おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#1「おどろきの始まり!」


「コーナーキック!」
 審判の声が響く。1人の少年が、ボールをコーナーへ置き、少し後退る。
 このサッカー場では今、北町少年サッカークラブと、南町少年サッカークラブが対戦をしている。南町少年サッカークラブのエースストライカー・トモルは、ゴール前でボールが自分の所に飛んでくるのを待った。現在、南町のコーナーキックである。
「頑張って! トモルー!」
 腰ほどまでの長髪を持つ少女、ミオが叫んだ。応援相手は、ゴール前を陣取っているトモル。コーナーにいる少年が蹴るサッカーボールに、神経を集中させていた。
「このケースでは、トモルがゴールを決めたのが10回、ユキオが止めたのが10回。五分五分だ!」
「そうなの!?」
 ミオは、隣で一緒に応援している1つ年下の少年、ダイの持つノートパソコンを覗き込んだ。赤丸が10個、青丸が10個、並んでいる。
「よ〜し、じゃぁここで勝って、勝ち抜きよ!」
 ミオはグッとコブシを握り締めた。

「頑張れ! ユキオー! あたしがついてるわよ〜!」
 オシャレ…と言うか、オシャマな小学5年生、スズカが叫ぶ。応援相手は、北町少年サッカークラブのゴールキーパー・ユキオだ。この北町と南町は、互いにライバル同士にある。
「大丈夫かな、勝てるかなぁ」
 心配そうに呟いた少年の名は、コータ。大人しい少年だが、ややマイナス思考気味なのが短所だ。
「勝てるに決まってるわよ!!」
 コータに向かって、スズカが叫ぶ。
「いっけ〜!! 南町なんかに負けるな〜っ!!」
 腕を振り上げて、応援していた。

「………」
 トモルもユキオも、神経を集中させる。残り時間は極わずか。1−1の引き分け。ここで入るか入らないかで、勝負が決まると言っても良い。
 タッタッタッ――コーナーの少年が駆ける!――パンッ!
 コーナーの少年は、正確にトモル目掛けてボールを蹴った! 北町の選手がカットに入るが、間に合わない! 飛んできたボールを、トモルがゴールへ向けてヘッドする!
「させるかっ!」
 ユキオがジャンプした。届くか、ユキオ。届くか、ボール…!
パシッ!
 景気よく、ゴールネットをボールが叩く。シュートが決まった。
「やった〜っ!!」「やったやったぁっ!!」
 ミオとダイが、飛び跳ねて喜んだ。
「くっ…」
 ユキオが悔しそうにコブシを握る。
ピピーーッ!!
 その瞬間、審判の笛がなった。ゲームセット! 勝負は、南町少年サッカークラブの勝利だった。
「あ〜…負けちゃったぁ」
 心底残念そうに、スズカ。ハァ、と短いため息をコータ。
「あんたが『勝てるかなぁ』なんて言うからよ!!」
「おれのせいなのかよ…」
 コータに八つ当たりするスズカを尻目に、
「やったね」
 と、トモルは小さく言って、ミオとダイに向けて、ピースした。


「行けっ、行けっ!!」
 トモルは、テレビの前で、ゲーム機のコントローラーを握っていた。
「サッカーでは負けたけど、ゲームでは勝つ!」
 ユキオも、テレビの前で、ゲーム機のコントローラーを握っていた。
 2人がやっているのは、今流行りのネットゲーム。お互いのゲーム機を通じ、同じゲーム空間でバトルをする事が出来る。このゲームには、トモル、ユキオ以外にも、ミオ、ダイ、スズカ、コータと、さっきの面々がそのまま揃っている。
 6人は、トモル・ミオ・ダイと、ユキオ・スズカ・コータの3:3に分かれ、チームバトルを行っている。北町少年サッカークラブと、南町少年サッカークラブが互いにライバル同士なのと同様、この3人同士も、またライバル同士だった。
「このっ、行けっ!」
 ゲーム画面の中で、3Dのキャラクターたちが、戦闘を繰り広げる。剣を振りかざし、魔法を飛ばす。画面では、激しい戦いが行われていた。
 と。
ザザ・・・
 画像が一瞬乱れた。
ザザザ・・・
 画像の乱れは続く。
「あれ?」
 トモルはすぐに異変に気付いた。画面がぶれる。
 ミオも、ダイも、スズカも、コータも、ユキオも、それぞれ画面の異変に気が付いた。全員の画面が、一斉に狂った。
ピカッ
 突然、ゲーム画面の中に亀裂が入り、強烈な光が現れる。キャラクターが全て画面の端に吹き飛ばされ、その亀裂から、何かが出てきた。
 人間? いや、人の顔が付いた、タワーのようなものだ。
「な、なんだこれ?」
 驚くのもつかの間、そのタワーから、さらに強烈な光が放たれ、画面が真っ白になった。そして、その光は画面を飛び出し、トモルたちをも包み込む。
「な…なんだ…!?」「キャッ!?」「なに!?」
「なんだこれは…」「いやぁっ!?」「どうなってるんだ!?」
 光が一瞬、さらに強烈になり……収まった。
 そしてあとには、誰もいなかった。
 トモルの部屋にも、ミオの部屋にも、ダイの部屋にも、ユキオの部屋にも、スズカの部屋にも、コータのの部屋にも、誰も、いなかった。


