おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#13「決闘! 恐怖の巨大生物!」

「キャ〜〜〜〜ッ!!」
 突然、ミオの悲鳴が、ガリレオの研究所に響いた。
「どうした、ミオ!?」
「どうしたの!?」
「何があったバド!?」
 3人(2人と1匹)の男たちが駆け寄り、聞く。ミオがリビングのテーブルを震える手で指差し、「あれ…!」と小声で言った。
「ん?」
 トモルたちが見たそこには…たくさんのカブトムシ、クワガタ、コガネムシ…。
「うおぉ、すげ〜!」
「カブトムシに、コガネムシ!!」
 トモルとダイは、夢中になって駆け寄って、手でつまみあげた。
「見てみな、ミオ! クワガタまでいるぜ!」
「あ、あのね…。わたしは虫が嫌いなの!!」
「大丈夫バド! ここは、おいらが守るバド!」
 バドバドがミオの前に立ち、両手を広げた。トモルをにらみつける。
ぶーーーーん・・・・
 そのバドバドの顔に、大量のハエが止まった。
「ば…バドォッ!!」
 慌ててハエを追い払おうとするが、離れない!
「バド、バド、バドォッ!!」
 辺りを駆け回り、転げまわる。それでも、離れない!
「ああ、すまんすまん!!」
 階段から、ガリレオが駆け下りてきた。手には、金属質の箱を持っている。大きさは30cmほど。箱の側面についたスイッチを押すと、箱が開いた。
ぶーーーーん・・・・・
 その箱に向かって、カブトムシ、クワガタ、コガネムシ、ハエが飛んだ。全部が箱に入ると、箱は閉まり、辺りに静寂が訪れた。
「ごめんごめん…。いまのは、わたしが作ったロボットだったんだ」
「ロボット?」
「ああ」と、ガリレオは箱を開け、カブトムシを取り出しながら答えた。
「色々な虫の生態を調べようとして作ったんだ。ほら」
 カブトムシが羽を開いた。その裏には、金属の背中。
「すげ〜」
「よくできてるね」
「虫のロボットなんて…」
 と、ミオが膨れ面でぼやく。
「どうせなら、ウサギとか、ハムスターとか、もっと可愛いロボットを作れば良いのに」
「ホントバド…」
 床に倒れながら、バドバドが呟いた…その瞬間。
シュビーン・・・・・
≪エリアE1に出動せよ、エリアE1に出動せよ≫
 ミッションが告げられた!
 ガリレイ、ユキオ、スズカ、コータ、チワワンは、リビングの天井からせり出す、巨大なモニターを見た。真ん中の白い五角形の周りにある、5つのエリア…。「E」と書かれたエリアの一部が、光っている。
「今度はどんなミッションなんだろう…?」
「どんなミッションだろうと、構わない。クリアして、ユリーカストーンを手に入れるだけだ!」
 壁の穴に飛び込み、滑り降りる。ブルーペガサスに乗り込むと、台座があがっていった。そして、5つの扉が用意された、円形の部屋…。その壁が回転し、「E」と書かれた扉が、目の前に移動してきた。
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
 ガコ、とガリレイが操縦桿を引くと、ジェット噴射が出て、ブルーペガサスが前進を始める。Eの扉が開き、ジェットコースターのような走路が現れる。そこを、ペガサスが全速力で駆け抜けた…!

 空間に亀裂が入り、ブルーペガサスが現れた。そしてそのまま、地上へ降りる。
 空間にもうひとつ亀裂が入り、そこからレッドペガサスも現れた。同じように、地上へと降り立った。
「どうやら…ジャングルのど真ん中のようだな…」
 周りを見渡して、ガリレオが言った。
「こんなところで、どんなミッションをやるのかしら?」
ピーピーピー・・・
 高音の電子音…。もう、聞きなれた音。操縦桿の奥から、モニターがせり出し、ジャン! と言う音とともに、「!」マークが大量に表示された。今回のユリーカ情報は…?
≪蚊は、動物の血を吸う生物である。ただし、血を吸うのはメスだけで、オスは花の蜜や果物の汁しか吸わない。メスは卵を産むエネルギー源として、血液を利用しているのだ。
 蚊は血を吸う前に、麻酔薬が入っている唾液を皮膚に注入する。蚊に刺されるとかゆくなるのは、この麻酔薬のためである。
 蚊には、日本脳炎やマラリアなど、恐ろしい病気の病原体を持っているものもいる。刺された部分からそれらの病原体をうつされることもある。
 蚊の幼虫はボウフラと呼ばれている。ボウフラは、不潔な水の中に棲み、微生物や植物の腐った部分などを食べ、成長するのである≫
「そーなんだ!」
 言うや否や、すぐに画面が切り替わり、「MISSION12」と表示され、ミッションが告げられた。
≪ミッションナンバー12。ジャングルで大量発生している蚊を、退治せよ≫
「蚊の退治?」
「ジャングルの蚊は、病原体を持っている事が多い…。その蚊がジャングルの外に出ると、危険だから、それを阻止せよ…そういう意味だろう」
 ガリレオの説明にトモルは納得したが、今度はその退治方法を聞いてきた。
「そうだなぁ…蚊をおびき寄せて、一度に退治するしかないだろう」
「おびき寄せるって…どうやって?」
「蚊は、二酸化炭素や温度、においなどによって、生き物のいる場所を探している…」

