おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#22「ダイヤを集めろ!」

「♪女の子は複雑なの〜」
 青い屋根の研究所。ブルーチームの花、スズカが歌いながら部屋に入っていった。
「♪甘い物がだ〜い好き、でも食べすぎはダメダメ〜」
 あたりに誰もいないことを確認すると扉を閉め、ドキドキしながら体重計に乗った。
 針が回り(実際には下の文字盤が回っているが)、36と言う数字を示す。
「え? うそうそうそ、なんでなんで〜〜っ!! どうして2kgも増えてるのぉっ!」
 スズカが悲鳴にも近い声を上げた。目を凝らして何度も見る。
「あら?」
 2本の足の間から、ふわふわの尻尾が出てきた。チワワンの尻尾だ。
「なんだ、あなたが乗ってたの」
 スズカはチワワンを抱き上げて、ベッドに載せる。大きな耳の可愛い顔がこちらを見る。スズカはそのまま体重計に乗ると、ホッとため息をついた。
「よかったぁ、増えてない…」

「それ、ワンツー、ワンツー!」
 赤い屋根の研究所。レッドチームの花、ミオは今日も運動に余念が無かった。ノースリーブの洋服の裾を胸の下まで持ち上げて縛り、動きやすい格好になっている。
「油断するとすぐ太っちゃうんだから。ほら、バドバドも声出してー!」
 隣で一緒に運動するバドバドも、「ワンツー、ワンツー!」と言いながら苦しげに足を上げていた。
「オレ、男で良かった」
 足を上げ下げするミオの背中を見ながら、トモルが頬杖をついていた。それと向かい合いながら一緒にミオを見ていたダイは、「女の子は大変だね」と感想を述べた。
 そんな彼らを次なるミッションへと導くべく、ユリーカタワーが言った。
≪エリアA3へ出動せよ。エリアA3へ出動せよ≫

 空間に亀裂が入り、レッドペガサスとブルーペガサスが飛び出してきた。
 出てきたところは森の上空である。広大な森のど真ん中に、白いドームがある。なんのためのドームかは、ここからではわからない。
 操縦桿の向こうからモニターが現れ、「!」が表示された。「ユリーカ情報でチュワン」とチワワンが言うと、画面一杯に大きなダイヤモンドが表示された。
「あ…」「あ…」
 パッと、二輪の花が顔を輝かせた。女の子は美しい物に目が無い。
 すぐにユリーカ情報が流れた。
≪世界で一番硬い物。それは、ダイヤモンドである。
 ダイヤモンドは炭素原子の集まりである。これは、墨や鉛筆の芯などと同じ物質だ。その違いは炭素原子の並び方だ。黒鉛の炭素原子が平面的に結びついていて結合力が弱いのに対し、ダイヤモンドの炭素原子は立体的に結びついている。これを共有結合という。
 硬いというその性質を利用して、ダイヤモンドの大半は宝石用ではなく工業用に使われている≫
「そーなんだ!」
 そして、ミオとスズカにとっては嬉しいミッションが告げられた。
≪ミッションナンバー21。この街から1kg分のダイヤモンドを収集せよ≫
「街? そんなの、どこにも無いじゃない」
「待て。見ろ」
 街はあった。ドームの中に。物凄い速さでドームが開くと、中から街が現れた。
「行こう!」
 2機のペガサスが街の中に下りていった。

 街に降り立つと、まずレッドチームの面々が外に出てきた。あたりを見渡して、
「人はいないみたいだな」
 とトモルが言った。
 すぐにブルーペガサスも降りてきた。中からユキオが出てくると、ペガサスの甲板に立ってトモルに言った。
「おいトモル。先にダイヤを集めるのは俺た…」
「どいて!」
 スズカに突き飛ばされ、セリフが中途で終わってしまった。「なにするんだよ」とスズカに言ったが、彼女は近くの草むらまで走ると、そこにうずくまった。何をしている?
「あった〜! ダイヤモンド!」
「ええっ!?」
「これってダイヤよね、ねぇ!」
 振り返ったスズカの手には、キラリと光る小さな石があった。
「ね、ね、そうでしょ!」
 それは紛れも無くダイヤモンドだった。
「さっすが、目敏いバド」
 嫌みったらしく言ったつもりだったが、「あ、あった!」と今度はミオが言った。ダイヤはバドバドの足元に落ちていた。
「なんだよ、この街…。こんないい加減にダイヤが散らばってるのか?」
「どうやら、そうみたいだね」
 確かに、見渡せば時々キラリと光るものがある。あれら全てがダイヤだというのか?
「そうと決まったら、早く探しに行くわよ!」
 ミオが張り切っている。張り切って、駆け出した。トモル達も後に続いて、街の奥へ入っていく。
「俺たちも行くぞ!」
 ユキオがコータ、チワワン、ガリレイを連れて走っていく。
「…おい、スズカ、早くしろ!」
「嗚呼…ダイヤ…」
 スズカは先ほど見つけたダイヤを、ウットリと見つめ、頬擦りしていた。彼女の頭の中では今、彼女は体中にダイヤを纏っていた。キラキラと輝き、自分を飾っていた。
「おい、早くしろ!」
「嗚呼…」
 ウットリしながら、スズカはユキオたちの方へ走っていった。

