おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#19「蒸気機関車の秘密!」

「わぁ〜…!」
 スズカが目を輝かせ、
「いっただっきまーす!!」
 と美味しそうにピグルの豪華料理をむさぼり始めた。
「ピグルの作る料理は最高だな」とユキオ。
「今頃ミオたち、がっかりしてるわね!!」と、楽しそうにスズカが言った。

「うおっほ〜! うまそ〜!」
「……?」
 赤い屋根の研究所では、トモルが大声を上げていた。乾パンを1つ摘み上げると、
「美味そうなハンバーグだなぁ!」と言って口に入れ、「お〜、美味い!」と叫んだ。
「ちょ、ちょっとトモル…どうしちゃったの!?」
「へへぇ。どうせ食べるなら、楽しく食べないとな。お、こっちは餃子かぁ。デカイ餃子だなぁ!」
 わざとらしく言っては、口に放り込んだ。
「そっか。どんな事でも気持ち1つって事だね」
 ダイはすぐにトモルに理解を示し、
「美味しそうなシュウマイ! いっただっきま〜す!」
「気持ち1つバド? ……。おっほ〜、美味そうなから揚げバド!」パク「ん〜、この味がたまらないバド!!」
「…付き合ってらんないわ…」
 男って、バカ…。ミオはため息をついて、自分のお皿を見た。
「いらないのか、ミオ? だったらその焼いも、オレがもらうぜ!」
「え、焼いも!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 トモルが奪った乾パンを、ミオが慌てて奪い返す。やっぱり食事は、楽しくないとネ。
シュビーーン…
 そんな楽しいお食事を、ユリーカタワーが中断させた。
≪エリアB7に移動せよ。エリアB7に移動せよ≫
「みんな、行くぞ!」
 ガリレイが言って立ち上がった。ユキオもコータも立ち上がり、スズカとチワワンは料理を口に流し込んだ。

 空間に亀裂が入った。そこから、ブルーペガサスが飛び出してきた。
 出てきたのは、所々に崖や森がある、広々とした場所だ。ペガサスのすぐ真下に、建物が見える。どうやら、駅のようだ。建物から線路が2本延び、少し行ったところで1つに合わさっていた(そしてすぐに、また二股になっている)。
 空間に再び亀裂が入った。そこから今度は、レッドペガサスが現れた。今度こそは負けない…と熱い思いを秘めて。
ピーピーピー
 両チームが揃ったところで、お馴染みの電子音がした。「ユリーカ情報だ」と誰とも知れず言った。
≪SLは、蒸気の力で動く機関車である。SLは火室で石炭を燃やす事により煙管に熱が送り込まれ、その熱がボイラーの水を温めて蒸気にする。
 ボイラーで作られた蒸気は、蒸気溜、乾燥管、過熱管を通り、過熱蒸気になる。そして、シリンダーに送り込まれた過熱蒸気がピストンを動かし、ピストンが主連棒を動かす事で動輪に動きが伝わり車輪が動き出す。ピストンを動かした蒸気は、煙突から外に出される≫
「そーなんだ!」
 下には駅、ユリーカ情報はSL。となれば今回のミッションは…。
≪ミッションナンバー18。SLで、山頂の駅を目指せ≫

