摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜
容疑者リスト
桜井 梅木(さくらい うめき)…【長野県警警視】
布川 茉莉(ぬのかわ まり)…【旅行客】
渋谷 理香子(しぶや りかこ)…【旅行客】

摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜真相編

 ガチャッとドアが開くと、布川と渋谷はハッと驚いてドアを見た。あの、『警察犬』少年が、片眉を上げ、頭を掻きながら部屋に入ってきた。「いいのかな…」ふと、そんなことを呟いた。その横で、女刑事がニヤニヤと笑っている。
桜井「さ・て・と。御二人さん、心の準備はいいですか?」
渋谷「こ、心の準備…?」
 渋谷も布川も、わけのわからない顔をして、桜井を見た。
桜井「どうも、この少年がこの事件の真相にたどり着いたようです」
布川「えっ…!?」
 2人とも、息を呑んで、固まった。そして、お互いチラリと視線を合わせた。桜井は気にせず続ける。
桜井「小癪にも、少年は個別にわたしにその真相の全ては教えてはくれませんでしたが…ね」
 桜井は真解を睨みつけた。もっとも、実際には真解は教えようとしたのだが、また手柄を横取りされると思った真実が止めたのだ。
桜井「そう言うわけですから…これからちょっと、この少年の話を聞いてください」
2人「は…はい…」
 2人は、同時に返事をした。