「と言うことは、つまり?」と、スズカがガリレイに聞いた。
「つまり、その習性を利用し、蚊をおびき寄せるしかない。行くぞ」
 ガリレイが操縦桿を引いた。ブルーペガサスが、垂直上昇する。レッドペガサスも、垂直上昇をしてきた。
 両博士がピ、ポ、パ、とキーボードを操作すると、両ペガサスの底部が開き、ノズルが現れた。
「二酸化炭素、」両博士は、操縦桿のボタンに指をかけた。「噴射!」
プシューーーー・・・
 音とともに、大量の二酸化炭素が、ジャングルの上空に噴射される。2〜3秒噴射したところで、両博士は二酸化炭素を停止させた。結果は…すぐに、現れた。
ブーーン…
 大量の蚊が、ジャングルから飛び出してきた!
「作戦成功!」
「でも、どうやって退治するの?」
「蚊と言ったら、これしかない!」
 両博士はもう一度キーボードを操作した。レッドペガサスの底部から、今度は蚊取り線香が。そしてブルーペガサスの底部からは、殺虫剤が現れた。
「蚊取り線香、点火」「殺虫剤、噴射」
 大量の煙と殺虫剤が、これまた大量の蚊たちに向かう。しかし、蚊だってバカではない。煙がくると、すぐにジャングルの中へ引っ込んでしまった。
「倒した!?」
 子ども達は、そう思ったが…すぐにまた、ブーンと言う音とともに、大量の蚊が現れた。
「博士、もう一度!」
「ああ!」
 が…両博士の動きが止まった。子ども達も、止まった。すごい勢いで近づいてくる蚊…。しかし、それらは明らかに…でかすぎる!!
「おっきい!?」
 50cmはあろうかという巨大な蚊たちが、両ペガサスに取り付き、吸い始めた!
「そ、そんなバカな…。ブルーペガサスのエネルギーが、吸い取られている!!」
「え〜っ!?」
「このままでは、レッドペガサスを不時着させざるを得なくなってしまう!」
「博士、蚊取り線香!」
「ああ!」
 両博士は、それぞれ蚊取り線香、殺虫剤を、ペガサスにまとわりつく蚊たちに噴射したが…蚊たちはサッと避け、今度はジェット部分のエネルギーを吸い始めた。
ボン!
 蚊の攻撃に耐えられなかったのか、両ペガサスのジェットが、煙を上げた。ガクンと車体が揺れる。滞空不能!
「仕方がない、不時着するぞ!」
 ガリレオが叫んだ。「はい!」と、子ども達が答えた。
「みんな、何かに捕まるんだ!」
 トモルが言うと、ミオもダイもうなずいて…目の前の、バドバドの頭に捕まった。
「そうじゃないバド…」

ずうぅん…
 レッドペガサスも、ブルーペガサスも、ジャングルの中に不時着した。
「幸い、大した故障ではないが…修理には、少し時間がかかりそうだなぁ…」
 ガリレオが、レッドペガサスを内部から調べ、言った。先ほどの蚊の攻撃と、不時着…。仕方あるまい。
「キャァ!!」
 突然ミオが、悲鳴を上げ、トモルにしがみ付いた。レッドペガサスの窓の外。すぐ目の前に、巨大な蚊が!
「!?」
 しかし、蚊はペガサスを襲うでもなく、ソッポを向くと、近くの花に乗った。そして、花の蜜を吸い始める…。
「あ!」
 すると、見る見るうちに花が枯れていくではないか!
「あいつら…ここの花のエネルギーを吸い取ってるんだ!」
 よく見ると、辺りの花と言う花に、先ほどの巨大な蚊が乗っていた。そして、蚊にエネルギーを吸われた花は、どんどん枯れていく。辺りの花は、半分以上、既に枯れていた。