 早速駅に降り立った2機のペガサス。駅には、赤と青のSLが用意されていた。6人と2匹は、早速それぞれのチームのSLに乗り込んだ。
 そこにあったSLは、先頭の一両しかない。まぁ、客を乗せるわけではないから当然だ。ちなみに、テンダー(水と石炭をためておくところ)は、先頭車両についているので心配する必要は無い。
 駅からは、ゴールと思われる山も見えた。ピラミッドのように段になっている。人工の山なのか、自然の山を切り開いたのか。そんな事より、まずはSLを調べる方が先だ。
「ここから石炭が出てくるのか…」とコータが言った。
「種火は既に燃えているようだな」火室を開けて、ガリレイが言った。
 トモル達も、SL内部を探索していた。
「これが水のメーターで、こっちが蒸気圧のメーターか」計器を見ながら、ガリレオが呟く。
「お、これが汽笛だな!」天井からぶら下がっている紐を見て、トモルがはしゃいだ。
「どれ」と紐を引っ張ってみるが、プス、と言う音がするだけで、鳴らない。
「あれ?」
「蒸気溜の蒸気圧が低すぎるんだ」
「トモル、遊んでないで手伝いなさいよ!」
 見ると、ミオとダイがせっせとスコップで石炭を火室に放り込んでいる。
 その時、ポーーーッと言ういい音がした。青いSL…ユキオ達のSLが動き出した!
「おっさき〜!」
 スズカが笑いながら手を振った。
「あ〜っ! なにやってんだよ!?」
「文句があるなら手伝いなさいよ!!」
 言い合っているうちに、スズカ達は駅を出て、走り去っていってしまった。
「…よし! 蒸気圧が溜まったぞ!」
「じゃぁ、早く追い抜こうぜ!」
「無理よ! 線路は単線。いくら走ったって追いつけないじゃない!」
「…そっか」
 追い抜くには、ポイントを切り替えて、もう一方の線路を走るしかない。トモルはポイントを切り替えると、SLに飛び乗った。
「よし、行くぞ!」
 薄い、黒色の煙を吐き出して、SLが走り出した。
 走っている間、やる事は1つである。すなわち、せっせと石炭を火室に流し込む事。
 両チームとも、男2人がかりで石炭を火室にくべていた。この石炭が火室で燃え、ボイラーの水を水蒸気に変え、さらに加熱蒸気になり、ピストンを動かすのだ。
「ちょっと〜。もう少し速くなんないの?」
「文句があるなら自分でやってくれよぉ」
 スズカの文句にコータが答える。スズカは当然のごとく、
「や〜よ。そんな事したら、手が汚れちゃうじゃない」
 お嬢様育ち(なのか?)の彼女にとって、石炭をくべるなどと言う愚行は下々の者がやる事なのだ。
 サッと辺りが黒く、暗くなった。「トンネルだ」と一瞬遅れてガリレイが言った。このSLにはヘッドライトも着いているが、点灯させる必要は無いだろう。すぐにトンネルを抜けて、パッと白く、明るくなった。
 白くなると、スズカ達はススで真っ黒になっていた。
「どうしてこうなるのよ〜っ!」

 レッドチームも、負けてはいない。遅れて出発した分、大急ぎで石炭をくべる。熱くすれば熱くするほど、速度は増す。が、その動きも次第に鈍くなってきて、ついに2人は座り込んだ。
「疲れた…」
「ったく、情けないバド!」
「じゃぁ、お前がやったらいいだろ!?」
「おいらスコップなんか使えないバド」
 バドバドは二枚の羽を見せた。
「このペンギンが…」
「おいらペンギンじゃないバド!」
「博士、止まって!!」
 バドバドの声とミオの声がダブった。SLは急ブレーキをかけ、トモル、ダイ、バドバドは後ろへ吹っ飛ばされた。
「な…なにすんだよ、ミオ!」
「だってしょうがないじゃない…」
 ミオは窓から前を指差した。「ん?」とトモルも前を見た。
「モ〜」「モ〜」「モ〜」
 線路の上を、幾多ものウシが列を成し、横切っていた。
「モ〜」
「な…なんだよ、あれ!?」
「ウシバド」
「そのぐらいわかるよ!」
 トモルは列の後方を見た。まだまだ…ずうっと、ウシの列は続いているようだ…。

 順調に進むブルーチーム一行は、崖の横を走っていた。左から見上げるほど高い崖が迫り、右下には川が流れている。
「あ、博士! 見て、岩!」
 スズカが前方を指差して叫んだ。川の上を渡る鉄橋の上に、岩が転がっている。当然このまま突っ込めば、脱線して大破だ。
「みんな何かにつかまれ! 急ブレーキをかけるぞ!」
 キキキーーッ…。全員が壁に捕まったのを確認後、ガリレイがブレーキをかけた。岩まであと少し、と言うところでギリギリでSLは停車し、大事に至らずに済んだ。済んだは良いが、どうやって向こう側に行こうか。とりあえず、4人と1匹はSLを降りた。
「おっきな岩ねぇ」
「…あそこから転がり落ちてきたんだな…」
 ユキオの視線の先には、大きくえぐれた崖が。
「どうする?」
「とりあえず…押してみようか、みんなで」
 4人と1匹は岩の後ろに回りこみ、「せ〜の!」と押し始めたが、岩はビクともしない。
「ダメだ…動かない」
「何か、別な方法を使わないと…」
 何か無いか? ユキオは辺りを見渡した。
「あ、SL…」
「え?」
「あのSLで引っ張ればいいんだ!」

