摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜
容疑者リスト
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
高部志穂(たかべ しほ)…【被害者の母親】
三井 善(みい よし)…【被害者の友人】
小立 唯(こだち ゆい)…【被害者の友人】
青山のどか(あおやま のどか)…【被害者の友人】

摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜事情聴取編

 メイが事情聴取を受けているあいだ、真解たちは警察署の廊下を行ったり来たりしていた。
謎事「でもよ、メイちゃんが犯人なわけ、ないんだし…こんな事情聴取、無駄じゃないのか?」
 謎事はさっきから愚痴をこぼしている。
真解「そりゃ、犯人じゃないだろう。でも、髪の毛が落ちてたんだ。怪しいじゃないか」
謎事「いや、怪しくない!」
真解「……」
 真解は軽くため息をついた。
真解「まぁ、気持ちはわかるけどな…」
真実「でも不思議よねぇ…。メイちゃん、先輩の家なんか行ったことないのに、何で先輩の部屋に髪の毛が落ちてたのかしら?」
謎事「誰かがメイちゃんを陥れるために…!?」
真解「あるいは、たまたま先輩の服にメイの髪がついて、それが先輩の部屋で落ちたのかもしれない」
謎事「そうだ、それだ!」
 と、そこへ、猫山がやって来た。たまたま通りかかったらしい。「おや」と真解たちを見て言った。
猫山「どうして君たちがこんなところに?」
真実「いま、メイちゃんの事情聴取をしてるんです」
猫山「メイちゃん…ああ、そうか、あの事件か」
謎事「そう、その事件ですよ、猫山さん!」
 謎事がググッと前に進み出た。
謎事「猫山さん、事件のこと、詳しく教えてください!」
猫山「え? ま、まぁ、いいけど…」
謎事「よっしゃ! じゃぁ真解、頑張って解いてくれ!」
真解〔だから、自分で聞いたんだから自分で解けよ!!〕

猫山「容疑者は、事河ちゃんを含めてたったの5人。被害者の母親・高部志穂(しほ)、被害者の友人である三井 善(みい よし)、小立 唯(こだち ゆい)、青山のどか(あおやまのどか)だ」
真実「三井 善って人は知らないわね…。他はミステリー研究会の会員だけど」
猫山「この人は、他校の人だからね…。で、この4人は、それぞれこう言っている」
 猫山は手帳を広げた。

兜『奥さんが、第一発見者ですか?』
志穂『はい。文男の母で、志穂と言います』
兜〔? 息子が殺された割にはサバサバしてると言うか、悲しみを感じさせないと言うか…?〕
兜『…発見した時の、被害者の状態は?』
志穂『朝、午前7時ごろ、文男がなかなか起きてこないので、起こそうと地下室へ行ってみたんです』
兜『午前7時?』
志穂『はい、いつも起きてくる時間なんです。それで、地下室に行ったら、扉の前に絵が置いてあって、ドアを開けられなくなっていました。それをどかしてドアを開けて、電気を点けようとしたんですが、どうしても点かなくて…』
兜『点かなかった?』
志穂『はい。理由はわかりませんが…それで、手探りでベッドまで行こうとしたら、途中で何かを蹴っ飛ばして…。なんだろうと思って触ってみたら、あの子だったんです。すっかり体が硬くなった』
兜『…何か、犯人の心当たりは?』
志穂『ありません』

三井『昨日の午後9時から10時の間、どこにいたか?』
兜『そうです。被害者の死亡推定時刻は、夜中の11時から午前1時ごろ…』
三井『だったら、その時間のアリバイじゃないのか?』
兜『いえ、自動殺人装置が仕掛けられており、犯人がそれを仕掛けたのは、少なくとも被害者の死亡時刻の1時間以上前なんですよ』
三井『ふぅん? よくわからねぇけど…その時間なら俺、家でゲームしてましたよ?』
兜『それを証明できる人は?』
三井『さぁ…。親が証明できるかもしれないけど…』
兜『そうですか。それともう1つ。被害者が殺される動機について、何かご存知ありませんか?』
三井『そうッスねぇ…。あいつ女好きだったから、その方面じゃないッスか?』

兜『あなたは、高部文男の友人だと言うことですが…』
小立『友人…ねぇ。どちらかと言うと、知り合い以上友達未満、ってところかしらねぇ』
兜『どう言う意味です?』
小立『別に…。あいつは結構わたしに話しかけてきてたけど、わたしから話す事はほとんどなかったから。わたしはあいつの事、はっきり言って嫌いでした。少し性格がイッちゃってる感じがして』
兜『そうですか。では、アリバイですが…。昨日の午後9時から10時の間、どこにいましたか?』
小立『9時から10時? そうね…お風呂に入ってたかしら?』
兜『それを証明できる人は?』
小立『お風呂だもの。誰も見てないわよ。音ぐらいなら、親が聞いてるかもしれないけど』
兜『…わかりました。では、被害者が殺される動機について、何か知りませんか?』
小立『動機ねぇ…あいつ、みんなから…特に女から嫌われてたけど、殺してやりたいほど嫌ってる人は、いなかったんじゃないかなぁ…?』

