おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#17「サビの秘密!」

「ひょ〜! うまそー!」
 よだれを垂らさんばかりに、トモルの顔が笑顔になった。彼らの前には、ベアロンが作った豪華料理の数々。
「いっただっきまーす!」
 早速トモルは食べ始め、他の子ども達、ガリレオ、バドバドも夢中で食べ始める。
「く〜! ベアロンの作った料理は最高だよ!」
「ああ、味付けと言い香りと言い、まさに絶品だな」
 トモルとガリレオが褒めると、
「そう言ってもらえると、こっちも作るのが楽しくなりますわ」
 とベアロンが微笑んだ。
「ホント‥モグ…美味しいバド‥モグ…」
「わたし、いつまでもこんな美味しい料理、食べていたい!」
「そのためには、次のミッションもクリアしないと」
「クリアするさ! オレがいるからダイジョーブ!」
「その根拠のない自信が、不安なんだバド」
 バドバドの言葉に耳を貸さず、トモルはステーキにナイフを入れた。
「あ、それ、美味しそう!」
 ミオが立ち上がって、トモルの皿を掴む。
「あ、な、なにするんだよ!」
 慌ててトモルも掴み返した。オレの肉だ!
「そんなに奪い合わなくても。まだまだたくさんありますよ」
 微笑ましそうな目で、ベアロンは2人を見つめる。そんな視線にも気付かず2人は皿を引っ張り合う。
「ぁあっ!」
 結局、料理はミオの物になった。

「重い…」
 ブツクサ文句を言いながら、スズカが大量の皿を運んでいた。
「はぁ…お料理も食べられないのに、どうしてこんな事しなきゃいけないの?」
「こんな時だからこそ、思いっきりお掃除するんですよ」
 ピグルが諭すように言う。
 ブルーチームのメンバー達は、現在掃除の真っ最中。普段はピグル1人でやっているキッチン周りの掃除や食器の洗い物を、6人総出でやっている。こんな時でもないと、なかなか出来ない。
「はぁ…」
 チワワンが、自分の顔が映ったお皿を見つめた。
「もう一度、このお皿で豪華料理が食べたいでチュワン…」
「そのためにも、ミッションにクリアするんだ。そして帰るんだ、元の世界に!」
 ユキオはそう言いながら、皿を運ぶ。何枚あるんだ。
「あれ?」
 と、コータが声を上げた。手に持っているのは、フライパン。
「これじゃ使えないよぉ」
 それも、ただのフライパンではない。底に大きな穴の開いた、フライパン。
「ああ、どうやら錆び付いてしまったようだな」
「随分古いですからねぇ、そのフライパンも」
 ゲーム世界に古いも新しいもあるんだろうか。そう思った矢先…
シュビーン……
≪エリアA5に出動せよ。エリアA5に出動せよ≫
「ミッションだ!」
 子ども達は皿を投げ出して、部屋を飛び出した。