 本当に、この街はダイヤだらけだった。
 ダイはペットショップの水槽の中から発見した。
 ユキオはカキ氷屋の暖簾の「氷」についているのを発見した。
 トモルは洋服屋の洋服のボタンから発見した。
 ミオは公園の彫刻の耳から発見した。
 スズカはクマの人形の首輪についているのを発見した。
「ダイヤ見っけ〜!」
 右手で取って、左手に置く。キラリン、と集めた6つのダイヤが輝く。
「ふふふふふ、やっぱり美しいものは、集まるべき場所に集まるのね〜」
 嗚呼ウットリ。だがウットリばかりもしてられない。走って別な場所へ向かった。
 途中の公園でコータが落ち葉の中を探しているのを発見した。「コータ、焼き芋じゃないんだから、そんなところに無いわよ」と言うと「やっぱりそうかなぁ」とコータ。しかしすぐに「あ、あった〜!」と叫んだ。
 石畳の隙間、家の窓、呼び鈴、街灯の下、植え込みの中。至るところにダイヤダイヤダイヤ…。
「ダイヤなんて無いバド!」
 ブツクサ文句を言いながら、バドバドは集合場所である噴水の前にやって来た。既にトモル達が集まっている。
「みんな、ダイヤは取ってきたか?」
 ガリレオが聞くと、トモル達が手を見せた。いくつものダイヤがキラリと輝く。
「…ダイヤなんて無かったバド」
 ポツリとバドバドが言ったが、誰も聞こえなかったようだ。
「わたしは、ダイヤより重要なものを見つけてきた」
「重要なもの?」
「これだ」
 ガリレオは子ども達に、はかりを見せた。キッチンでよく見かける、ごく普通のはかりだ。6kgまで量れる。
「…はかり?」
「あ、そっか。はかりがないと、いくら集めたかわからないもんね」
「ああ、そうか」
 集めてきたダイヤを、全てはかりの上に載せた。針は少しだけ動き、300gを示した。
「まだまだだね」
「もっと集めましょう!」
 子どもたちはまた、散らばっていった。

「ダイヤがあったでチュワ〜ン!」
 嬉々としてチワワンが集合場所の公園にやって来た。ユキオ、コータ、ガリレイの3人が既にいた。
「みんな〜!」
 とスズカも後からやって来た。
「見て見て! じゃーん!」
 ポケットから、両手一杯のダイヤを出してみせた。「すごい…」と男性陣は呆気に取られたようだ。
 全員が集めたダイヤをハンカチに載せ、それをガリレイが持った。
「どう、博士。1kgある?」
「いや…1kgと言ったら相当な量だ。まだまだ足りないだろう」
「でも、どうやって1kg量るでチュワン?」
「確かに、はかりが必要だな…」
「博士。ペガサスにないの?」
「ない」
 なんでも積んでるペガサスだが、いつも重要な物は無いように思える。
「仕方が無い。探してこよう。きっとすぐに見つかるさ」
 ユキオが言った。これだけたくさんダイヤがあるのだから、はかりもどこかのキッチンにあるだろう。
 全員、再び街に散った。

「うっひょ〜、ダイヤがあるバド、ダイヤがあるバド〜!」
 バドバドは喜んでいた。探せば結構見つかるものだ。
 草むらの中にダイヤを見つけ、そのままダイヤを拾いながら林の奥へと入って行っていた。まるでエサにつられて罠に近づくスズメのようだ。
「こっちにもあるバド〜。バド?」
 ずっと下を向いていたが、上を見上げた。ブーンと言う音がした。蜂の巣だ。
「バドーーーッ!」
 集めたダイヤを全て落として、バドバドは走って逃げていった。

