おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#15「砂漠の水を探せ!」

 赤い屋根の研究所…ガリレオの研究所から、喧騒が聞こえてきた。
「待てぇ!」
「バドバドバドォ!!」
 レッドペガサス格納庫内で、トモルがバドバドに、ホースで水をかけて遊んでいた。
「ちょっと、2人とも!!」
 ついにキレたミオが、レッドペガサスの上から2人に怒鳴った。
「真面目にレッドペガサスの掃除、しなさいよ!」
 …言うまでも無く、そんなミオの声に耳を貸す2人ではない。喧騒は止まらず、トモルはバドバドを追いかけた。
「全然聞いてない…」
 ため息をついて、ミオはレッドペガサスを降りる。床に設置された水道に歩み寄ると、座り込んで蛇口を閉めた。
「あ、あれ…? おい! 何するんだよ!」
「何するんだよじゃないでしょ! 真面目に掃除したらどうなの!?」
「隙ありバドー!!」
 バシャシャッとトモルの肩に水がかかる。
「あっ、やったなぁ!? 待てぇっ!!」
 ホースをおいて、トモルはバドバドを追い始めた。逃げるバドバド、追うトモル…。2人を見て、ミオはため息をついた。
「ったくもぅ…」

 一方の青い屋根の研究所…ガリレイの研究所は、静かだった。玄関先で、子ども達3人とチワワンが、気持ちよく日光浴をしていた。
「あ〜、気持ちいい…。まさに、絶好の日光浴日和だね」
 仰向けに寝転がったまま、コータが言った。その横では、ユキオが足を投げ出して座っており、ユキオの隣では、スズカが寝ていた。サンサンと照りつける太陽を前に、スズカはスカーフを頭と首に巻き、サングラスをつけ、大きなパラソルの下にいた。
「ホント。わたし、お日様ってだ〜い好き!」
「…じゃぁ、なんでそんな格好してるんだよ?」
 コータは起き上がり、スズカのファッションを見た。完全に「お日様シャットアウト」の服装だ。
「だって、日焼けしちゃうじゃない」
「お肌に悪いでチュワン」
 スズカの腕の中で、チワワンがあとに続く。
「なんだそりゃ…」
 コータが呆れ顔で言うと、面白そうに、ユキオが微笑した。

シュビーン…
≪エリアC9に出動せよ。エリアC9に出動せよ≫
「ミッションが来たぞぉ!」
 壁の穴から、ガリレオが格納庫に飛び込んできた。
「さぁ、急いで行くぞ…ぉうっ!?」
 駆け出した途端、ホースに足をとられ、ガリレオはその場に倒れた。
「は、博士…」「大丈夫…?」

「行くぞ、エリアC9へ!」
 ガリレイも意気込むと、子ども達をつれてブルーペガサスへ急いだ。
 ペガサスの乗り込むと、急いでエンジンをかけ、「C」と書かれた扉から外へ出た。目指すはC9。さて、今度のミッションは…?

 空間に亀裂が入り、レッドペガサスとブルーペガサスが現れた。
「砂漠だ…」
 真っ先にダイが言った。辺りは、見渡す限りの砂漠地帯。砂と岩ばかりで、他には何も見当たらない。空には雲ひとつ無く、サンサンと照りつける太陽があるだけだ。
 レッドペガサス、ブルーペガサスが地面に降り立つと、ピーピーピーと電子音がして、モニターが現れた。すぐに、画面上に「!」マークがたくさん表示される。…もうすっかりおなじみの、ユリーカ情報だ。
≪オアシスとは、乾燥地域の中で水が湧き出し、植物が育ち、水源が豊富にある場所のことである。
 オアシスは、大きく3つに分けられる。
 川のオアシスは、乾燥地域の外から流れてくる大きな川が砂漠を通って出来たもの。
 泉のオアシスは枯れた川のそばにあり、雨季に降った水が地下に溜まりそれが湧き出したもの。
 そして山のオアシスは、高い山に降った雨水や雪解け水が地下を通って麓(ふもと)まで流れ、湧き出したものである≫
「そーなんだ!」
≪ミッションナンバー14。砂漠で見つけた水分で、容器を満たせ≫
 すぐに、ペガサス内部に光の玉が現れた。光が薄くなると、中からユリーカストーンの形に似た、透明の容器が現れた。トモル、ユキオがそれぞれ、その容器を手に取った。
「これに水を入れればいいわけね」
 容器を見て、スズカが言った。「でも…」とコータ。
「こんな砂漠地帯の、どこに水が?」
「ユリーカ情報だ」

