おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#20「幽霊船の秘法を探せ!」

 ユキオは、ユリーカタワーを見上げていた。
 ユリーカタワーに開いた穴は4つ。あと4つのユリーカストーンを集めれば、元の世界へ帰れる…はずだ。
 ユリーカタワーの視線の方向に、ユキオは向き直った。赤い屋根の研究所が見える。前回の惜敗、忘れはしない…。
「何してるんだよ、ユキオ」
 コータが背後から言ってきた。
「そんなに見てたって、ユリーカストーンはおれらの物にならないよぉ」
「そんなんじゃない…。次こそは勝つと、心に誓っていたんだ」
 再びユリーカタワーを見上げた。
「見るでチュワン!」
 その時、向こうを見ていたチワワンが言った。海の方角。
「海がとっても綺麗でチュワン!」
 日の光を浴びて、キラキラと輝く海面。「本当だ…」とコータも、ユキオもスズカもそちらを見た。この世界には(少なくとも、この近辺には)、ユキオ達以外の人間は存在しないのだろう。船の1艘、浮かんではいない。静かな海に、太陽光線が反射している。

 そんな3人と1匹の様子を、ダイは望遠鏡で見ていた。
「あ、コータ君たちがいるよ」
「え?」
 隣に立っていたミオに、望遠鏡を手渡す。ミオも3人の姿を認めると、「本当だわ。何やってるのかしら、あんなところで」
「ユリーカストーンを取られて、口惜しがってるんじゃねぇの?」
「そんな風には見えないけど……」
「みなさ〜ん、ご飯ですよ〜」
 1階から、ベアロンの呼ぶ声がした。待ちに待ったお昼ご飯。
「やっほう!」
 トモルが真っ先に駆け出して、あとから2人と1匹が追いかけた。
 食堂のテーブルの上には、いつもの通り、「超」がつくほど豪華な食事。
「いっただっきまーす!」
 トモルは席に着くと、目の前の七面鳥にかぶりついた。

 森の中は静かで、自然がいっぱいで、気持ちがよかった。
「お散歩は気持ち良いでチュワ〜ン♪」
「………」
 しかしコータは、お腹を抱えて歩いていた。…腹が減ったようだ。
「お腹空いたなぁ…」
「ホント…いまなら、どんな料理も美味しく感じられるかも」
「…散歩の効果、大だな…」
 コータとスズカがとぼとぼ歩く後ろから、ユキオは着いてきていたが、ふと立ち止まると、後ろを見た。遠くに小さく見える、ユリーカタワー。
「次こそは、必ず……」
 その声に答えるように…シュビーーン、と聞き慣れた音がした。
≪エリアB3に出動せよ。エリアB3に出動せよ≫
「ミッションだ!」
 トモル達は立ち上がった。
「早く行くバド!」
「ああ、でもまだ食べ終わってない…っ!」
 ガシ、と片手にクロワッサンを掴むと、トモルはそのまま駆け出した。
「あらあら、お行儀の悪い事……」
 ベアロンが言うと、ガリレオが舞い戻り、フルーツを一掴み、持って行った。
「まぁ、博士まで……」
 ベアロンの小言になどまるで耳を貸さず、4人と1匹はレッドペガサスに乗り込む。そして一気に、発進した。

