摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜
容疑者リスト( )内は読み、【 】内は役
皆藤 哲也(みなふじ てつや)…【脚本家】
立花 真(たちばな まこと)…【監督】
戸津辺 百合太(とつべ ゆりた)…【子ども俳優】
清泉 悦男(きよいずみ えつお)…【演出家】
飯島 れい子(いいじま れいこ)…【育覧のマネージャー】

摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜事件編

 真解たちは、撮影を遠目に見ていた。少しでもカメラに写るとマズイと言うことで、あまりうかつに近寄れない。10メートルぐらい離れてるだろうか。まぁ、声は少しは聞こえる。
真実「ねぇお兄ちゃん」
 隣から、真実が聞いてきた。
真実「さっき、『土佐舞 亜美』って名前聞いたとき、『そういう事か』って言ってたけど…どういうこと?」
真解「ああ、それ?」
謎「わたしも気になっていたんですが…」
真解「あ〜……」
 真解は虚空を見上げた。そして謎事を見て、
真解「言っていいもんかね、これは」
謎事「さ、さぁなぁ…真解が決めてくれ」
真解「…そうか」
 真解はちょっと考え、
真解「真実。さっきの名前、もう一度言ってみ」
真実「え? 土佐舞 亜美…」
真解「それを、逆から読んでみろ」
真実「逆? トサマイ アミだから…ミ…ア…イ…マ………ミアイ マサト!?」
真解「そう言うこと。ボクの名前だ」
真実「ちょ、ちょっと待って! あれって確か、もめんちゃんが考えた名前のはず…。あ、あの子…わたしのお兄ちゃんの名前を勝手にぃ…っ!!」
真解「だから真実。ボクは真実の物じゃないぞ」
 だがしかし、真実は聞く耳を持たない。
真実「ちょっと待って! って事は、もう1人の…伊井島 明日偵も!?」
真解「イイシマ アステ…奇妙な名前だからな…。何かあってもおかしくは無いな…」
真実「〜〜〜〜っ!!」
 真実が、怒りに燃え上がり始めた。