「お?」
 異変に気付き、40歳ほどの、中年太りをしたヒゲの長い男性が、顔を上げた。優しい顔つきを強張らせ、目の前の巨大なモニターを見つめる。
「どうしたバド?」
 ペンギンのような、奇妙な生物が、その男性を見上げた。
「START…? ゲームが始まった?」
「バド?」
 奇妙な生物も、目の前の巨大なモニターを見た。いくつかあるモニターの内の、真正面の一番大きい画面。そこに、大きく「START」と表示されていた。
「どう言う事だ? 今まで、何をやっても動かなかったのに」
 何が起こったのだろうか?
「キャァッ!?」
ドサドサドサ!
 背後に何かが落ちてきた! 男性は、驚いて後ろを振り向く。そこには小学生ぐらいの子どもが3人、山積みになっていた。
「いった〜い…なに、どうなったの!?」
 そのうちの少女が、声を上げる。
「ミオ! どうしてここにいるの!?」
 他の2人よりも年齢が低そうな少年が、声を上げた。
「ダイ! なんであなたがここにいるの!?」
 少年少女は、顔を見合わせて驚いた。
「ふ、2人とも、重い…」
 2人の下敷きになっていた少年が、苦しげに声を上げる。
「キャァッ!? トモルまで!?」
「どうしてここにいるの!?」
「イテテテテ…」と、トモルは頭を抑えながら、立ち上がった。他の2人も立ち上がり、辺りを見渡す。周りを金属質の壁で覆われた、やや広い部屋。機械が動く音がする。
「君たちは?」
「!?」
 声をかけられるまで、気が付かなかった。3人の目の前に男が立っている。
「あ、あなた誰!?」
 ミオが素っ頓狂な声を上げた。「君たちこそ…」と男性も言う。
「誰だバド! どうやって入ったバド!!」
「ペ、ペンギンが喋った…」
「オイラはペンギンじゃないバド!!」
 奇妙な生物は、声を荒げた。
「ここは…どこなの…?」
 ミオが一歩一歩後退しながら、恐る恐る聞く。男性はしばらく考え、
「ああ、なるほど。そう言う事か」
 と、右手を左手のひらに打ちつけた。
「1人で納得してないで、どう言う事か説明してくれ!!」
 トモルが男性に向かって叫ぶ。「まぁまぁ、落ち着きなさい」と、男性は優しく語りかけた。
「とりあえず、場所を変えよう」
 そう言うと、3人の間を通り抜け、3人の後ろにあったドアを開けた。

