摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜
容疑者リスト
ユーマ(ゆーま)…【南の恋人】
南 百子(みなみ ももこ)…【ユーマの恋人】
恩田 悠(おんだ ゆう)…【二階堂の恋人】
二階堂 絵真(にかいどう えま)…【恩田の恋人】
天木 大地(あまぎ だいち)…【ペンションオーナー】
天木 空恵(あまぎ そらえ)…【オーナー夫人】

摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜温泉編

 昼ご飯は、また例の和食屋だった。
 前日と同じ物を頼む者もいるし、違う物を頼む者もいる。みなそれぞれに料理を注文し、食べ始めた。
南「このあとどうする?」
 黙々と食べる一同に、南が問いかける。どうすると聞かれても、どうする事も出来ない。何しろ、観光地が無いのだから。
真実「またトランプやりたい!」
南「わたしはそれでも良いけど?」
恩田「他に行くところが無いんじゃなぁ…」
 恩田が言うと、次々と他のメンバーも乗った。結局、全員賛成で、トランプをやる事に落ち着いた。
ユーマ「じゃ、午後はずっとトランプだな」
 そう言ってユーマが、キラーンと白い歯を……青ノリのついた白い歯を、光らせた。
真解〔食事中にはやらない方が良いな…〕
 まぁ、やりたいとも思わないのだが。

大地「おや、お帰りなさいませ。早かったですね」
 真解たちが玄関の扉を開けると、奥から大地が現れた。
謎事「あれ? 今日は大地さんなんスか?」
大地「? と、言いますと?」
謎事「いや…だって、昨日は空恵さんが出てきたッスから…」
大地「ああ。なかなか鋭いですね」
 大地が微笑んだ。
大地「空恵は今、入浴中でね。わたしも…」
 一瞬時計を見て、
大地「30分ほど前に出たところです。髪はもう濡れてないと思いますが」
兜「また、微妙な時間に入られるんですな」
 部屋の鍵を受け取りながら言う。「ええ、まぁ…」と大地が答えた。
大地「朝風呂みたいな感覚ですね。夜はお客さんの入浴時間とぶつかってしまうし、朝は忙しいし…と言うわけで、この時間に入浴しているんです」
ユーマ「なるほどね」
 ユーマも鍵を受け取り、恩田も鍵を受け取った。
 その後、9人は自分の部屋へ行った。荷物を置いたり、手を洗ったり…その他、諸々の事を済ます。二階堂はトランプを忘れずに取り、昨日同様、ラウンジへ降りた。
 まだ全員集まっていなかったが、すぐに続々と集まり出した。あっという間にゲームを開始できる体制が整った。
真実「じゃ、やろ♪」
 嬉しそうに、真実がトランプを切り始めた。

 ポーカー、大富豪、ババ抜き、ジジ抜き、神経衰弱、ダウト、タイタニック、七並べ…。
 明らかに9人では出来ないゲームも混ざっているが、9人は何とかうまい具合に楽しんだ。
 これだけやれば、時間も相当経つ。既に、隣の食堂では夕食が出来上がっていた。また、真解の知らない料理である。母親のレパートリーが少ないのか、ここのレパートリーが多いのか…。まぁ、どっちでもいいや、と真解は思った。どうせ、何を食べたって、大して感激しないのだから。