 空間に2つの亀裂が入った。片方からレッドペガサス、もう片方からブルーペガサスが現れた。
 2機が現れたのは、海の上。穏やかな広い海に、ポツンと孤島があるのが見える。どうやら、今度のミッションはあそこで行われるようだ。2機は早速、その島の海岸に降り立った。
「今度はどんなミッションかしら…」
 スズカがポツリと言う。
「『海の魚をたくさん食べろー』とかだと、良いんだけどなぁ」
 コータが珍しく楽観的な事を言ったが、「そんなわけないだろう」とユキオに一蹴されて終わった。
 似たような会話がレッドペガサス内でも交わされていた。
「今度はどんなミッションかしら…」
「『島の猛獣を退治せよ』とか言うのかもしれないバド」
「も、猛獣…」
 ミオは想像した。島の猛獣と言えば、なんだ?
 大蛇。ライオン。ワニ。その他得たいのしれない化け物たち……。
 ミオの顔から、サッと血の気が引いた。
「ば、バカな事言わないでよ!!」
「バドッ?」
「もぅ、今回のミッションはなんなのよ!?」
 ミオの質問に答えるように、ピーピーピーと電子音が聞こえ、操縦桿の向こうからスクリーンが現れた。毎度の如く「!」マークがたくさん表示された。
「ユリーカ情報だ」
 誰かが言うと、画面が切り替わった。今回は、大きな船の絵だ。
≪人類は昔から、海や川の移動に様々な船を作ってきた。世界で始めて鉄を使った船が作られたのは、18世紀の後半のことである。
 水より重い鉄で出来た船が、なぜ沈まずに浮くのか。それは、水の中の物体は、同じ体積の水の重さに等しい上向きの力を受けるからだ。この力を浮力と言い、たとえ鉄でも体積を大きくし、押しのける水の重さより軽くすれば水に浮く。鉄で出来た鍋やフライパンが浮くのも、同じ原理である。つまり、船の重さが同じ体積の水の重さより軽ければ浮き、重ければ沈んでしまう。
 船が「ここまでは水につかっても沈まない」ラインを「喫水(きっすい)」と呼び、喫水より下の部分は赤や青で表示されている。
 だが、船は浮けばよいというものではない。船にとって一番怖いのは横揺れである。船は横に揺れたとき、元の安定した状態に戻るように作られている。この力を復元力と言う。
 また、高い位置に重さがかかったり、片方だけに重さがかかると、船は転覆してしまう。それを防ぐには、重心、つまり物体の質量中心を下に持ってこなければならない≫
「そーなんだ!」
 場所は絶海の孤島。ユリーカ情報は船。となれば、今回のミッションは…!?
≪ミッションナンバー19。沖に浮かぶ幽霊船の秘宝を探せ≫
「ゆ、幽霊船…」
「あれの事か」
 窓の外…沖の方を見てみると、ぼんやりと霞がかった船が見えた。「いかにも」と言わんばかりの風貌で、ジッと見ているとゾクゾクしてくる。しかし、とにかく…あの船で、秘宝を見つけ出すのだ。
「博士、早速行こうぜ」
「ああ」
 ガコ、とレバーを引いた。が…まぁ、多くを語る必要は無いだろう。
「あ、あれ?」
「ど、どうしたの?」
「また機能が停止している…」

「またぁ〜!?」
 スズカがあからさまに嫌そうな声を出した。
「もお! ペガサスは深海にも宇宙にも行けるのに、なんで目の前の幽霊船には行けないのよぉ!!」
「いつもの事でチュワン」
 そう、いつもの事だ。ここでグタグタ文句を言っている場合ではない。ペガサスが使えないのならば、自分たちの力だけで沖合いの船にたどり着かなければならぬ。
「そのためのユリーカ情報だ」
 言いながら、ガリレイはブルーペガサスからノコギリやナイフ、その他諸々の工具を取り出した。
「さぁ、船を作るぞ!」

 船作りはもちろん初体験だ。
 トモル達も、ユキオ達も、とりあえず木を切り倒し始めた。トモル達は太い木を1本、ユキオ達は細い木を何本も切り倒している。
 トモル達は、切った木を縦に真っ二つにした。そして、右半分でオールを、左半分で船を作る。中をうまくくりぬき、小型のボートにするつもりのようだ。
 一方のユキオ達は、木々を繋ぎ合わせ、巨大ないかだを作ろうとしていた。細い木を何本も横に並べ、ロープで固定する。スズカがブルーペガサスからテントを持ってきた。これをマスト代わりに、海上を進むつもりだ。幸い、先ほどからずっと、風は沖合いの方向に吹き続けている。これならきっと、速度が上がる。
「あっち、すごい…」
 作業をしながら、ダイが言った。「あっち」とはもちろん、ユキオ達の事だ。大きないかだが、着々と出来上がっている。
「あいつら、なにか勘違いしてるんじゃないのか? ミッションは、船を作る事じゃなくて、秘宝を探す事なのにさ」
「あ、そっか…」
「博士! もういいよ、海に出ようぜ!」
「あ、ああ…そうだな」
 船もオールも、とりあえず完成した。この船は木製だから、適当に作っても沈む事はあるまい。若干重い船を、トモル達は力をあわせて押した。
「あ…あっち、もう行っちゃった…。ねぇ、あたし達も早く…!」
「安心しろ、スズカ。あんな船、これが完成すればあっという間に追いつくさ」
 マストをかける支柱を作りながら、ユキオが言った。
「そして、今度こそ勝つ!」