「ユリーカ情報よ」
 ユキオとミオが、同じタイミングで言った。もちろん、誰もその事は知らないが。
「ユリーカ情報?」
「ほら、言ってたじゃない。『オアシスとは、乾燥地域の中で水が湧き出し』た場所の事だって」
「なるほどね。つまり、オアシスを見つければいいんだな!」
 と、トモルが感心すると、
「誰かさんと違って、頭がいいバド」
「なんだと!?」
「でも、オアシスなんて、どうやって見つけるのさ?」
 2人は放って置いて、ダイとミオだけで話が進む。
「ユリーカ情報が言ってたじゃない。オアシスは大きく3つに分けられる。川と、泉と、山よ。だから、大きな川か、枯れた川か、山を見つければいいのよ」
「山…」
 ダイとミオは、辺りを見渡す。トモルとバドバドも、喧嘩を止めて、窓の外を見た。相変わらず、窓の外は砂と岩ばかり。草一本生えてはいない。
「あ、見ろ!」
 トモルが一直線に、遠くを指差した。そこにあったのは、気高い山。遠くの方にあるが、山頂には雪がたくさん積もっているようだ。これなら、雪解け水によるオアシスが、麓にあるかもしれない。
「よし、早速出発だ」
 ガリレオは「レッドペガサス、発進!」と叫ぶと、操縦桿を引いた……が。
「…動かない」
「……ま、いつもの事だな」
「いつものことバド」
 悟りきったように言うと、トモルは出口に向かって駆け出した。
「動かないとわかりゃ、歩いて行くのみ! 行くぞ! あの山の麓まで!」
「と、トモル!!」
 ミオはトモルを止めようと叫んだが、
「止めても無駄だと思うよ…」
 と言うダイの言葉に、深くうなずいた。これもまぁ、いつもの事だ。
「とにかく」
 ガリレオが、操縦席から振り向いて言った。
「準備をして、わたし達も行こう」

「あ、向こうが行動を始めたわよ!」
 ブルーペガサスの中から、スズカが不安の声を漏らす。
「ねぇ、あたし達も早く行動を開始しないと、負けちゃうわよ!」
「ちょっと待ってろ、スズカ」
「そう焦るなよ」
 ユキオは望遠鏡で遠くを望みながら、コータは落ち着いた表情でイスに座りながら、答えた。
「そんな事言ったって…ああ、もうあんなところまで!」
「あっちはどうやら、山のオアシスを目指しているようだな…。でも、そんな無計画な方法じゃ、勝てるはずがない」
「山の麓に行ったって、オアシスが見つかるとは限らない。オアシスを探して山の麓をさ迷うより、慎重に行動して見つけた方がいいさ」
「だけど…ああ、もう、早く見つけてよ!」
 焦るスズカを尻目に、ユキオは黙って遠くを望む。オアシスの目印は、川か山。しかし…ユキオは、もっといい方法を考えていた。
「……! あった! 見ろ!」
 ユキオは望遠鏡をコータに手渡す。コータはユキオが指差す方を見た。
「あ、本当だ!」
「なになに、見せてよ!」
 スズカはコータから望遠鏡を奪い取ると、同じ方を見た。望遠鏡の先には…たくさんの緑。植物だ。
「ユリーカ情報は言っていた。『オアシスとは、乾燥地域の中で水が湧き出し、植物が』育っている場所だと」
「って事は、あそこに行けば…」
「オアシスがあるってことだ。これなら、山の麓をさ迷い歩くより、ずっと確実だろ?」
「やったぁ! そうと決まれば、早速行くわよ!」
「行くでチュワン!」

