おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#16「人工衛星の激突を防げ!」

 夜。ライトアップされたユリーカタワー。その視線の先に、青い屋根の研究所…ガリレイの研究所がある。その前で、スズカとコータは夜空を見上げていた。
「星が綺麗…」
「このゲーム世界にも、宇宙ってあるのかな…」
「さぁ、どうかしらね…」
 満天の星空にウットリする2人に、ユキオは一言、「余裕だな」と言った。
「いいじゃない。わたし達、2回連続で勝ってるのよ?」
「だが油断は禁物だ。次は、向こうだって必死になるはずだ」
「大丈夫。これからも連戦連勝よ!」
 あくまで楽観的に、スズカが答える。と、そこへピグルがやって来た。
「みんな、お待たせ。夕食の準備ができたわよ」
 ピグルの声に、スズカは明るく答えて、研究所へ入っていった。さぁ、今日も豪華料理をたっぷり食べるぞ!

 一方、ガリレオの研究所の食堂では、既に食べ終わったお皿が、積み上げられていた。
「2連敗か…」
 トモルがため息混じりに呟く。
「そろそろ、豪華料理が食べたいわね…」
 ミオも、切実な思いを口にした。
「そのためにも、次こそ勝つバド! 勝たないと、許さないバド!」
「バドバドに言われたくないよ」
 と、ダイが反論した。
 …その時だった。
シュビーーン…
≪エリアD7に出動せよ。エリアD7に出動せよ≫
「!! ミッションだ!」
 トモル達は、立ち上がった。
「来たぞ! 行こう!」
 ユキオ達も、立ち上がった。
 両チームとも、向かうは地下のペガサス格納庫。全員乗り込むと、台座が上昇した。その先にあるものは、AからEまでの扉。部屋が回転し、Dの扉が目の前に来ると、それは止まった。
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
「レッドペガサス、発進!」
 ガコ、と操縦桿を引くと、激しい音を立てて、ジェットが噴き出した。ペガサスはゆっくりと加速し、Dの通路に入る。急上昇、急下降…おなじみの通路を越えると…目の前が、真っ白になった。

 空間に2つの亀裂が入った。そこから、レッドペガサスとブルーペガサスが……音もなく、飛び出してきた。
 無音。全くの無音。いつもなら、ジェットの轟音が当たりに響き渡るにも関わらず、完全な無音。まるで何も起こらなかったかのような、静寂…。
「え……?」
 ミオが、目をぱちくりさせながら、ペガサスの天井を見上げた。
「な、なんだ…?」
 トモルが、目をぱちくりさせながら、ペガサスの床を見た。
「ど、どうなってるの?」
「な、なんだバド、なんだバド!?」
 ダイもバドバドも、ガリレオさえも、わけがわからず混乱する。
 全員の体が、宙に浮いていた!
「い、いったいここは、どこなんだ!?」
 トモルが窓の外を見た。辺りは暗いが、満天の星が輝いている。そして、前方には巨大な青い星…。
「ここって、もしかして…宇宙!?」
「え〜っ!? れ、レッドペガサスは、大丈夫なの!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。宇宙空間に出現しても耐えられるように、設計されている」
「良かった…」
 ダイは安堵したが、この状況はなんとも落ち着かない。ガリレオは操縦席にしがみつき、キーボードを操作した。
「いま、重力発生装置を作動させる」
 ピ、ポ、パ…と音がすると、
「ギャッ!」
 ドスン、と全員が一斉に床に落ちた。

