないぞ」
「ようし…臨むところだ!」
 ユキオVSトモル&ミオ…3人の戦いが始まった!
 ここは山と言うだけあって、急カーブが多い。ユキオもミオも、華麗なハンドルさばきで、それらをこなした。抜きつ抜かれつのデッドヒートが、山の下り坂を舞台に繰り広げられた。
シャーーッ!!
「キャ〜ッ!!」
 キキッ!! 急カーブで曲がりきれなかったミオが、車を停止させる。それを横目に、ユキオが2人を追い抜いた!
「な、何やってんだよ、ミオ!」
「わかってるわよ!!」
 グ、とハンドルを握りなおすミオ。そして、また走り出す。
 その様子を、ユキオは振り返ってみていた。十分な速度を出すためには、ある程度時間がかかる…。今のうちに追い越すぞ!
「!! 危ない、ユキオっ!!」
「なにっ!?」
 トモルが突然叫んだ! ユキオは慌てて前を見る。なんと…岩が、どんどん山の上から降ってきている!
「!?」
 まさか、さっきの雨で地盤が緩んでいたのか…っ!?
 しかい、ユキオの方にはブレーキがない! ユキオはそのまま、土砂崩れの中に突っ込んでしまった!
「うわあああぁぁぁぁ〜〜っ!!」
 ユキオの悲鳴が山に木霊する! ユキオはそのまま、道の横の崖の下へ落ちてしまった!
「ユキオ!!」
 トモルが絶叫し、車を降りた。慌てて、今ユキオが落ちたところを覗き込む。ユキオは…いた! ギリギリの場所に、手と足をかけ、なんとか持ちこたえている! トモルは、ユキオに手を差し出した。
「ユキオ、捕まれ!」
「な…ば、バカ言うな! 対戦相手のお前に、助けられてたまるか!」
 ユキオが強がった瞬間…
ガラガラ‥
 と、ユキオの足元が崩れ落ちた!
「!?」
「ユキオッ!」
 トモルが腕を伸ばし、ユキオの手をつかむ!
「と、トモル…」
「対戦相手がいなきゃ、ゲームは成立しねぇだろ!!」
「・・・・・・・・・!!」
 ユキオが、少しだけ微笑んだ。
「うおおおおりやぁあぁぁぁ〜〜〜っ!!」
 トモルの絶叫が、山に木霊した。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」
 3人はその場に座り込み、息を切らしていた。トモルはなんとか、ユキオを助け出せていた。
「よかったね、ユキオ…。怪我がなくって」
 ミオがユキオに微笑みかけた。ユキオはミオを見て…
「…だけど…」
 と、自分の車を見た。
 車は大破。ガリレイの白衣は無事だが、台車の床が抜け、車輪は外れ、ポールは折れ曲がり…とても、使えはしない。
「…オレも、あれを捨てるぜ」
 トモルが、ミオが乗ってきた赤い車を指差して、言った。
「オレも、走って行く。これでフィフティフィフティ…条件は同じだ」
「トモル…」
「ちょ、ちょっとトモル!? なにバカなこと言ってるのよ!! どうしてそんなムダな事をするの!? わたし達が勝たなきゃ、みんな元の世界に帰れないのよ!?」
「ミオ…男ってのは、ムダで必要のない事をやりたがるもんなんだよ! …こっちの準備は出来たぜ、ユキオ」
「ああ…」
 ユキオは立ち上がって、服の汚れを払い、靴を履きなおした。
「俺の準備も出来た」
「全く…もう知らない! フンッ!」
 ミオは腕を組んで、ソッポを向いた。そんなミオを見て、トモルとユキオは苦笑する。
「よし…行くぞ!」
「ああ」
「ようい…ドン!」
 ダッシュ! 2人は同時に、駆け始めた! 小熊の像へ…ミッションクリアへ向けて!
「お前には負けないぜ、ユキオ…!」
「こっちだって、負けるものか…!」
「オレはお前とは、鍛え方が違うからな…!」
「俺がお前なんかに、負けるものか…!」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ…!」
『うおおおおおおお〜〜〜〜っ!!』
 2人は絶叫し、フルスピードで坂道を駆け下る!!
「うおぉっ!?」
 そして突然、足を止めた。2人の目の前には…巨大な溝があった。
「なんだこれ…さっきの雨で、流れちまったのか…?」
「…他に道は無いみたいだな…。跳び越すしかなさそうだ」
 跳んで跳べない距離ではない。2人は2〜3歩下がって…駆け出した!
「たああぁぁああぁっ!!」
ストン、ストン
 2人が着地する音がした。が…
ボロッ
 と、トモルの足元が崩れる!
「うわぁっ!?」
「トモルっ!!」
 反射的に、ユキオはトモルの腕をつかんだ。
「ゆ、ユキオ…」
「対戦相手がいなきゃ、ゲームは成立しないからな」
「……!」
 思わず、トモルの頬が緩む。サンキュ、ユキオ!
「おおおりやあああぁぁ〜〜っ!!」
 ユキオの声が、森中を駆け巡る。そしてなんとか…トモルを引き上げた。
「…これで、貸し借り無しだな?」
「ああ」
 そして休む間もなく、トモルもユキオも立ち上がった。もう、すぐそこに小熊の像が見える。あと200メートルか、300メートルか…。
「行くぞっ!」
 2人は同時に駆け出した!
「うおおおおおおお〜〜〜〜っ!!」
「お前には負けない!!」
 2人の足の速さは、ほぼ同じ! サッカーで鍛えたこの脚力…絶対に負けるものか!
 小熊の像は、もう目の前だ! あと少し、あと少しでたどり着く…!
 100メートル、50メートル、30メートル、10メートル、9、8、7…
「負けるかああ〜〜っ!!」
 小熊の像の土台には、黒いパネルが付いていた。きっと、あそこに触れれば、ミッションクリアだ!
 2人は走りながら手を伸ばした! あとも、もう少し…!
「たああぁっ!!」
 瞬間! 黒いパネルに「!」マークが表示され…メッセージが聞こえた。
≪ミッション・クリア≫
 空中に丸い青い閃光が現れた。そして中から、ユリーカストーンが現れる。トモルも、ユキオも、固唾を呑んで、ユリーカストーンを見上げた。さぁ…勝ったのは、どっちだっ!? 2人は両手を挙げた。ユリーカストーンが、ゆっくりこちらへ下りてくる。そして…ストーンは…トモルの手の中に、落ちた!
「やった…勝ったぁっ!!」
「く…トモル、今回は負けたな…」
「ユキオーーっ!」
 スズカだ。スズカの声が、後ろの方からした。ユキオが振り向くと、上空に青い気球が浮かんでいた。
「えっ!? うそ!? もしかして、負けた!?」
「どうやら、そうみたいだね…」
「え〜、そんなぁ…」
「悲しいでチュワン…」
 スズカは脱力し、籠の縁にもたれかかった。