 ユキオ達も、その事に気付いていた。このままでは、ジャングル中の花が枯らされてしまう!
「ね、ねぇ…この蚊、なんかさっきより増えてない…?」
「どうやら…このジャングルのどこかに蚊の発生源があるようだな。そこを叩かなければ、ミッションをクリアする事はできない」
「蚊の幼虫…って、ボウフラって言うんだっけ?」
「不潔な水の中に棲んでるんだよね。博士、このジャングルに、そんな場所はある?」
「そうだな…」
 ガリレイがキーボードを操作すると、モニター画面に地図が表示された。このジャングルの地図だ。ガリレイは地図を動かし、適当な場所を探す。…と、灰色で描かれた沼が現れた。
「おそらく、この沼だな」
「と言う事は、まずこの沼を綺麗にする必要があるわけだ…。でも、どうやって?」
「答えはひとつ…。この沼は、川に接しているが、岩によって遮断されている。この岩を砕けば、川の水が沼に流れ込み、浄化されるはずだ」
「…よし、それで行こう!」
 ユキオが言うと、スズカ、コータ、チワワンが、「うん!」とうなずいた。

 モクモク…と細い煙を上げる蚊取り線香。そのすぐ真下に…ミオの顔。トモルたちは、全身防護服に身を包み、頭の上に蚊取り線香を載せていた。
「いやぁ!! 絶対行きたくない!!」
 蚊だろうがなんだろうが、ミオは虫が大嫌い…。しかもなによ、頭に蚊取り線香を載せた、この間抜けな格好は!
「仕方ないだろ、ミオ。ミッションなんだから」
「そうバド。何かあったら、このおいらが守るバド!」
 言った瞬間…「何か」あった。ブーンと言う音がして、巨大な蚊が3匹、現れた!
「きゃぁ〜!!」
「来い! おいらが相手バド!」
 ミオを守るようにして、バドバドが蚊の前に立ちはだかる! 一方の蚊たちは…遠慮せず、バドバドに取り付いた。
チュ、チュ、チュ〜〜・・・・
 異音とともに、バドバドの体からエネルギーが吸い取られていく。見る見るうちに、バドバドがやつれていく。
「ば、バドォッ!?」
「…。よし、みんな、今のうちだ! 行くぞ!」
「うん!」
「ありがとう、バドバド!」
「ま、待つバドォ…!!」
 苦しみ悶えながら、バドバドは叫ぶが…子ども達は、そのまま立ち去ってしまった。
「頑張ってくれ、みんな…。わたしも後から駆けつけるぞ」
 走り去る子ども達を見て、ガリレオが独り言を言った。…バドバドの姿は、見えなかったようだ。

「置いてきぼりにするなんて、ひどいバド…」
 ブツブツ言いながら、バドバドがトモルたちのあとをついてくる。そんなバドバドを見て、トモルがクスッと笑う。
「でも、お前、ホント虫に好かれてるな☆」
「嬉しくないバド!」
「! キャァッ!」
 またしても、突然のミオの悲鳴。肩を掴まれたダイが聞く。
「今度はどうしたの?」
「あれ…!」
 ミオが指差したところには、今度はクモ。一本の細い糸で、どこからかぶら下がっていた。
「なんだ。ただのクモじゃん」
「ただのクモでも、わたしクモ嫌いなんだもん!」
「…あ、見て!」
 ダイが、同じところを指差した。だが、方向は同じでも、距離が違う。クモの向こう…巨大な蚊が、そこからトモルたちをにらみつけていた。
「!?」
 にらみ合う両者(トモルと蚊)…。先に動いたのは、巨大蚊だ!
「うわぁ〜っ!!」
 トモルたちには、蚊取り線香以外武器がない! 蚊は鋭い針を光らせて、トモルたちに襲い掛かった!
「くらえ!」
 突然の声とともに、突然蚊に、白い霧が吹き付けられた。蚊が、吹き付けてきた方を見た。トモルたちも、つられて見る。
「ゆ、ユキオ!」
 そこにいたのは、やはり全身防護服に身を包んだユキオ達。手には、大きな殺虫スプレーを持っている。
「撃て!」
 ユキオの号令とともに、3人が蚊に向けて一斉に殺虫剤を吹き付ける。蚊は、殺虫剤を避けるように、その場を逃げ去った。
「サンキュー、助かったぜ!」
「別に…。俺たちの進む方向に、奴がいただけだ。お前を助けたつもりはない」
 ユキオはクールに言い放った。

