おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#24「シャボン玉の秘密!」

「おかわり〜!」
 とトモルが言った。「たくさん食べてくださいね」と言いながら、ベアロンがお皿をトモルの前に置いた。これで3皿目。
「まだ食べるの?」
「ああ! 次はいよいよ最後のミッション。今のうちに腹ごしらえしておかないとな」
「だからと言って、よくこんな物そんなに食べられるバド」
 前回負けたレッドチームの食事は、味のない宇宙食のような乾パン。食べれば食べるほど吐き気を催す。
「10個目のユリーカストーンはユキオ達が取ったからゲームが完成しなかった。だから20個目のユリーカストーンはオレ達が取って、ゲームを完成させるんだ!」

 一方のブルーチームのテーブルには、豪華な食事が並んでいた。「おいしそ〜!」とスズカが目をキラキラさせ、「いただきます」と食べ始めた。
「みんな、次はいよいよ最後のミッションだ」とユキオ。「絶対に、俺たちがミッションをクリアするんだ!」
「…本当かな?」
「何がよ、コータ」
「本当に次が最後のミッションなのかな? だって、10個目のユリーカストーンをはめた時だって、ゲームは完成しなかったじゃないか」
 その理由は今でも原因はわかっていない。2人の博士は独自に調べているようだが、いまだ雲を掴むような状態だ。
「だが、俺たちに出来るのは次のミッションを全力でクリアする事だけだ!」
「ユキオの言うとおりだ」
 ガリレイが言うと、スズカも続いた。
「そうよ。ミオ達なんかに負けられないわ!」
 強気な事をスズカは言ったが、スズカの意識は料理の方に集中していた。今日のデザートは、甘そうな星型お菓子、コンペイトウ。スズカの好物だった。

 そしてついに、最後のミッションが始まった。23回目の声が、空に響いた。
≪エリアA6へ出動せよ。エリアA6へ出動せよ≫
「来たな!」
 ユキオ達が立ち上がる。
「行くぞ、みんな!」
「おう!」
「あ、ま、待ってよ!」
 まだ料理を食べ終わっていない。スズカは食べ物を口に放り込み、コンペイトウをハンカチに包むとスカートのポケットに仕舞った。