 空間に亀裂が入る。そこから、赤いポット…レッドペガサスが現れた。
 エリアA5には、倉庫や工場が所狭しと並んでいる。1つだけ巨大な円筒形の建物がある以外、あとは目立った物は何もない。
「どうやら、ここは工業地帯のようだな」
 レッドペガサスを地上に降ろして、ガリレオが言った。
「それにしては、静かね。誰もいないのかしら?」
 子ども達は首をひねった。人がいないのはいつもの事だが、工業地帯に誰もいないと少し不気味だ。
「博士、あの大きな建物はなに?」
 ミオが指差したのは、巨大な円筒形の建物。1つだけやたらと突出していて、嫌でも目に付く。さて、なんだろう? ガリレオがキーボードを操作した。
「…どうやら、エネルギー工場みたいだなぁ…」
「エネルギー工場?」
「ああ。あそこで作ったエネルギーを、パイプラインを通じて各工場に送ってるんだ。…今は、動いてないみたいだけど」
 エネルギー工場まで動いていないとは。ここは廃墟なのだろうか?
 そう思って外を見た瞬間、一瞬だけブルーペガサスが目に入った。同じように、地上へ降りていく。
「ユキオ達だ」
 その直後。
ピーピーピー
 もはや聞きなれた電子音。モニターの画面に「!」マークがズラリと並ぶ。
「ユリーカ情報でチュワン!」
 チワワンが言うと、ユリーカ情報が始まった。
≪鉄は、人間の生活になくてはならない金属である。
 電車や自動車のパーツ、ジュースや缶詰の缶、水道管や建物の骨組みなど、様々な形で使われている。
 鉄の弱点は錆びやすい事である。鉄は錆びるととてももろくなり、電気も通さなくなってしまう。水道管が錆びると流れが悪くなり、水が汚染されてしまう。他にも、鉄に穴が開いたり亀裂が入ったりする事で、思わぬ大事故につながる事もある。
 錆びるとは、金属と酸素が結びつく現象で、『酸化』とも言われる。物が燃える事と、鉄が錆びる事は、形が違うだけで同じ現象である≫
「そーなんだ!」
 続けざまに、ミッションが告げられた。
≪ミッションナンバー16。日没までに、エネルギー工場を復旧せよ≫
「エネルギー工場?」
 スズカが聞いた。
「あの大きな建物の事じゃないか?」
 と、ユキオが言った。ガリレイはすぐさまキーボードを操作して、「ああ、どうやらそのようだ」と言った。
「じゃぁ、早速行ってみましょうよ!」
「ああ」
 ブルーペガサスが離陸すると同時に、レッドペガサスも離陸した。

 エネルギー工場の中にも、やはり人はいない。レッドチームはおそらく工場の中枢であろう部分に来ているのだが、肝心の故障部分が見つからない。
「楽勝なミッションだな! これを動かしゃいいんだろ?」
「そんな簡単に言わないでよ! どうすれば動くのかすら、わからないのよ!?」
「そんなの簡単だよ。見てろ」
 と、突然トモルが走り出した。「やあああぁぁ・・・」と言う掛け声の後、「とぅっ!」とジャンプした。
ガチャ
 トモルが掴んだのは、機械から突き出た大きなレバー。トモルの体重で、レバーは下りたが、エネルギー工場が復活した様子はない。
「あれ?」
「そんな簡単なわけ、ないバド」
 レバーにぶら下がるトモルを、バドバドは見上げた。むろん、心の中では見下げてるだろうが。
「だけど、ここがエネルギー工場の心臓部だと思うんだがなぁ…」
 ガリレオが首をひねる。
「なるほど」
 その時、少し離れたところから声がした。ユキオだ。
 子ども達もガリレオもバドバドも、すぐにそちらを見た。ブルーチームの面々がそこに揃い、なにやら壁を見ている。
「ここの部品が足りないから、動かないんだな」
 なに? 慌ててトモル達も駆け寄り、壁を見た。そこには、いくつかの部品がはめ込まれているが、何が足りないかは一目瞭然だった。カチャカチャと回転する星型のパーツが壁の両脇に設置されているが、真ん中にはない。そのせいで、右側の回転が左側に伝わっていない。
「歯車か」
「見たところ、星型のパーツみたいだね」
「わぁ…なんだかロマンチック…」
「よし、じゃぁ早速探して…」
「ちょちょちょ、ちょっと待てよ!」
 早速探しに行きそうなユキオ達を、トモルが止めた。「なんだよ?」とユキオ達が振り返る。
「なに勝手に話を進めてるんだよ!? ここを先に見つけたのは、オレ達だぞ!」
「だが、足りないパーツに気付いたのは、俺たちだ」
「ぐ……」
 これにはトモルも反論できない。仕方がない。ここで押し問答をしている場合ではないのだ。トモル達もすぐに工場を出て、パーツを探す事にした。