 ドアの向こうは、階段だった。ここは地下室だったらしい。4人と1匹は階段を上り、1階に出た。さらに玄関から外へと出る。周りは、森に囲まれていた。
「わたしの名前は、ガリレオ博士。こっちはペットのバドバド」
 で、結局何者なんだ?
「実はここは、『ユリーカ』と言う未完成のゲーム世界なんだ」
「げ、ゲーム!?」
 衝撃の告白! 思わず周りを見渡す。
「ここが、ゲームの世界なの?」
「とてもそうは思えない…」
 周りの木々は、見た目は完全に本物。青い空には、太陽が輝いている。
 ガリレオが続ける。
「このゲームは、わたしが作ったんだが、わたしもこの世界に吸い込まれてしまったんだ」
「あ、あなたが作ったの!?」「この世界に吸い込まれた!?」
 ミオとトモルが叫ぶ。完全に声が裏返っている。
「この建物は?」
 ダイが、いま自分たちが出てきた建物を見て言った。丸みを帯びた赤い屋根。全体的に丸みを帯びている。
「ここは、まぁ、わたしの研究所だ。さっきから、色々とここのプログラムをいじっているんだが…」
 全く動かないんだよなぁ…、とぼやいた。
「そ、そうだ!」
 思い出したようにトモルが叫んだ。
「このゲームを作った人なら、早くオレたちを元の世界に帰してくれよ!」
「あ、そうよ! 早く帰して!」
「そ、そう言われても…。困っちゃうんだよなぁ…」
 本当に真に困り果てた顔で、ガリレオが言った。
シュビーン…
 突然、何かの音がした。
「!?」
 子ども達は、思わず空を見上げる。別に、何もないが、上から聞こえたような気がした。
≪エリアC1に出動せよ。エリアC1に出動せよ≫
「な、なに!?」
「ミッションだ! ミッションが発動された!」
 そう言って、ガリレオは走り出した。
「え、あ、待って!」
 3人と1匹は、慌てて後を追った。
 ガリレオが向かったのは、1階のリビングのような場所。そこに付くと、天井からモニターのような物が現れた。そして、何かが表示される。
 中心に白い5角形があり、その周りを、5つの色分けされた区画が取り囲んでいる。それぞれ、「A」「B」「C」「D」「E」と書かれていて、「C」の一部が光っている。
≪エリアC1のミッションを、クリアせよ≫
 もう一度、あの声がした。
 トモルは、どこからその声がしているか、その瞬間わかった。窓の外、向こうの方から、スピーカーで流されている。その声がする方には。
「あっ! あれ…! ゲームの中に突然現れた奴だ!!」
 思わず叫んだ。ミオ、ダイも、窓の外を見た。横を向いているが、確かにその通りだ! あの奇妙な小さな人面塔。間違いない。
「あれはなんなんです!?」
「え?」とガリレオは一瞬窓の外を見て、「あれはユリーカタワー。この世界の中心的存在だ。いや、そんな事より」
 ガリレオは壁に向かって走り、スライド式のドアを上に開けた。大きな穴が壁に開く。
「どこに行くの!?」
「エリアC1へ行って、ミッションをクリアして来るんだ。ミッションをクリアすれば、ゲームが完成して元の世界へ帰れる」
「!!」
 ガリレオのセリフに、子ども達は顔を見合わせた。そうとわかれば!
「君たちは、ここで待ってなさい」
 子ども達の思いを、ガリレオが打ち切った。
「そんな! オレたちも行く!」
「ダメだ! 危険すぎる! どんなミッションかわからないんだ!」
「でも、クリアしないと元の世界に戻れないんでしょ!?」
「だったら、ボクたちも行きます!」
「ダメだ! 来てはいけない!」
 ガリレオは叫んだ。しかし、子ども達は聞かない。
「みんな、行くぞ! 当たって砕けろだ!!」
 ダッダッダッ…! ガリレオに向かって走り、ガリレオごと穴に飛び込んだ!
「うわあぁ〜〜っ!?」
 穴の向こうは、滑り台だった。かなりの長い距離を、一気に滑り落ちる。
「待つバド!!」
 バドバドが慌てて中に飛び込む。ズサァッ! と一気に滑る。
ドサドサドサ!
 10秒ほど滑り、4人は着地した。その上に、バドバドが降って来る。
「うわぁっ!?」
 トモルが慌てて避けたため、バドバドは地面に激突した。
「痛いバド…」
 ミオは、辺りを見渡した。丸い部屋のその中央に、赤色の移動用ポッドがある。ロケットのようなものだ。ジェットエンジンのようなものも左右に取り付けてある。
「あれは?」
「あれは、レッドペガサス。移動用のポッドだ」
 ガリレオはそう言って、レッドペガサスに駆け寄った。
「君たちは危ないから‥‥‥いや」
 ガリレオは首を小さく振って言った。
「ついて来なさい」

 4人と1匹がレッドペガサスに乗り込む。ペガサスの中には、ちゃんと5つイスがあった。ガリレオが、一番前の操縦席に座る。その後ろに2列ずつ並べられたイスに、3人と1匹は座った。
 全員が座ると、レッドペガサスの乗っていた台座が持ち上がった。ウイーンと言う音と共に、上に上がっていく。ガシャン、と音がすると、丸い部屋に付いた。すると突然、部屋が回りだした。
 グルグルと回り、トモル達の前を、「A」「B」と書かれた扉が通過していく。そして、「C」と書かれた扉の前で、回転は止まった。
「レッドペガサス、発進!」
 飛行機の操縦桿のような物を、ガリレオが引いた。
 その瞬間、レッドペガサスが動き出した。扉にぶつかる! と思った瞬間、扉が開く。
「うわああぁぁ〜〜〜っ!?」
 そのまま加速するペガサス。そして、急降下、急上昇。ジェットコースターのような通路を、ペガサスは疾走する。
「きゃぁあああぁ〜〜っ!!」
 上ったり下りたりするたびに、トモルたちは悲鳴を上げた。ジェットコースターそのものだ。
 そして、目の前が真っ白になった。

ピカッ
 と、空間に亀裂が入り、光る。その亀裂から、レッドペガサスが勢いよく飛び出した。
「ううう…」
 トモルたちはうめき声を上げていた。
「着いた。ここが、エリアC1だ」
 後ろを振り返り、ガリレオが言った。3人と1匹は何とか顔を持ち上げ、窓から外を見る。
「ここが、エリアC1?」
 そこは、岩肌の露出した断崖絶壁。ところどころに亀裂が入り、岩の足場が空高く伸びている。そしてその空には、どす黒い雷雲が立ち込めて、爆音を響かせながら雷が地面へと落ちている。
「あ、見て」
 ダイが言った。何事かと、トモルたちはダイの後ろから外を見る。
 ダイが指差す方の空間に切れ目が入り、そこから青い“レッドペガサス”が現れた。
「あれは?」
「ガリレイ博士だ!」
 ガリレオは叫んだ。
「が、ガリレイ博士?」
「そうだ。わたしのライバル、ガリレイ博士。あれは、『ブルーペガサス』だ」
「オイラのライバルもいるバド!!」
 あっ気に取られて、トモルたちはブルーペガサスを見た。と、その中に、
「ユキオ!」「スズカ!」「コータ君!!」
 トモル、ミオ、ダイが同時に叫んだ。
「なんだ、知り合いがいるのか?」
「ライバルです!」
 ガリレオに向かって、トモルが言い返した。