「うんしょ、うんしょ、うんしょ」
 トモル達4人は、せっせと船を漕いでいた。
 幽霊船までは、意外と距離がありそうだ。漕いではいるのだが一向に船に近づけない。
「ん?」
 そして、海の旅にアクシデントはつき物だ。ここはよほど、遠浅のビーチなのだろう…巨大な波が、トモル達の目の前に現れた。
「わぁあ…あんなのにぶつかったら、転覆しちゃうよ!」
「大丈夫だ、安心しろ! 行くぞっ!」
 トモルの気合と根性で、船は進む。波の斜面を横切るように、漕ぎ続ける。
「みんな! 体重をこっちにかけるんだっ!」
 波に対し、船を横に向け、波の方向に体重をかける。これで、転覆は免れるはずだっ!
「うわああぁぁあぁあぁぁぁあっ!!」
バッシャーン!
 転覆は免れたが、ずぶ濡れになる事は免れなかった。全員、頭から海水を被り、「しょっぱっ」と吐き出していた。
「まだまだ来るよ!」
 ダイの言葉に、トモルは再び前を見た。さっきと同じか、それ以上大きな波が、こちらへやってくる。
「どうするの!? このままじゃ沈没しちゃうわよ!」
「……! そうか、みんな! 波に向かって漕ぐんだ!」
「え? な、なんで…」
「そうか! みんな、トモルの言うとおりにするんだ!」
 トモルの言葉ではなく、ガリレオの言葉ならみな信用するようだ。全員、無我夢中で波に向かって船を漕ぐ。
「うわぁあ!」
 波の腹を登り、乗り越え、斜面を滑り降りる。気分はまさにジェットコースター。そしてもちろん、転覆もずぶ濡れも免れた。
「波に対して、横揺れに弱い横腹をぶつけなければ、横揺れは起きずに転覆しない…見事だ、トモル」
「へへへ…」
 ガリレオに褒められ、トモルは気をよくしたようだ。

「完成!」
 ユキオ達も、ようやくいかだを完成させた。それを海まで押していく。マストを張ると、風を受けて滑るように進みだした。
「わぁ…はや〜い! 海風が気持ちいい〜!」
 スズカが立ち上がった。スカートがひらめく。髪がなびく。
「わっ、バカ、スズカ立つな!」
 いかたがグラグラ揺れ、スズカは慌てて座った。重心の位置をなるべく低くしなければ、船はあっという間に転覆してしまう。だから船では、重い機械は船底に設置されているのだ。
「大丈夫かなぁ…」
 コータが不安そうに、いかだの縁に捕まっていた。
「ん?」
「おれ、泳げないんだよ…」
「大丈夫でチュワン」
 スズカのひざから、チワワンが降りた。
「チワワンは犬掻きが出来るでチュワン。もし転覆したら、チワワンが助けに行くでチュワン」
「でも、チワワンは小さいから、難しいんじゃないの?」
「う…そうかもしれないでチュワン…」
「あ、は、ははは…」
 チワワンとスズカのやり取りに、コータは苦笑いで返した。
「あ、ミオ達よ!」
 スズカの声で、3人は一気に気を引き締めた。前方に、一生懸命船を漕ぐトモル達の姿があった。やっと追いついた! そして、この分なら楽に追い抜ける!
「じゃぁね〜!」
 追い抜き様に、スズカは勝ち誇った笑顔を見せた。
「せいぜい頑張って漕ぐんだな!」
 ユキオも勝ち誇った笑顔で言い、幽霊船へと向かった。
「あ〜っ! 追い抜かれたバド! もっと漕ぐバド! 急ぐバド〜〜ッ!」
 バドバドに言われるまでも無く、4人はもっと漕いで、急いでいた。このまま負けてたまるか…っ!
「急ぐバド〜! バドッ!?」
 船底は海水で濡れて、滑りやすくなっていた。ツルッと滑ったバドバドが海に落ちた。
「バドー! た、助けてバドーーッ!」
「ば、バドバドッ!」
「全く、応援してるんだか、足を引っ張ってるんだか…」
「バドバドー! お前ペンギンなんだから泳げるだろー!」
「お、おいらはペンギンじゃないバド〜ッ!!」
 だから、泳ぎも出来ないようだ。ガリレオが「これに捕まれ!」とオールを差し出し、「助かったバドォ…」とバドバドはホッと一息ついた。