兜『あなたと高部文男は、友人関係だった…と言う事でいいですか?』
青山『友人か…そうね…そうかもね…』
兜〔やっぱりこの学校、よくわからん奴が多いな…〕
兜『どう言う意味ですか?』
青山『大した意味じゃありませんけどね。元恋人って関係ですよ』
兜『元恋人? 別れたのはいつです?』
青山『…ホント、警察の人ってデリカシーって物が…』
兜〔いいから答えてくれ〕
青山『まぁいいわ。別れたのは…そう、2か月前ね』
兜『2か月前…』
青山『でも動機にはならないわ。ふったのはわたしだから。あいつがあんなに浮気性とは知らなかったから。それに、あいつ、高部…なんかちょっと、おかしい奴だったし』
兜『…浮気?』
青山『事河 謎って子がいるのよ。あいつがあの子に色目を使うものだから、なんか冷めちゃって…』
兜『事河、謎…?』
青山『そ、中学3年生の子。同じ部活の子よ。…でも、三角関係とは言えないわねぇ…。事河の方も、高部が嫌いだったみたいだし』
兜『…わかりました。では、昨日の午後9時から10時の間、あなたはどこで何をしてましたか?』
青山『アリバイってやつ? そうね…その時間は、本を読んでた気がするわ』
兜『それを証明する人は?』
青山『いないわね。あたし、1人暮らしだし』