 岩にロープをくくりつけ、それをSLに繋いだ。ユキオが岩の後ろに回りこみ、コータが斧を持ってSLの先端に乗った。SLで岩を引っ張って崖の下に落とし、SLが道連れになる前に斧でロープを切り落とす。そういう作戦だ。
「それじゃ、行くぞ!」
 ガリレイがレバーを引っ張ると、SLの車輪が回転を始めた。
 無意味かもしれないが、ユキオが岩を後ろから押す。コータは斧を持ったまま、岩が動くのを待つ。しかし、岩もSLも微動だにしない。
「ちょっと…なんで動かないのよ!?」
「…あ」
 コータがSLの下を覗き込んだ。
「車輪が空回りしてる!」
「なに? …そうか、摩擦が少なすぎるんだ」
 と言う事は失敗だ。この方法で岩をどかす事は出来ない。
「何か、他の方法を考えないと……」
 急がなければ、トモル達に追い抜かれてしまう…。ユキオは即座に、別な方法を考え始めた。

 しかし、ユキオの心配もよそに、トモル達も立ち往生していた。例のウシの列が、未だに続いていたのだ。
「おら、どけ! どけよ!!」
 ポー、ポーーー! トモルが何度も汽笛を鳴らすが、ウシ達は一向に反応しない。
「こっちに来ちゃダメだってば!」
「どくバド、どくバド!」
 ウシの列をなんとかどかそうと、ダイとバドバドはSLを降りていた。手を大きく振り、なるべく妨害しようとするが、やはり一向に反応しない。
「はかせぇ。何とかしてくれよぉ」
「そんな事いわれても…困っちゃうんだよなぁ」
「……! そうだわ!」
 ミオは手を打って、ポケットから赤いハンカチを取り出した。

「こっちだこっちだぁ! こっちだこっちだぁ!」
 そのハンカチを広げ、トモルはウシの注意を集めようとしていた。が、やっぱり反応はない。
「う〜ん…闘牛士のようにはいかないか…」
「良い作戦だと思ったんだけどなぁ…」
 彼らは知らなかったようだが、ウシに色を識別する能力は無い。だから赤い布をいくら振っても、こちらへ来る事は無い。幼い頃から「振っている布に突進する」と言う訓練を受けたウシだけが、あのような芸当が出来るのである。
「やり方がまずいバド! おいらに貸すバド!」
 強引にバドバドがハンカチを奪い、「ほーらほーら、こっちバドー!」とハンカチを振り回した。しかし、それでもやはり反応は…いや?
「モ〜?」
 1頭のウシがこちらを向いた! そこで、列が途切れた。そのウシの後に続いていたウシが、一斉にバドバドを見る…。
「へっへ〜、おいらにかかればちょろいバド! さ、早く行くバド!」
「ちっ…」
 トモルは一瞬バドバドをにらみつけ、SLに乗った。
「バドバド、頑張って!」
「任せるバドー!」
 4人ともSLに乗り込むと、ガリレオがレバーを引いてSLを発進させた。シュッシュッシュッシュッ…と独特の音と共に、SLがウシの列を横切った。
「やったバド!」
 あとは、おいらも乗り込むだけ…と思ったが、なにやらウシ達の様子がおかしい。みな、自分の方をジッと見つめ…キラーン、と目を輝かせた。
「バ、バ、バ、バドーー!!」
「?」
 突然のバドバドの悲鳴。4人はなんだろう? と後ろを振り返った。
「! バドバド!」
 バドバドが、ウシに追い掛け回されている!
「バドバド、こっち! 頑張れ! 急げ!」
「た、助けてバドーー!!」
 短い足で賢明に走る。SLはだいぶ加速してしまい、バドバドは追いつけそうで追いつけない…。かと言って、止まるわけにも行かない。
「もう少しだ、頑張れバドバド!」
 トモルは手を可能な限り伸ばした。バドバドも、手を可能な限り伸ばす。2人(1人と1匹)の手が徐々に近づき…
「よしっ!」
 トモルがバドバドの手を掴み、一気に引き上げた!
「モーーッ!!」
 勢い余ってウシの1頭がSLに激突したが、その反動でウシが倒れ、巻き込まれたウシ達が次々と転倒していった。
 倒れたウシの山を置き去りにして、赤いSLは走っていった。
「た、助かったバド……」