「きゃ〜〜! いや〜〜!!」
 ブルーペガサス内では、スズカが大パニックに陥っていた。
「どうなってるの、どうなってるの!? ユキオー!」
 叫んで、スズカはユキオの足にしがみついた。
「こ、こらっ、落ち着け、スズカ!」
「安心しろ、いま、重力発生装置を作動させる!」
 ガリレイは操縦席にしがみつくと、キーボードを操作した。ピ、ポ、パと音がすると、
「キャッ!」
 ドスン、と全員が一斉に床に落ちた。
「いった〜い…」
「スズカ、大丈夫でチュかワン?」
 コータはすぐに体勢を整え、窓の外を見た。そこには、満天の星空と、青い大きな星。
「あれって、もしかして、地球?」
「こんなとこまで来て…いったい、今度のミッションはなんなんだ?」
「…さぁ?」
 ユキオとコータが揃って首を傾げると、ピーピーピーという電子音がした。
「あ、ユリーカ情報だ」
 コータが言った。モニターには、「!」マークがたくさん表示されている。全員がモニターを見ると、画面が切り替わった。
≪宇宙には数多くの人工衛星が飛んでいる。
 地上から送られてきたテレビや電話の電波を中継して伝えるのが通信放送衛星。運行中の車や船、飛行機などに現在の正確な位置を知らせる方向測地衛星。天気を予報するために雲の様子を観測している気象衛星などがある。
 これら観測衛星は、古くなり寿命が尽きると役目を終える。そして、形を残したまま、いつまでも飛び続ける物、落下し、大気圏で燃え尽きる物、壊れて爆発し、粉々に砕けてしまう物などがある。この宇宙のゴミを、スペースデブリという≫
「そーなんだ!」
 現在の人類の生活は、そのほとんどが人工衛星に助けられている。国際電話やテレビ中継はもちろん、GPSや地形調査、さらには地震の予測も人工衛星で行おうと言う試みがある。
 また画面が切り替わった。
≪現在、役目を終えた古い通信衛星が、星の周りを飛んでいる。ところが、この通信衛星に異常が起こり、軌道が変わってしまった。このままだと、30分後に現在飛んでいる気象衛星と激突してしまう。本来なら、気象衛星には軌道を変えるコンピューターが搭載されているが、そのコンピューターが故障してしまったのだ。そこで、ミッションナンバー15。人工衛星の衝突を、回避せよ≫
 画面が切り替わり、30分のカウントダウンが始まった。
「30分以内に人工衛星の衝突を防げ、か…」
「そんな事急に言われても困るよなぁ…。…まぁ、いつもの事だけど」
 文句を言いながら、コータ達は考え始めた。
「なによ、そんなの簡単じゃない」
 と、スズカが言った。
「簡単? どうするのさ」
「博士。ペガサスにミサイルは積んでないの?」
「え? いや、さすがにそれは搭載していない」
「…ちぇ。なんだ」
 心底残念そうだ。首を傾げながら、コータが聞いた。
「でも、ミサイルなんて、どうするんだよ?」
「決まってるじゃない。人工衛星にぶつけて、ドッカ〜ン! と爆発させちゃうのよ。もう役目を終えた人工衛星なんでしょ? それなら、壊したって誰も文句は言わないわよ」
「…はぁ〜」
 ユキオとコータはため息をついた。そんな乱暴な…。

「な〜んだ、簡単じゃねぇか」
 レッドペガサスの中では、トモルがそう言っていた。
「どうやるの?」
「ミサイルか何かで、ドッカ〜ン! と衛星を爆破しちゃえばいいのさ」
「そんなの、ダメだよ!」
 ダイが慌てて否定した。「なんでだよ?」とトモルが口を尖らす。
「ボク、前に本で読んだ事がある。宇宙のゴミは、小さくてもものすごい破壊力を持つんだよ」
「…どう言う意味だ?」
「確か…直径1cm未満の破片なら人工衛星を覆うアルミニウムの膜で防ぐ事ができるけど、直径1cm以上の破片がぶつかると穴が開いちゃうって」
「た、たった1センチで!?」
「つまり、仮に人工衛星を破壊しても直径1cm以上の破片が残ると危険…って事ね」
「うん」
 ダイがうなずいて、「だから、爆破はダメなんだよ」と結論付けた。

 ブルーペガサス内では、スズカとコータがああだこうだと言い合っていた。
「じゃぁ他に、どんな方法があるのよ?」
「う…う〜ん…」
 コータが考えにつまると、ユキオが助け舟を出した。
「こう言う時は、セオリー通りにやるのが一番だ」
「セオリー通り?」
「ああ。本来なら、観測衛星が軌道を変えて通信衛星を避けるはずだった…。だから、俺たちの手で観測衛星の軌道を変えてやればいいんだ」
「どうやって?」
「ブルーペガサスで持ち上げてやればいい。できますよね、博士」
「ああ。危険だが、それ以外手はないだろう」
「そうと決まったら、早速やるでチュワン」
ビー、ビー、ビー
 その時、何かの警告を知らせる音が、ペガサスの中に鳴り響いた。
「む、いかん! スペースデブリがこちらに近づいてきている!」
「ええっ!?」
「まずい、このままではぶつかってしまう!」
 だが、時既に遅し。直径1cm以上のスペースデブリが、音もなくブルーペガサスに衝突し、機体に穴を開けた。1つ、2つ、3つ、4つ…。
バン!
 空気のある船内にいたユキオ達には、衝突の音が聞こえた。いくつもの穴がそこら中に開き、そこから空気が船外へと漏れていった。
「く、空気が漏れていくでチュワン!!」
「ここは危険だ。みんな、一旦操縦室から出るんだ!」
「行くわよ、チワワン!」
 スズカはチワワンを抱きかかえ、操縦室を出た。全員が出ると、ドアを閉め、操縦室を完全に隔離した。