猫山「…と、言うわけさ」
真実「う〜ん…みんなアリバイがあやふやねぇ…」
真解〔唯一ハッキリしているのは、仕事に行っていた母親のみ、か…〕
謎事「あれ? なんで父親は容疑者じゃないんスか?」
猫山「被害者の父親は、現在海外へ出張中…。どう考えても犯人じゃないだろう」
真実「なるほど…」
謎事「ところで猫山さん。さっきの話で気になったんですけど」
猫山「ん?」
謎事「被害者の部屋の電気、どうして点かなかったんスか?」
猫山「ああ、それは後ですぐにわかったよ。被害者の部屋のブレーカーが、落ちてたんだ」
真解「ブレーカーが?」
猫山「そう」
 猫山は手帳のページをめくった。
猫山「被害者宅は、2階の物置と化した部屋に、ブレーカーがある。いくらやっても電気が点かなかったから、もしやと思ってそこへ行ったら、被害者の部屋のブレーカーだけ、落ちてたんだ」
真解「ふぅん…?」
猫山「で、被害者の自室は地下室だから、当然窓は無い。でも、換気扇がある。その換気扇を止める唯一の方法が、ブレーカーを落とす事なんだ」
真解〔…って、つまり、停電になったら換気扇止まるって事か? 危ないだろ、それ〕
謎事「じゃぁ、犯人がブレーカーを落とした…?」
猫山「かもしれない」
謎事「ってことは、先輩の部屋で大量に電気機器を使って…」
真実「そうかなぁ? そんな事より、左右のプラグを針金で繋いで、それをコンセントに挿した方が早い…」
 余談だが、「コンセント」は和製英語なので、アメリカで「コンセント」と言っても通じない。アメリカでコンセントは、【(electrical) outlet(エレクトリカル・オートレット)】と言う。ちなみにイギリスでは、【wall socket(ウォール・ソケット)】と言うのでご注意を。
真解「でも、そんな事したら、家全体のブレーカーが落ちるんじゃないのか?」
真実「あ、そっか。って事は犯人は、わざわざ先輩の部屋のブレーカーだけ落としに行ったってこと?」
真解「だろうな。そうしなければ、母親が帰って来た時にブレーカーが落ちている事がばれてしまう。そしたら、息子が窒息している可能性を考えて、地下室へ降りてしまうかもしれない。だったら、先輩の部屋だけのブレーカーを落とした方が良い…」
 と真解は自分で言って、自分で首をひねった。「どうしたの?」と真実が聞いた。
真解「…だったら猫山さん。ブレーカーに指紋が残っていたのでは?」
猫山「それはもちろん、我々警察も考えた。でも残念ながら、指紋は残って無かったよ。犯人は、それは用心したようだね」
 まぁ、そうだよな…と真解は独り言を言った。そもそも、指紋が残っていたら、メイのところに兜は来ない。
猫山「ちなみに、犯人がブレーカーを落としたのは確実だ。被害者の部屋のスイッチにだけ、ホコリが積もっていなかったからね」
 なるほど…と真解は呟いて、
真解「次に問題なのは、動機だな」
真実「動機ねぇ…。小立先輩が行ってた通り、高部先輩を好きな人って少なかったけど……」
謎事「通り魔の犯行って言うのはどうだ?」
真解「通り魔が、わざわざ塩素で相手を殺すか?」
謎事「ぐ……」
 そもそも、通り魔なら一緒に紅茶を飲むはずが無い。その推理には無理がある。
真実「他に何か、情報はないんですか?」
猫山「そうだなぁ…」
 猫山は、パラパラと手帳のページをめくる。その手帳をそのままこちらに渡してくれればいいのに…と真実は思ったが、猫山は渡さなかった。
猫山「あ、そう言えば、奇妙な点が1つ」
真実「そう来なくっちゃ! なんですか?」
猫山「被害者の家なんだけどね、最近流行りの電子ロックなんだ」
真解〔流行ってるのか?〕
猫山「だけど、母親の証言によると、帰って来た時、確かに鍵はかかっていたらしい」
真実「鍵が…?」
猫山「あの家の鍵は、この世に3本しかない。被害者の持っていた鍵と、母親の鍵と、父親の鍵。被害者の鍵は、被害者の部屋のカバンの中にあったし、母親は誰にも鍵を渡した事はないと言っていた。父親からはまだ何も聞いていないけど…」
真実「合鍵が作られた形跡は?」
猫山「それは今調べてる。合鍵があるという証拠も、無いという証拠も、今のところない」
真解〔待てよ…それってつまり…〕
 高部の部屋は、「外から」鍵がかかっていた。高部の家は、「内から」鍵がかかっていた。
真解「二重の密室……?」
真実「片方は、密室って感じしないけど…二重密室である事に、違いは無いわね…」
真解〔何故だ? 何故犯人はそんな面倒な事を…?〕
 真解は思わず考え込んだ。これはどう考えたって、おかしいだろう。
 高部の部屋を密室にするのは、高部が塩素から逃げ出せないようにするためだ。だから、こっちは必然だろうが、わざわざ家まで密室にする必要は無い。しかも電子ロックで、簡単に密室には出来ないと来ている。
真解〔それとも、何かメリットがあるのだろうか…?〕
 真解はうなってしまった。
猫山「…そろそろ、行っていいかな?」
 猫山がやや遠慮がちに言うと、
真実「あ、どうぞ。わざわざどうもありがとうございました!」
 と真実が頭を下げた。
 猫山が歩き去ると、事情聴取されていたメイが、入れ違いに戻ってきた。兜はいない。
謎事「メイちゃん! どうだった!?」
謎「どうだった、と言われましても…。わたしは警察の方の質問に、素直に答えただけですし…」
真実「兜警部じゃなかったの?」
謎「ええ。知らない人でした」
 まぁ、毎回毎回兜に出会うのもおかしいのだから、事情聴取ぐらい、知らない人が出てきたって不思議は無い。
真実「あ、そうだ、メイちゃん」
 と真実は言い出した。
真実「わたしたち今、猫山さんと話してて…いくつか情報もらったから、メイちゃんにも教えとくね?」
 そう言うと、真実はたった今猫山から聞いた話を要約して、メイに伝えた。猫山がメモ帳を見ながら語った事を、真実は完璧に記憶しているようだった。真解にとっても、要約された内容はわかりやすくて、頭の中で情報を整理できた。
真解「…それじゃぁ、メイ…。もう1回事情聴取するようで悪いんだけどさ…」
 と、真解が遠慮がちに聞いた。
真解「メイは、先輩の家に行った事は無いよな?」
謎「ええ、ありません」
真解「それとメイ、お前は無実なんだな?」
謎「ええ。当然です」
謎事「当たり前だ!」
 と、謎事がメイと同時に言った。
謎事「メイちゃんが犯人なわけがない…。真犯人は他にいる。そいつの正体、オレが暴いてやるさ。絶対に!」
真解〔解けよ? 絶対に…〕
 真解はため息をついた。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。久々に書くせいか、どうもうまく書けないキグロです。
真実「いままでと大して変わってない気がするけど?」
そう?
真実「うん…相変わらず、下手なまま」
………そう。

さて、そんなわけで、「密室」なのか「無実の証明」なのかわからなくなって来ましたが。
真実「来ましたが?」
一応、手がかりは着々と提示されているので、頑張って推理してみてください。
真実「今回は、特に目立ったアリバイがある人もいないわね…」
うん。あくまでメインは「密室」だから、誰が犯人でもおかしくない状況を作ったわけです。
真実「高部先輩のお母さんは?」
……まぁ、気にするな。

そういえば、今回の事件、摩探20作目なんですよね。
真実「あ、そう言えば」
思えば、10作目の時も、メイちゃんを犯人に仕立て上げたなぁ…。
真実「暗闇の中、ダーツで…ってやつ?」
そうそう。摩探第1作目から第10作目までは、ほんの8ヶ月足らずで書き上げたのに…。第10作目から第20作目までは、1年半ぐらいかかっているような…。
真実「約2倍の時間がかかってるわねぇ…。なんで?」
まぁ、最近ちょっと忙しいし…。受験終わったら、思いっきり書こう。

では、また次回。

作;黄黒真直

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