 煙を吐きつつ、赤いSLは順調に走っていた。と、ミオがまた、前方に何かを見つけた。
「博士、あれはなに?」
「ああ…あれは、給水塔だ」
 鉄格子で出来た塔の上に、円柱形のタンクが載っている。そしてそこから、鉄パイプが突き出ていた。
「SLを動かすには水が必要だから、所々に給水塔を設けているんだ。水は…」ガリレオは計器を見た。「あと半分か…」
「じゃぁ、給水した方がいいわね? トモル、ダイ、止まるわよ!」
「なに言ってるんだよ、ミオ!」
「え?」
「オレ達はユキオ達より遅く出発して、しかもウシで足止めを食らったんだ。こんなところで止まってる暇は無いぜ!」
「なに言ってるのよ! 水がなかったらSLは動かないのよ!」
「でも、まだ水は半分残ってるんだろ? な、博士!」
「え? あ、う〜ん、まぁ…」
「ゴールまではどのぐらいなの?」
 ダイも口を挟んできた。ガリレオはゴールの山を見て、
「あの山の見え方だと…ゴールまで3分の1と言ったところか…」
「だったら良いじゃん! 水はまだ半分残ってんだろ?」
「でも、この先何が起こるかわからないのよ!」
「大丈夫だって! 博士、行こうぜ!」
「う〜ん…そう言われても、困っちゃうんだよなぁ…」
「博士!」
「わ、わかったよ…」
 結局、ガリレオはトモルの言うとおりにした。給水塔を素通りして、SLは走っていった。
「………」
 ミオだけは、不安そうに給水塔をじっと見つめていた。

「ホントにうまくいくのかしら…?」
 SLの中で、スズカは外のユキオ達を見ていた。
 ユキオは手ごろなサイズの石と木の棒を見つけ出し、それを岩の前に置いた。ガリレイと2人で、てこの原理で動かそうと言うのだ。もちろん、SLで引っ張る事も忘れない。
「準備できたぞ! スズカ、頼む!」
「は〜い!」
 スズカがレバーを引くと、SLの車輪が回り始めた。それと同時に、ユキオとガリレイが棒を押す。コータが斧を構える。
ゴ、ゴ、ゴ・・
 岩が…動いた! 岩は加速度的に動き、線路を転がる。そしてそのまま、崖の下へと落ちていく!
「えいっ!」
 コータが斧を振り下ろして、ロープを断ち切った。岩はそのまま崖の下へ落下して、大きな水しぶきを上げた。
「やったぁ!」
「博士、急ぎましょう!」
「ああ!」
 全員SLに乗り込むと、再び青い機体が走り出した。
 しばらくは何事もなく、ユキオとコータがせっせと石炭をくべていた。もはやスズカに期待する事もなく、黙々と作業を続けていた。
「? 博士、あれはなに?」
「ん? ああ、あれは給水塔だ。SLが動くためには水が必要だからな。残りは…半分か。よし、ユキオ、コータ、止まるぞ!」
「え〜、止まるですって!?」
「?」
「さっきの岩で、だいぶ時間をロスしたじゃない! こんなところで止まってられないわよ!」
「でもスズカ、水がないとSLは走れない。止まったら意味無いぞ」
「だけど…」
「良いから止まるぞ」
 キキキーー・・・と金属のきしむ音がして、SLが止まった。ユキオとコータが降り、給水塔についているロープを引っ張った。鉄パイプが下を向き、水がSLのタンクに注ぎ込まれる。
「………。ねぇ、まだぁ?」
 SLの中からスズカが言った。
「もう少しだ」
 計器を見ながら、ガリレイが言った。水は今のところ、4分の3ぐらい、だ。
 スズカはイライラしながら、パイプを見ていた。こうしているうちにも、ミオ達はどんどん進んでいるに違いない。どこまで? それはわからない。相手の動向がわからない、と言うのが今回のミッションの一番苦しいところだ。
「満タンになったでチュワン!」
「もう良いぞ、2人とも!」
 ガリレイの呼びかけで、2人は給水を止めた。急いでSLに乗り込むと、石炭をくべた。
 冷たい水を入れたため、ボイラーの水の温度が一時的に下がってしまった。急いでくべて、急いで温度を上げなければ。
「よし、行くぞ」
 レバーを下げると、青いSLが動き始めた。

