おもいっきり科学アドベンチャー そーなんだ!
#26「ファイナルミッション・後編」

「どう言う事だよ、ウイルスは全部消えたんじゃないのかよ!?」
 エリアCのウイルスを退治し、再びコントロールルームに戻ってきた子ども達。ところが、全エリアのスキャンが終了したと同時に、モニター画面が暗転し、部屋の電気が全て消えた。
「どうして!?」「何が起こったの!?」
 両博士が慌ててキーボードを叩くが、全く反応しない。
「ダメだ…完全に停止している」
「ウイルスはもう、全部消去したはずなのに……」
「ボク達…このままずっと元の世界に帰れないの?」
「やだ〜! あたしもう、こんなところにいたくない!!」
 スズカが叫んで、部屋を飛び出そうとした。
「待てスズカ!」
 ガリレイが一喝入れ、「いま、非常用電源に切り替えてみる」と言った。
ジャン! と言う音がして、モニター画面がついた。部屋の電気もすぐにつき、明るさが戻った。
「よかった、コンピュータが起動した」
 モニター画面には、見慣れた5角形が表示された。5つのエリアが表示され、「A」から「E」まで書いてある。
 その時、モニター画面の全てのエリアがバラバラに離れた。
「どう言う事だ? エリア間の接続が切れた」
「え? どうして?」
「わからん…」
「も〜、どうしてこんな変な事ばかり起こるのよ!」
 スズカが頭を振った。いままで起こった変な事は、全てウイルスの仕業だったはず…。なのに、ウイルスが消えた今も、変な事が起こっている。何故だ?
「待てよ」とユキオ。「そう言えば、花火のミッションをクリアした後…俺たちがユリーカストーンをタワーにはめても、トモル達の方を向いてた5個のユリーカストーンは、こっちに移動しなかった」
「そんな事、いまはどうでもいいだろう?」とコータは文句を言ったが、「でも、変な事には違いない」とユキオは反論した。
「確かにそうだ」
 ガリレイが振り向いて言った。
「ユキオ、いい事を思い出してくれた。こいつはもしかしたら、もしかするかもしれん」
 向き直ってキーボードを叩く。
 モニター画面が変化した。いままでは5つのエリアを真上から見ていたが、角度が変わり、5つのエリアを真横から覗き込んだ。すると、5つのエリアの下に「S」、そのさらに下に「X」と書かれたエリアが表示された。
「な、なんて事だ…」「これはまずい!」
 2人の博士が、緊迫した表情で叫んだ。突然の剣幕に子ども達はあ然として声も出ない。バドバドが羽を羽ばたかせて、
「なになに、何が起こってるバドー!?」
 と説明を要求した。
「エリアXにウイルスがいるんだ」
「エリアXって…?」
「エリアXと言うのは、このコンピュータシステム自体のエリアだ」
「うん。おそらく、エリアXのウイルスが他のエリアに侵食しないよう、コンピュータが自発的にエリア間の接続を絶ったのだろう」
「その上のエリアSってのは…?」
「いま俺たちがいる、このエリアの事だ」
 エリアA、B、C、D、Eの接続は、既に切られている。だが、エリアSとエリアXは切断できないのか、いまもくっ付いたままだ。それってつまり、もしかして?