 空間に亀裂が入り、ブルーペガサスが飛び出した。すぐ近くから、レッドペガサスも飛び出す。
「来たな、トモル!」
「ユキオ、今度は負けないぜ!」
 窓越しに互いの顔が見えた。
「なんだろ、あれ」
 ダイが下を見て言った。
 ペガサスが現れたのは、広い森の上空だった。その森の中には、ところどころ開けた場所がある。その内の1つの空中に、赤と青のリングが浮かんでいた。
「行ってみよう」
 ガリレオがレッドペガサスをリングに近づけると、突然ペガサスの動きが止まった。見えない壁に激突したような感じだ。
 操縦桿の向こうからモニターが現れ、模式図が表示される。2つのリングをドームが覆い、ペガサスがそこに当たっている様子が表れた。
「どうやら、このエリアは特殊なバリアで覆われているようだ。ペガサスでこれ以上リングに近づく事はできない」
「おおっ、なんだかすげえワクワクして来た! 最後のミッション、よっぽど難しいに違いないぜ!」
 ジャン! と音がして、モニター画面に「!」が表示される。
「ユリーカ情報だわ!」
 ミオが言うと、画面が切り替わった。
 丸がいくつか表示され、互いに引っ張り合っている様子が描かれている。
≪水の分子は、互いに引き合い集まろうとする表面張力がある。そのため、泡状になってもすぐ泡は壊れてしまう。
 水に石鹸を溶かすと何故シャボン玉が出来るのか。
 石鹸の成分である界面活性剤には、水に馴染みやすい部分と油に馴染みやすい部分がある。界面活性剤が水に溶けると、油に馴染みやすい部分が水の表面張力を小さくするため、薄い膜が作られ、シャボン玉ができる≫
「そーなんだ!」
 そして最後のミッション…「よっぽど難しい」最後のミッションが、告げられた。
≪ミッションナンバー23。空中のリングに、シャボン玉をはめよ≫
「……リングにシャボン玉?」
「意外と、簡単そうなミッションだな」
「拍子抜けしたバド」
「う〜ん…そうだと良いんだが…」
 ガリレオが妙に不安がっている。ガリレイもそうだった。「どうしたんですか?」とユキオが聞いた。
「ああ、実は…」
 最後のミッションが、そんな簡単なはずはないのだ。
「ペガサスには、水も石鹸も積んでないのだ」
 ユリーカタワーは、よくわかっていた。いや、ただの偶然かもしれないが。
「ええ〜〜っ!? どうしてそのぐらい積んでないんだよ!」
「ど、どうしてと言われても…困っちゃうんだよなぁ」
「水も石鹸も無くて、どうやってシャボン玉を作るのよ!」
「そう言われても、困っちゃうんだよなぁ…」
 無いものは無い。そして無いならば、作るしかない。先人たちはそうやって文明を発展させてきたのだ。
「水はどこかで汲んでくるとして…石鹸なんてどうやって作るのよ?」
「ボク、前にお父さんに聞いたことあるよ」と、ダイが言った。「油と木の灰を混ぜて煮ると、石鹸になるんだって」
「ホントか!?」
「それじゃあ、油の出る木を見つければいいのね!」
「オッケー! それなら早速出発しようぜ!」
「ああ」
 ガリレオが操縦桿を引いて、ペガサスを発進させた。
「レッドペガサスが出発したでチュワン!」
 外を見ながら、チワワンが騒ぐ。
「も〜、なにもたもたしてるのよ! 早く調べなさいよ!」
「急かさないでくれよぉ」
 ピ、ピ、ピ、とコータがインフォギアで石鹸について調べている。石鹸とは界面活性剤の事で……汚れを落とすのは水と油が……。そんな事はどうでも良い。石鹸の作り方が知りたい。
「あった! ムクロジの木を見つければ良いんだ!」
「ムクロジの木?」
「これだよ!」
 コータがユキオに、インフォギアの画面を見せる。太い幹の上に生い茂った緑の葉っぱがある木の写真。果実の写真も写っている。丸い茶色の木の実だ。
「『ムクロジの実には、サポニンという天然の界面活性剤が含まれており、それを水に溶かすと泡立ち、石鹸の代わりになる』だって!」
「じゃあ、そのムク…ムク…」
「ム・ク・ロ・ジの木!」
「そのムクなんとかを見つければいいのね!」
「そうとわかれば、早速行くでチュワン!」
「出発するぞ!」
 ガリレイも操縦桿を引いて、ペガサスを発進させた。

「川だわ!」
 先に水を発見したのは、レッドチームだった。ミオが眼下に川を発見し、早速付近に着陸した。
 レッドペガサスから水筒を取り出して、川の水を溜める。思えばこの水筒、砂漠で活躍した物だ。あの時は水を積んでいたのに、何故今回は積んでいないのだろうか。
「よし、それだけ溜めれば十分だろう」
「あとは油だな!」
 再びレッドペガサスに乗り込むと、垂直上昇して油を探した。

「あれ、ムクロジの木じゃないか?」
 コータが目ざとく木を発見した。ブルーペガサスで近づいてみると、確かにそのとおりだ。早速着陸し、実を取ることにした。
 木登りの一番得意なユキオがムクロジの木に登り、実を探す。ちょうど実がなる時期だったのか、たくさんの実がついている。
「ユキオー! 落としていいわよー!」
 スズカが号令をかけたので、ユキオは見つけた実を片っ端から落としていった。スズカ達で手分けして実を拾い集め、ガリレイの持っているボールに入れていった。
 だいたい集まったところで、ユキオが木から下りてきた。これで界面活性剤は集まった。あとは水だ。
「あっちから何か聞こえるでチュワン!」
 さすが犬。チワワンが先頭きって森の中へ入っていく。
「湧き水だ」
 崖の隙間から、水が流れ出していた。
「これで水も手に入ったわね」
「ああ、急そごう」
 水筒に水を入れると、急いでブルーペガサスに乗り込み、リングへと帰った。