 見つけるべきは、星型のパーツだ。あの壁を見た感じでは、50〜60cmはありそうな、大きな星型の鉄のパーツ。
 トモル達はとりあえず、倉庫街にやって来た。トモルとダイ、ミオとガリレオとバドバドの二手に分かれて、倉庫の扉を引っ張る…が。
「重いバド…」
 開かない。
「みんな、頑張るんだ!」
 取っ手を引っ張りながら、息も絶え絶えにガリレオが励ます。
 努力の甲斐あり、少しずつ扉が開き始めた。その奥にあるものは…
「うわぁっ!?」
 大量のゴミ。トモル達は、ペットボトルに埋まり、ミオ達は紙切れに埋まった。
「てててて…」
 ゴミの中から這い出す子ども達とガリレオ。
「ひどい目にあった…」
 ダイはゴミを手に取った。
「ペットボトルと紙…。そうか、種類ごとに分別してしまってるんだ!」
「そんな事に感心してる場合じゃないよ…」
 トモルは脱力感で一杯だ。
「はかせぇ。ホントにここにパーツはあるのかよ…」
「う〜ん…。倉庫街だから、どこかにはあると思うのだが…」
「助けてバド…」
 唐突に、バドバドの声がした。下だ。まだゴミに埋まっているらしかった。
 声のする辺りを掘ってみると、バドバドの黄色い足が出てきた。
「バドバド!」
 トモルが思いっきり引っ張りあげて、事なきを得た。
「あ〜、ひどい目にあったバド…」
 バドバドも座り込んで、脱力感で一杯になる。
「行き当たりばったりの、無計画な作戦か」
 またしても、少し離れたところから声がした。またしても、ユキオだ。
「な、なんだと!?」
 トモルがユキオをにらみつける。が、ユキオ達は気にせずに、
「…ここも反応はない。どうやら、ここにも無いようだ」
 手にしているのは、金属探知機のようだ。
「じゃ、次行きましょ」
 スズカがワイヤーの巻き上げ機を押して、右を向いた。その後に、ユキオ達も続く。
「あ、ま、待てっ!」
 トモルが一歩踏み出すと、クニュ、とペットボトルを踏んづけた。
「うわぁっ!?」
「バドォッ!?」
 そして、バドバドの上に尻餅をついた。
「…勘弁して欲しいバドォ…」

「反応があったぞ!」
 ガリレイが画面を覗き込んで、言った。
「間違いない。この中にある!」
「よし…スズカ!」
「任せて!」
 ガチャ、とスズカが機械のレバーを下げた。パシュと鉤付きのワイヤーが飛び出し、倉庫の取っ手を掴んだ。そして、もう1つのレバーを下げると、機械が自動的に巻き取り始める。
ギーーー
 扉はほんの一瞬抵抗したが、すぐに音を上げて、中の物を吐き出した。
「見ろ! 星型のパーツだ!」
「やった! これでミッションクリアでチュワン!」
 ユキオ達が早速手に取ろうとすると…
「待て!」
 と、トモル達もやって来た。
「フ、トモル。もう遅いさ。見ろ」
 ユキオはパーツを手にとって、高々と掲げ…。
「…ん?」
 そのパーツをもう一度見た。…錆びている。
「サビ?」
「こっちも錆びてるわよ…」
「全部さび付いちゃってるでチュワン」
「これは…磨かないとダメだな……」
 ガリレイがポツリと言った。

 両チームはその場に座り込み、各々パーツを手に取ると、紙やすりで磨き始めた。……地味なミッションだ。
「くそぉ…はかせぇ、これ、もうこのまま持ってっちゃって良いんじゃねぇのか!?」
 最初に音を上げたのは、やはりトモルだ。しかも、手に持つパーツは、ちっとも磨けていない。
「いや、そういうわけにはいかない。サビがサビを呼ぶ、と言うだろう?」
 聞いた事もなかったが、深くは追求しない。
「見てごらん、これは赤錆と言って、普段良く見かけるパサパサしたサビだ。このサビは、放っておくとドンドン鉄の内部へと侵食し、今度は黒いサビが出来る。その黒いサビに他の鉄が触れると、その鉄も錆びてしまうんだ。つまり、サビの連鎖反応が起こる、というわけだ」
「だから、ピッカピカに磨き上げないと、また止まっちゃうって事ね」
「そう言う事だ」
「できたー!」
 そんな説明をしている間に、ユキオ達は磨き終わってしまったようだ。
「ああっ!?」
 トモル達がユキオ達を見る。勝ち誇った笑みで、見返される。
「これでミッションクリアだ!」
 …その時だ。

