おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#14「渡り鳥よ、北へ飛べ!」

 夜。赤い屋根の研究所=ガリレオの研究所。トモル・ダイ・バドバドは、用意された寝室で眠っていた。そんなトモルの腕の中には、何故かサッカーボール…。よほど、サッカーが好きなようだ。
「う〜ん… 豪快な、ヘディングシュ〜ト〜…」
 寝ぼけてトモルは、思いっきりボールをヘッドした。バインバインバイン! とボールは壁・天井・床を力強くバウンドし…
「ムニャムニャ…いただきま〜す!」
 寝ぼけて大口を開いたバドバドの口に、見事にゴールした。
「バドーー!?」
「うあ?」
「な、な、な、何するバドーー!?」
 なんの事かわからず、ポカンと口を開けるトモル。騒ぎに気付いて、ダイまで目覚めた。
 と、その時だった。
 突然、部屋の明かりがつき、ユリーカタワーの声がした。
≪エリアE9に出動せよ。エリアE9に出動せよ≫
「来た来た来たぁっ! ミッションだ!」
 トモルは起き上がると、すぐにパジャマを脱いで着替え始めた。

 女子部屋からミオが出てきて、レッドペガサスへ急ぐ。と同時に、男子部屋からトモル、ダイも現れ、後を追った。
「ま、待ってバドォ!」
 バドバドも、部屋から飛び出して、その後を追いかけた。

 ユキオ達も、着替え終わるとすぐにリビングへ出てきた。天井から巨大なモニターが現れると、そこに白い正五角形と、それを取り囲む5つのエリアが表示された。「E」と書かれたエリアの一部が、光っている。
「何でこんな時間にたたき起こされなきゃならないんだよ…」
 ユキオの後ろで、コータが愚痴った。
「まだ夜明け前じゃないか…」
「眠い…眠すぎる…」
 スズカが言うと、チワワンがあくびした。それが2人に伝染し、スズカ、コータも大きなあくびを一発かました。
「ミッションとは」
 突然、ガリレイが部屋に入ってきた。驚いて3人と1匹は、後ろを振り返る。
「我々の都合など意に介さない、非情なもの。文句を言っていないで、すぐに行くぞ」
「はぁい…」
 スズカもコータもだるい返事を返したが、
「よし…行くぞ!」
 ユキオだけは、元気な返事を返した。