「はかりなんてなーい!」
 再び集合したブルーチームは、誰もはかりを発見できていなかった。
「どうしてダイヤはあるのにはかりは無いの! これでどうやって1kg量れって言うのよ!」
「困ったな…」
 ブルーチームは考え込んでしまった。その横を、陽気にトモルが通り過ぎる。
「ん?」
 トモルの行く先を何気なく目で追った。そしてそこに、目的の物を見つけた。
「はかりだーっ!」
 はかりを発見できなかった理由は、なんてことはない。既に取られていたからだ。ダイヤは大量にあっても、はかりは1つしかないのだろう。
「むむむ…仕方が無い! はかりの事は後で考えるとして、今はダイヤを集めるんだ!」
「いや。俺たちははかりを探して遅れを取ってる。今までのペースじゃ負ける。もっと効率よく集める方法を考えないと」
「でも、どうするの?」
「それを考えるんだ」
 ダイヤがどこにあるかわからないから、探すのに手間どう。なら、ダイヤがどこにあるかわかれば、良いことになる。
「あ、そうだ。インフォギアで調べてみよう!」
 コータがポケットからインフォギアを取り出して、「ダイヤ」で検索をかけた。
「え〜っと、なになに…。『ダイヤモンドには、蛍光という特殊な性質がある。強い紫外線、例えばブラックライトの光などを当てると、赤や青、緑などに輝く』」
「博士。ペガサスにブラックライトは?」
「ああ、ある」
 何故はかりはなくてブラックライトはあるのか。しかしあるならばありがたい。
「それなら、街を暗くして空からブラックライトで照らせば、ダイヤが光って集めやすくなる」
「でも、どうやって街を暗くするんだ?」
「そうよね、夜になるまで待ってたんじゃ、負けちゃうし……」
 全員で空を見上げた。青い空が広がっている。太陽はまだまだ沈みそうに無い。
「……。いや、出来るぞ!」
 ガリレイが自信たっぷりに言った。
「思い出してみろ、この街に入った時の事を」
「あ、そうか。この街はドームの中だった」
「そうだ。おそらくこの街のどこかにドームを閉じるスイッチがあるはずだ。それを見つけてドームを閉じれば、街を暗く出来る」
 そうとわかれば話は早い。ユキオ達は街の壁に向かって走っていった。

 街の外壁に沿って走ると、ドームのスイッチはすぐに見つかった。
「博士。ドームのスイッチが見つかりました」
 インフォギアでユキオが告げると、「わかった。じゃあ閉めてくれ」とガリレイがペガサスの中から答えた。
「はい」
 ユキオがスイッチを押すと、開いた時同様、物凄い速さでドームが閉まっていった。
 これに驚いたのはトモル達レッドチームの面々だ。
「な、なに?」「うわぁ、なんだバド!?」
 ポカンと口を開けて空を見上げる。黒い壁が一気に空を覆い尽していく。
「ユキオ達がドームを閉めたのか?」
「でも、どうして?」
 ドームが完全に閉まると、ブルーペガサスが上昇を始めた。ペガサス底面の扉を開けて、中から巨大なブラックライトを出して点灯する。そのまま、街の上空を飛んでいった。
「あいつら、何やってるんだ…?」
「あ、見て!」
 すぐに変化に気がついた。街中に、色とりどりの光の粒が現れた。某ネズミランドのエレクトリカルパレードは、確かこんな感じだ。
 家々の屋根、植え込みの中、今まで考えもしなかったところが光り輝いている。
「これなら見つけ放題だ!」
 と、コータが喜んで植え込みの中からダイヤを取り出した。
 トモル達は、その光が何を意味するかはすぐにはわからなかったようだが、手の中のダイヤが光っている事にミオが気付いた。
「こっちも光ってるバド」
「ダイヤって…」
「光るんだ…」
「じゃあ、ユキオ君たちはこの事を知って…」
 しかし、それは明らかに作戦ミスだ。ダイヤの輝きはユキオ達だけのものではない。トモル達にだって見えるんだ。
「ラッキー! 今のうちに探そうぜ!」
 その時、トモルの背後で何かが光った。トモルが振り返ると、そこはカキ氷屋である。
「どうしたの、トモル」
 ミオの声を無視して中に入ると、大きなカキ氷機に、これまた大きな立方体の氷がセットされている。もしやと思ってゆっくり手を伸ばして“氷”に触れた。
「うわ、冷たくない! これ、ダイヤだ!」
 カキ氷機からダイヤを外した。両手に乗り切らないほどの大きなダイヤ。
「え、見せて見せて!」
 ミオが手に取ると、「大きい…」とダイヤに頬擦りした。
「やったぜ。サンキュー、ユキオ!」
「サンキューバドー!」
 外ではまだ、ブルーペガサスが飛んでいた。