ヴォウン…
 大量の鉄のゴミの一部が、赤く光った。
ヴォウン…
 だが、誰もそれには気付かなかったようだ。
ヴォウン…
 黒い基盤に、赤い半球…。「それ」がゆっくり地面から現れた。
ヴォウン…
 赤い光が増し、「それ」が赤く光る巨大な球になった。そして…
ヴォウン…

「な、なにあれ!?」
 さすがに、もう気付く。最初に気付いたのはミオだった。ミオが空を指差し、その先を全員が見た。赤く光る、怪しげな球球体。しかも、辺りにある鉄のゴミくずが、ドンドンそこに吸い込まれていくではないか!
「な、ど、どうなってるんだ!?」
「なによこれ!!」
 スズカの持っていた星型のパーツが、「それ」に奪われた。ユキオの物も、コータの物も、そしてそれ以外のパーツも、全て…。
「が、ガリレイ博士…!」
 解説を求めるように、ユキオがガリレイを見たが…
「わからん! このようにあらゆる物理現象を超越した現象…理解不能も甚だしい!」
 要するに、「あり得ない!」と言う事だ。鉄のゴミくずを吸い込むにつれ、大きく膨らんでいく赤い球。そして、次第に何かの形になっていく。
「な、なんだ…?」
 赤い光が消えた。そして代わりに現れた物。それは。
「巨大ロボット!?」
 巨大な鉄の塊、おそらくロボット。全長10メートルはありそうな巨大なロボットが、そこに出現した。
 馬鹿でかい胴体と、胸の部分についた赤い円。背中にあるのはエネルギータンクか? 煙突が突き出ている。二本の細長い腕は、先端がカニのハサミのようになっている。そして、それらを支えているのは太くて大きい二本の足。
 巨大ロボットは腕を伸ばすと、まだ吸い取れていなかったゴミの中から、車を掴んだ。それを持ち上げると胸を開けた。中には、轟々と燃える炎の渦。その中に車を入れると、胸を閉じた。
ボーーー!
 閉じると同時に、背中の煙突から大量の煙が吹き出した。真っ黒い煙が、子ども達を襲う。
「ゲホッ、ゲホゲホッ!」
「め、目がチカチカする…」
「涙まで出てくるバドー!」
 毒ガスか? 環境汚染にもろに直結する、その手の黒煙か。あまり吸い込むと、どんな病気になるかわかったもんじゃない。
「みんな、ひとまずレッドペガサスに戻るんだ!」
「こっちも、ブルーペガサスに非難だ!」
 各博士の後について、子ども達が各ペガサスに駆け込む。あれはいったい、なんなんだ!?
 とりあえず、ガリレオはレッドペガサスを上昇させ、上から巨大ロボットを見てみる事にした。そして、一生懸命キーボードを操作する。
「どうやらあいつは、自分の体内で物を燃焼させて、それをエネルギーに変えているようだ。恐ろしい…なんと恐ろしい…!」
「それじゃ…このままじゃ、パーツが燃やされてしまうよ!」
「大丈夫だよ。鉄は燃えないだろ?」
 楽観的なトモルにミオが、
「燃えるのと錆びるのは同じ現象って、ユリーカ情報で言ってたじゃない! このままじゃ、また錆びちゃうわよ!」
「あ、そうか…」
 やっとトモルも気付いたようだ。錆びも燃焼も、どちらも物体が酸素を結びつく事に他ならない。ちなみに、爆発も同じだ。
「博士、奴に何か弱点は無いの!?」
「そ、それが…奴の内部構造が、どうしてもサーチできないんだ。表面が鉄で出来ている、という事だけはわかるんだが…。ああ、困っちゃったなぁ…」