次の日
 翌日でも、当然撮影は続いている。真解たちが学校についた頃には、既に撮影現場の周囲に人だかりが出来ていた。もちろん、少しでも映ってしまうといけないので、かなり離れた所から見なければいけないようだが。
真実「すごい人ねぇ」
真解「そうだなぁ…。まぁ、人気アイドルだし…」
真実「まさか、その人気アイドルが同じ学校の人物にぞっこんだなんて、誰も思わないだろうね」
真解〔何故か、真実の殺気を感じる…〕
 真解はため息をついて、校舎へ向かった。
 この学校は広い。教室のある校舎がA棟からD棟まで4棟もあり、真解たちの教室のある校舎はC棟だ。そのC棟の入り口のすぐ横に、見慣れぬ倉庫が置いてあった。
謎事「なぁ、あんな所に倉庫なんて、あったか?」
真解「え?」
 一見古い倉庫だが、あれは明らかに古く見せようとしている。おそらく、撮影用のセットだろう。
真実「セットじゃないの?」
謎事「セットなのか? だから、周りにあんなにガラクタが?」
 謎事の言うとおり、倉庫の周りにゴミとも言えるガラクタが散乱している。倉庫としての機能を全く果たしていない。セットだからか?
 と、何やら小太り体型の男がやって来た。演出家の清泉 悦男(きよいずみ えつお)だ。
清泉「ん? お〜い、誰だ!? こんな所に荷物散らかしたのは!?」
 清泉は周囲を見渡し、真解たちと目があった。
清泉「おや? 君たちは?」
真実「あ、わたし達、ここの生徒です」
清泉「ああ、なんだ。そういえば、ここの制服着てるな」
 ちなみに、遊学学園の制服は男子が学ランかブレザーを、女子がセーラー服かブレザーを自分で選ぶ形になっている。オマケにその種類も豊富で、夏服冬服を合わせると、男子は10、女子は15の組み合わせがある。恐ろしい量だ。
清泉「あ、そうだ。なぁ、この荷物散らばしたの、誰だかわかるか?」
真実「あ、いえ…」
清泉「まぁ、そりゃそうだわな」
真解〔じゃぁ聞くなよ〕
清泉「まぁ気にするな」
 清泉はそう言って、倉庫の取っ手に手をかけた。と…。
清泉「あれ?」
真実「どうしたんですか?」
清泉「いや…おかしいな…開かない…」
真解「あ、開かない…?」
 真解はふと、昨日読んだ台本を思い出した。
謎事「鍵がかかってるんじゃないんスか?」
清泉「いや…この倉庫に鍵は無い。何か引っかかってる感じだな…」
 清泉は何度も扉を開けようとした。真解はそれを見て、微妙に違和感を感じた。そして、すぐに気付いた。清泉は、普通はあまり開けようとしない方の扉…2枚あるうちの、奥の扉に手をかけていたのだ。
真実「手前側の…反対側の扉は?」
清泉「これはセットだからな…。間違って開かないように、こっちはあらかじめ接着剤で貼り付けてあるはず…」
真解〔セットって…あの、ドラマのだよな? 確か、ドラマではずれてて開かないって事になっていた…。それを再現するためか〕
 清泉は反対側の扉にも手を掛けた。
清泉「ダメだ、開かない。ちょっと誰か、呼んできてくれないかな?」
真実「あ、はい」
 真実は真解を引っ張って、走り出した。
真解「ちょっと待て真実。なんでボクまで…」
真実「だって1人じゃ寂しいもん」
真解「寂しいって…ほんの数分じゃぁ…」
真実「あ、飯島さん!」
 真解の言葉を無視し、真実は真解を引っ張って飯島の元に駆け寄った。
飯島「あら、昨日の…どうしたの?」
真実「その…小太りのおじさんが、誰かを呼べって…」
飯島「小太り…? メガネ掛けてたら、キヨさんだけど…メガネ掛けてた?」
真実「え? えっと…掛けてなかった気がしますけど」
飯島「じゃ立花(たちばな)さん? ま、どっちでも良いわ。どこ?」
真実「こっち」
 真実はまた走り出した。飯島が慌てて追った。
飯島「あ、キヨさん。どうしたんですか?」
清泉「あ、飯島ちゃん」
真解〔『ちゃん』…?〕
清泉「いやね、扉がどっちも開かなくて」
飯島「え?」
 飯島は思わず駆け寄り、取っ手に手をかけた。
飯島「本当ね…。 …でも何故かしら。デジャ・ビュを感じるわ」
真解「そりゃまぁ…ドラマと同じ演出ですから…」
 真解がポツリとつぶやくと、飯島と清泉は顔を見合わせた。
2人「まさか!?」
清泉「おい、飯島ちゃん! 今すぐ誰か、呼んできてくれ! 男を2人!」
飯島「わかったわ!!」
 飯島は駆け出した。
謎事「おいおい…すごいことになったな」
真解「ああ…確かに」
真実「これで…中に新垣先生が倒れてたら…」
真解〔うちの学校に、新垣なんて先生いたっけ…?〕
 飯島は、2〜3分で、立花 真(たちばな まこと)、戸津辺 百合太(とつべ ゆりた)を連れてきた。
清泉「おいおい…2人とも今、撮影中じゃぁ…」
立花「いや、大丈夫。2度目の朝ごはんを渡して休憩させてきた」
真解〔いいのか…?〕
清泉「それに、確かに戸津辺は男だけど、子どもじゃないか…」
謎事「あ、じゃぁ、オレも手伝うッスよ」
 謎事が名乗りを上げ、4人の男が小さな取っ手に群がった。先ほど清泉が開けようとしていたのは奥の方だが、今は手前の方の取っ手に手を入れている。さすがにきついようだが、何とか全員が取っ手に手をねじ込ませる事に成功した。
真解〔あれじゃぁ、逆に力が入らないだろ…〕
 真解の思いをよそに、作戦は決行された。「いっせーのーせ!」で一気に力を加えた。
清泉「だ、ダメか?」
謎事「いや、もう一度…。いっせーのーせっ!!」
 ペキペキ…という、何かがはがれる音がした。
真実「! 接着剤がはがれてる! もう少し!」
 ペキペキペキ…と、音が連続し…扉が一気に開いた。
4人「うわっ!?」
 4人が一斉に倒れ、山積みになった。
謎事「くっ、苦しい…どいてくれ…」
 一番下になり、もがいている謎事を横目に、真解は中を覗き込んだ。目の前に、真横につっかえ棒がある。どうやら、これが引っかかって扉が開かなかったらしい。
真解〔まさかとは思うが…〕
 真解は中に入り、恐る恐る中を見渡す。と…
真解〔!? だ、誰か倒れてるぞ…〕
 真解は、慌てて近づいた。肩を持って、揺する。…反応が無い。
真実「なになに? 何があるの?」
 真実が入ってきた。
真解「真実! …警察だ」
真実「え?」
真解「もう、完全に冷たくなって、首にはロープ…これは…殺人だ」
真実「え? え? まさか、台本通り…」
真解「ああ。人が、倒れてる。そして…殺されている!」