「トモル!」「ミオ!」「ダイ!」
 ブルーペガサス内。ユキオ、スズカ、コータの3人も、同時に叫んでいた。
「なんだ、知っているのか!?」
「因縁の間柄です!」
 ガリレイに、ユキオは言い返した。
「なんでミオたちもここにいるの?」
「俺たちがここに来た時、俺たちもトモルたちも同じゲームをしていた。だからだろう」
 ユキオが冷静に分析した。
「きっと、その通りでチュワン!」
 甲高い声が聞こえる。バドバドのライバル、チワワンだ。名前は「チワワン」だが、どう見てもパピヨンである。チワワンも、おそらく「チワワじゃないでチュワン!」と言うのだろう。
「あのペガサスは?」
「レッドペガサス。わたしのライバル、ガリレオが乗っているんだ!」
 ガリレイが怒鳴り声を上げる。外見はガリレオと似ているが、やや凄みのあるその声は、ガリレオとは対照的だ。
「…まぁいい。とにかく、俺たちはミッションをクリアすればいいんだ」
 ユキオは冷静に、席に戻った。

ジャン!
 奇妙な音が、両ペガサス内に流れた。そして、操縦席の目の前。操縦桿の奥に、小さなモニターが現れた。そのモニターに、「!」マークがたくさん表示される。
「! ユリーカ情報だ!」
 ガリレイが叫んだ。
「ユリーカ情報?」
 スズカが後ろから覗き込む。
 その画面が変わり、突然機械的なセリフが流れ始めた。この声は、先ほどの≪エリアC1に出動せよ≫の声、つまりユリーカタワーの声だ。
≪雷の正体は、電気である。電気は、地上に向かって通りやすい放電の道を探している。大気の中は、電気が通りにくい。だから、放電は枝状に分かれる。それが稲妻に見えるのだ。
 雷は、凄いエネルギーを持っている。その電力は、約90万メガワット。これは、100ワットの電球7000個を、8時間点けていられるエネルギーである。
 雷雲は、暖かい空気が押し上げられた上昇気流で出来ている。雷雲の中で温度がマイナス20℃以下になると、氷の粒が激しくぶつかり合う。それで静電気が生まれ、雷雲の下にマイナスの電気がたまる。一方地上は、プラスの性質がある。それゆえ、マイナスの電気はプラスの電気に引かれて、地上に走るのだ≫
「そーなんだ!」
 子ども達は思わず言い、言った後、両博士に聞いた。
「…って、何これ?」
「しっ、静かに!」
 両博士は、子ども達を制す。モニターの画面がまた変わり、「MISSION 1」と表示された。
≪ミッションナンバー1。雷を消去せよ≫
「雷を消せだって!?」
「そんな、どうやって!?」
 子ども達が混乱する。両博士は、そんな子ども達を見て言った。
「これが、ミッションだ。これをクリアしてゲームを完成させないと、元の世界には戻れないぞ」