 ユキオ達は、急いで宇宙服に身を包んだ。ミッションより先に、ペガサスを修理する必要がある。
「わ〜い、チワワン用の宇宙服もあるでチュワン!」
「いいから早く着るんだ」
 全員が宇宙服を着たのを確認すると、ガリレイは壁のボタンを押した。
「いま、操縦室には空気がない。一旦、こちらの部屋の空気を抜くぞ」
 シューと言う音が部屋全体から聞こえ、数十秒で静かになった。
「よし、行こう」
 別なボタンを押すと、ドアが開いた。空気の無い操縦室の壁に、小さな穴がいくつも開いている。ユキオ達は工具を使って、穴をひとつひとつ埋め始めた。
 と言っても、ここでは簡単な応急措置をするだけだ。小さなクギのような物を穴にはめ込む。それだけで十分だ。あとは、この部屋に空気を充満させれば、気圧によって穴が完全に塞がれる。どのみち、ここでちゃんとした修理をするには道具が足りない。
「これで大丈夫かな?」
「やれやれ、息苦しかった…」
 スズカがヘルメットに手をかけると、
「まだ宇宙服を脱ぐな! この部屋にはまだ空気が無い!」
 と、ガリレイが慌てて言った。
「いま、空気発生装置を作動させる」
 ガリレイがキーボードを操作する。今度はピ、ポ、パという音はしないし、空気が発生しているような音もしない。しかし、数十秒も経つとコンピューターが稼動している「ンーーーー」と言う低い音が聞こえるようになった。
「よし、気圧が元に戻った。宇宙服を脱いでいいぞ」
「あ〜、息苦しかったでチュワン」
「やれやれ…」今度こそスズカはヘルメットを脱ぎ、「髪がグシャグシャになっちゃった」と手櫛で髪型を整えた。
「それじゃぁ、博士」
「ああ」
 ガリレイは操縦席に座ると、操縦桿を握り、ガコ、と手前に引いた。
「…お?」
 ガコガコ、と連続して引いたが、ペガサスが動く様子は無い。
「どうしたんだ?」
 キーボードを操作する。モニター画面にブルーペガサスが映し出され、あらゆる角度からペガサスを調べる。
「む、いかん! さっきのデブリが、エンジンにもぶつかっていたんだ! エンジン部が損傷を受けている!」
「! じゃぁ博士、急いで穴を塞ぎましょう!」
「いや、ダメだ…ここは、内部から入る事はできない」
ビービービー
 また、警告音が鳴った。ガリレイは慌ててモニターを見た。
「いかん、また気圧が下がり始めたぞ!」
「キャッ!」
 スズカは小さい悲鳴を上げて、ヘルメットを再度かぶった。他の3人と1匹もヘルメットをかぶり、しっかり固定する。
「それじゃぁ、博士。俺が外へ行って、穴を塞いできます」
「ダメだ! 危険すぎる!」
「誰かがやる必要があるんでしょう? 博士は中に残って、エンジンを内側から修理してください! それができるのは、博士だけです」
 適所適材…確かに、エンジンを直せるのはガリレイ1人だ。「わかった」と言う風に、ガリレイがため息をついた。
「よし。行くぞ、コータ」
「え、お、おれも!?」
「行くしかないんだ」
「………」
 ユキオに気圧され、コータは渋々ついて行った。