 砂漠は、真上から灼熱の太陽光線が降り注ぐ。また、高い木々や岩などが少ないため、日光を遮るものがほとんどない。乾燥しているため雲も無く、空気中で太陽光線を和らげる水蒸気もない。さらに、小さな雑草もないので、地面に降り注いだ太陽光線は、そのまま跳ね返される。そのため、太陽光線が上から下から、もろに直撃する。つまり、何が言いたいかと言うと…。
「暑い……」
 両チーム、8人と2匹は、砂漠の灼熱地獄に音を上げていた。足取りは重く、目は虚ろ。
「暑い……」
 気がつくと、そればかり口にしていた。
 トモルは持ってきた水筒の口を開けると、ゴクゴクと水を飲む。バドバドも、どんどん飲んだ。
「ちょっとぉ…。もう少し大切に飲まないと、後でつらい目にあうわよ!」
「これが飲まずにいられるかよ……待てよ」
 はた、とトモルが立ち止まる。「どうしたの?」とミオが聞く。
「もしかして…この水をこの容器に入れちゃえば、そのままミッションクリアになったりして…」
 容器のふたを開けると、トモルは中に水筒の水を入れ始めた。おおお…と息を呑む3人と1匹。水は容器にどんどん満ちていき…
「どうだぁっ!!」
 ついにいっぱいになった容器を、トモルは天に向けて差し出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「……やっぱダメか」
 ガックリ…と全員がうな垂れた。
「まぁ…ミッションは、『砂漠で見つけた水分』って言ってたからね…」
「くっそ〜〜っ!!」
 ゴクゴクゴク…。腹いせに、トモルは容器に満たした水を、一気に飲み干した。
「…あ! み、見て!」
 ダイが突然声を上げた。ダイの指が、遠くの一点を指差す。そこにあるのは…緑に囲まれた、泉のオアシス!
「オアシスよ!」
「やった! これでミッションクリアだぜ!」
 喜んで、トモルは駆け出した。
「あ、待ってよ!」
 ミオ、ダイ、バドバド、ガリレオ…全員が、そのあとに続いて駆け出した。
 山のオアシスを目指していたのに、こんなところにオアシスがあったとは…。これは嬉しい大誤算! これで今回のミッションは…!

「あ、暑い…」
 一方その頃、ブルーチームも猛暑に悩まされていた。
「なぁスズカァ、おれ達も入れてくれよ…」
 コータは恨めしげに、スズカの日傘を見つめた。スズカは澄ました顔でチワワンを抱きかかえ、優雅に歩いていた。
「嫌よ。砂漠に日傘なんて、常識じゃない。持ってこない方が悪いのよ」
「そんな冷たい事言うなよ…」
「助け合いの精神…これが無ければ、ミッションはクリアできんぞ」
「ダメよ。あたしとチワワンで、もういっぱいなんだから」
「定員オーバーでチュワン」
「そんなぁ…」
「さ、行きましょ、チワワン」と言って、スズカは早歩きをして、コータたちの前を歩き始めた。
「第一、どうしてスズカは日傘なんて持ってきてるんだよ…」
 灼熱の太陽の下…恨めしげにその日傘を眺めた。