 空間に亀裂が入り、レッドペガサスが現れた。レッドペガサスがユリーカタワーの前に止まると、トモル、ミオ、ダイが中から飛び出してきた。
 8個目のユリーカストーン…。もう、脚立を使う必要は無かった。背伸びをすれば、すぐに届く距離だ。
「しかし、大丈夫かな…ストーンはちゃんと、動いてくれるだろうか…」
 ガリレオが心配そうに呟いた。そう言えば、6個目の時は、何故か5つのストーンがこちらにあったままだった。
「大丈夫だって。動くさ…動かしてみせる!」
 意気込んで、トモルはストーンをタワーに入れた。
 ストーンが光り、回る。そして前の7個も…ちゃんと回転して、赤い屋根の家を向いた。最後に、タワー自身も回転して、淡いピンクの霧が噴射された。
「ほらな、動いただろ!」
 勝ち誇ったように、トモルがそう言った。

「はぁ…」
 ガリレイの研究所では、スズカとコータが食事を前に、ため息をついていた。
「せっかく頑張ったのに…」
「こんな料理になっちゃうなんてな…」
「残念でチュワン」
「…確かに、美味しくはないけれど…」
 誰にも聞こえないように、ユキオは呟いた。
「今日の料理は、いつもより美味しく感じるな」
 青春の1ページを…ユキオは、思う存分に、噛み締めていた。

 そんな彼らの青春の1ページに微笑む事も無く、ユリーカタワーは無表情のまま、今日も無口に聳え立っていた。

⇒Next MISSION「青空を取り戻せ!」

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