 あまり困った風に見えないが、これが彼の精一杯の「困った」の表現なのだろう。頭を抱え込んで、モニターを見下ろす。
「あ、あいつがどこかへ行くよ!」
 ダイに言われて、外を見た。巨大ロボットが歩き始めている。向かう先は…エネルギー工場?
「どうやら、あそこにある鉄を、自分に取り込もうとしているようだ」
「じゃ、じゃぁ早く止めないと! 博士!」
「うん…こうなったら、一か八かだ!」
 ガコ、と操縦桿を引く。レッドペガサスが急発進し、巨大ロボットに迫る! 巨大ロボットもそれに気付き、こちらを振り向いたがもう遅い。
「行くぞ!」
 ガリレオはキーボードを素早く操作した。レッドペガサスの底部が開き、二本のアームが出てくる。それでまず、巨大ロボットの肩を掴んだ。そして次に、巨大なドリルを出して、巨大ロボットに突き刺す!
「いっけぇ!」
「それで分解して、中の部品を取り出すのね!」
「ああ。うまく行くと良いが…」
 この作戦、うまく行くか…!?
 ガチャ…と、巨大ロボットの腕が動いた。
「!?」
 気付いた時には既に遅かった。巨大ロボットのハサミに、レッドペガサスがつかまれた! そして、巨大な胸が開き、中の炎があふれ出す…。
「もしかしてあいつ…オレ達までエネルギーに取り込む気か!?」
「ええ〜っ!?」
「そうはさせん!」
 エンジン全開! ガリレオは思いっきり操縦桿を引いた。最高出力でジェットが吹き出される。だが、巨大ロボットも負けてはいない。少しずつ、確実に、レッドペガサスを、自分に近づける…。
「だ、ダメか…っ!?」
 その瞬間。突然巨大ロボットがバランスを崩し、レッドペガサスを解放した。エンジン全開のまま、レッドペガサスは飛び出して、ガリレオは慌ててブレーキをかけた。
「なんだ、どうした!?」
 Uターンして巨大ロボットを見てみると、足元を青い物が飛び回っている。
「ブルーペガサス…ユキオ達だ!」
 巨大ロボットの足を、ワイヤーでグルグル巻きにしている。これでバランスを崩したのだ。
ブチブチブチ…
 だが、巨大ロボットにかかれば、こんなワイヤーなど糸同然。あっという間に引きちぎり、今度はブルーペガサスに襲い掛かった。
「危ない!?」
 しかし、慌てる必要も無かった。ブルーペガサスは華麗に避けて、ひとまず戦線を離脱した。
ピーピー
 電子音。操縦桿の奥にモニターが現れ、そこにユキオの顔が映った。
『トモル、ここはひとまず休戦だ。両チームで協力して、あのロボットを倒そう』
「な、なんでだよ!? オレとお前はライバル同士、敵同士だ! そんなこと、出来るか!」
『ハーフタイムだ』
「ハーフタイム?」
『そうだ。どちらにせよ、星型のパーツはあのロボットの中。急いで倒さなければ、ミッションをクリアできない。とりあえずあいつを倒して、それからミッション再開だ』
「うむ…確かに、その方がいいな」
 と言ったのは、ガリレオだ。トモルは反論しかけたが、ミオもダイもバドバドも、それに賛成している風だったので、止めておいた。
「でも…倒すといっても、どうやってやるの?」
『あいつを、錆びさせるんだよ』
 ユキオの横から、コータが顔を出した。
『錆び付かせて弱らせて、そこを叩くんだ!』
「なるほどな…よし、わかった!」
 ガリレオが答えた。