 トモル達が噴水のところまで来ると、ドームが開き始めた。ユキオ達がダイヤを集め終えたのだろう。
「急いで!」
 ミオがせかし、トモルがはかりの上にダイヤの塊を載せた。グッと台が下がって、3kgを示した。
「3kgもある」
「やったじゃん! ミッションクリアだ!」
「そうなのかしら?」
「確かに、大は小を兼ねるって言うけど……」
 待てど暮らせど(いや、そんなに待ってないけど)、≪ミッション・クリア≫の声はかからない。3kgではダメなのだ。1kgでないと。
「じゃあ割れば良いバド」
「それが問題なんじゃない!」
「なんでだバド?」
「忘れたの? ダイヤモンドは世界で一番硬い物質なのよ!」
「あ、そうか…」
 とすると、この3kgのダイヤは諦めなければならないのか?
「あ、ちょっと待って。調べてみる」
 ダイがポケットからインフォギアを取り出して、「ダイヤ」を検索した。
「『ダイヤモンドの硬度は引っ掻き傷などに対する硬さであり、割れ易さと言う面ではルビーやサファイアなどに劣る』」
 続きを、ミオが読んだ。
「『ダイヤモンドの結晶構造に対し平行に力を加えると、スライスするように綺麗に割れる。これを劈開(へきかい)性と言う』」
「な〜んだ、割れるバドか」
 バドバドはダイヤを地面へ下ろすと、そこら辺の石を拾い上げて叩きつけた。が、割れたのは石の方だった。
「割れないバド!」
「当たり前だって…」

「ダイヤを集めたは良いが…」
 ガリレイが言った。続きは言わなくてもわかってる。はかりが無いのだ。
「ここまで来たのに、このままじゃ負けちゃう…」
「なんとかしないと…」
「……。おお、そうだ! 天秤ばかりを作ればいいんだ! 道具ならあるぞ!」
 どうしてはかりは無いのに……。

 1本の棒と、長い糸。それからタライが2つ。これらを組み合わせて天秤ばかりを作る事が出来る。
 棒の中心に糸を結びつけて吊るす。棒の両端にまた糸をつけ、糸の他端にタライをくくりつける。これで、2つのタライの片方にダイヤ、もう片方に1kgの重りを載せれば、1kgのダイヤを量り取る事ができる。
「……で、その1kgの重りはどこに?」
 ユキオの指摘ももっともなことだ。基準となる重りが無ければ、天秤ばかりは使えない。
「困ったでチュワン…」
「……あ、そうよ!」
 スズカは足元のチワワンを抱き上げた。
「この子を使えばいいのよ!」
「チワワンを?」
「今朝ね、あたし体重を量ったら、なんと2kgも増えてたの! もう〜、ビックリしちゃって、あたしの小さな心臓が止まりそうになったわ!」
「小さな、心臓……?」
 コータが文句ありげに言うと、「なによ?」とスズカがにらみつけた。
「いや、なんでもないです……」
「そう。ま、とにかく。その原因はこの子が乗ってた事なの。つまり、チワワンの体重はピッタシ2kg」
「でも、おれ達が量りたいのは2kgじゃなくて1kgだろ?」
「そう。だからまずチワワンをタライに乗せて、もう片方のタライに水を注いて釣り合わせる。この時、水の重さは2kg。そしたらチワワンをどかして水を2つに分けて釣り合わせれば、片方は1kgになるでしょ」
「あ、なるほど」
 もちろん、支点を動かす事でチワワンを直接利用する事もできるのだが、スズカの頭ではそれは思いつかないのだろう。
 早速、近くの水道から水を汲んできて、1kgにする事にした。