「急がないと、このエリアが侵食され、壊されてしまう!」
「そんな!」
「え〜、いやバド! おいら消えたくないバドーー!」
「博士、それじゃあ早くエリアXのウイルスを消去しないと!」
「うん、そうなんだが…」
 ガリレオはモニター画面を改めてみてから、子ども達の方を見た。ウイルスはこのままでは消去できない。その理由を、子ども達に説明しなければ。
「このコンピュータは、君達の時代よりも少し進歩したコンピュータなんだ」
「俺たちの時代って…?」
「ああ。このコンピュータは光コンピュータと言って、光のある、なし、で情報を処理するコンピュータなんだ」
 エリアCに行く前に、コンピュータについてのユリーカ情報を得た。それによれば、コンピュータの内部では1と0だけの2進法が使われており、電源のオン、オフで計算を行っている。このコンピュータは、それを光で行っている、と言うわけか。
「ボク、前にお父さんに聞いたことあるよ」ダイが言った。「近い将来、いまの半導体に代わって、光集積回路を使ったコンピュータが作られるようになるだろうって。光集積回路を使うと、いまのコンピュータよりも小型で高性能なコンピュータを作れるようになるんだって」
「ああ、そのとおりだ。そしてこのコンピュータはそれよりも数段進歩した『光ニューロコンピュータ』なんだ」
「光ニューロコンピュータ?」
「そう。これは人間の脳を参考に作られていて、与えられた情報を元に自分で判断する事の出来るコンピュータなんだ」
「そっか。与えられたユリーカ情報を組み合わせて自分でミッションを作るって言うのは、そう言う意味だったのね」
「ああ」とガリレオはうなずいた。
「だから、そこが問題なんだ」
 今度はガリレイが言った。
「このコンピュータは人間の脳をモデルとしている。エリアXにいるウイルスはただのプログラムではなく、一種の有機物……擬似生命体、とでも言うべき存在のはずなんだ」
「エリアBに入れたウイルスが、なんらかの理由でエリアXに入り込み、そこで変化してしまったらしい」
「つまり…」とユキオ。「人間の脳を侵す、本来の意味でのウイルスのようになってしまった、って事ですか?」
「そうだ。だからそいつを撃退するためには、免疫抗体を作らなければならない」
「免疫抗体…ワクチンみたいな物?」
「ああ」
「だったら、早く作ってよ!」
「それが…困っちゃうんだよなぁ」
 ガリレオはひげをさすった。
「ウイルスのサンプルがないと、ワクチンは作れない。だから、実際にエリアXに入って行って、ウイルスを捕まえてくるしかないんだ」
「その情報を元にして、ワクチンを作るんだ」
「毒をもって毒を制す、って事だね」
「オッケー! それじゃぁ、早速行こうぜ!」
 トモルが走り出し、あとにゾロゾロと続く。長い廊下を駆け抜けて外に飛び出すと、「って、あれ?」とトモルが立ち止まった。
「なんだ、あの空…」
 トモルが空を見上げた。あとから来た者達も空を見上げる。
 青い空に白い雲が浮かんでいる普通の空。だが、地平線の方に行くにつれ、徐々にモザイクがかかったようになっている。さらに地平線から、黒い塊が空を侵食していく。
「まずい! 世界が壊れ始めている!」
 ガリレイが叫んだ。
「みんな、急ぐんだ!」
 ガリレオも叫んだ。
 子ども達が研究所へ走り出した。

「みなさん、頑張ってくださいね」
 リビングに入ってきた子ども達に、ベアロンが言った。
「頑張るのよ〜!」
 ピグルもまた、子ども達を応援した。
 ブルーペガサスに乗り込むと、ガリレイが「目標、エリアX!」と言った。
 ペガサスを中心に、床に大きな「X」マークが現れる。そしていつもならせり上がる台が、今日は下へ沈んでいった。エリアXは、エリアSの下にあるのだ。
 しばらく下りると、「X」と書かれたドアが現れた。ガリレイは「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」と操縦桿を引くと、ブルーペガサスが発進した。そのまま加速して「X」のドアにぶつかる…と思った瞬間ドアが開き、滑走路が現れる。
 上下に曲がりくねった滑走路を進むと、光に包まれて……。