 夜明け前の空間に、亀裂が入る。そこから、ブルーペガサスが現れた。そして、すぐにレッドペガサスも現れ、両ペガサスは、地面に降り立った。
 子ども達は、辺りを見渡した。周りには、特にこれと言ったものは無い。小さな湖や、小高い山。それに森や、小川などがある。こんなところで、今度はどんなミッションを…?
ジャン!
 独特な機械音が流れ、操縦桿の向こうにモニターが現れる。そしてやはり、「!」マークがたくさん表示された。
≪渡り鳥とは、ある季節になると自分の生活に適した土地へ移動する鳥である。彼らは、生まれた時から飛んでいく方向を知っている。
 昼間移動するホシムクドリは、太陽の位置を目印にして進む方向を確認している。夜間に移動するムシクイは、星座の位置を手掛かりにして飛んでいる。また、ハトなどは体内に磁石のようなものがあり、地球から放たれる磁力に反応して、目的地を目指しているといわれている。
 その他にも、動物の鳴き声や地域ごとの匂い、特徴的な地形などを参考にして、渡り鳥は飛行コースや自分の位置を確認するのである≫
「そーなんだ!」
 感動するのも束の間、すぐにミッションが告げられた。
≪ミッションナンバー13。渡り鳥の群れとなって、三角山の一本杉へ向かえ≫
「渡り鳥の群れぇ!?」
 子ども達が叫んだ瞬間、8人と2匹は強烈な光に包まれた。そしてそのまま、両ペガサスの壁をすり抜け、外へと飛び出し…光が消えると、そこには10羽の鳥がいた。
「うわぁ!? なんだこれ!?」
「こ、このおいらが鳥になっちゃったバドォ!!」
「落ち着きなさい。お前さんは、元々鳥じゃなかったか?」
「バドッ」
 そう言えばそうだったバド…と、バドバドは小さく呟いた。
 ユキオ達も、突然鳥になった事に混乱したようだが、すぐに事態を把握したユキオが、冷静に言った。
「つまり今回のミッションは、ペガサスを使わずに、自分たちの羽で三角山を目指せと言う事だな」
「そうみたいだね…ファァ…」
 コータが、また大きなあくびをした。
「うう…眠い…。やっぱり、寝不足だからかなぁ…」
「いや…違う」と、ガリレイ。「我々は…どうやら…夜、移動するタイプの鳥に…なってしまったようだ…。だから…」
 重たいまぶたを必死に持ち上げようとするが、もはや対抗しきれない。ガリレイは、そこで眠ってしまった。コータ、スズカ、そしてチワワン…次々と、眠りについてしまう。
「あ…こら、みんな寝るな!」
 ユキオは4羽に呼びかけたが、全員起きる気配が無い。そして、ユキオ自身…猛烈な眠気に襲われた。
「く…どうしても…逆らえないのか…。自然の…摂理‥に‥は……」
 そして、その場にうずくまると、ユキオも深い深い眠りに落ちていった。
「…おい、見ろよ…。寝ちまったぞ」
 そんな彼らの様子を見て、トモルが言った。ガリレオが、「ふむ…」と、冷静に分析した。
「どうやら、彼らは夜移動するタイプの鳥みたいだな」
「それじゃぁ、オレ達は…?」
 キラッと、東の空に、何かが光った。「お?」と、5羽はそちらを見た。東の空に現れたのは、言うまでも無い…
「太陽だ。わたし達は、太陽を頼りに移動するタイプの鳥なんだ」
「おっしゃぁ! それじゃぁ、ユキオ達が眠っている間に、ミッションをクリアしちまおうぜ!」
「でも、三角山って、どこにあるの…?」
「…どうやら、こんなものまであるようだぞ」
 鳥になった時、既にガリレオはそれを持っていた。赤いショルダーバッグの中から、ガリレオは地図と棒磁石を取り出した。とりあえず、今は磁石は必要ない。地図を地面に広げ、三角山を探した。
 地図には、中央に大きな島(現在地)が描かれており、その周りに、幾つかの小さな島が描かれていた。その中で、三角山がある島は…。
「あった! 四角島だ!」
「四角島は、ここから北にあるようだな」
「北って言うと…」
 全員、顔を上げて太陽を見た。太陽が昇るのは、東。つまり、太陽の方を向いた時、左側が北になる。
「よし! 行こう!」
 トモル達は、大きな翼を広げ、早速飛び上がった。