 リングに到着すると、まだレッドペガサスの姿は無い。こちらが早かったようだ。水とムクロジの実を持ってペガサスを降り、リングの下まで走る。
「ところで、ストローは?」
「ストロー?」
「ストローが無かったら、シャボン玉なんて作れないわよ」
「…あ、そうか」
「あれを使おう」
 ユキオが指差した先には、笹が生えていた。笹は中空。きっとストローとして使えるはずだ。
 水筒の水をボールに移し、ムクロジの実の皮を剥いて中に入れる。手でしばらくかき混ぜてから、笹の茎をつけてみた。これでシャボン玉が出来るか? スズカが茎をくわえて息を吹いてみた。
スーーー
 空気の抜ける音がして、シャボン玉は全く出来ない。
「スズカ、慎重にやれって」
「わかってるわよ」
 もう一度息を吹き込んでみるが、やはり出来ない。
「ムクロジの実が足りないのか?」
 ユキオはさらに実を剥いて、中に入れてかき混ぜてみる。しかし、それでもやはりシャボン玉は出来ない。もっと入れて混ぜてみたが、よく見ると全く泡立つ様子が無い。ムクロジの実が、石鹸として機能していないのだ。
「シャボン玉なんて出来ないわよ!」
 スズカの訴えに、ユキオは唇を噛んだ。
「何故なんだ…っ!」

 レッドペガサスは、いまだに油の出る木を探していた。しかし、よく考えると油が出る木というのはどんな木なのだろうか。
「そんなの無いバド! 他の方法を考えるバド!」
 と言った時、ダイが油の出る木を見つけた。
「あれそうじゃない?」
 ガリレオがダイの指差す方を見た。
「オリーブの木か。うん、油が出るに違いない」
 早速、着陸した。
 オリーブから油を取るには、実をすり潰して放置すればよい。トモルはオリーブの実を石ですり潰し、ダイ達で周りの木を集めて燃やし始めた。
 石鹸が出来るには、もうしばらく時間がかかりそうだ。

 ブルーチームは、まだ悩んでいた。ムクロジの実では石鹸が出来ないのだろうか。
「もしかして!」
 ガリレイが思いつき、水を持ってペガサスに戻った。ペガサス内の装置で水について調べると、「やっぱりそうか!」と言った。
「どうしたの、ガリレイ博士」
「あの水は硬水だったんだ!」
「硬水?」
「ああ。自然の湧き水は、湧き出る地質によって様々な物を溶かしている。代表的なミネラルであるカルシウムやマグネシウムを多く含んだものを硬水、少ししか含まないものを軟水と言う。硬水では、界面活性剤が水の分子と結びつくところに、カルシウムやマグネシウムが先に結びついているため、界面活性剤が水と結びつきにくい。つまり、石鹸として機能しないと言うことだ」
「それじゃあ、別な水を探せってこと?」
「でも、そんな時間無いでチュワン」
「蒸留したらどうかな?」
「蒸留?」
「水を一度蒸発させて、水に含まれた不純物を取り出す操作の事だよ」
「ああ、おそらくそれでいいだろう」
 ガリレイが言ったので、早速実行の運びとなった。
 ブルーペガサスから蒸留装置を取り出す。大きな箱から小さな管が出て、傍らのビンに繋がっている。
「これが蒸留装置?」
「そうだ。ここに水を入れると内部で熱せられ水蒸気になる。それがこの管を通る間に冷やされて、このビンの中に水として溜まるんだ」
「どうしてこんなものを積んでるの?」
「これさえあれば、たとえどんなところに不時着しようとも、飲み水だけは確保できるからな」
「それだったら、初めから水を積んどけばいいのに」
「う……」
 スズカを諭すように、ガリレイに同情するように、コータとユキオがため息をついた。
 とにかく、蒸留だ。コータが装置の中に水を入れると、ガリレイが電源を入れた。装置がうなりを上げて稼動し始めた。
 水が出来るには、もうしばらく時間がかかりそうだ。