「ねぇ、帰ろうよぉ」
 コータが震える声で、3人と1匹に訴えかける。
「こんな雷が鳴り響いているところにいちゃ、危ないよぉ」
 今にも泣きそうな声だ。スズカが、思わず立ち上がって怒鳴った。
「うるさいわね!! これをクリアしないと、元の世界には帰れないのよ!?」
「そんなこと言ったってぇ」
 コータの声が段々小さくなる。
「雷を消すったって、どうやって消すのさ」
「ユリーカ情報の中に、何かヒントがあるはずだ」
 ガリレイがすごんで言う。
「絶対にミッションをクリアして、元の世界に戻るんだ!」
「そりゃ、そうしたいけどさぁ…。ううう…」
「泣かないでよ!!」
「考えてるんだよ!」
「静かにしてくれ」
 スズカとコータの喧騒に、ユキオが水を差した。
「雷を消す…か…」
 ユキオは腕を組み、目をつぶった。
「ユリーカ情報にヒントがある?」
 呟くようにユキオが言う。3人と1匹が、そのユキオを見つめた。ユキオは、ユリーカ情報を反復していた。さて、一体どんなヒントが?
「そうか」
「何か思いついたの?」
 目を輝かせて、スズカがユキオを見る。「ああ」と、力強くユキオ。
「雷を消すなら、雷雲を消すしかない。そして雷雲は、上昇気流で出来ている。なら、雷雲の上から下降気流を起こしてやれば、雷雲は消えるんじゃないか?」
「そうか! 頭良い!!」
「でも、そんな下降気流なんて、どうやって…」
「…ペガサスを使えば、出来るかもしれない」
 ガリレイはそう言うと、操縦桿を引いた。ペガサスからジェット噴射が出て、上空へと上っていく。
「え? 上空へ行くって…じゃぁ、雲の中を…!?」
「当ったり前じゃない! さぁ、行くわよ!!」
「えぇ〜〜!?」
 嫌がるコータを完全無視し、ブルーペガサスは雷雲の中に飛び込んだ!
バァン! バァン!
 左右を、雷光が走る。真っ暗闇で、ほとんど何も見えない中、ブルーペガサスはひたすら上昇を続ける。
「うわぁあぁ〜〜っ!!」
「安心しろ、コータ!」
 叫ぶコータに、ガリレイが叫び返す。
「ユリーカ情報でも言っていたが、雷は、より通りやすい道を選ぶ。人体よりも金属の方が電気を通しやすいから、金属製の乗り物の中にいれば、感電する事はまずない!」
 と、理屈で説明しても、コータの恐怖は治まらない。これを消すためには、雷雲を突破するしかないようだ。
 ガリレイは上昇スピードをさらに上げた。雷雲は、縦に長く伸びている場合がほとんどである。下から上へ抜けるのには、相当時間が掛かる。が、それから間もなく、雷雲の上に出た。
「やったぁ! じゃぁ、博士!」
「ああ」
 ガリレイは頷き、旋回を始めた。ペガサスを加速させ、下降気流を起こしていく。
「よし、下降気流が起きてるぞ!」
 目の前のモニターを見て、ガリレイが叫んだ。

「どうやら、向こうは何か考え付いたみたいだなぁ」
 雷雲に突っ込んでいくブルーペガサスを見て、ガリレオが呟いた。
「じゃぁ、早くしないと、先を越されちゃうじゃない!」
「とは言ってもなぁ…」
「博士。何か良い方法はないの?」
「そう言われても困っちゃうんだよなぁ…。ユリーカ情報にヒントがあるはずなんだけど…」
「ユリーカ情報に?」
 4人は一斉に考え始めた。
「別に、考える必要なんてないバド。あっちがクリアしても、こっちがクリアしても、結局は同じバド。だから、何もしなくていいバド」
「そうは行かないわよ!」
 バドバドのセリフに、ミオが反抗した。
「仮にそうだとしても、スズカに負けるなんて、耐えられない!」
「オレだって、ユキオには負けたくない!」
 ミオ、トモルが、バドバドを怒鳴りつける(ダイは別に、コータへの対抗意識は無いようだ)。
「それに、バドバドだって、向こうにライバルがいるんだろ!?」
「…。そうバド!! 負けてられないバド!!」
 志気が高まったようだ。
「チワワンなんかに負けないバド! 早く、いい方法を考えるバド!! 早くするバド! 何か考えるバド!! ほらとっととするバド!!」
「うるさい!!」
「……」
 ミオは2人(1人と1匹、か)を一瞥して、
「雷を消す…」
 と呟いた。空では、雷雲から雷が落ちている。
「雷を消すなら、雷雲を消すしかないわよね」
「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ。その通りだと思うよ」
 ミオの考えに、ダイが同意する。では、どうやって雷雲を消すか?
「う〜ん…」
 ミオが首をひねって考えた。ユリーカ情報を反復する。何か、ヒントが隠れているはず。
「そうだわ!」
「何か思いついたバド!?」
 早くしてくれと言わんばかりに(さっきまで言っていたのだが)、バドバドがミオに駆け寄る。
「雷の電気は、雲の中の氷がぶつかる事によって発生するんでしょ? だったら、雲を温めれば氷が溶けて、電気が起きなくなるんじゃないかしら?」
「なるほど! それは良い手だ!」
 ガリレオが同意した。「よし、それで行こう!」トモルが言った。
「ユキオなんかに、負けないぞ!」

 ガリレオは、一度レッドペガサスを地面に下ろした。そしてレッドペガサスから大きな機械を引っ張り出し、地面に設置する。電気コードを、レッドペガサスにつないだ。
「博士、これは?」
「これは、マイクロ波発生装置だ」
「マイクロ波?」
 トモルもミオも、何の事だかわからず眉をひそめる。ダイが得意気に説明を始めた。
「マイクロ波って言うのは、電波と光の仲間の、電磁波の一種だよ。物を温める働きがあって、電子レンジなんかに使われてるんだ」
「そうなんだ。ダイって物知りね」
 ミオが褒めると、ダイは少し照れくさそうに、
「だって、ボクのお父さんは、理科の先生だもん」
「よし、それじゃ…」
 機械を設置し終えたガリレオが、言った。四角い機械から、空へ向かって、パラボラアンテナのような物が伸びている。
「レッドペガサスのエンジンを、全開にしてくれ」
「わかった!」
 トモルがレッドペガサスへ駆ける。「ボクも!」と、ダイが後を追った。
 トモルが操縦席に座ると、モニターにガリレオの顔が映った。後ろに、ミオもいる。
『それじゃぁ、足元のアクセルを踏んでくれ』
 モニターの中のガリレオが指示をする。「はい!」と、トモルが思いっきりアクセルを踏んだ。
「よし、それじゃぁ行くぞ」
 ガリレオは、機械のスイッチを入れた。
 ウイーン、と小さな音がする。それと同時に、パラボラアンテナの先端が光り始めた。
 …が、先端からは何も出ない。
「…博士。壊れてるんじゃないの?」
「いや、これでいいんだ。マイクロ波は目に見えないからね」
 なんとも味気ない…。ミオは、そう思った。