「しっかし、頭良いわねぇ、コータ」
 モニターの電源を切り、スズカが感心した。「サビ作戦」はコータの発案のようだ。
「なぁに、あの時の事を思い出しただけだよ。ミッション前の、掃除の時の…」
――錆び付いたフライパンを手にして、コータが呟いた。
『これじゃ使えないよぉ』
『ああ、どうやら錆び付いてしまったようだな』
――フライパンには、巨大な穴が…。
「あいつは鉄で出来てるんだろ? だったら、錆び付かせちゃえば良いってわけさ」
 両チームは合流し、一旦地上へ下りた。子ども達は全員、宇宙服に身を纏った。これで、奴の毒ガスは防げる。
「じゃぁ行こう!」
「ああ!」
 子ども達は駆け出した。目指すはロボットの前方だ。
「気をつけてくれよぉ…」
 走り去る子ども達の背に、ガリレオが言った。
「だが、我々もやる事がある。それを忘れるな」
「わかっている」
「鉄のサビは、空気中の酸素や、水などと反応して起こる」
「だから、子ども達が消火栓の水をかけている時に、わたし達は奴の上から、大量の酸素を吹きかけるのだろう?」
「それだけではない。特別な触媒を用いて、酸化のスピードを何十倍、何百倍にも速めるんだ!」
「そんなこと、わたしにもとっくの昔にわかっている!」
「言い争いはやめるでチュワン!」
「早くするバド」
 もう少しで殴り合いでも始めそうな2人を制して、チワワンとバドバドが言った。ガリレオとガリレイも冷静になり、各ペガサスに乗り込んだ。

 重々しい足音と共に、巨大ロボットがこちらへ近づいてきた。子ども達はホースを手に取り、巨大ロボットを見上げた。そのロボットの後ろから、2機のペガサスが顔を出した。
「よし、いまだ!」
 ユキオとトモルが叫ぶと、スズカとミオが消火栓のバルブを思いっきり回した。大量の水が出て、トモル達は後ろへよろけそうになったが、何とか踏ん張った。
「特殊酸素、放出開始!」
 ガリレオとガリレイも、キーボードを操作してペガサスの底部からノズルを出した。そこから、大量の白い霧。酸素と、特殊な触媒の混合物。
 巨大ロボットは若干怯んだようだが、錆び付いたせいではなく、水の勢いのせいだろう。ググッと踏ん張り、煙突から黒煙を吹き出した。
「そんなの、宇宙服があればへっちゃらよ!」
 ロボットに聞こえたかどうかわからないが、ミオが勝ち誇って言った。
 毒ガスが効かないとわかったのか、ロボットは作戦を変更した。水なんぞに負けず、こちらへ歩み寄ってくる。
「あ、危ない!」
 ロボットが、ユキオ達を踏みつけようと、足を伸ばした。ユキオもコータもホースを捨てて、慌てて逃げ出す。スズカはとっくに一目散だ。
「ミオ、もっと水を出してくれ!」
「わかった!」
 さらにバルブを回す。水の勢いがさらに増し、トモル達は倒れそうになる。ミオがその背中を押さえて、3人がかりでホースを持った。訓練した大人の消防士でさせ、最高出力のホースを1人で持つ事は難しい。ましてや彼らは子どもなのだ。ギリギリのところで踏ん張っている。
「あ、見て!」
 一目散に駆け出したスズカが、ロボットを指差して叫んだ。
「錆びてる!」
 本当だ。トモル達が水を当てている辺りが、若干茶色くなっているように見える。
「よし、行け! そのまま錆び付かせてやれ!!」
 ユキオ達が応援する。トモル達はそれに応えるべく、さらに足を踏ん張る。
 大量の水と酸素、それに触媒で、ロボットの体は徐々に錆びてきた。サビがサビを呼び、水を当てているところを中心に、全身が赤茶色に変わっていく。
『よし、みんな、もういいぞ!』
 ガリレオの声が、無線越しに聞こえてきた。ミオがホースを手放し、バブルを閉じた。
「行くぞ」
 ガリレオとガリレイはキーボードを操作し、ノズルをしまった。そして代わりに、巨大なハンマーを出した。
「いっけぇ!!」
 トモルの号令と同時に…巨大なハンマーで巨大ロボットに鉄拳を食らわせた。
ガツン!
 たった一撃。それだけで、ロボットの体は一気に崩れ落ち、茶色い鉄くずと化した。
「やった…やったぁ!! ついに倒した!!」
 子ども達は手を叩きあって喜び、勝利を祝福し。?
 またしても、あり得ない事が起こった。茶色い鉄くずが白く輝き始めたのだ。
「こ、この光は…!?」
 どこかで見た事がある…? だが、あまりのまぶしさに、全員顔を手で覆った。まぶしくて、見ていられない。
 だがダイだけは、手の隙間から、少しだけ見てみた。いったい何がどうなっているのか…?
「あ、あれは…」
 鉄くずの中から、いびつな形をした黒い基盤が現れた。その中央には、赤く光る半球が…。
「あの時と同じだ…!」
 以前にも、ダイはこれを見ていた。「あの時」…そう、エリアE1のジャングルの中で、巨大な蚊と対峙した時。あの時も、今回みたいに「あり得ない」事が起こって…蚊を退治したあと、あの基盤が現れた。同じだ。謎の物体も、状況も…。
ヴォウン…
 そして、その時と同じく…
ヴォウン…
 怪しげな「それ」は、一瞬白く光ったかと思うと…
パキン…
 小さな音を立てて砕け散り、消えてなくなってしまった。
 …あとに残ったのは、大量の錆びた鉄くずばかり。そしてまた。
「また磨くの〜!?」
「仕方が無いだろう、スズカ。錆びてしまったんだから」
「これ、このままはめちゃダメなの?」
 スズカとトモルは、思考回路が似通っているようだ。しかし、そんなわけには行くまい。このサビは、赤錆と言って……。