真解「そうですね…。とりあえず、現場検証をした結果を、お知らせしましょうか」
 真解は、ソファに座り込みながら、言った。真実もその横に座り、桜井は最初にこの部屋に入った時、真解が座った椅子に座り込んだ。
真解「現場検証をした結果、あの部屋からは計3種類の指紋が出てきました。布川さんと、渋谷さん、そして堺さんの3人分の指紋です。これは、当然ですよね?」
布川「え、ええ…」
真解「ただし、出てきた『場所』が問題です。堺さんの指紋の場合、堺さんのショルダーバッグや、ベッドの横にあるサイドテーブルから主に検出されました。しかし…渋谷さん」
 瞬間、渋谷がビクッとした。が、真解は構わず続ける。
真解「あなたの指紋が、異常なところから発見されました」
渋谷「ど…どこです…か?」
真解「…あなた達2人のどちらかが犯人である可能性が強い事は、先ほど言いましたね? そして、あの部屋が荒らされているのは、強盗殺人に見せかける偽装だと言うことも。そして渋谷さん。あなたの指紋は、通常ホテルの部屋に数分しかいなかったのならばつかないような、クローゼットの奥や、ベッドのサイドテーブルの引き出しの奥、その他多くの場所から発見されたんです」
渋谷「!」
真解「渋谷さん、これはあなたが部屋を荒らした証拠です。犯人は…あなたですね?」
渋谷「な…。ちょ、ちょっと待ってください!」
布川「そ、そうです!」
 布川も慌てて身を乗り出した。
布川「り、理香子は、あの部屋に来た時、部屋中を見たんです。それはもう、色々な所を…」
渋谷「え、ええ。そうです。わたし、そういうのが癖なんです」
 真解は、黙ってうなずいた。
真解「十分、筋の通った話ですね。事実、うちの真実もそうです」
 真解は、真実を指差した。
真解「ですから、あの指紋はかなり強力な状況証拠にはなりますが、決定的な証拠にはならない…」
渋谷「でしょう? なのに、何故わたしが犯人だと…」
布川「そうよ! それに、理香子はずっとわたしと一緒に行動してたのよ!? いったい、いつ殺せるって言うのよ!!」
真解「まぁ、確かに…常識的に考えれば、不可能な話です」
渋谷「そ、そうでしょう? そうよね??」
真解「『常識的に考えれば』の話ですが…」
渋谷「! ど、どういう意味…?」
真解「全ては、単純な事だったんです。しかし、単純すぎて逆にわからなかったんですよ。ですが、証拠はその事実を物語っています」
渋谷「どんな証拠が、どんな事実を物語ってるの?」
 真解は、小さく深呼吸した。ここから先は、あの桜井が作り上げた『証拠』を武器にしなければならない。真解にとって、これは初めての経験だ。一応、桜井の作った『証拠』以外の手がかりは、もちろんある。だが、犯行を証明する証拠は、あの『証拠』しかないのだ。もしも顔に出たら…何もかも、おしまいだ。
真解「犯人は…2人、いたんですよ」
2人「!!」
 渋谷と布川は、慌てて顔を見合わせた。2人!?
真解「そうです…犯人は2人…。渋谷 理香子さんと…布川 茉莉さん。この事件は、あなた達2人の犯行だったんです!」
 静寂が部屋に満ちた。
 2人は顔を見合わせたまま固まり、微動だにしなかった。
 そして、布川が口を開いた。
布川「な、なにを根拠にそんな…! 確かに、わたし達2人が犯人なら、こんな事件、一発で解決します! でも、だからって…!」
真解「もちろん、根拠も証拠もあります」
布川「!」
真解「凶器のベルトから……布川さん。あなたの指紋が発見されました」
布川「!?」
真解「あなたはさっき、ボクが『堺さんに触れましたか?』と聞いた時、『わたしは怖くて触れませんでした…』と言いましたね? では、何故触れていないはずの凶器に、あなたの指紋がついているのでしょうか?」
布川「〜〜〜」
真解「しかし、ここで話は簡単にはなりません。もしも犯人が布川さん、あなたならば、部屋中にあなたの指紋がついていなければならない。しかし、布川さんの指紋は大して発見されませんでした。それに対し、渋谷さんの指紋は部屋のいたるところから発見された…。つまり、部屋を荒らしたのは渋谷さん、つまり犯人は渋谷さんなのです。が、そうなると凶器の指紋が矛盾します。渋谷さんの指紋はちゃんと凶器についていましたが、それは揺すった時の物と思われる形についていました。つまり、握り締めていないのです」
 そこで、真解は2人の反応を見た。2人は、目を泳がせている。真解は続けた。
真解「この矛盾を解決する答えは簡単です。あなた達2人が、共犯だからです。布川さん、あなたが堺さんを絞め殺し、渋谷さん、あなたが部屋を荒らしたんです。そうすれば、凶器には布川さんの指紋が残り、部屋には渋谷さんの指紋が残る…」
――本当は…。
 真解は一気に言ってから、冷や汗混じりに思った。
――本当は、凶器から布川さんの指紋は発見されていない。被害者の指紋だけが残っている所を見ると、おそらく手袋をはめて犯行に臨んだんだろう。しかし、それでもこの推理は成り立つ。もしも犯人が手袋をして被害者を絞め殺したのならば、部屋を荒らしたときに部屋中に指紋がつくのは矛盾している。つまり、渋谷さんの指紋が検出されるハズが無いんだ。凶器には指紋が無く、部屋には指紋がある…。この矛盾を解決するためには、犯人が複数いると考えるのが妥当なんだ。
 殺人を犯すときは手袋をはめ、部屋を荒らすときは手袋を脱ぐ。そんな奇妙な強盗殺人犯がいたら、一度お目にかかってみたい。
――『凶器に指紋が残っていなかったが、部屋には指紋が残っていた』。この推理の根拠はこれだが、さすがに状況証拠にはなっても、決定的な物的証拠にはならない…。
 そこで、桜井警視が証拠を作り上げた。『凶器に残された指紋』と言う証拠を…。
真解「さぁ、どうですか? あなた達がボクの推理から逃げる方法はただ1つ。『相手を蹴落とす』…これだけです。布川さん犯人説も、渋谷さん犯人説も、妥当な状況証拠はあるのですから。布川さんは凶器から指紋が発見され、渋谷さんは部屋中から指紋が発見された。今すぐここで、『わたしは犯人ではない。犯人は、こいつだ』と言えば…もうそれ以上、ボクらには追求する事は出来ません。ただひたすら、その言葉を信じる以外、なす術はありません…」
 真解は口を閉ざし、2人の出方を待った。2人は、うつむいたまま視線をチラリチラリと合わせた。
布川「ち……違う…!」
 先に口を開いたのは、布川だった。
布川「違います! わ、わた…『わたし達』は、犯人じゃない!! 犯人は、他にいます!!」
 …それは、予想された答えだった。真解はニヤリと笑って、口を開いた。
真解「かかりましたね、罠に」
布川「!?」
真解「あなたは、先ほどの事情聴取でこう言った。『部屋を出たとき、12時20分ぐらいだった』と。これは、ホテルの時計を見たから間違いないそうですね?」
布川「そ、それが…?」
真解「あり得ないんですよ。ボクらも、あなた達と同じレストランへ、お昼ご飯を食べに行きました。しかし、レストランについたとき、あなた達はレストランにはいなく、ボクらの後にやって来ました」
渋谷「そ、それは、あなた達が12時20分前にレストランへ行ったからでは…?」
真解「違います。ボクらは12時14分に部屋に着き、それから約10分後…12時25分に、部屋を出たんです。あなた達が部屋を出た、5分も後に…。そして、布川さん、あなたは確かこう言った。部屋を出た後、レストランへ直行した、と…。レストランへ行くには、一本道しかない。ここは4階ですから、普通はあまり階段は使わない。事実、あなた達はここへ来るときはエレベーターを使った。通常なら、降りる時もエレベーターを使うはずです。つまり、ボクらより先に部屋を出たのならば、ボクらより先にレストランについていなければならないのです」
布川「……っ」
真解「しかし…あなた達は、ボクらがレストランについてから、5分ほどしてやって来た…。つまり、あなた達が言った時間よりも、10分も遅れているわけです。この空白の10分…これは、あなた達が殺人を犯していた時間なのです。違いますか…?」
渋谷「ち…違う…っ!」
真解「ならば、この10分間、あなた達が何をやっていたか、教えてください。『勘違い』ではすまされませんよ? 布川さん、あなたは『時計を見た』と言った。ならば、10分ものズレが生じるわけ、無いのですから!」
布川「違う!」
 そして、2人は同時に叫んだ。
「『わたし』は犯人じゃない! 犯人は、こいつだ!!」
 そして、ギョッとして顔を見合わせ、2人はまた、叫んだ。
――裏切ったな!!――