「早く良い方法を考えるバド〜。早くしないと、また負けるバド〜」
 いつものように、バドバドが文句を言っていた。
「早くするバド! もっと真剣に考えるバド!」
「うるさいな! あんまりうるさくしてると、焼き鳥にして食っちまうぞ!」
「バドッ!?」
「…! それだぁ!」
 ダイが目を輝かせた。
「え!? や、焼き鳥にして食べちゃうバド!?」
「そうじゃなくて。さっきユリーカ情報で言ってたじゃん。役目を終えた人工衛星は、『形を残したまま、いつまでも飛び続ける物、落下し、大気圏で燃え尽きる物、壊れて爆発し、粉々に砕けてしまう物などがある』って。だから、通信衛星の軌道を変えて、地球に落としちゃえば良いんだよ」
「で、でも…」
 ミオが心配そうに疑問を投げかける。
「そんな事して、燃え尽きずに地上に落下したら、どうするのよ?」
「いや、待ってくれ」
 ガリレオがキーボードを操作し始めた。モニター画面に通信衛星の画像と、なにやら数式が現れた。
「大丈夫だ。計算上、あの大きさなら大気圏中で完全に燃え尽きる!」
「じゃぁその方法で良いって事ね!」
「ああ」
「よっしゃ! そうと決まったら、早速やろうぜ!」
「ああ、急ごう。もう時間が無い」
 レッドペガサスが動き始めた。
 目指す通信衛星はすぐそばにあった。ガリレオはキーボードを叩き続け、モニターに映像を表示していた。
「あの衛星は、いま第一宇宙速度…重力に対して水平に飛び続けるスピードで飛んでいる。現在のスピードより速くすれば宇宙の彼方へ飛んで行くし、今より遅くすれば地球に落下して燃え尽きる」
「へぇ。じゃぁ、スピード上げて宇宙の彼方に飛ばしても良いってわけだ」
「ダメよ、そんなの! そんな事したら、宇宙のゴミとして永遠に残っちゃうじゃない」
「あの衛星は、絶対に大気圏に落とさないとダメなんだよ」
「そのとーりバド」
「…わ、わかったよ…」
 となれば、取るべき作戦は1つだ。レッドペガサスで衛星に近づき、衛星の速度を下げる。問題は、それをどうやるか、だ。
「レッドペガサスで体当たりするバド!」
「そんな事したら、わたし達まで粉々になっちゃうわよ!」
「バド…」
「一番確実なのは、レッドペガサスで衛星に接触して速度を遅くすることだが…慎重にやらなければ、危険だ」
 ガリレオが、全員に注意を促した。

 ユキオとコータは、ブルーペガサスの外壁にある取っ手に命綱のフックを引っ掛けた。そして床を蹴ると、宇宙空間へと飛び出した。
「うわぁあぁあぁ〜〜っ!!?」
 瞬間、コータの体がグルグルと回転を始めた。空気の無いこの空間では、一度回り始めると永遠に止まらない。
「落ち着け、コータ!」
 叫んだユキオの足に、コータの腕がぶつかった。
「うわぁあぁ!?」
 その勢いで、ユキオの体も回り始めた。目が回る。このままでは宇宙酔いするだけだ。
 ユキオが腕を振り回すと、運良く命綱を掴む事ができた。そのまま命綱を伝って、ブルーペガサスに近づく。コータもユキオに倣って、同じ事をした。
 2人はエンジン部の辺りを飛び、破損箇所を発見した。小さな穴がペガサスの壁に開いている。小さなクギのような物を入れると、今度はトンカチで叩き始めた。もちろん、音はしない。
 一方、ペガサス内部ではガリレイがエンジン内部を覗いていた。スズカは、モニターの前でエンジンの出力量を見つめている。チワワンは…そこら辺にいる。
 ユキオ達の作業はサクサク進み、最終工程を迎えた。クギが抜けないよう補強して、もう終わりだ。
「やったな」
「ああ」
 エンジンの方も、順調に回復した。
「博士! エンジンの出力、回復しました!」
「よし、わかった!」
 あとは、空気をペガサス内部に満たして…ミッションをクリアするだけだ!