「お、お〜い…待ってくれよぉ…!」
 数分後。その差は、歴然としていた。
 ミオ、ダイ、バドバド、ガリレオ…4羽はかなりのスピードで飛んでいるのに対し、トモルはちっとも前へ進めない。オマケに、既に疲れきってしまって、飛べる体力が残っていない。見かねた4羽が戻ってきて、一度全員着陸する事にした。
「はぁ、はぁ…ど、どうしたら、そんなに速く飛べるんだよ…?」
「風を利用するんだよ」
「かぜぇ?」
「うん」
 と、ダイは得意げに説明を始めた。
「鳥は、羽を上下に動かして空を飛ぶでしょ? 羽を振り下ろす時は、羽の下にある空気を逃がさないようにして、羽を下ろすんだ。すると、体の下で空気が圧縮されるから、そのまま羽の力を抜けば、空気に押されて羽が自然と持ち上がる…。つまり、飛びながら休憩ができちゃうんだ」
「へぇ…そんな知識、どこで知ったんだよ?」
「前に、お父さんから教えてもらったんだ」
 ダイのお父さんは理科の先生…前にそう言っていたのを、トモルは思い出した。
「しかし…わたし達は全員完全な鳥になったはずなのに、どうしてトモルだけがうまく飛べないんだ?」
「そ〜んなの、決まってるバド。鈍いからバド」
「な…なんだとぉ〜!!」
 トモルはバドバドに殴りかかったが…バドバドは、サッと空へ飛んだ。
「ゲ〜ヘッヘッヘッ。悔しかったら、ここまで来てみるバドー」
「しょうがないわねぇ…」
 ミオはため息をついて、トモルの肩を叩いた。
「見てて。こうやって飛ぶのよ。それっ!」
 バサッと羽を振り下ろすと、ミオの体は楽々と宙に浮いた。「こうやって飛ぶのよ」と言われたって、見ただけじゃわかりっこない。トモルは恨めしげに、自分の羽を見た。
「ああ、ミオ! あんまり遠くへ行ってはいかん!」
 慌ててガリレオが叫んだが、ミオの耳には届かない…。
「リーダーである、おいらの指示に従うバド!!」
 慌ててバドバドも叫んだが、ミオの耳には届かない…。
「…って、待てよ! なんでお前がリーダーなんだよ!?」
「知性、体力、容姿、全てにおいて完璧だからバド!」
「キャーー!!」
 その瞬間、ミオの悲鳴! トモル達は、驚いて空を見上げた。
「タカだ!」
 ミオの背後には、黒い巨大な鳥! タカが、ミオを追いかけていた。
「ど、どうして鳥が鳥を襲うんだよ!?」
「ボク達みたいな鳥にとっては、タカみたいな大きな鳥は、天敵なんだ」
「待ってるバド! おいらが今すぐ助けるバド!」
「あ、バドバド、待ちなさい!」
 勢い良くバドバドが飛び出すと、ガリレオもミオの元へ急行した。
 バシュッ! と、タカの目の前を2人が飛ぶ! 驚いて、タカはミオの追跡を止めた。その隙に、ミオはトモルたちのところへ着地し、岩陰に隠れた。
「やったバドー…って、博士! 危ないバド!!」
「え?」
 タカの次なる標的は、ガリレオだった! ガリレオは、慌てて加速したが、タカの方が何倍も速い。あっという間に追いつかれると、羽を攻撃された!
「わぁ!?」
 バランスを崩し、ガリレオが森へ落下する。
「博士!!」
 バドバドが飛び寄り、足で博士を捕まえた。が…赤いショルダーバッグが、森の中へ落ちていってしまった。
「大丈夫? 博士…」
「あ、ああ、平気だ…。ただのかすり傷さ…」
「キャー!?」
 が、安心したのも束の間。今度の標的は、ミオ、ダイ、トモル……!
「あ、トモル!?」
 突然、トモルが空へ飛び上がり、タカを挑発した!
「ダイとミオは隠れてろ! あいつはオレが片付ける!」
 トモルの挑発に乗ったタカが、トモルを追いかけ始める。うまく飛べないトモルは、当然スピードも劣る…。
「トモル! 危ない!」
 だが、うまく飛べないと良いこともある。ふら付く飛行に、タカがついて来れない。トモルは、うまい具合にタカの攻撃を避ける、避ける、避ける…。
「……!」
 そして、突然トモルの表情が変わった。
「お、この感じ…。飛べる!」
 トモルのスピードが一気に上がった! 飛行のコツを掴んだトモルに、もう怖いものは無い。完全無敵のトモルが、タカをひきつける!
「来い!」
 タカを引き連れ急上昇…したと思った瞬間、方向転換をして、今度は急降下を始めた! 羽をとじ、引力に身を任せて地上へ向けて自由落下する…。トモルの目の前に、岩肌の露出した地面が近づく。あと、ほんの10メートル…!
「うおおぉぉ〜〜っ!!」
 サッとトモルは、90度回転して、横にそれた。が、タカはそのスピードのまま、岩に激突…。トモルの作戦は、見事に成功した!
「やった〜! トモルー!」
「へっへっへぇ! どんなもんだい!」
 タカは、鳴きながら(泣きながら?)飛び去っていった。

「あった?」「どこにもなぁい」
 5羽は、森の中を歩き回っていた。
 先ほどタカに襲われたとき落とした、ガリレオの赤いショルダーバッグ。確かこの辺に落としたはずなのだが…どこにも無い。
「仕方が無い…。あれは諦めて、太陽の位置だけを頼りに飛ぶ事にしよう」
 ガリレイの言葉に、全員渋々うなずいた。