シュッシュッシュッシュッ…
 赤いSLが順調に走っていた。そろそろ疲れてきたのか、誰も喋らず、トモルとダイは黙々と作業を続けていた。続けていたのだが、妙な事が起こった。
「あら…?」
 突如、SLの速度が下がった。煙も止まった。動力が完全に失われ、SLは…停止してしまった。
「な、なんだ? どうしていきなり止まったんだ?」
「! み、水が無い…!」
 計器を見たガリレオが、言った。
「な、なんでだよ!? まだあと半分あったはずだろ!?」
「だが、無い物は無い…」
 何故だ? いくら給水していないとはいえ、この減り方は異常だ。もしかして…どこかに穴が開いているのか? 4人と1匹は外に出て、穴を探し始めた。
「あ、見て!」
 そして、それはすぐに見つかった。テンダーのすぐ横に、こぶし大の穴が開き、そこから水が滴り落ちていた。
「なんでこんなところに穴が……?」
 思い当たる事といえば、1つしかない。あの時。そう、バドバドがウシに襲われた時、勢い余ってウシが1頭激突した。その時に…ウシの角で穴が開いてしまったのだろう。
 結局、4人でSLを押す事になった。
「だからあの時水を汲んでればよかったのに……っ!!」
「仕方が無いだろ。穴が開いてたなんて知らなかったんだから」
「フンッ」
 ミオはソッポを向いて、SLを押した。
 一体何トンぐらいあるのだろうか。こんなもの、大人と子ども3人で、山頂まで持っていけるわけが無い。ゴールはもう目の前だと言うのに…。
「ダメだ…疲れた…」「ボクも…」
 ガリレオとダイが座り込んでしまった。
「もはや、これまでか…」
「何してるバド! 頑張るバド!」
「ん?」
 上から声? 4人が上を見上げると、テンダーの上にバドバドが座っていた。
「ほらほら、早く押すバド!」
「な、なにサボってんだよ、バドバドォ!!」
「うっ…バ、バド…」
 バドバドは慌てて辺りを見渡した。なにか、なにか取り繕わなければ!
「あっ! 水があるバド!!」
「え?」
 3時の方向数百メートル…。大きな湖が広がっていた。

 何往復したかわからないが、トモル達はなんとかテンダーに水を入れる事に成功した(もちろん、穴は既に塞いである)。石炭をくべるトモルとダイの横で、
「いいバド? 水が見つかったのはおいらのおかげバド。感謝するバド」
「…サボってただけのクセに」
「うっ…」
 人間(ではないが)、後ろめたい事があると大きな事は言えないものである。