 オリーブオイルと灰を混ぜて煮込み、石鹸らしきものが出来上がった。水と混ぜると、確かに泡立つ。
「よし、ミオ!」
「ええ!」
 近くから笹の茎を取ってきて、つけて吹いてみる。茎の先端で、虹色の球が膨らむ。シャボン玉の完成だ。
「やったぜ! 博士、早く戻ろう!」
「ああ」
 全員急いでレッドペガサスに乗り込むと、リングに帰って行った。
 リングに戻ると、ユキオ達が何か作業している。蒸留水を作っているのだが、トモル達の知る由はない。
「ユキオ達がいるぞ!」
「もしかして、もうミッションをクリアしちゃったのかな?」
「でも、まだメッセージは無いわ」
「じゃあ、間に合ったんだな!」
 口々に言いながら、レッドペガサスを降りる。
「ああ、ミオ達が来ちゃった! ガリレイ博士、早く!」
「焦っても水は出来ん!」
 管からわずかに水滴が垂れているが、シャボン玉を作るには全然足りない。このままでは負けてしまう!
「ユキオ! このミッションをクリアするのはオレ達だ!」
 ミオは笹の茎をオリーブオイル液につけ、息を吹き込む。ユキオ達の見ている前で、シャボン玉が膨らんでいく。手のひらサイズまで膨らんだところで、ミオはシャボン玉を離した。シャボン玉はそのままゆっくりと上っていく。空中に浮かんだ赤いリング目指して、ゆっくりと上っていく。
「いっけ〜っ!」
 トモルが叫ぶ。全員が固唾を呑んでシャボン玉を目で追う。8人と2匹の視線を一身に浴びて、シャボン玉は赤いリングの中を通り抜けた。
「やった〜!」
「ミッションクリアだ!」
「そ、そんな…」
「終わりだ! 何もかも終わりだ!」
 ガリレイが叫んで地団太を踏んだ。
「これでゲームは壊れる! もう、元の世界には帰れない!」
 トモル達の反応は、もちろん正反対だった。これでゲームは完成する! 元の世界に帰れる!
「ちょっと待って!」
 しかし、ミオが冷静に言った。
「おかしいわ。ミッションクリアのメッセージが無い!」
「あれ、本当だ…」
「ガリレオ博士、どういうこと?」
「どういうことと言われても、困っちゃうんだよなぁ…」
 まさか、本当に壊れたのか? それとも、いつかのように誤動作を?
「わかったぞ!」
 ユキオが叫んだ。全員の視線が、今度はユキオに注がれた。ユキオはニヤリと笑って、トモル達に宣言した。
「ミッションは『空中のリングにシャボン玉をはめよ』。シャボン玉を『通せ』とは言っていない。つまり、あのリングにはまる大きさのシャボン玉を作らなければ、クリアにはならないんだ!」
「あっ!」
「みんな、まだ負けちゃいない! このミッションをクリアするのは俺たちだ!」
 戦いのゴングがなった。本当の勝負はこれからだ。
 蒸留水は、ビンの3分の1ほど溜まった。それを器に移して、ムクロジの実を混ぜた。今度は確かに泡立つ。成功だ。スズカが早速茎をつけて息を吹いた。シャボン玉が成長していく。
「頑張れスズカ!」
「行け、ミオ!」
 男達の応援に励まされ、ミオとスズカが慎重に、そして素早くシャボン玉を膨らませていく。
パンッ、パンッ
 しかし、リングの大きさになる前にシャボン玉は割れてしまった。
「ミオ、もう1回だ!」
「え、ええ」
 茎につけて膨らます。だがまたしても割れてしまう。
「何やってんだよミオ!」
「あんな大きさになるまでシャボン玉を膨らませられるわけ無いでしょ! 文句があるなら自分でやりなさいよ!」
「う…」
 確かにそうだ。リングはかなり大きい。最初にミオが膨らませたシャボン玉の、3倍ほどの大きさがありそうだ。
「じゃあどうすれば…」
「粘り気だ!」
「粘り気?」
「シャボン玉に粘り気があれば、割れずに大きくする事が出来るはずだ」
「どうやって粘り気を作るの?」
「調べてみるよ」
 ダイとコータが同時にインフォギアを開き、粘り気をつける方法を調べた。そして同時に「あった!」と叫んだ。
「『シャボン玉に粘り気を出すには、砂糖や片栗粉、蜂蜜を入れればよい』だって!」
 コータが言うと、ユキオは腕組をして、
「だが、そんなものどこにあるんだ?」
「あるわ!」
 スズカがスカートのポケットに手を突っ込んだ。
「さっきのご飯についてた、デザートのコンペイトウよ!」
 潰してしまうのは惜しいが、背に腹は代えられない。そばに落ちてた石を拾うと、ユキオがコンペイトウを砕き始めた。
「あ〜、あっちはもう作業を始めたよ! ボク達もなんとかしないと負けちゃうよ!」
「とにかく、砂糖か片栗粉か蜂蜜を探しに行こう!」
 トモル達はペガサスに乗り込むと、すぐに出発した。
 コンペイトウを砕き終えたユキオは、粉を少量、ムクロジの実入り水に入れ、かき混ぜた。スズカがそれを茎につけて、吹いてみる。シャボン玉は確かに大きく膨らんだが、十分な大きさになる前に割れてしまった。
「もっと入れてみよう」
 砂糖をさらに注ぎ足して、再び茎につけて吹く。
スーーー
 空気の抜ける音がした。
「う〜む、砂糖の入れすぎは逆効果、と言うことか…」
「あ〜もう! どうしたら良いのよ!」
 スズカが頭を抱えた。