ブオン、ブオン、ブオン…
「は、博士…まだ…なの…?」
 遠心力で壁に押さえつけられながら、コータが聞く。
「目が…回るん…だけど…」
「確かに…少し…気分が…悪いな…」
「ホン…トに…」
 子ども達が3人とも、愚痴をこぼした。
「我慢しろ。まだまだだ」
 サラッと何気にひどい事を言う。
「少しではあるが、確実に雷雲は消えている。このまま行けば、ミッションクリアだ!」
 ユキオは操縦席に近付き、ガリレイの背後からモニターを覗き込んだ。
 モニターには、雲の絵と、矢印が表示されている。雲の絵の下から上に向かって黄色い矢印が、雲の上から下に向かって小さな赤い矢印が出ている。黄色が上昇気流、赤が下降気流を表しているようだ。赤い矢印は、まだ雲の上の方でうろついている。なかなか下には行ってくれない。
 スズカ、コータ、チワワンも、ガリレイの背後にやって来て、モニターを見た。
「まだそれだけぇ!?」
 コータが絶望的な声を上げた。「我慢しろ。もうすぐだ」とガリレイが一喝する。
 しかし、モニター内の黄色い矢印は、段々と勢力を上げ始めた。それと同時に、赤い矢印が小さくなっていく。明らかに上昇気流に負けている。
「くっ…」
 ガリレイが小さく言った。その瞬間、赤い矢印が消えた。
「ダメだ。ペガサスでは、出力が小さすぎる! 別の方法を考えなければ…」
「そんなぁ!」
 スズカまでも、絶望的な声を上げた。

「う〜ん…」
 ガリレオが唸っていた。
「どうしたバド?」
 バドバドが背後から聞く。雲は、まだ消えない。
「ダメだ。ペガサスの電力だけじゃ、出力が小さすぎて雷雲を消す事が出来ない」
「え〜!?」
 ミオが声を上げる。「そんなぁ!」
「別の方法を考えないと…」
 そう言って、ガリレオは通信機のスイッチを入れた。レッドペガサス内のモニターに、ガリレオの顔が映る。
「あ、博士。どうですか!?」
『う〜ん…ダメだ。出力が足りなすぎる』
「え!? ダメなの!?」
 ダイが身を乗り出して、モニターを覗き込む。
『あぁ…。何か、他の方法を考えないと…』
「他の方法って言ったって、そんな…」
 トモルは頭を抱え込んだ。どうすればいいんだ? 早くしないと、ユキオの奴に…。
ピシャァン!!
 雷鳴が轟く。岩肌に、雷が落ちる。
 雷…ユリーカ情報…雷…電気…!
「そうか!」
 トモルは慌てて通信機に向かって叫んだ。
「ミオ! 地上に届く雷の電力は!?」
『え? た、確か、約90万メガワットで、100ワットの電球7000個を8時間点けてられるエネルギーだって…』
 いける!
「博士! このペガサスに、避雷針はあるの!?」
『避雷針? あ、ああ…25番スイッチを押してくれれば、出てくるはずだ。操縦席の横の、黒いボードに手をかざして…』
 言われたとおりに、トモルは黒いボードに手をかざす。キーボードのようなマス目が、そこに表示された。しかし、何も書いていない。トモルは指示されたとおり、ボタンを押す。ボードの右側にある、3×3のマス目。キーボードで言う、「2」と「5」に位置するボタンを、手早く押した。
ウィン
 レッドペガサスの天井から、2本の避雷針が出てきた。
『しかし…どうする気なんだ?』
 ガリレオが心配そうに聞いてくる。『どうする気なんだ?』と言いつつも、トモルの作戦は、だいたいわかっていた。
 避雷針は、「雷を避ける針」と書くが、実際には「避ける」物ではなく、「引き寄せる」物である。雷を避雷針に引き寄せ、アースを伝わせて地中へと通す。こうする事によって、付近への落雷を防ぐのだ。
「出力が足りない、つまり電気が足りないんでしょ? そして、雷は90万メガワットの電力を持つ。だったら、その雷のエネルギーをレッドペガサスを使ってその機械に送り込めばいいじゃん!」
『そんな無茶だ。危険すぎる!』
 予想通りだった。トモルは、ガリレオの忠告を無視し、操縦桿を思いっきり引いた。
シュボォッ
 ジェットエンジンが噴射され、レッドペガサスは垂直上昇を始めた。
「えぇっ!? と、トモル、操縦できるの!?」
「大丈夫だって。ゴーカートみたいなもんだろ!?」
「全然違うよ!!」
「行くぞ!」
 ダイの忠告を完全無視し、トモルはレバーを押す。途端にペガサスが揺れた。
「うわぁっ!?」
 空中でふら付くペガサス。当たり前だ。初めての操縦で、そんなにうまく行くわけがない。しかし、うまく行かせなければならない。トモルは、根性でペガサスを動かした。
「さぁ、来い! 雷!! お前のエネルギーをもらうぞ!!」
 雷雲に向かって、トモルは突き進む! ペガサス目掛けて、雷が落ちる!
ピシャァン!!
 その瞬間。マイクロ波発生装置に、大量の電力が流れ込んだ。
「す、すごい電力だ!」
 ガリレオは驚愕の声を上げ、機械のレバーを押した。「MAX」にレバーをあわせる。マイクロ波は、最高出力。さぁ、雲は!?
サァァァ・・・・・
 音は何もしなかったが、敢えて擬音化するならこうだ。見る見るうちに雷雲が消え、青空が広がって行く。
 そして、雷が消去された。
「やったぁっ!!」
 トモルとダイは、レッドペガサスの中で飛び跳ねた。
「やったぁ!」
 ミオも喜び、ガリレオと手を打ち合わせた。バドバドも、その横で飛び跳ねていた。