「な、なぁ…」
 ダイが見つけたオアシス…。レッドチームの面々は、そのオアシス目指して歩き続けていた。
「全然たどり着けないぞ!!」
 トモルがついに叫んだ。オアシスは見えるのだが、歩いても歩いても一向にたどり着けない…。
「オアシスが逃げてるのかしら…?」
「そんな、オアシスが逃げるなんて事、あり得るかよ!?」
「でも、現にたどり着けないのよ!?」
「わかった!」
 突然、ガリレオが大声を上げた。驚いて、子ども達とバドバドが、ガリレオを見上げる。
「どうしたの? 博士…」
「あれは、蜃気楼なんだ!」
「シンキロウ…?」
「ああ、そうだ。砂漠のように暑いところでは、地面付近の空気と、上空の空気に温度差が生じる。空気の温度が違うと、光は屈折してしまうんだ。空中に巨大なレンズができるようなものだ。すると、物が大きくなって見えたり、逆さまになって見えたり…別なところにある物が、近くにあるように見えるんだ」
「別なところにある物が…ああ!」
「そうだ。あのオアシスは蜃気楼…。どこか別なところにあるオアシスが、あそこにあるように見えるんだ」
 ガリレオの説明を受けて、トモルはガックリとひざを突いた。この暑い中、わざわざ走ったと言うのに…。
「ちぇ…なんだよ…」
 ブツブツ言いながら水筒のふたを開け、逆さにする…が。
「あ、あれ…? 空っぽだ!」
「へっ。だから、大切に飲めって言ったバド。…うわぁっ、おいらのも空バド!!」
「だから大切に飲めって言ったでしょ!」
「後悔先に立たず…だね」
 トモルもバドバドも、空になった水筒を恨めしげにジッと見た。そして…ミオの水筒に、目が行った。
「な、なによ…?」
 視線に気付き、ミオが後退った。トモルとバドバドは立ち上がり、ミオに一歩ずつ近づく。
「ミオ…その水筒には、まだた〜っぷり水が残ってるはずだよな…?」
「まだたった2回しか飲んでないバド…」
「だ、ダメよ! この水はわたしのよ!」
 ミオは反論するが、両方とも全く聞き入れない。座った目をして、一歩一歩ミオに近づく。
「いいじゃないか。少し、飲ませてくれよ…」
「ほんの一口でいいバド」
「そう言ってたくさん飲む気でしょ!?」
「そんな事ないからさぁ…」
 ニジリニジリと近づくトモルとバドバド…。そしてついに、両者がミオに飛び掛った!
「キャアァァ〜ッ!?」
 ミオの水筒を、トモルが奪い取った。が、取り返そうとミオはそれを掴んだ。ミオとトモルの取っ組み合いが始まり、さらにそこにバドバドまで参戦して…
「あっ!」
 誤って、ミオの水筒を落としてしまった。しかも、ふたが取れた状態で!
ドボドボドボ…
 あっという間に水は流れ出て、水筒は空になってしまった。
「ど、どうしてくれるのよ!? まだ半分も来てないのよ!? 水もないのに、どうやってあんなところまで行くのよ!?」
 遠くの山を、ミオは指差す。
「う…」
 さすがのトモルとバドバドも、言葉につまり、互いをにらみつける。
「ば、バドバドがいけないんだぞ。ミオに飛び掛るから…」
「お、オイラのせいにする気かバド!?」
「だってそうだろう!?」
「違うバド! トモルが水を飲み干したからいけないんだバド!」
「なんだと、やるか!?」
「ああ、いいバド!!」
「うるさ〜〜〜いっ!!」
 ついにミオがぶちギレて、トモルとバドバドに叫んだ。両者は肩をすくめて、黙り込んだ。
「お、お前のせいだぞ…」
「まだ言うかバド!?」
「あ、あれ見て!」
 喧騒の最中、ダイが見つけた。今度ダイが見つけたもの…それは、蜃気楼などではなかった。
「あれは…砂嵐だ!」
 とんでもなく巨大な砂嵐が、4人と1匹目掛けて、やって来た!
「あんなのに巻き込まれたら、一溜まりも無いぞ!」
 ガリレオは、急いで辺りを見渡した。どこか身を守れそうな場所は…。
「あった! みんな、あそこに隠れるんだ!」
 ガリレオの指示通り、全員大きな岩陰にもぐりこんだ。こんなもので、果たしてどのぐらい効果があがるのか…。しかし、これ以外に手はない。
「大丈夫かなぁ…」
 不安げに、ダイが言った。
「大丈夫だ。大丈夫に決まってる!」
 自分に言い聞かせるように、ガリレオが言った。砂嵐がすぐ近くに迫る。
「大丈夫じゃなくても、これ以外に方法がないんだから、仕方がないさ」
 トモルの言葉に、バドバドが過剰に反応した。
「え〜っ!? それじゃぁ、ダメかもしれないってことバド!? そんなのいやバド! いやばどいやばどいやばどいやばど!!」
「大丈夫だ!!」
 4人が同時に叫んだ。砂嵐は、もう目の前…いや、もう背の後ろだった。

 砂嵐は、すぐにレッド・ブルー両チームを襲った。猛烈な勢いで砂が舞い、突風が吹きつける。
 ユキオたちブルーチームも、岩陰に隠れて砂嵐が通り過ぎるのを待っていた。全員体を小さくし、スズカは手に日傘を、腕にチワワンを抱いている。
「すごい嵐でチュワン…」
「ほんと、吹き飛ばされそう…!」
 スズカが言った時…持っていた日傘が突然開き、スズカは本当に飛ばされてしまった!
「!? きゃああ〜〜〜〜っ!!」
「す、スズカーーッ!」
「チワワーーン!!」
 慌てて叫んだ男3人…だが、時既に遅し。スズカの悲鳴もチワワンの叫び声も聞こえなくなってしまった。