 ボコボコ・・・と、灰色の沼から、気泡が浮かんでは消えていた。
 6人と2匹は、ついに沼に到着した。灰色の沼、生ゴミのような異臭、そして、大量のボウフラ…。
「でかい…でかすぎるぞ、このボウフラ!」
 コータが声を上げた。でかいからこそ、あの巨大な蚊が誕生したのだ。
「早いとこ、沼を浄化しないと」
 ユキオは、サッと沼の周りを見渡した。沼を挟んで反対側…そこに、大きな岩があった。
「あれを崩せば、川の水が流れ込んで、沼が綺麗になるんだな…」
 独り言を呟いた。
「よし、行くぞみんな…」と言いかけた、その時!
ボコボコボコボコ・・・
 沼に、異変が訪れた。
「?」
 何が起こったかわからず、子ども達は沼を見る。沼の中央付近に、黒い影…何かが、沼のそこから這い上がってきている!
ザバァ!!
 そこから登場したのは、ありえないぐらいバカでかい、超巨大な蚊!
「な、なにあれ!!」
「あんなのがいるなんて、聞いてないわよ!!」
チュ、チュ、チュ〜〜・・・
 その超巨大蚊が鳴いた。すると、すぐにブーンと言う音がして、大量の巨大蚊が、四方八方から飛んできた。花のエネルギーをたっぷりと吸い込んだその巨大蚊たちは、超巨大蚊に近づくと、突然黄色く輝き始め…あっという間に、超巨大蚊に吸収された。
「な、何が起こってるの…?」
 同時に、超巨大蚊の体も光り始め…子ども達の目の前で、巨大化を始めた!
「そんなバカな!」
 さらに一回り大きくなった超巨大蚊は、子ども達をにらみつけたが…気にすることもなく、着水した。腹をググッと曲げると、先端から、細く白く、そして巨大な卵を産み始めた。
「まずい…急がないと、また増えるぞ! 行くぞ、スズカ、コータ!」
「ええ!」
 3人と1匹は駆け出した。それを見て、トモルも慌てて、
「行くぞ、ミオ、ダイ!」
「うん!」
 駆け出した。
「急げ! トモルたちより先に、岩を崩すんだ!」
「ええ!」
 と、スズカが答えた瞬間。
「キャァ!!」
 スズカの踏んだ足場が崩れ落ちた!
「スズカァ!」
 間一髪、ユキオがスズカの手を掴んだ。
「スズカ、しっかりつかまれ…!」
 コータ、チワワンも加わり、スズカを引き上げようとする。しかし、何が気に障ったのか、超巨大蚊がこちらを向いた。
「まずい…! 急げ!」
 超巨大蚊は産卵を止め、スズカ達の方を向いた。そして、スズカ達に襲い掛かる!
「キャアア!!」
「くらえ!!」
 ヒュッ。トモルが投げた石が、超巨大蚊にあたった。超巨大蚊が、トモルをにらむ。
 ミオ、ダイ、バドバドは悲鳴を上げ、急いで近くの茂みに逃げ込んだが、トモルだけは超巨大化を睨み返す。ユキオ達を助けるためには…こうするっきゃない!
「お〜い、こっちだこっちだぁ!!」
 トモルは両手を広げて、振り回す。超巨大蚊は、スズカ達の事を忘れ、トモルだけを見ていた。
 トモルはそれを確認すると、ユキオ達と反対方向に駆け出し、石を拾った。それをまた、超巨大蚊に向かって投げつける!
ポチャン、ポチャン
 石がいくつも、沼に落ちる。
「!!」
 超巨大蚊は、それが自分の子ども達に激突している事に、気がついた。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
 怒り心頭! 超巨大蚊が、トモル目掛けて襲い掛かる! トモルはそれを、軽い身のこなしで避ける、避ける、避ける…。
ビリッ
 が、防護服が針に引っかかり、破けてしまった。しかし、トモルはその程度では屈しない。
「ヘッ、ちょうど良いぜ! 暑くて脱ぎたかったところだ!」
 トモルはさっさと防護服を脱ぐと、近くに転がっていた木の棒を拾い上げた。
「来い、モンスター!!」
 トモルの木の棒と、超巨大蚊の針が、ぶつかり合う。圧倒的な体格差だが、果たしてトモルは勝てるのか!?
「どっちにせよ、今のうちに引き上げるんだ!」
 スズカの体は、もうほとんど持ち上がっていた。あとひと踏ん張りで、引き上げられる!
「そぉれ!」
 ユキオの掛け声と同時に、スズカの引き上げは、なんとか成功した。
「ふぅ…それじゃ、急ぐぞ!」
 走りながら、ユキオ達はドリルを取り出した。こいつで岩の下を砕き、沼に川の水を流し込む!
「トモル…サンキュ」
「これで借りは返したぜ、ユキオ!」
 振り返ってスズカが助かったのを確認すると、トモルはそう叫んだ。やはり勝てなかったらしく、今は走って逃げている。
「…あれ?」
 ふとトモルは立ち止まった。振り返ったは良いが、超巨大蚊がいない。
「あれ? あれ、あれ??」
 キョロキョロと辺りを見渡すが、やはりどこにも…