 辺りに霧が出てきたと思った時、目の前に幽霊船が現れた。
 ユキオ達は、幽霊船にいかだを近づけると、船の横腹に垂れ下がっていた網のような物を、よじ登り始めた。
「よっと…」
 ユキオがまず、第一歩を甲板に下ろした。メキッと音がして、少しひびが入った。
「………」
 船の上を見渡すと、実に様々なものがある。銃や大砲、レイピアなどの刀剣類。所々で木々が朽ち、マストはボロボロになっていた。人の気配は一切無く、静かで、不気味だった。
「ここって、元々は人がいたのかな…?」
 コータが甲板を歩き回り、置いてあった剣を手に取った。取った瞬間、ボロっと剣が折れた。
「あたし、遊園地でこんな感じのに乗ったことがある」
 スズカが言うと、「よっと…」と声がして、トモルが甲板に這い上がってきた。
「! ユキオ…」
 バッと甲板に降り立つと、
「ユキオ! ミッションをクリアするのは、オレ達だ!」
 威嚇のつもりなのか、なんなのか、トモルはユキオに向かって断言した。
「トモル。ミッションをクリアするのは俺たちだぞ」
 同じ言葉を、ユキオが返した。
「まだわからないのか!」
 2人の言い争いに、ガリレイまで加わった。
「我々がユリーカストーンを集めなければ、ゲームは完成しないんだ!」
 言い争いはトモルに任せ、ミオとダイは甲板の上を見渡した。すると、明らかに怪しげな樽があるのに気付いた。
「あ、もしかして、秘宝ってあの中にあるんじゃない!?」
「え!?」
 全員の視線が、樽に向かって走るミオとダイに注がれた。
「ま、待って! ずるいわよ! 先に着いたのはあたし達のなのに…!!」
「ミッション、クリアー♪」
 ミオとダイが、一緒にフタを開けたが…もちろん、何の反応も無かった。
「あ、あら…?」
「なんだろ、これ…」
 樽の中に入っていたのは、ただの黒い粉。ガリレオがそれを手に取り、「どうやら…火薬のようだな」と言った。長年放っておかれたであろう火薬だが、まだまだ使えそうだった。
 よく見れば、同じ樽が甲板中に転がっていた。他の者たちもそれぞれ樽を開けて、中を確認していたが、どれもこれも同じ火薬だった。
「そりゃそうよね。秘宝ってのは、もっと奥にあるもんなんだから」
「よ〜し…そうと決まりゃ、早速行くぜ!」
 トモルが走り出した。
「あ、待てっ!」
 ユキオも走り出した。
 その後に続いて、全員が一斉に駆け出した。甲板から船室に入るための扉に全員がギュウギュウにつめ合い、引っかかり、奥に入れそうで入れない。
「グ…じゃ、邪魔だ、ユキオ…!」
「そっちこそ…どくんだ…っ!」
「うわっ!?」
 こう言う時は、ちょっとした弾みが命取りとなる。「ちょっとした弾み」で、トモル達レッドチームの子ども達とバドバドが、一気に階段から転げ落ちた。
「い、イテテテテ…」
「きゃぁ〜っ!!」
 その上から、ガリレオが落ちてきた。
ドンッ!
 ガリレオの重い体重が一気にかかり、バキバキッと嫌な音がした。何の音だ? とトモルは思ったが、すぐにその答えが判明した。トモル達の乗っていた床が、一気に抜け落ちた!
ドサドサドサッ
 いくつもの床を突き破って、トモル達は船底まで落ちていった。その痛みや相当な物…。
「おーい、大丈夫かー」
 感情を一切込めていない声で、ユキオが穴から下を覗き込んだ。暗くてよく見えないが、見る必要も無いだろう。
「余計なお世話だー!」
 トモルの遠い声が、船底から聞こえてきた。
「あ〜…いってぇ…」
 腰をさすりながら、トモルは起き上がった。他のメンバーも、次々に立ち上がる。
「ここは…?」
「どうやら…船の床と言う床を突き破って、船底にまで来てしまったようだな…」
 足元を見ると、床が濡れている。どこからか、海水がしみ込んでいるようだ。
 板子一枚下は地獄、という諺がある。板子と言うのは船の底の事で、そのたった1枚の板の下はもう海中であり、船乗りたちの命は、そのたった1枚の板にかけられている、と言う意味だ。要するに、海の冒険は危険である、と言うたとえである。
「あ、見て!」
 ミオが奥の方を指差した。人差し指の先に、何かがある。箱だ。青い宝箱のような物が、そこにある。
「まさか、宝箱!?」
「やったぜ! こんなところにあるなんて!」
 近づいて見てみても、宝箱にしか見えない。南京錠がかけられた大きな箱だ。トモルは近くに落ちていた鉄パイプを拾うと、それで南京錠を叩き始めた。
ギン、ゴン、ガン、ゴン、ガン、ガキッ
 鍵が壊れた。よほど古かったのだろう。
「早く開けるバド!!」
 バドバドにせかされるまま、トモルが宝箱を開ける。
「ミッション、クリアー!」
 だがまたしても、何も起こらない。よく見れば、箱の中に入っていたのは、大量の石ころだ。これは敵を欺くための罠だったようだ。
 そもそも、この宝箱は隠そうという気配すら感じさせない。こんなにわかりやすく、秘宝が置いてあるはずがないのだ。
「他を当たろう」と立ち去りかけた時だ。
「バド?」
 バドバドが何かに気付いた。
「ちょっと待つバド! 石の間が、光ってるバド!」
「え?」
 全員が再び戻ってきて、石をどかし始めた。すると中から、緑色に光るクリスタルが現れたではないか。
「これがミッションで言っていた、秘宝かぁ…!」
「おいらが気がついたバド。見つけたのはおいらのおかげバド。感謝するバド〜」
 バドバドの言う事など気にせずに、トモルは腕を伸ばしてクリスタルを握り締め、引っこ抜く。いや、引っこ抜こうとする。だが、ビクともしない。
「あれ?」
 もう一度だ。しかし、やはり動かない。
「何してるバド。早く取るバド」
「ちょ、ちょっと待て…。これ、箱に突き刺さってるみたいだぞ。ミオ、ダイ、手伝ってくれ!」
 全員で石を全てどかし、子ども3人が箱の中に入る。クリスタルは確かに、箱に突き刺さっているようだ。箱は床に置かれているのだから、床にも突き刺さっているのだろう。3人がかりでクリスタルを掴むと、力の限り引っ張った。
 板子一枚下は地獄、と言う諺がある。板子と言うのは船の底の事で、そのたった1枚の板の下はもう海中であり、船乗りたちの命は、そのたった1枚の板にかけられている、と言う意味だ。要するに、床に突き刺さったクリスタルを抜けば、そこから海水が噴水のように入ってくる、と言うたとえである。
 案の定、クリスタルを引っこ抜くと同時に、その穴から海水が勢いよく噴き出した。
「しまった! そいつは、船の穴に栓をしていたんだ!」
「それじゃ、オレ達がそれを引っこ抜いちまったって事か!?」
「元に戻さなきゃ!」
 トモルとダイが協力してクリスタルを戻そうとするが、水圧が強くてどうにもならない。船の底に開いた穴から噴き出される水の力と言うのは、水が船を持ち上げる力と同じなのだ。トモルとダイがこの穴に栓を出来ると言う事は、2人でこの船を持ち上げる事が出来る、と言う事に他ならない。だが、そんな事は不可能だ。
「くそっ!!」
「とにかく逃げるぞ、このままでは沈没してしまう!」