 砂嵐が過ぎると、レッドチームはまた、歩き出した。こちらは誰も飛ばされてなどいない。が、目指す山は、まだまだ遠い。
「博士〜…もう疲れたぜ…」
 暑い。むしろ、熱い。灼熱の太陽が、雲ひとつ無い空から彼らを照らす。日差しを避けられる物陰もなく、延々と続く砂の世界。
「頑張るんだ。もう少しだ」
 どこがだ。しかし突っ込む気力も無い。
「だから、あんなに水を飲むなって言ったのに」
 普段ならミオが言いそうだが、今回はダイの突っ込みだった。ミオは最後尾から、ゆっくりついてくる。ミオも疲れたのだろうか。
「あ! 木だ!!」
 突然ダイが叫んだ。「えっ!?」とトモルもバドバドも顔を上げる。そこにあるのは、太い大きな木。
「やっほ〜い! あれだけの大きさなら、オアシスがあるに違いないぜ!」
 さっきと同じように、トモルは走り出した。
「また蜃気楼だったらどうするバド!」
「行ってみりゃわかるって!」
 実際に行ってみた。そして今度こそ、本物だった。本物だったが…オアシスは、無かった。太い大きな木が、デーンと生えていた。
「なんだよ…」
 トモルはがっかりしたようだが、木陰に入ると、「お、涼しい!」と前言撤回した。太陽からの光が遮られるだけでも、だいぶ体感温度は変わるのだ。
「ふぅ…そうだな、しばらくここで休むとしよう」
 追い付いたガリレオもそう言って、木に寄りかかって座った。ダイも隣に座り、ミオも座った。
 水は無いが、とっても涼しい、ささやかなオアシス…。
「でもすごいね、この木」
 ダイが大木を見上げて、感心した。
「こんな砂漠のど真ん中で、こんなに大きく成長しちゃうんだから」
「ああ、この木はバオバブと言う名前でな…」
 ガリレオが説明を始めた。
「この太い幹の中には、たくさんの水分が溜まっているんだ。だから、滅多に雨の降らない砂漠でも、こうして成長する事ができる」
「へぇ…」
「…水を?」
 トモルが何かに気づいたようだ。
「それじゃぁ、この木の皮を剥いで絞ったら、水が出てくるんじゃないのか!? もしそうなら、その水を容器に入れれば、ミッションクリアだぜ!」
「…! それは良い考えだ!」
「そっか! ミッションは『砂漠で見つけた水分』って言ってたもんね!」
「ああ、誰も『オアシスの水を入れろー』なんて言ってねぇからな!」
「早速取り掛かるバドー!」
 早速ガリレオがナイフを取り出し、トモルがそれで木の皮を剥いだ。剥いだ皮を容器の上で絞ると、水が勢いよく容器の中へと、流れ落ちた。
「やったぁ!」
 ダイが歓声を上げたあとは、スピード勝負だった。トモルが皮を剥ぎ、ダイがそれを絞った。ノドの渇きは、もうどこかへ行っていた。

「スズカー! チワワーン!」
 一方、ブルーチームはスズカの捜索を行っていた。スズカたちの飛ばされた方向へ、一直線に歩き続ける。
「なぁ、いいのか?」
 コータが不安げに、ユキオと後方を交互に見る。
「オアシスから、どんどん離れて行くぞ…」
 ユキオも後ろを見た。もう少しで着きそうだったのに、まただいぶ、距離が開いてしまった。
「…仕方が無い。今回は諦めよう。ミッションより、スズカの方が大事だ」
「…そうだな。スズカー! チワワーン!」
 コータは叫んだが、次第に声は小さくなる。
 暑い。むしろ、熱い。灼熱の太陽が、雲ひとつ無い空から彼らを照らす。日差しを避けられる物陰もなく、延々と続く砂の世界。
 スズカは、チワワンは、いったいどこまで飛ばされてしまったのだろう…。あたりを見渡しても、スズカたちの姿は無い。所々に丘があり、遠くまで見渡せない事もあるが。
「スズカー…」
 3人の足取りは次第に遅くなり…ついに、ガリレイが倒れた。
「が、ガリレイ博士…!」
 次いで、コータまでその場にひざをつき、そのまま倒れた。
「コータ! た、倒れるな…!!」
 クラッ…。めまい。ユキオの体力も、限界が近づきつつあった。
「だ、ダメ、だ……」