 数分走ると、ついに山の麓までたどり着いた。2本の線路が交わり、再び2本に分かれて山を登っている。片方は、山の急斜面を真っ直ぐに登り、もう片方は、山の周りを何週もしつつ、緩やかに登っていた。急な近道か、緩やかな遠回りか…そのどちらかを選べ、と言うことだ。
「あら、今頃来たの〜!?」
 その時、上から声がした。4人と1匹が見上げると、青いSLが緩やかな線路を登っている。
「スズカたちだわ!」
「今回のミッションも、あたし達の勝ちみたいね!」
 笑いながら、スズカが言った。スズカ達が緩やかな線路を走っているということは、自分たちは…
「大丈夫だ! この急斜面を登れば、まだまだ追いつける!」
 トモルは急いでポイントを切り替えて、斜面を登り始めた。
シュッシュッシュッシュッ…
 だが…妙だな、とミオは思った。何故スズカ達は、近道であるこっちを走らず、わざわざ遠回りをしているのだろう。もしかして、こっちの道ではゴールできない理由があるのだろうか…?
 ミオの予想は、すぐに的中した。SLの速度が次第に遅くなり、ついに止まってしまった。そして、ズズズズズ…と斜面を滑り降りてしまった。
「え? な、なんで? …博士、もう一度!」
「あ、ああ!」
シュッシュッシュッシュッ…
 だが、何度やっても結果は同じだ。すぐに、ダイが気がついた。
「車輪が空回りしてる!」
「そうか…摩擦が少なすぎるんだ!」
「ほ〜っほっほっ! 無駄なことしちゃって!」
 青いSLから、スズカが言ってきた。
「何度やったって無駄よ! あたし達だって出来なかったんだから!」
「今回も俺たちの勝ちだな!」
 登れなければ、勝ち目は無い。そんな事は、火を見るより明からだ。ここまで…なのか!?
「くそぉ…あと少しなのに…!」
「こういうのを、砂を噛む思いって言うんだね…」
「砂を噛む…?」と、ガリレオが考えた。「おお、それだ!」
「?」

 グルリ、と山を一周して、青いSLが戻ってきた。
「ミオ達、諦めたかしら〜?」
 まるでこのために生まれてきたかのように、スズカは幸せいっぱいの笑みで言った。次の瞬間、その笑みは消えたのだが。
「ちょ、ちょっと…なんで登ってるの!?」
 赤いSLが、ものすごい高さまで登りつめている! そんなバカな!
「へっへっへぇ…。摩擦が無けりゃ、作りゃいいのさ♪」
「その通りバド♪」
 トモルとバドバド。2人がSLの先頭に立ち、袋から大量の砂を線路に撒いていた。この砂を車輪と線路の間に噛ませ、摩擦を増やす。
 元々、SLには砂が積み込まれている。こう言うとき摩擦を生み出すために。ガリレオがそれを思い出し、ガリレイが思い出さなかっただけの事である。
「まだ勝負は終わっちゃいないぜ!」
「じゃんじゃん燃やすバドー!」
「ユキオ! コータ! もっと燃やして!」
「あ、ああ!」
 山を一周するごとに、確実にトモル達の位置が高くなっていく。勝てるか…!?
 スズカ達は、いよいよ最後の一周に入った。この回転を終えれば、山の頂上に着く。そうすれば、山頂のゴールにたどり着く…!
シュッシュッシュッシュッシュッ…
「いっけ〜〜っ!!」
 2台のSLが、山頂にたどり着いた! あとは、ゴールに停車するだけだ!
 キキキキキーーーーッ! 金属のこすれる音がして、SLが駅に止まった。
≪ミッション・クリア≫
 空中に青い光が浮かび、中からユリーカストーンが現れた。ゆっくりと降りてきたユリーカストーンは…見事、トモルの腕の中に納まった。
「か…勝った〜〜!!」
「やったぁ〜〜っ!!」
「く…くそぉ……」

 空間に亀裂が入り、ユリーカタワーの前にレッドペガサスが現れた。トモル達が飛び出してきて、ユリーカストーンをタワーに収める。
 ストーンが光り、90度回転して赤い屋根の研究所を向く。ユリーカタワーも180度回転し、同じ方を向いた。淡いピンクの霧も、お馴染みの光景だ。
「これで16個! 残り4個ね!」
「ああ!」
 それよりも、今夜の夕食の方が、楽しみだった。

 一方の青い屋根の研究所には、どんよりとした空気が漂っていた。テーブルの上には、またいつもの乾パン…。
「はぁ…負けちゃった…」
「あ〜、もう…!! だからあの時、水なんか汲まなきゃ良かったのにぃ!!」
 ダン! とスズカがテーブルを叩いたが…今更言っても、あとの祭りだ。
「次こそ…勝つ!」
 ユキオはこぶしを握り締めて、呟いた。

 大きな水溜り、海を横目に見つつ、ユリーカタワーは今日も煙突のようにそびえていた。

⇒Next MISSION「幽霊船の秘宝を探せ!」

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