 一方、ユキオ達も宝箱を発見していた。何気なく入った部屋の奥に、青い宝箱がドンと置いてある。
「あ、もしかしてこれが宝箱?」
「早く開けるでチュワン!」
「待った!」
 開けようとするコータを、ユキオが制した。
「見ろ」
 と宝箱の横を指差す。宝箱の側面から、黒い紐が飛び出していた。
「導火線だ。迂闊に開けたら、爆発するぞ」
「じゃ、どうするの?」
「切ればいい」
 ユキオは導火線を足で踏み、手で思いっきり引っ張った。こちらも古くなっていたのか、いとも簡単に引き千切る事が出来た。
「でも、これ鍵がかかってるわよ? どうやって開けるの?」
「それも、これを使うのさ」
 ユキオは導火線を再び引き千切ると、南京錠に結び付けた。導火線の一端を鍵の表面で擦ると火がつき、火が結び目に来ると小爆発を起こして鍵が壊れた。
 鍵をどかして箱を開ける。カタンと音がして、ドミノが倒れ始めた。倒れたドミノが棒を回し、棒の端についていたマッチに火がついて、その火が導火線に引火する。だが、火は箱の外に出たところで、すぐに消えた。
「やっぱりトラップか…」
「うそ〜、知らずに開けたら爆発してたって事?」
「ああ、おそらくな」
「仕方がない。他を当たろう」
 4人と1匹が、宝箱に背を向けた。…その時だ。
ヴォゥン…
 床の一部、引き千切られた導火線のすぐ近くが赤く染まった。
ヴォゥン…
 そこから、中央に赤い半球を備えた、黒いいびつな形の板が現れた。
ヴォゥン…
 それと同時に、導火線に火が点いた。
「なんだか焦げ臭いでチュワン」
「え?」
 スズカが部屋の中を覗き込む。チワワンも後ろを振り返る。「あっ」と2人は同時に言った。
「た、大変でチュワン! 来るでチュワン!」
 チワワンは部屋を飛び出して、3人を呼びに走った。スズカは目を丸くしたまま、火を目で追った。
 バチバチッと一瞬火が強くなると、煙の中に「それ」が現れた。黒いいびつな形の板が。
「あれは…確か、前にも…」
「どうした!? あっ!」
 火は壁をよじ登り、窓から外へと出て行った。ガリレイが窓から顔を出すと、火を探した。火は、甲板の方へと向かっている。
「大変だ! あの導火線は、甲板にあった火薬の樽に向かっているに違いないぞ!」
「なんだって!?」
「急いで逃げるんだ、爆発するぞ!」