ワーワー!!
 観客席から、歓声が聞こえてくる。ユキオは、サッカーゴールの前に立っていた。敵のPK。この最後の1本で、勝負が決まる。ここでユキオが止めれば、こっちの勝ち、止められなければ…負けるかもしれない。
〔右に来るか…左に来るか…〕
 相手との心理戦。余裕を気取った相手の顔を、ユキオはにらみつける。
〔右か、左か…〕
 悩むユキオを見て、コータが観客席で呟く。
「ユキオ、迷ってるみたいだよ…」
「……」
 スズカが決心して、
「ちょっとターイム!!」
 と叫ぶと、そのままズカズカとコート内に入っていく。
「す、スズカ…」
「ユキオ。右なの? 左なの?」
「…え?」
「右…左…答えは1つしかないわ。悩んでたら負けよ。右なの? 左なの?」
「ちょ、ちょっときみ…」
 審判が駆け寄ってきて、スズカに声をかけた。
「困るよ…」
「ごめんなさ〜い、すぐ出ます☆」
 コート外へ駆けていくスズカを見つつ、ユキオは考えた。
〔右か、左か…〕
 そして相手へ、視線を戻す。
〔…右だ!〕
 決まった瞬間…相手が勢いよくボールを蹴った!
〔どうだっ!?〕
 それと同時に、右へ跳ぶユキオ…。ボールは…見事、ユキオの手の中に収まった。
「ワーーーッ!」
 ひときわ大きな歓声。ユキオたちの、勝利だ!

「っ!!」
 とユキオは我に返った。灼熱の太陽が背中から照らす。熱い砂の上に立ち上がった。
〔…あの時俺はスズカに助けられた…。だから今度は、俺が助ける番だ!〕
 ユキオは早速、自分の水筒から、水をガリレイとコータに飲ませた。まずは、この2人に力をつける必要がある。
「ガリレイ博士。飲んでください」
「あ…ああ…」
 スズカは今頃、どこでなにを…。

「だいぶ溜まってきたバドー!」
 何もせず、見ているだけのバドバドが、嬉しそうに言った。水は容器の半分ほどにまで達していた。トモルもダイも、黙々と作業を続ける。「黙々」と言えば、さっきからミオの声を聞かない。どうしたのだろうと、ガリレオがミオを見た。
「どうしたミオ?」
 しかし、ミオは小さく息をするだけだ。顔がどことなく、赤い。
「?」
 不審に思ったガリレオは、ミオの額に手を当てた。…熱い!
「た、大変だ! ひどい熱が出ている!」
「え!?」
 トモルもダイも、一旦作業を止めてミオの元に駆け寄った。ミオはぐったりとしていた。ガリレオは、ミオを横に寝かせた。
「どうやら脱水症状を起こしているようだ…」
「そ、そんな…。そうだ」
 トモルはさっきのところへ戻り、容器を取ってガリレオに手渡す。
「この水を…」
「ああ」
 ガリレオはそれを受け取るとミオの体を少し起こし、
「さ、ミオ。飲みなさい」
 ミオは黙って従い、水を飲んだ。ミッションクリアのために溜めた水だが、今はそんなことを言ってられない。ミッションより、ミオの方が大事だ。
「あとは、濡れたタオルだ」
 ガリレオがハンカチを取り出した。トモルはバオバブの皮を剥いで、絞り、そのハンカチを濡らした。ミオの額に乗せると、次々とバオバブの皮を剥いでは、その上に水を絞り落とした。
「ミオ…頑張れ、ミオ…」

「スズカ…どこまで飛ばされちゃったんだろう…」
 コータがいよいよ不安な声で言う。オアシスは完全に見えなくなってるし、スズカたちの姿も完全に見えない。このまま永遠に会えなかったら…。
「あ、見ろ!!」
 そんな不安を吹き飛ばすように、ユキオが遠くを指差した。そこには、白く細長い…スズカの日傘がある! 3人は駆け寄って、その傘を手に取った。
「間違いない…スズカの傘だ。やっぱりスズカたちは、こっちへ飛ばされてきたんだ」
 方向は間違っていない。あとは距離だ。
 と、その時。
「…! 何か聞こえなかったか?」とユキオが言った。
「え?」
 3人とも、耳を澄ます。どこからか、少女の声が聞こえてくる…。
「スズカの声だ!」
「この丘の向こうだぞ!」
「急ごう!」
 3人は走り出した。待っていろ、スズカ。今助けに行くからな…!!