≪ミッション・クリア≫
 不思議な声が聞こえた。
「ん?」
 トモルとダイは、異変に気付き、後方を見た。するとそこに、突然光が集まった。
「!?」
 驚きのあまり、後退る2人。
「な、なに!?」
「知らないよ!!」
 震えながら、光を見た。
 青っぽい丸い閃光は徐々に薄れて行き、その中から青色の両手サイズの物体が現れた。六角柱の片方が尖っているような、不思議な物体。「クリスタル」と言う雰囲気だ。
「なんだろう…これ…」
 2人は、宙に浮かぶそれを見て、呟いた。

≪ミッション・ロスト≫
「ねぇ、これどう言う事?」
 上空から下を見て、スズカが呟いた。雲1つない。
「ミオ達に先を越されたってこと!?」
「ああ、その通りだ!」
 ガリレオが怒鳴るように言った。
「くそっ! ガリレオの奴に負けたっ!!」
 バン! とガリレイはコブシを叩きつけた。

「うん、これこそが知識の石、ユリーカストーンだ」
 レッドペガサスから出てきたトモルとダイ。トモルは、両手で一抱えもある青い物体を、ガリレオに見せた。
「ユリーカストーン?」
 また「ユリーカ」だ。3人と1匹は首を傾げる。
「さっきも言ったけど、このゲームは未完成なんだ。それで、ゲームを完成させる最後の鍵が、そのユリーカストーンなんだ」
「じゃぁ、これでゲームが完成するのね!?」
 ミオが嬉しそうな声を上げる。
「うん…たぶん…。それを、ユリーカタワーに収めれば…」
 弱弱しくガリレオが呟く。しかし、3人はそれでも喜んだ。これで、元の世界に戻れる!
「とりあえず、みんな、レッドペガサスに乗るんだ」
「うん!」
 4人と1匹はペガサスに乗り込み、先ほどと同じところに座る。
 ガリレイは操縦桿の横にある取っ手のような形をしたレバーを引いた。
「イクジットスイッチ、オン!」
 ガチ、とレバーを90度回転させる。
 と、レッドペガサスが光り始め…次の瞬間、消え去った。