「砂糖、片栗、蜂蜜。砂糖、片栗、蜂蜜」
 ブツブツと念仏のように唱えながら、レッドペガサスは空を飛んでいた。トモル達が窓から必死に探すが、砂糖も片栗も蜂蜜も見つからない。
「いくら探したって、コンペイトウなんか落ちてないバド」
「片栗粉だって蜂蜜だって良いのよ。どっかにはあるわよ、きっと」
「あ、あれ蜂の巣じゃないか?」
 トモルが外を指差した。大きな木の枝に、「うわ、おっき〜!」とダイが声を上げるほど大きな蜂の巣がぶら下がっている。
「きっと、あの中に蜂蜜があるわね!」
「誰が取りに良くバド?」
 バドバドが素朴な疑問を投げかける。
「蜂がうようよいるバド。危ないバド」
 そう言う危険な仕事をやる人間は決まっている。いや、人間じゃなくてペンギンは決まっている。
「……バド?」

 レッドペガサスの底が開いて、ロボットアームが顔を出す。それで蜂の巣を取ると、中から蜂蜜を抽出した。
「蜂蜜だぁ」子ども達は少しだけ手にとって舐めた。「あま〜い!」
「やれやれ。一時はどうなるかと思ったバド」
「急いで戻ろう」
 レッドペガサスが、再び帰って行った。

「こんなもんでいいだろう」
 ガリレイがボールの水に砂糖を加えた。試しに茎で膨らますと、大きく膨らむ膨らむ。
「こっちも用意できました!」
 ユキオが手に輪を持って走ってきた。植物のつるで作ったらしい大きな輪で、取っ手もついている。
「何それ?」
「こうするのさ」
 ユキオはその輪をムクロジ液につけると、輪の内側に膜が張られた。それを頭の上から一気に振り下ろすと、見事、大きなシャボン玉が現れた。
「な。こっちの方が大きなシャボン玉を効率的に作れるだろ」
「なるほど、スローインの要領か」
「それじゃああたしは」
 スズカが輪をムクロジ液につけると、
「華麗に新体操風で!」
 クルリと一回転すると、華麗な大きなシャボン玉が出来上がった。
「いいぞ、みんな! 新体操でもラジオ体操でも何でも良い! どんどん作れ!」
 ユキオが作った輪は3つ。子ども達3人で、次々と大きなシャボン玉を作った。
「作れ作れ! 数上げればどれかははまるだろ!」
 ちょうどそこにレッドペガサスも帰って来た。ミオが笹の茎の先端を少し切り、3本足を作る。
「何やってるんだ?」
「こうすれば、もっと大きなシャボン玉が作れるでしょ?」
 それをオリーブオイル液につけて膨らます。
「もう遅いわよ!」
 スズカの高笑いが聞こえた。
「まだわからないさ!」
「い〜え、あたし達の勝ちよ! 見なさい!」
 スズカが空中を指差した。巨大なシャボン玉がリングに……はまる前に、弾けて消えた。
「ウソ!」
「ラッキー! ミオ、急げ!」
「これでどう!?」
 大きく膨らんだところで、ミオはシャボン玉を切り離した。スズカ達が作ったのと同じ大きさのシャボン玉が、リング目指して上っていくが……やはり途中で弾けて消えた。
「急げ! まだ勝機はあるぞ!」
「こっちもどんどん作るんだ!」
 両博士が叫ぶ。子ども達が次々と大きなシャボン玉を作っては飛ばす。だが飛んでは弾け、無に散った。
「どうして? どうして途中で割れちゃうのよ!」
「そうか、重力だ! シャボン玉の膜は、重力によって下に引っ張られる。初めは全体の厚さが等しくとも、時間が経つと液が下に集まり、上の膜が薄くなって穴が空くんだ」
「と言う事は、穴が空く前にリングに到達させなきゃいけないわけね?」
「だけどあんな大きなシャボン玉、そんなに早く上らないよ」
 コータの指摘はもっともだ。そもそも、だからこそ途中で割れるのだ。ならば、シャボン玉を早く上昇させる方法を考えなければ。
「あれを使おう!」
 言うと同時に、ユキオが走り出した。すぐ近くに、おあつらえ向きに大きな葉っぱが生えている。あの葉っぱをウチワの要領であおげば、シャボン玉を早く上昇させられるはずだ。
 コータとガリレイが葉っぱを持ち、ユキオとスズカがシャボン玉を作る。宙に浮かんだ巨大なシャボン玉を、コータとガリレイが下から仰いだ。シャボン玉は形を大きく歪ませて、しかし割れることなく、加速していく。
「お願い、届いて…!」
 スズカは両手を合わせて祈ったが、その祈りは天に届かなかった。
「くそっ、もう一回だ!」
 一方のトモル達は、子ども達3人で懲りずにシャボン玉を膨らませていた。最初に作ったのと同じ程度の小さなシャボン玉をたくさん作り、次々と空に飛ばす。
「見るでチュワン! 向こうのシャボン玉が、リングに届きそうでチュワン!」
「ふん、だけどあんな小さなシャボン玉じゃ、意味無いわよ!」
 スズカは高をくくって、再び輪にムクロジ液をつけた。
「待て、スズカ。もしかしてあいつら…」
「え?」
 顔を上げて、相手のシャボン玉を見た。3つのシャボン玉が、同時にリングに向かっている。
「まさか…!」
 リングの大きさは、最初に作ったシャボン玉の3倍ほどあった。トモル達の3つのシャボン玉はリングの直前でぶつかり合い、そして1つにまとまった!
「いっけ〜〜っ!」
 大きくなったシャボン玉が、そのままリングに入っていく。そしてリングにすっぽりはまると、白く輝き始めた。
≪ミッション・クリア≫
「やった〜〜っ!」
「そんな…!」
 シャボン玉は青く輝き、その中からユリーカストーンが現れた。これで最後。これが最後。20個目のユリーカストーン。
「博士! 早くゲームを完成させようぜ!」
 トモル、ミオ、ダイ、バドバド、ガリレオがレッドペガサスに乗り込むと、ペガサスが光り輝き、パッと消えた。