 ドタドタドタ、と船の中を一目散に走る音がする。急いで逃げるんだ、急いで!
 ドタドタドタ、と船の中を一目散に走る音がする。急いで逃げるんだ、急いで!
「トモル!?」
「ユキオ!?」
 トモルは前方からユキオが、ユキオは前方からトモルが走って来たのに気がついた。甲板へと向かうドアの前で顔を付き合わせると、2人同時に叫んだ。
「大変だ! 船がЖЯ★※するぞ!」
ユキオが聞き返した。「沈没?」
トモルが聞き返した。「爆発?」
「詳しい話は後だ。とにかく甲板へ!!」
 8人と2匹が階段を駆け上がり、甲板へと出る。「飛び込め!」と誰かが叫んだ。全員が一斉に、海に向かってダイブする。
 船が爆発したのは、それと同時だった。甲板中の火薬と言う火薬が爆発し、炎を上げた。船の至るところに火薬はあったらしく、次々と連鎖的に船が爆発していく。
「た、助けけくれ〜!」
 コータが溺れていた。
「チワワンが助けるでチュワン!」
 スズカの頭から、チワワンが海に向かってダイブしたが、
「やっぱり無理だったでチュワン……」
 ユキオとガリレイに助けられ、コータとチワワンはいかだの上に乗った。その頃、トモル達も小船に乗り込んでいた。
 両チームとも、幽霊船から離れ、爆発しながら沈んでいく幽霊船を遠巻きに眺めた。時々キラキラした物が宙を舞うように見えたが、おそらくはあれが秘宝なのだろう。
ヴォゥン…
 赤い半球を携えた黒いいびつな板は、爆発に巻き込まれると白く光り、そのまま消滅した。
≪ミッション・エンド≫
「はあぁ……」
 両チームが深いため息をついた。

 ユリーカタワーが、青い屋根の研究所を見た。しかし、見るべきはこちらではない。赤い屋根の研究所を見たが、見るべきはこちらでもない。結局ユリーカタワーは、真正面の海を眺める事にした。

「やっぱり…こうなるのね…」
 ミオは出てきた貧相な料理を見て、ため息をついた。
「どうして…こんなことに…」
 コータも貧相な料理を見てため息をついたが、いつもなら文句を言うスズカが、今日は静かだ。ボーッと、今日見た物を思い出していた。
「あれは…確か、前にも見た…」
 そう、前にも見た。あの黒いいびつな板。停電を復旧させるミッションで、怪しげな工場に入った時に、「それ」を見たのだ。
「あれは一体、なんだったのかしら…」
「どうしたんだ? スズカ」
「あたし、また変なの見ちゃったの」
「変なのって…何を見たんだ?」
「わかんなーい」
「……はぁ?」
 スズカの謎の発言に、男性陣は眉をひそめ、目配せした。一体、何を見たって言うんだ?
 黒くていびつな板。「それ」が何を意味するかは、もちろんまだ誰も知らない。ましてやその板が、この後重大な意味を持ってくるなどとは、スズカは夢にも思っていなかった。

 何もかも知っているかのように、ユリーカタワーは今日も静かに、しかしどこか不気味に、ライトアップされていた。

⇒Next MISSION「守り神を連れ戻せ!」

本を閉じる inserted by FC2 system