ユーマ「さて…じゃぁ俺は、先に風呂に入らせてもらうぞ」
 夕食を食べ終わり、ラウンジでのんびりトランプをしていた時、ユーマが言った。
二階堂「そうねぇ…あたし達も早く入らないと、真夜中になっちゃうし」
恩田「ユーマは温泉か?」
ユーマ「ああ…そうだな」
恩田「そうか…じゃぁ、僕は部屋のお風呂に入ってくるとするよ」
 恩田とユーマが立ち上がり、それぞれラウンジを後にした。
南「…。真実ちゃんとメイちゃん。2人とも、先に入ってきちゃっていいわよ」
 南が真実・メイに言う。「良いわよね?」と二階堂に聞いた。
二階堂「ええ。別に構わないけど?」
謎「そうですか…では、先に入らせてもらいます」
真実「じゃ、わたしも♪」
 2人とも、ソファーから立ち上がり、ラウンジを後にした。残った5人は、トランプを続行した。
 ブラックジャック、セブンブリッジ、99、ナポレオン、スピード、大貧民…。
ユーマ「お、盛り上がってるな」
 大貧民を何回かやった時、ユーマが帰ってきた。
ユーマ「次、誰が入るんだ?」
 親指で後方(=温泉)を指差し、聞く。「じゃ、オレが」と謎事が名乗りを上げた。
兜「そうだな、それが良い…」
「よっこらしょ」と、兜はソファーを立ち上がった。
真解「? どこ行くんですか?」
兜「いや…俺は、自分の部屋の風呂に入ってくる」
 それだけ言って、兜もラウンジを立ち去った。入れ違いに恩田が戻ってきた。
恩田「どうです? 盛り上がってます?」
ユーマ「これから再開するところだ。な?」
 ユーマが真解らに聞き、キラーン、と歯を光らせた。
真解〔だから、なんなんだよあんたは!!〕
 普通ならそう言いたくなるところだが、他のメンバーは完全に慣れている。全く動じず、恩田とユーマに「早く来て」と言う。よく見れば、今、真解以外は全員大学生グループだ。真解はなんとなく、孤立化した気分になった。
 51、インディアンポーカー、ハーツ…。
 そこまでやった時、真実、メイ、謎事の3人が戻ってきた。真解は援軍が来たような気分になった。
真実「あれ? お兄ちゃん、まだお風呂入ってなかったの? 早く入ってきたら?」
真解「ああ…そうだな。そうする」
 真解もやっとこさ、温泉へと足を向けた。今日は軽く山登りをして、疲れた。早くお風呂で休みたかった。
謎「二階堂さんか、南さんも…温泉空きましたから、入ってきては?」
 メイの問い掛けに、二階堂と南は一瞬顔を見合わせ…
二階堂「モモ、先良いわよ。わたしは今日も、最後に温泉に入らせてもらうわ」
南「あ、そう? じゃ、先に入らせてもらうわ」
 南は立ち上がった。
ユーマ「そうか…ま、いいや。じゃぁ、ゲームの続きをやろうか」
謎「あ…わたしは、少し外に出ていますね」
ユーマ「お、そうか」
 ラウンジからは、ガラス戸を開けるとすぐにベランダに出れる。洒落たイスがいくつか置いてある、それほど大きくないベランダ。だが、「自然いっぱい」の森を見る事が出来るし、何より今はとても涼しい風が頬をなでる。晴れていれば、満点の星空も望めただろう。
謎事「じゃぁ、オレも…」
 メイと一緒にいたい一心で、謎事も外へと出た。「やぁ、メイちゃん…」と右手を少し挙げ、ぎこちなく挨拶するが、メイはちょっと謎事を見るだけで、返事をしない。
謎事〔やっぱ嫌われてんのかな、オレ…〕
 右手を挙げた状態で、謎事は顔を引きつらせた。
 そのまま突っ立ってるわけにも行かないので、適当に近くのイスに座る。メイの座っているイスとの間には何も無いが、ある程度の距離がある。
 余談だが、社会的場面ではなく、個人間での場合、会話に適当な距離は120cm以下だそうだ。120〜75cmは普通の友人同士が好んで使う距離(「個体距離の遠方相」と言う)、75〜45cmはもう少し親しい間柄で使われる距離(「個体距離の近接相」)、45〜15cmは友人間より恋人間で使われる事が多く、他人や親しくない人間にここまで近付かれると不快を感じる距離(「密接距離の遠方相)、15〜0cmは夫婦や恋人同士などで主に使われる距離(「密接距離の近接相」)である。今の謎事とメイは、「個体距離の遠方相」よりも離れている。そのため、謎事は話しかけたくても話しかけられなかった。
 そんなわけで、謎事は仕方が無いので空を見上げた。昼間は晴れていたが、今は曇っていて星も月も見えない。風は涼しいというより冷たく、湯冷めしそうな感じだ。
 背後から、真実の楽しそうな声が聞こえる。どうやら、勝ったらしい。かなり喜んでいる。
 ピュッと冷たい風が吹く。まだ少し湿っている髪が、カチコチに凍りそうな気が、謎事はした。とにかく、頭が冷たい。それでも耐えて、謎事はチラリとメイを見る。
 背中まであるメイの長髪も、少し湿っている(一度髪を切ったが、またすぐに伸びたようだ)。背後からの部屋の光を、少し反射していた。メイも、謎事と同じく頭が冷たいだろう。謎事はしばらくの間、ボーッとメイを見ていた。
 と、その時だった。
ポツン
 と何かが振ってきて、謎事の頬を小さく濡らした。
謎事「・・・?」