真実「と、言う事件だったわけ」
 真実はお菓子を口に放り投げた。
真解「この最後の一言が決定的な証拠となり、2人は逮捕され、いま警察が起訴の準備中だそうだ。警察署の方でも罪を認めてるみたいだし、裁判もそう長引かないだろうよ」
謎事「すげぇ事件だったなぁ、それは」
謎「その後、その桜井警視は? 彼女の性格からして、相当悔しがっていたと思いますが?」
真実「そう! それはもう、すごかったわよ!! 『わたしがあんたたちに協力してやったから、解決できたんだ』とか、『わたしが証拠を作ってやったから、助かったんだ』とか言って…。ホント、プライドの高い人だったわ」
謎事「オレは、最後の2人のセリフの方が、気になるけどな…」
真解「『裏切ったな』…か。結局は、双方とも相手を蹴落とそうと思ったわけだ」
真実「ホント、女って怖いわねぇ」
「お前も女だろ」真解はそう突っ込みを入れ、謎事は「人によるだろ」とメイをチラリと見ながら、言った。
真解「ちなみに、動機は桜井警視が言っていた通りこき使われ続けてきたことによる憎悪だそうだ」
真実「で…」
 真実は、お菓子に伸ばす手を一旦止め、身を乗り出した。
真実「今度は、謎事くんたちの番よ! ささ、どんな事件に出会ったの??」
謎事「オレらか? オレらはすごいぞ? な、メイちゃん」
謎「事件を『すごい』と『平凡』に分類するのはどうかと思いますけど…。まぁ、警察がいなかった、と言う点では、いままでとは違った事件でしたね」
真実「え? どういうこと??」
真解「どこかに、閉じ込められたのか…?」
謎事「そう言う事。ほら、変電所の事故で、この辺一体が停電になるって事故が起こったの、知ってるか?」
真実「あ、知ってる知ってる! 向こうのテレビで見て、すっごい驚いたもん!」
謎事「オレら、それに巻き込まれたんだ」
謎「ええ…。事件が起こったのは、2人が出発したまさにその日…。わたしと謎事くんが、一緒に出かけた時です…」
「それって、やっぱりデート??」真実が、期待の眼差しを2人に向けた。

Countinue

〜舞台裏〜
いやぁ、やっとこさ「2つの事件」の1つ目が解決しました。今回のゲストは、真解くんです!
真解「あれ…? ボクのお母さんじゃないのか?」
ん、まぁ、気分って事で。どっちにしろ2度目のゲストになるんだし。
真解〔いいのか…?〕

時間が押している(?)ので、早速正解者の発表!
全てわかった方>今回はいませんでした。
今回、2名の方から推理メールを頂きましたが、どちらも残念ながら、不正解でした。
しかし、驚いたことに、2人とも全く同じ推理!
なに、カンニング!?(違うと思う

さて、今回の「2つの事件」のきっかけは、「そういえば、最近謎事とメイのラブラブ話が無いなぁ…」と言うところからでした。
真解〔『ラブストーリー』って言えよ…〕
お黙り。と、そう言うわけだから、この「2つの事件」は、言ってみれば次回からがメイン。いままでのはただの前菜です。
真解「サラダってわけか」
その通り。事件以外にも、謎事とメイちゃんのデートシーンも出すので、どうぞ、こうご期待下さい!
謎事「少しでも、メイちゃんとの仲が発展するように頼むぞ、キグロ」
ん、それは無理。
真解「な、なんでだ…?」
だってほら、謎事とメイちゃんがラブラブになっちゃったら、話としてつまんないじゃん。やっぱり、謎事がメイちゃんにふられ続けているからこそ、面白いんであ(強制終了
真解「…あれ? キグロにかかっちゃったよ、強制終了…。どうやって、進めるんだ、舞台裏…。 …では、また次回」

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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