「!!」
 上か!? と、真上を見上げると、超巨大蚊の針が、目前に迫っていた!
「うわぁっ!!」
 バッと瞬間的に身を交わした。ギリギリセーフ、なんとか刺されずにすんだ。
 しかし、それでも蚊が目の前に立ちはだかっている! トモルの何十倍もありそうな巨大な体で、トモルの視界を埋め尽くす!
「トモルーー!」
 スピーカーを通して、ガリレオの声が聞こえた。上空から、レッドペガサスが飛んでくる!
 ピ、ポ、パ、とガリレオは素早くキーボードを操作し、ヒトの手の形をした超巨大なマジックハンドを2本、ペガサスの底部から出した。
パン!
 小気味いい音がして、手を叩きあわせる。超巨大蚊はギリギリで身をかわした。
「トモル、みんな、早く乗り込むんだ!」
 ガリレオがレッドペガサスのドアを開けると、子ども達は急いで乗り込んだ。そして、ドアを閉めながら、レッドペガサスは垂直上昇をした。
「あ、沼が…!」
 瞬間、ユキオ達が岩を崩した。川から綺麗な水があふれ出てきて、沼の水が押し流される。広い沼が、端からどんどん綺麗になっていく。
「どうしよう…このままじゃ、ミッションに負けちゃうよ!」
 だが、それよりも問題があった。せっかくトモルがひきつけた超巨大蚊が…またしても、ユキオ達の前に立ちはだかった!
「く…!!」
 目の前の超巨大蚊を見て、ユキオ達は冷や汗を流す。道は細く、すぐ横は沼…。逃げ場はない!
「どうする? 逃げられないよ…」
「………」
 ユキオは2人と1匹を守るように両腕を広げ、超巨大蚊をにらみつける。しかし、相手はそれでもひるまない。
「博士!」
 トモルはガリレオをせかした。
「早く、こっちにひきつけないと!」
「あ、ああ。わかってる」
 キーボードを素早く操作し、ノズルを出した。
「二酸化炭素、噴射!」
プシューー・・・・パスッ
 虚しい音がしただけだった。
「いかん! タンクが空だ!」
「そ、そんなぁ!!」
 このままじゃ、ユキオ達が…!!
「くそ…」
 ジリジリと、超巨大蚊は、ユキオ達との距離を狭めていた。
「ユキオォ・・・」
 スズカがユキオの背中にしがみ付く。ユキオは殺虫剤を吹きかけてみたが、超巨大蚊は全く動じない。
「どうすれば…」
「…」
 その時、超巨大蚊が突然、ユキオ達から目をそらした。ユキオ達も、つられてそちらを見る。
「あ、あれ!」
 コータが叫んだ。超巨大蚊の視線の先には、レッドペガサス…から吊り下げられた、青い鳥…バドバド!!
「なんでこうなるバドーーーッ!!」
 両手両足をバタつかせるが、全く意味がない。そして、バドバドは超巨大蚊と目が合った!
「バド!?」
 超巨大蚊は飛び上がり、バドバドに襲い掛かる!
「バドーーー!!」
「蚊取り線香、点火!」
 次の瞬間、巨大な蚊取り線香に火がついて、煙が出た。蚊取り線香のすぐ後ろで扇風機を回し、煙を超巨大蚊へ送る。煙に囲まれ、超巨大蚊が一瞬ひるむ。
「博士、今だ!」
「ああ!」
 レッドペガサスの底部から、先ほどの巨大なマジックハンドが再び登場し…
パン!!
 超巨大蚊を、叩き潰した!
「やったバドォ!!」
 モクモク…と、喜ぶバドバドの顔に、蚊取り線香の煙がかかる。
「ゲホゲホッ…。なんで、こうなるバド…」
 思わず目をつぶるバドバド。それが正解だった。突然…叩き潰した超巨大蚊が、まばゆい光を放ち始めた。その光は徐々に強さを増し、トモル達も、ユキオ達も、全員、腕で光をさえぎった。
「な、なんだ、この光は…」
 ダイは、そっと手の隙間から、光り輝く超巨大蚊を見た。その時だった…。
ヴォゥン…
 光り輝く超巨大蚊の中から、「それ」が現れた。
ヴォゥン…
 黒くいびつな形をした基盤に、赤く輝く丸い物…。
ヴォゥン…
「あれは…いったい…?」ダイの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
ヴォゥン…
 一瞬、「それ」が白く光るったかと思うと…
パキン…
 それは砕け散って、なくなってしまった。
 光が収まると、超巨大蚊は、小さな普通サイズの大量の蚊に分裂した。
パン!!
 最後の一叩き! 超巨大マジックハンドで、全ての蚊を、一度に叩き潰した。
≪ミッション・クリア≫
 マジックハンドから、バラバラと蚊の死骸が落ちる。レッドペガサス内に、ユリーカストーンが現れる。
≪ミッション・ロスト≫
 ユキオ達は、ガックリと肩を落とした。「せっかく沼を綺麗にしたのに」とスズカは言ったが、今回のミッションはあくまで、蚊を退治すること…。それでは、意味がなかった。