兜「殺害されたのは皆藤 哲也(みなふじ てつや)さん。脚本家、か」
 兜が、何やら書類のような物を見ながら言う。
兜「死亡推定時刻は昨夜午後10時頃から明朝午前3時頃まで…まぁ、早い話が真夜中ってことだな」
 説明しているのか、独り言を呟いているのか、よくわからない口調だ。
兜「死因はロープで首を締めたことによる窒息死…か」
 そして、兜は顔を上げた。
兜「以上が、とりあえず今わかっていることです」
立花「でも…なんで皆藤が…。なんでアイツ、自殺なんか…」
 立花が消え入りそうな声で言う。兜が「自殺?」と聞き返した。
兜「何故自殺とわかるのです?」
立花「だって刑事さん…密室ですよ? 密室…」
兜「は?」
立花「だから、密室だったんですよ、この倉庫は!」
兜「密室…?」
 兜は、真解に目をやる。真解はそれに気がついて、
真解「ええ、そうです。密室でした」
 と、警官をかき分けながら倉庫に歩み寄った。
真解「ボクらが…いや、謎事たちが開けたのは、こっちの手間側になっている右側の扉。しかし、この扉は接着剤で固定されていて、清泉さん、立花さん、戸津辺くん、謎事の4人で力を合わせて開けたんです」
兜「なるほどな…。だが、何故接着剤などで止めてあるのだ? この扉は。それに、奥の…反対側の扉は?」
立花「手前は、ドラマの撮影の都合上、止めてたんです」
清泉「初めは、わたし1人で開けようとして、そっちの奥側の扉に手をかけたのですが、何かが突っかかったような感じで、開かなかったんです」
兜「カギが掛かっていたのでは無いか?」
清泉「いえ、鍵はありません」
兜「ふむ…」
真実「それで、誰か呼んで来てくれって頼まれたので、わたしが飯島さんを呼んで、飯島さんが立花さんと戸津辺くんを呼んで来たんです」
兜「なるほどな。となるとこれは…」
戸津辺「見立て密室殺人」
 突然、戸津辺が言った。
兜「な、何? 坊主、今なんて言った?」
戸津辺「見立て密室殺人」
 戸津辺は繰り返した。
戸津辺「ドラマと、同じなんだよ」
兜「見立て密室…だが、まだ殺人とは誰も言って無いぞ」
育覧「真解お兄ちゃんが、『殺人だ』って言ってました」
「またこいつか」と言わんばかりに、兜が育覧を見た。
兜「そうなのか? 真解」
真解「ええ、そうです。絞殺されたときと、自殺したときでは、ロープの跡が微妙に違います。それを見れば、殺人か自殺かは見極める事が可能…だったよな? メイ」
謎「ええ、そうです。当たり前ですが、自殺した場合はロープの跡が首の前から後ろにかけて斜め上がりになり、絞殺の場合はロープの跡が水平か斜め下がりになります。それを見れば、素人でもおおよその見当をつけることが可能となります」
真解「警察の方も、殺人と断定しているんでしょう?」
兜「…ああ。断定はしていないが、さっき小鳥遊が殺人だと言っていた。そして…今の証言からして、密室殺人と言うことだな」
 全員の顔が強張る中、真解は1人、ニヤリと笑っていた。
――密室殺人だって? 面白いじゃないか。なんとしてでも、解決して見せようじゃないか。…絶対に。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。キグロです。今回のゲストは…まぁ、珍しく兜警部でも。
兜「どうも」
今回、久々に密室殺人ですが…何気に、最後に密室殺人やったのも、遊学学園での事件なんですよね(「始業深夜の転落死」)。
兜「お、本当だな」
って言うか「摩探」って、推理小説とか言っておきながら、読み返してみると…。
兜「と?」
何気に、トリックがかなり少なかったりする。
兜「……まぁ、いいんじゃないか?」

どうでもいいけど、倉庫を開けるだけで1編使っちゃったよ。何やってんだろ、あの人たち。
兜「む…だが、書いているのは君ではないか?」
…何度、そのセリフを言われた事か…。
兜「真実なのだから、しょうがないだろう」
確かに書いてるのはボクだけど、行動してるのは彼らなんだから!
兜「…わけのわからない理屈を出すな」
まぁ、ともかく次回をお楽しみに。では。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

事件・推理編を読む

戻る inserted by FC2 system