 西日がまぶしくなってきた。空一面が赤く染まった。
 トモル達は、森の中へ降りる事にした。彼らは昼行性の鳥…。夜になったら、朝のユキオ達のように、猛烈な眠気に襲われてしまう事だろう。まさか飛びながら寝てしまう事は無いだろうが、念のためだ。
「今日は、もうここで休んで、明日、三角山を目指そう」
 ガリレオがそう提案した途端…ぐうう・・・と、誰かの腹の虫が鳴った。
「バド…。いやぁ、休むって聞いたら、突然お腹が空いたバド」
 バドバドだった。トモルまでもが、呆れたまなざしでバドバドを見る。
「ったっく…。のんきな奴!」
 ぐうう・・・
 今度は、トモルの腹が鳴った。
「ほ〜んと、のんきな奴だバド!!」
「う…うるせぇ〜っ!!」
 トモルとバドバドの喧嘩が、また始まった…。まぁ、いつもの事だ。
 お腹が空いているだけあって、彼らはすぐに喧嘩を止めて、食料探しに出た。すぐにリンゴを5個見つけてくると、それを5羽で仲良く食べた。鳥になったおかげで、小さなリンゴでも自分と同じぐらいのサイズがある。
「鳥になるのも、悪い事じゃないね」
 ダイが嬉しそうに言った。
 強い西日の中、リンゴを食べ終わると、あとはもう寝るだけだった。
「でも残念ね…。タカにさえ襲われなければ、もっと遠くまで飛べたのに…」
「な〜に、大丈夫さ! オレ達が寝てたって、ユキオ達なんかに負けるわけが無い」
 そう言った直後、トモルは猛烈な眠気に襲われた。他の4羽もそのようだ。うつらうつらと頭を動かした後…全員、おとなしく眠りに入った。

「フアアァ〜・・・」
 大きなあくびを一発かまし、コータが目を覚ました。続いて、チワワン、ガリレイ、ユキオ、スズカ…。全員が、目を覚ます。
「やっと…起きれたか…」
 西に沈む太陽。その最後の一筋を見ながら、ガリレイが呟く。
「ねぇ、もしかして、もうミオ達、ミッションをクリアしてるんじゃないの?」
「いや…それはないよ」と、コータが珍しく安心させる事を言う。
「おれらが鳥の姿のままでいるのが、その証拠さ」
 ガリレイはすぐに地図を広げ、三角山を探す。目指すは、北…。
「北か…」
 そしてユキオは、西を見た。山に沈んでいく、太陽…。その最後の光のかけらが…消えた。
「やっと来たようだな…俺たちの時間が」
 バッ。羽を広げ、大空へと舞い上がる。満天の星空を見上げ、北を探す。北斗七星、カシオペア座、こぐま座…。そしてその中央に、北極星。
「北は…三角山は、あっちだ!」
「急いで、ミオ達に追いつくのよ!」
「いや、追いつくだけではダメだ。追いつき、追い抜き、そしてミッションに勝利するんだ!」
 編隊を組み、5羽は一路、北へと向かった…。

「ね〜、つまんない〜。もっと別なところ飛びましょうよ〜」
 数分後。スズカのワガママが炸裂していた。
「無茶言うなよ…。これはミッションなんだよ?」
「そんな事言ったって〜」
 スズカはつまらなそうに、「あ〜あ」とため息をついた。
「ず〜っと同じ風景ばっかりで…鳥って、全然面白くない」
「ワガママ言うな、スズカ」
「ちぇー…」と、スズカは口を閉じた。
「む…?」
 と、空を見上げたガリレイが言った。
「まずいな…雲だ」
「あ…本当だ。…みんな、急げ!」
 ユキオ達は、急加速をかけた。雲が空を覆いつくす前に、三角山へ着かなければ…!
 しかし、タカに襲われたとは言え、トモル達が1日でたどり着かなかった距離だ。三角山に着く前に、空一面を分厚い雲が覆ってしまった。
「博士…北も南も、わからなくなっちゃったよ?」
「仕方が無い…。みんな、一旦降りるぞ」
 ガリレイが下降を始めると、全員それに続いて降りていった。