 再びレッドペガサスが現れたのは、19個のユリーカストーンを納めたユリーカタワーの前だった。
「これでいよいよ、元の世界に帰れるのね!」とミオ。
「トモル、早く入れてよ!」とダイ。
「それじゃあ、行くぞ!」とトモル。
「待て!」とユキオ。トモル達が振り返ると、ブルーチームの面々もそこにいた。
「そのユリーカストーンは、俺たちが入れないとゲームが完成しないんだ!」
「何言ってるんだ! 10個目のユリーカストーンを入れた時のこと、忘れたのかよ! オレ達が入れないと、ゲームは完成しないんだ!」
「止めろ、トモル!」
 トモルが、ユリーカストーンをタワーに納めた。
 ユリーカストーンが光り輝き、ユリーカタワーが正面を向く。ユリーカタワーの目も、光り輝いている。
「タワーが正面を向いた…これでゲームが完成したのかしら?」
 一体、何が起こるのか。10個目のユリーカストーンを入れた時は、地震とともにタワーが伸びた。今度は?
「…………」
 遠くで鳥の鳴く声がした。静かだ。そして静か過ぎる。
「…何も起こらないバド」
 ユリーカストーンが輝きを失い、ユリーカタワーは沈黙した。
「ど、どうしちゃったの…?」
「まさか、ゲームが壊れたんじゃ…」
「やっぱり俺たちが入れないとダメだったんだ!」
「そんな事はない! オレ達がストーンを入れた事で、ゲームは完成したんだ! そうだろ、ガリレオ博士!」
「そ、そう言われても…困っちゃうんだよなぁ」
「そんな…博士!」
「ガリレイ博士…」
 スズカがガリレイに意見を求めた。ガリレイは顔を強張らせたまま、
「わからん! 何故何も起こらないのか、さっぱりわからん!」
 叫んだ。何が起こったのか、それとも何も起こっていないのか。
「おい! なんで何も起こらないんだよ!」
 トモルがユリーカタワーに怒鳴った。
「何とか言ったらどうなんだよ! おい! ユリーカタワー!!」

 頑なに沈黙を守るユリーカタワーは、いつも通りの無表情だった。

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