 10個のユリーカストーンがはめ込まれたユリーカタワーを、トモル達は見上げていた。これで、11個目…だ。
「今度は、大丈夫よね? また変な事が起こったりしないわよね?」
 ミオは、すっかり「ユリーカタワー不信」に陥ったようだ。心配そうに、脚立を上るトモルに聞く。
「大丈夫だって。行くぞ」
 トモルは、穴にユリーカストーンを納めた。ストーンが光り、ガリレオの研究所を向く。そして、タワーも回転し、11個のストーンが、トモル達の物になった。タワーの頭頂部、ピンクのクリスタルから、淡いピンク色の霧が噴射され、ガリレオの研究所に降り注いだ。
「やったぁ!!」
 ホッと胸をなでおろし、ミオはダイと飛び跳ねた。
 その後ろで、ガリレイの研究所は、濃い紫色の霧に包まれていた。

「はぁ…」
 スズカはため息をついた。
「さぁさ、ほら食べた食べた」
「そうは言っても、こんな料理…」
「あ〜、ご馳走ぉ!!」
 コータも恨めしげに言う。「ぼやくな…」と、ユキオはクールに言った。
「また、今度のミッションで勝てばいいんだ。それまでの辛抱だ」
「そうそう! 元気でやってりゃ、良い事あるわよ!」
 ピグルはスズカとコータの背中を叩き、豪快に笑った。「はぁ…」と2人はため息をついた。

「美味い!!」
 一方のトモル達は、全員が嬉しそうにご馳走をほうばっていた。
「わたしも、みなさんに豪華料理が作れて、本当に嬉しいですわ」
 上品にベアロンが言う。ピグルとは、実は対照的な性格なのだ。
「バド?」
 バドバドは、自分の顔に上ってきた虫に気がついた。パシ、と手で押さえつけ、引き剥がす。
「ば、バドバド…それ、ゴキブリ…!!」
 隣に座っているダイが言った。今にも悲鳴を上げそうな声だが…バドバドは、珍しく冷静に言った。
「どうせ、また博士のロボットバド。ね?」
「…。わたしは、ゴキブリロボットなんて作った事はないぞ」
「…え?」
 全員の視線が、バドバドの手のひらのゴキブリに集中する。と言うことは、と言うことは…。
「それ…本物の…」
「バドオオオオーーーー!!!!」
 全員が悲鳴を上げ、食堂内は大混乱に陥った!

 そんなガリレオの研究所を、ユリーカタワーは、動じる事もなく、ただジーッと見つめていた。

⇒Next MISSION「渡り鳥よ、北へ飛べ!」

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