 森へ降りた一同は、木の枝の上に止まっていた。全員が円形に向かい合い、どうするか話している。
「ガリレイ博士。どうするの?」
「そうだな…。これを使うか」
 ガリレイは、青いショルダーバッグから、棒磁石と糸を取り出した。そして、棒磁石のちょうど真ん中に、糸を結び付け、つるす。
「これで、この磁石が方位磁針になる。N極が指す方が、北だ」
「へぇ…。でも、どうして磁石で北がわかるんだろ?」
 コータのさりげない一言にユキオが反応して、説明を始めた。
「引き合ってるからだ。地球と」
「地球と?」
「そう。地球は、それ自体が大きな磁石なんだ。北がS極、南がN極…。だから、磁石のN極は北と、S極は南と引き合う。そのため、磁石で方位がわかるんだ」
「そうなんだ」
 コータが感心している間に、磁石の揺れは小さくなる。徐々に徐々に揺れは小さくなって行き…やっとこさ、止まった。
「北は、あっちか」
 全員、北の空を見上げた。あの空の下に、三角山があるはずだ。
「もうすぐ、夜明けだ…。みんな、急ぐぞ」
 ガリレイが飛び立ち、4羽もその後を追って飛び立った。

 一方その頃、トモル達も起き始めていた。バドバドが大きなあくびをする。
「みんな起きるバドーー!!」
 バドバドが言うと、全員が次々と起き始めた。そうだ…早く起きて、ユキオ達を追い越さなければ!
「フアア・・・ よし! じゃぁ、行くぜ!」
 寝起きから元気に、トモルが空を見上げて…すぐに、分厚い雲に気がついた。
「あ…なんだあれ?」
「曇ってる…。これじゃぁ、太陽の位置がわからないよ」
「これは…困っちゃったなぁ…」
 空を見上げ、呆然とする5羽の鳥たち。あのバッグを落とさなければ、磁石があったのに…。
「なんとかして、方位を知る方法って、無いのかな?」
「う〜ん……」
 腕…羽を組み、全員が考え始める。そう言えば、前にも似たような事があった。あれは確か、森で遭難した時。あの時解決案を出したのは、ミオだった。そして今回も、ミオが解決案を出した。
「そうよ! 花よ。花を見れば良いのよ」
「花?」
「ええ。ほら、植物って、太陽の光を欲しがるじゃない? だから、植物の花って、南向きに咲きやすいんだって。だから…」
 ミオは辺りを見渡し、幾つか雑草を探す。それら全てを指差して、トモル達に見せる。
「ね。花はみんな、ほとんど同じ方向に向いてるでしょ。つまり、その全く反対が、北になるのよ」
「なるほど。良いところに目をつけたぞ、ミオ」と、ガリレオが絶賛し、ついでに付け加えた。「葉っぱにも、似たような性質を持つものがある…。例えば、あれがそうだ」
 ガリレオの指差す先には、全ての葉がほぼ同じ方向を向いた木。どうやら、間違いないようだ。
「よし! じゃぁ、行くぜ!」
 先ほどと同じセリフを言って、トモルは曇天へ飛び上がった。