 レッドペガサスの中に、トンカチとノミがあった。ノミをダイヤモンドの塊にあてがい、上からトンカチで叩く。こうしてダイヤを割ろうという計画だった。
「えいっ!」
 トモルが力任せにトンカチを振り下ろす。…が、傷1つつかない。
「っ痛〜…。くそ、割れろ、割れろっ!」
 力任せに何度も何度もトンカチを振り下ろすが、甲高い音が辺りに響くだけで一向に割れる気配は無い。
「貸すバド!」
 バドバドがトンカチとノミを奪い取ってトンカチを振り下ろすが、やはり割れない。
「う〜ん、やっぱり素人には無理なのか…。困っちゃうんだよなぁ」
 ガリレオが心底困った風な顔でダイヤを見た。この人は、困った顔なら誰よりも得意だ。
「割れるバド、割れるバド、割れるバド〜!」
 割れない。
「ちょっと貸して!」
 ミオもトンカチとノミを奪い取り、ガンガンと叩く。
「は、は…」
 途端に鼻がムズムズしてきた。
「はっくしょん!」
 カキン
「あ、割れた」
「え?」
 ミオもビックリした。「くしゃみで手元が狂った?」「ま、まぐれ…」トモルとダイもビックリして言った。
「あ、ははははは…」
 ミオは可愛らしくはにかんだ。
 しかし、割れたダイヤをはかりに載せると、ピッタシ1.5kg。1kgにするためには、あともう少し削らないといけない。
 再び地面に下ろし、ノミとトンカチを手に持った。

 水をちょうど1kgにしたブルーチームは、今まで集めたダイヤを全部はかりに載せた。だが、まだ水の方が重い。
「もう少し、集める必要があるな」
 ガリレイの一言で、子ども達はまた走り出した。
「ここまで来て負けられない、ここまで来て負けられない…」
 呪文のように、スズカの口から言葉が漏れる。ダイヤへの執念が、スズカを変貌させていた。ダイヤを集めながら林の中へと入っていく。
「あ、こんなところに…」
 先ほど、バドバドが落とした大量のダイヤをスズカが拾った。
「あら?」
 上を見上げると、蜂の巣がある。だがスズカは、その蜂の巣の穴の中にダイヤを発見した。
「…ここまで来て負けられない…」

 カン、キン、コン、カン、と小気味よい音が街に響いている。トモルが懸命にダイヤを割ろうとしているが、一向に割れる気配が無い。
「くそ〜、まぐれは一回だけかっ!」
 力の一発を加えても、やはり割れそうに無い。
 その後ろを傷だらけのスズカが駆け抜け、天秤ばかりに向かった。
「スズカ、その傷は…」
 とコータが聞くも、スズカは無視して集めてきたダイヤを載せた。
 天秤ばかりが動き、水が持ち上がる。もう少し、あともう少し上がってくれ…!
≪ミッション・クリア≫
 願いが通じた。天秤ばかりが平行になり、ダイヤが1kg集まった!
「やった〜!」
 ユキオとコータが両手を挙げて喜んだ。
 スズカは目をまん丸にして、信じられない物を目にした。
 集めたダイヤが輝き出し、宙に舞った。光は次第に丸くなったかと思うと、その丸い光の中からユリーカストーンが現れた。

≪ミッション・ロスト≫
「え〜!」
 負けを宣告され、トモル達が声を上げると、トモルの手元のダイヤの塊が輝き始めた。ミオの背後にあった、集めた小さなダイヤも同様だ。ミオは目をまん丸にして、その光を見つめた。光が消えると、一緒にダイヤも霧消していた。

 ユキオがユリーカタワーにユリーカストーンを押し込んだ。もう脚立は必要ない。これで、残るユリーカストーンはたったの2個だ。
「やったな」
「ああ」
 喜ぶ男2人組みの横で、スズカは黙っていた。

「全く信じられない!」
 ミオは怒りながら乾パンを貪り食っていた。
「集めたダイヤが消えちゃうなんて! ひどすぎるわ! 1個ぐらい残してくれてもいいじゃない! 苦労したのに!!」
「…ミッションに負けたことよりも、ダイヤが消えた事を悔しがってる…」
「そっちの方が信じられないバド…」

「も〜、信じられない!」
 スズカは怒りながらステーキを貪り食っていた。
「まさか集めたダイヤがユリーカストーンになっちゃうなんて!! ひどい、ひどすぎる!!」
「別にいいだろ、スズカ。ダイヤモンドなんて炭素の固まりなんだから」
「そうそう、そうですよ」とピグルも言った。「ダイヤがたくさんあったって、お腹は膨れませんからね」
「そう言う問題じゃないの! ああ、豪華な食事よりもダイヤが良かった…」
 深い深いため息とともに、スズカは呟いた。
「嗚呼、ダイヤ〜〜・・・」

 瞳に埋め込まれた青い宝石を怪しげに輝かせ、ユリーカタワーはスズカの恨み節を聞いていた。

⇒Next MISSION「恐怖の森を突破せよ!」

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