「う、ん…」
「気がついたか!?」
 ミオが声を出すと、3人と1匹が顔を覗き込む。ミオは目を開けた。どうやら、気がついたようだ。
「よかったぁ…」
 ホッと安堵の息を漏らす。「?」のミオに、事情を説明した。
「そう…わたしのために、せっかく溜めた水分を…」
「いいって。水なんて、また溜めれば良いんだからさ。それに、元々はオレ達が水を飲んじゃったのが悪いんだし…」
「反省してるバド…」
「2人とも…」
 さすがの2人(1人と1匹)も、反省したようだ。「気にしないで」とミオが言った。
「それより、早く水を溜めましょう」
「おう!」
 トモルはナイフを持って、バオバブの木に駆け寄った。

 一方、丘を登り終えたブルーチームが見たものは、想像を絶するものだった。
「きゃははは☆ やーだー」
「行くでチュワーン!」
「キャッ、つめたーい。お返しよー」
「あっ、卑怯でチュワン!」
 なんとスズカたちは…オアシスの中で、遊んでいた。
「す、スズカ…?」
 魂の抜けたような声で、ユキオが呼びかけた。その声にスズカが気付き、振り返る。
「あ、ユキオ。遅かったじゃな〜い」
「待ちくたびれちゃったでチュワン」
「ま、まさか…ずっとここで…?」
「そうよ。ねー、チワワン?」
「はいでチュワン♪」
「し…心配した俺が…馬鹿だった…っ!!」
「おれ達の苦労はいったい…」
 ユキオとコータは、脱力感でひざをつく。なんだよ…そんなのって、ありかよ…! 自分たちは、必死こいてここまで来たんだぞ!? 一度は倒れたんだぞ!? なのに…なのに…!!
「だがまぁ、結果オーライだ。早くミッションをクリアするぞ」
 ガリレイの冷静な一言で、ユキオはハッとした。そうだ。早くあのオアシスの水を容器に入れて、ミッションをクリアしなければ。
「ユキオー、早く早く!」
「わかってる」
 丘を駆け下りたユキオは、容器のフタを取って、オアシスに入れる。水が入るとフタをして、それを天高く掲げた。
「どうだっ!?」
 …しばしの静寂。そして、あの声がした。
≪ミッション・クリア≫

 空間に亀裂が入り、ブルーペガサスが飛び出してきた。静かに着陸すると、中から子ども達が出てくる。
「これで良し、と…」
 穴にユリーカストーンを納めると、後はお決まりのイベントだ。ストーンが光り、淡いピンク色の霧が噴射されて青い屋根の研究室に降り注いだ。
「さ、早く帰ろう」
 ガリレイが言うと、子ども達はブルーペガサスに乗り込んだ。

「おかわりー!」
 青い屋根……ではなく、赤い屋根の研究所、ガリレオの研究所から元気な声が聞こえてきた。
「はいはい」
 ベアロンが水差しを持って、トモルの席に行く。そして、コップに水を注いだ。
「だけど、水ばっかり飲んでないで、少しはご飯も食べてくださいね?」
「そうは言っても、やっぱり水だよ」
 ゴクゴク、と一息で飲むと、
「カーッ。うめぇっ!」
 とトモルは叫んだ。
「ホント、水って最高バドー!」
「ノドが渇いては戦は出来ぬ、だね」
「その通りね」
 ダイの言葉に、ミオが共感したようだ。ニッコリ笑って水を飲む。
「みんな、こぼさないようにゆっくり飲むんだぞ」
 ガリレオは注意して、自分もコップの水を飲んだ。
「あらあら、ガリレオ博士まで…。おかしな方たち」
 ベアロンの言葉なんぞ気にせずに、子ども達とバドバド、そしてガリレオがコップを掲げ、ベアロンに言った。
「おかわりー!」

 雨が降りそうな天気の中、ユリーカタワーは横目に海を眺めていた。

⇒Next MISSION「人工衛星の衝突を防げ!」

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