 風に煽られ、うねる海。太陽の光がない今、海は黒々としていた。
「三角山だ!!」
 その海の上を飛びながら、トモルは前方に見えてきた、三角形の山を発見した。岩肌の露出した三角山は、頂上に杉の木が1本生えているだけで、なんとも殺風景だ。
「スズカ達はまだ来てないみたいね♪」
 ミオが言うと、トモルは気合を入れた。
「よぅし! このまま一気に、ラストスパートだっ!」
「そうはいかない!」
 この声は…ユキオの声だ! トモル達が振り返ると、ユキオ達5羽が、後から追ってきていた。両者の距離は、極わずか。
「このミッションをクリアするのは、俺たちだ!」
「受けてたつぜ!」
 トモル、ユキオは、突然加速をした。それを追いかけるように、残りの8羽も続く。
 どす黒い海の上を、10羽の鳥が風を切りながら飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ…。
 その時――。
びゅうぅ〜っ!!
 と、猛烈な風が、10羽の中を吹きぬけた!
「!?」
 突風に煽られ、散り散りに飛ぶ10羽。と、ガリレオが、岩場に落下してしまった!
「博士!」
 トモル達4羽が、慌てて飛び寄る。「大丈夫??」と肩を貸す。どうやら、昨日タカに襲われたところが、痛むようだ。
「ハッハッ。悪いな、トモル。これも勝負だ。今回のミッション…俺たちの勝利だ」
 空中からトモル達を見下してユキオが言うと、5羽はそのまま三角山目指して飛んで行ってしまった。このままでは…負けてしまう!
「わ、わたしの心配はいいから、早くあっちへ行きなさい!」
「でも博士…。今回のミッションは、全員で一本杉へ向かえって事でしょ?」
「………」
 確かに、その通りだ…。ガリレオは、言葉が続かなかった。
「くそ…何か方法は…」
 トモルが、辺りを見渡す。ところどころ、海から突き出した岩場があるだけで、後は何もない。
 いや…何も「ない」が、何かが「いる」。カモメだ。数羽のカモメが、三角山へと向かって飛んで行っていた。そして、三角山の崖ギリギリのところで、ほぼ垂直に舞い上がる…。それも、ものすごいスピードで。
「わぁ、すごい…」と、ミオが感嘆の声をもらした。「どうやって、あんなに急上昇してるのかしら?」
 また、別のカモメがやってきた。そして、一気に急上昇…。その様子を見て、トモルはハッと気がついた。
「わかった…風だ!  海から来た風は、崖にぶつかると、一気に上へ押しやられる…その風に乗れば、そのまま頂上まで上れるんだ!」
 そしてトモルは、ガリレオを見た。羽は、まだ痛むようだが…
「大丈夫だ…。行こう」
 力強く、立ち上がった。
「待ってろよ、ユキオ…。勝負はこれからだ!」
 バッ。羽を広げ、岩場を飛び立つ。目指すは三角山…!
「みんな、準備は良いか!?」
「ええ!」「うん!」「バド!」ミオ、ダイ、バドバドが力強く答え、ガリレオが力強くうなずいた。
「おおおお〜〜!!」
 トモルは気合の一声を上げた。岸壁目掛け、一直線に突っ込んでいく…! 大丈夫だ…絶対に、うまくいく!
びゅうぅ〜っ!!
 下から吹き上げる、猛烈な風…。トモル達5羽は、その風に乗って、一気に山を上る!
「ユキオ〜〜〜!!」
「…!? なに…」
「まだ勝負は終わってないぜ!!」
「…。負けるものか!」
 ユキオ達も、ラストスパートをかける! 一本杉目指し、10羽の鳥が、上から、下から、飛んでくる!
ババッ! トモルとユキオが飛び抜けた!
ババッ! ミオとスズカが飛び抜けた!
ババッ! ダイとコータが飛び抜けた!
ババッ! ガリレオとガリレイが飛び抜けた!
≪ミッション・クリア≫
 声と同時に、トモル達の体が光り、一本杉の根元へ激突した。光が消えると、8人と2匹の姿が、そこにあった。
「戻ったぁ!」
 ダイやミオは、戻った事に喜んでいたようだが、トモルとユキオは、上空を見上げていた。視線の先には…青い光、ユリーカストーン!
 上空で姿を現したユリーカストーンは、そのままゆっくりと降りてくる…。見た目には、ほぼ同時にゴールしていたが…果たして、勝ったのは……。
「知識の石、ユリーカストーン…。俺たちの勝利だ!!」
 勝ったのは、ユキオ達だった。
「そ、そんなぁ…」
 さっきの喜びはどこへやら、ダイはその場にガックリとひざを着いた。
「……ねぇ、それより…」
 と、ミオが心配そうに呟いた。
「…これ、どうやって帰るの…?」
 四方は、断崖絶壁で囲まれていた。

 どうやって帰ったのかわからないが、ユキオ達はユリーカタワーにストーンをはめた。ストーンが光り、青い屋根の研究所を向く。タワー全体も回転し、最後に頭頂部が回転。いつもどおり、淡いピンクの霧が噴射された。
「さぁ…早く帰って、豪華料理を食べようぜ」
「ああ」
 4人と1匹は、再びブルーペガサスに乗り込み、ユリーカタワーを後にした。

「ちぇ…あとちょっとだったのになぁ…」
 乾パンをもてあそびながら、トモルが愚痴をこぼした。
「そうねぇ…。でも鳥って、空が飛べて気持ち良さそうだけど、楽な事ばかりじゃないのね…」
「そうだよなぁ。タカには襲われるし、風には飛ばされるし…」
「でもそれって…」と、ベアロンが口を挟んだ。「どんな生き物でも、一生懸命生きているって事じゃないかしら?」
「…そうだよね」
 そう言って、トモルは乾パンを口に放り込んだ。今日も、明日も、それからも…。生きるために必要な栄養を、体の中に送り込んだ。

 生命の営みを背後に感じながら、ユリーカタワーは、満点の星空を見上げていた。

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