「くそぉ…」
 さっきよりも一層ひどく、パーツは錆びてしまったようだ。磨く作業は夕暮れまでかかった。ホント、地味なミッションだ。
 誰もがしゃべる気力も失い、黙々とパーツを磨き続ける。急げ、急がなければ負けてしまう…!
「で…できたーー!!」
 全員が同時に叫び、パーツを天に掲げた…まさにその時。
≪ミッション・エンド≫
「え〜〜〜っ!?」
 ミッション・エンド…。「クリア」でも「ロスト」でもない。過去に1回だけ経験した事がある、両者敗退のメッセージ。
「な、なんで!? どうして!?」
「しまった〜っ!!」
 突然ガリレイが叫んだ。
「ど、どうしたの、博士!?」
「忘れていた。ミッションは、『日没までに』エネルギー工場を復活させよ、だった!」
「あっ…!」
 子ども達は空を見上げた。日は沈み、一番星が輝いている…。
「そ…そんなぁ……」
 ショックで全員、その場に座り込んだ。もう嫌だ、もう何もやりたくない。
「わたし達、こんなに頑張ったのに…」
「せっかくロボットまで倒したのに…」
「あのロボットとの対決は、なんだったんだ…」
「認められなかったのか…ロスタイムは…っ!!」
 ハーフタイムなど、ありはしなかった。ミッションとは無情なものなのだ。努力は報われない。それがこの世の常なのだ。
 その事を、子ども達は身を持って知った。

 その後、全員で掃除を始めた。鉄くずを倉庫に戻したり、ホウキで細かなサビをかき集めたり…。
「ミッション前も掃除して、ミッション後も掃除して…。どうしてこんな事しなきゃいけないの…?」
 ブツクサ文句を言いながら、スズカが大量の鉄を運んでいた。
「散らかしたまま帰るわけにもいかんだろう」
 ため息混じりに、ガリレイが諭した。
「だから、ボク本当に見たんだってば!」
 その一方で、ダイは懸命にトモルに訴えていた。
「あの光の中、鉄くずの中から変な黒い奴が…」
「わかったわかった」
「本当だってば!」
 だが、それはあまり賢明な行動ではなかったようだ。
「それって、お前の目の錯覚じゃないのか?」
「目の錯覚…? あれは、目の錯覚だったのかな……?」
 ホウキで地面を掃きながら、ミオはため息をついた。そして、綺麗な夜空を見上げて呟いた。
「…このお掃除、いつになったら終わるのかしら……」

 ユリーカタワーは、誰もいない空間で、1人海を眺めていた。

⇒Next MISSION「姫の笑顔を取り戻せ!」

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