 なんだろう、と謎事は空を見上げた。メイも同じように空を見上げた。ポツン、と水滴がメイのメガネの上に落ちた。
謎「雨…?」
謎事「そうみたいだな…」
 ポツ、ポツ、ポツ…雨粒の量が増える。すごい勢いで増える。
謎「本降りになりそうですね」
謎事「そうだな…じゃぁ、メイちゃん。中に戻ダーーーーーっ!!
 突然の土砂降り! まるで温泉をひっくり返したような雨が、謎事とメイの上に降り注いだ。
 余談だが、よく言う「バケツをひっくり返したような雨」と言うのは、1時間降雨量が30〜50mmの雨の事で、天気予報では「激しい雨」と表現される。
 2人は慌てて窓を開け、中へと飛び込んだ。
真実「キャッ!? 2人とも、大丈夫!?」
ユーマ「おいおい、平気かよ!?」
南「ちょっと、びしょ濡れじゃない!」
 既にお風呂から出てきていた南が、2人に駆け寄る。駆け寄ったところで、タオルも何も持っていないので、意味が無いのだが。
二階堂「もう一回お風呂入って来たら?」
 冷静に二階堂が助言する。メイはずぶ濡れのメガネを外し、「そうですね…」と小さく言った。
謎事〔さ…寒い…!!〕
 水を滴らせながら、謎事はラウンジを通り抜け、ドアを開けた。メイを先に通し、自分も廊下へ出る。真実も南も、心配そうについてくる。
真解「ど…どうした…?」
 温泉の入り口で、バッタリ真解に出会った。真解は、ドアを開けた瞬間現れた、びしょ濡れの謎事を見て、固まった。
謎事「いや、雨に…」
真解「雨?」
真実「そう。メイちゃんと謎事くんがベランダにいたら、突然雨が…」
 真実の言葉で、真解は真実のすぐ後ろにいるメイに気付いた。びしょ濡れだ。
真解「それは…災難、だったな…」
 かける言葉も思い浮かばず、真解はそうだけ言っておいた。
謎「ですから、もう一度温泉に入る事に…」
 そう言って、メイはドアノブに手を掛けた。ほとんど同時にドアノブをひねる。
南「…! 危ない…!」
謎「え…?」
 南の声に、メイの体が一瞬止まった。だが、時既に遅し。半開きだったドアは、ドアノブに触れられた勢いで、そのままゆっくり開いていき……
謎事「危ない!!」
 慌てて謎事が駆け出した。ガッとメイの腕を掴み、ドアの前から引き離す!
謎「キャッ!?」
 その勢いで、謎事もメイも転倒した。
ガン!
 まさにその瞬間! メイの立っていたすぐ目の前に、巨大な花びんが落ちてきた。
真解「か、花びん…?」
 ガン、ガン…と花びんは数回軽くバウンドし、床に転がった。バウンドしたこと、砕けなかったこと、などから考えて、花びんはプラスチック製の物と思われたが…その音は、重量のある音だ。もし南が何も言わず、メイの頭にこれが直撃していたら…。謎事はゾッとした。もっとも、本当に直撃していても、大した怪我ではないと思うが。
謎事「大丈夫か? メイちゃん…」
謎「ええ…ありがとうございます」
 小さく言うと、メイはスッと立ち上がった。そして、花びんへ歩み寄る。真解、真実も歩み寄った。
南「ねぇ…それは…?」
 背後から、恐る恐る南が聞いてくる。
真解「見ての通り、花びんのようですね…」
 騒ぎを聞きつけてやって来る人は誰もいない。真解は背後を振り向いてそれを確認し、花びんへ視線を戻した。
 花びんはやはりプラスチック製の物。落ちてきた時は巨大に見えたが、よく見るとそれほど大きくも無い。とは言っても、高さが20cmほどある。花びんとしては、相当でかい。
真実「あれ? これ確か、女風呂の脱衣所にあったものよ」
「ねぇ?」とメイに聞く。「そう言えば…」とメイが答えた。
真解〔脱衣所ね…〕
 真解はチラリと中を覗いた。構造は、男風呂と左右反対なだけで、全く同じ。入り口から見て左側に風呂場があり、前方と右側に、服を置く棚がある。棚は右側の壁を完全に占領していて、高さはドアとほぼ同じ。
真解「真実…ちょっとこれ、持ってみてくれないか?」
 花びんを指差して真解が言った。「うん」と真実は頷いて、真実は袖を伸ばして手を覆った。指紋をつけないようにする配慮だ。そこまでする必要は無いんじゃ…と真解は思ったが、今は突っ込むべき時ではない。
真実「…少し重いけど、別に平気だよ」
 真解の聞きたい事を察し、真実は花びんを高々と持ち上げる。棚の上に載せるような仕種をした。
真解「ふぅん……わかった、ありがとう」
 真実は花びんを下ろし、もとあった場所へ戻した。
真解「…とりあえず2人とも、早いとこ入って来い。廊下が水浸しになるぞ?」

Countinue

〜舞台裏〜
相変わらず中途半端が続くなぁ。キグロです。
今回のゲストは、実相 真実さん。
真実「こんにちは」
今回の話…「混浴場」が出てくるため、真解と真実に何かやらせようと思ったのですが…。
真実「えっ!?」
ちょっと怖かったので、止めておきました。
真実「なんでよっ!?」
いや、なぁ…。

舞台裏のネタがないので、この辺で。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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