 空間に亀裂が入る。その亀裂から、レッドペガサスが現れた。
 レッドペガサスが現れたのは、ユリーカタワーの目の前。ユリーカタワーは、「タワー」と言う割には意外と小さく、5〜6メートルぐらいしかない。そして、大きな建物の屋上に建てられている。
 トモルたちは、ユリーカストーンを持ったままユリーカタワーの前まで駆け寄った。どこにユリーカストーンを収めるのかは、見てすぐにわかった。ユリーカタワーの下方に、六角形の穴が開いている。おそらくここだ。
「よいしょ」
 トモルが、ユリーカタワーにユリーカストーンを収めた。ピカァ、とストーンが光る。
「や、やったぁっ!!」
「これで元の世界に戻れるのね!?」
「ばんざーい!」
 飛び跳ねて喜ぶ3人。が、その時だった。
バリ、ベリ、ガコ…
 と、奇妙な音がした。同時にタワーの顔のところどころが光り始めた。光ると同時に、表面が砕け散る。脱皮を彷彿させた。
「こ、今度はなに?」
 訳がわからずただただ見上げるだけの3人。バリッ、バリッ、バリッと、表面は剥がれ続け、しばらく経つと止まった。
「………?」
 と、その時だった。
 突然、塔が伸びた!
 地響きを鳴らしながら10メートルほど塔が伸びる。そして顔の上に冠のような物が現れ、さらに羽のようなものまでついた。キランッと塔全体が一瞬光る。
「なに?」
「ハァ…やっぱりそうか…」
 ガリレオがため息をついた。「どう言う事!?」と、3人は振り向き、ガリレオに聞いた。
「実は、ユリーカタワーに現れたその全ての穴にユリーカストーンを収めないと、ゲームは完成しないんだ…」
「えぇっ!? そ、それじゃぁ…」
 3人は塔の方にまた向き直り、穴の数を数え始めた。
「あと9個も集めなきゃいけないの!?」
「全部で10個!?」
 泣きそうな声で、3人が叫んだ。
「そうなんだよ…」
 ガリレオも、小さく呟いた。
ガコン…
 全く、ユリーカタワーは休む事を知らない。今度は、ユリーカストーンを収めた部分が回転し、左を向いた。顔の部分も、併せて左を向く。トモルたちも、思わず左を向く。赤い屋根の家が見える。
「あの家は…?」
「わたしの研究所兼この世界での家。君たちが最初に出てきたところだよ」
 ガリレオが答えた。と同時に、ユリーカタワーの額にある、赤いクリスタルから、淡いピンク色の煙のような物が噴射された。煙と言うか、もやと言うか、霧と言うか、何と言うか知らないが、そんな感じの物が噴射されガリレオの家の上に降り注がれた。
「なにが起こってるの?」
「勝利の証だよ」
 ガリレオが短く答えた。

「さぁ皆さん、お帰りなさい」
「く…クマが喋った!?」
 ガリレオの家のドアを開けた瞬間、以上の会話がなされた。
 トモルたちの目の前には、大人の背丈ほどの太った青いクマが立っていた。エプロンをしているが、見た目はクマである。
「ああ、彼女はベアロン。この家のお手伝いだよ」
「お手伝い…」
 クマが、か? しかし、ガリレオが言うのだから間違いあるまい。
「さぁどうぞ、皆さん。美味しいご飯が用意してありますわよ」
 ベアロンが中へと誘導する。4人と1匹は食堂へ通された。そしてそこには本当に、目を見張るような豪華な料理が並べられていた。
「うわぁ…!」
 思わず感嘆の声を上げる3人。ベアロンはニッコリと笑って言った。
「ミッションに勝利すると、こうやって豪華な料理が待ってるのよ。さぁどうぞ、召し上がって」
 3人を促すベアロン。それに従って、トモルたちは席に着いた。ガリレオ、バドバドも席に着く。
「いただきま〜す!!」
 元気よく声を出し、4人と1匹は豪華料理を食べ始めた。
「でも…」
 と、ミオが小さな声で言った。
「『勝利すると』豪華な料理、って事は、負けたら……?」

 青い屋根の研究所兼家。ガリレイの研究所には、紫色の、どんよりとした霧がかかっていた。
「お帰りなさい、皆さん」
「ぶ…ブタが喋った!?」
 ガリレイの家のドアを開けた瞬間、以上の会話がなされた。
 ユキオたちの目の前には、大人の背丈ほどの太ったピンクのブタが立っていた。エプロンをしているが、見た目はブタである。
「ああ、彼女はピグル。この家のお手伝いだ」
「お手伝い…」
 ブタが、か? しかし、ガリレイが言うのだから間違いあるまい。
「さぁどうぞ、みなさん。美味しいご飯が用意してあるわよ」
 ピグルが中へと誘導する。4人と1匹は、食堂へ通された。
「みなさん、お腹空いているでしょう?」
「もう、ペコペコよぉ!」
 スズカが早くしてくれと言わんばかりに急かす。一体どんな料理が…?
「………あれ?」
 ユキオたちは、食堂のテーブルを見て、固まった。そこには何もない。
「これは…」
 いや、あった。一見何もないかに見えたが、銀色の地味なお盆に載った、地味なご飯が、そこには存在した。
 ピグルに誘導されるがまま、4人と1匹はイスに座る。そして、目の前の「それ」を見る。
「これは一体?」
 ユキオは、銀色のお盆に載っている、乾パンのような物を一枚、取った。非常食か? はたまた、宇宙食か?
「ごめんなさいねぇ…」
 ピグルが申し訳無さそうに言う。
「実は、ミッションに負けると、ミッションに勝つまでこんな料理しか出せないのよ…」
「え〜っ!? そんなぁ!!」
 コータが思わず大声を上げる。その声は、悲鳴にも近い。
「こんな料理いやぁ〜っ!!」
 目の前の乾パンを見て、スズカはそう叫んだ。

 そんな彼らの様子を、ユリーカタワーは、ただただ黙って見つめていた。


⇒Next MISSION「恐竜化石を回収せよ!」

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