 レッドペガサスの底部から、アームが伸びた。マジックハンドのようなものだ。それを、ゲーム機のコントローラーのようなもので、トモルが操作する。
「トモル、慎重にな!」
 ガリレオが幾度も注意を促す。ロボットアームで人工衛星を掴むなど、一見するとごく簡単な仕事に見える。だが実際はきわめて困難だ。相手も自分も、秒速7.9kmと言う猛烈な速度で動いているからだ。
「掴めたわよ!」
 窓から外を見ていたミオが叫んだ。
「よし、減速するぞ。みんな、どこかに掴まるんだ」
 操縦桿を動かすと、ペガサスのジェットが前方を向いた。そして、音も無くジェットを噴き出す。ペガサスが、そして通信衛星が、ゆっくりと減速を始めた。
「そろそろ、30分経つよ…」
「あ、見て!」
 ミオが指差した方に、観測衛星があった。第一宇宙速度、すなわち、地球に対しておよそ秒速7.9kmでこちらに近づいてくる。
ビュンッ
 もし空気があれば、こんな音が聞こえただろう。観測衛星はペガサスの目の前を通り過ぎ、遠くへと去っていった。
「やったぁ! 成功だぁ!」
「いや、喜ぶのはまだ早い。今度は、通信衛星を切り離さなければならない」
 ガリレオがモニター画面を見ながら言った。
「切り離すにはタイミングが必要だ。角度が浅すぎると、大気に跳ね返されてしまう…」
 角度を大きくするためには、減速する必要がある。ペガサスはジェット噴射を続けた。
「よし、トモル、いまだ!」
 ガリレオの号令と同時に、トモルはボタンを押した。が…。
「…あ、あれ?」
「何か引っかかってるわ!」
 押せども引けども、アームは動かない。通信衛星の出っ張った部分に、アームがちょうど引っかかってしまったようだ。
「まずい! このままだとわたし達まで大気圏に突入してしまう!」
「え〜っ! 焼き鳥だけはいやバドー!」
「くそっ、動けっ、このっ!」
 ガチャガチャとコントローラーのボタンを連打するが、アームが動く気配は一向に無い。
「ええいっ!」
 トモルはコントローラーを投げ捨てると、
「オレがはずしてくる!」
 と、止める間もなく操縦室を出て行った。

 宇宙空間に出ると、トモルは真っ直ぐ衛星に向かった。宇宙服のポケットから、小型の電動ノコギリを取り出して、スイッチを押す。歯が回転している事を目で確かめ、通信衛星を切断し始めた。
 アームが引っかかっていたのは、四角い金属製の箱だった。トモルはその箱を切り、アームをはずす事にした。
「急げ、トモル…そろそろ危険領域だ!」
 火花が散る。摂氏マイナス270度の宇宙空間では、火花はすぐに冷え、小さな金属片として飛んで行く。金属片を飛ばし続ける事数十秒。トモルは切断に成功した。
「できました、博士」
「よし、離脱だ!」
 レッドペガサスのジェットが勢いを増す。減速していたペガサスは停止し、今度は反対方向に動き始めた。通信衛星はそのまま大気圏へ突入し、火の玉となって消滅した。
「ふぅ…。参った…今回ばかりは、参った……」
 ガリレオは、ホッと肩をなでおろした。
≪ミッション・クリア≫
 そして、ペガサスの内部にユリーカストーンが現れた。

≪ミッション・ロスト≫
「そんなぁ〜! わたし達だって、頑張ったのに〜!!」
「残念でチュワン…」
「…でも…」
 珍しく、コータが前向きな事を言った。
「すごい体験ができたから、ま、いっか」

 ユリーカタワーに、14個目のユリーカストーンが収まった。あとはいつもと同じだ。タワーが回転し、ガリレオの研究所に淡いピンク色の霧が噴射された。
「よっしゃぁ! これで久々の豪華料理が食べられるぜ!」
「楽しみね!」
「うん!」
 子ども達ははしゃぎ、我先にとレッドペガサスへ戻った。

 一方、紫色の霧がかかったガリレイの研究所では、
「久々ね…」
 と、スズカが無念がっていた。
「まぁでも、宇宙食だと思えば…」
「これも、悪くないかもね」
 ユキオの言葉に、苦笑しながらコータが続けた。

 食事を終えたレッドチームは、ベランダで静かに夜空を見上げていた。そこで、ポツリとダイが言った。
「前に本で読んだけど、いままで人工衛星は数千個も打ち上げられてるんだって」
「そんなに?」
「それで、いま宇宙に漂っているスペースデブリは、何万個もあるんだって」
「ふぅん…」
 ダイの言葉に続けるように、ガリレオが口を開いた。
「このままだと、宇宙がゴミだらけになってしまうな」
「うん」
 ダイが小さくうなずいた。
「だから将来、誰かが掃除ロケットを開発して、宇宙のゴミを燃やしていくんだ」
 ダイの頭の中には、既にその構想があるようだ。掃除機やゴミ箱を搭載した小さな宇宙船にダイが乗り込み、宇宙のゴミを片っ端から取り除いていく。そんな構想。
「いつか、きっと…」
 ダイは1人で微笑んだ。

 広大な宇宙、輝く星々…。それらを見上げながら、ユリーカタワーは今日も無音で佇んでいた。

⇒Next MISSION「サビの秘密!」

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