 空間に亀裂が入った。そこから、ブルーペガサスが現れる。すぐ隣に、レッドペガサスも現れた。
「ここが、エリアX…」
 そこは本当に、人間の脳の中のようだった。
 細い枝のような物がそこかしこに張り巡らされ、それらが枝分かれし、接続され、空間を覆い尽している。脳の内部のイラストは、たいていこのように描かれている。そしてその間を、白い物体が浮遊している。球体が2〜4つ程度くっ付いた、串団子のような白い物体。どうやらあれが、正常な細胞、正常な情報らしい。
 と、そこに赤い物体がやってきた。形は白い物体と同じである。赤い物体が白い物体に接続すると、白い物体が見る見る赤く染まった。
「いまのは!?」
 ミオが聞くと、ガリレオが珍しく顔を強張らせ、
「正常な情報が、ウイルスに侵されてるんだ!」
 周りを見渡せば、あちらでも侵食、こちらでも侵食、白い物体がどんどん減り、代わりに赤い物体が増えていく。
「は、早くするバド!!」
「わかってるよ!」
 トモルはゲーム機のコントローラーのようなものを取った。ガリレオがキーボードを操作して、ペガサスの下部から捕獲用のカプセルを出す。
 ウイルスがペガサスに近づいてきた。タイミングを見計らい、「いまだ!」。ボタンを押すと、ウイルスを見事捕獲した。
 横を見ると、ブルーペガサスもウイルスを捕獲できたようだ。

 すぐさまコントロールルームに戻り、ウイルスの解析を行う。キーボードを操作しながら、ガリレイがガリレオに言った。
「よし、俺はワクチンを作るから、あんたはワクチンを飛ばす装置を作ってくれ!」
「な、か、勝手に命令しないでくれるか!」
「なんだと、文句を言ってる場合か!」
「う…わ、わかったよ!」
 しぶしぶガリレオもキーボードを叩き始めた。
 巨大なモニター画面の横にある、小さなモニター画面に色々な物が表示される。ウイルスやペガサスの画像、よくわからない英文や数式。いま子ども達に出来る事は何も無い。不安になりながらも、両博士がワクチンと発射装置を作り上げるのを待つだけだ。
「う〜む、やはり…」ガリレイが意味ありげに呟いた。
「このウイルスは、正常な細胞が変化したものだ。ウイルスが取り付いた事で、正常な細胞に異常が起こっているんだ」
「まさに、人間の体を侵すガン細胞…というわけか」
 ユキオが口だけ冷静に言ったが、内心は不安なはずだ。
 不安になりながら前方の大きなモニターを見ていると、エリアXが徐々に赤く染まっていくように見える。ウイルスに侵食されているのだ。
 ビーーーとけたたましい警告音が鳴った。
「まずい! エリアXの温度が急上昇している!」
「どういう事!?」
「負荷がかかりすぎてるんだ! 急げ!」
 自分に言っているのか、ガリレオに言っているのか、それとも両方か。ガリレイは猛烈なスピードでキーボードを叩く。
「もし、エリアSまでウイルスに侵食されたら…」
 コータが呟いた。その声にムッとしてトモルが怒鳴る。
「マイナス思考は止めろ!」
「だ、だけど…」
 ガリレオの方は、もう少しで出来そうだった。「作る」と言っても、ここはゲーム世界だ。実際に工具を取り出してトンカンやる必要は無い。プログラム上で作り上げてしまえば、それがペガサスに反映される。他の多くの装置も、こうやって作ったのだ。
「よーし、出来た!」
 ガリレオが言った。注射器型のワクチン発射装置が画面に表示された。
「やったわね!」
「これでもう、ウイルスなんか怖くないね!」
 ダイが言った。少し気が早いが。
 しかし、ダイの言葉を聞いて、ガリレオはずっと気になっていた事の謎が、解けたような気がした。
「そうか、そう言うことか」
「え、なにが?」
「どうして君達がこの世界に吸い込まれたのか、ずっと疑問だった。でも、やっとわかった気がする。
 そもそもこの『ユリーカ』と言うゲームは、最初に与えられた知識を元にしてミッションをクリアしていく、科学アドベンチャーゲームなんだ。ところが、エリアXにウイルスが入り込んだ事でゲームの製作が止まってしまった。この問題を解決できるのは、ゲームを愛する子ども達だけだとコンピュータが独自に判断して君達を選んだのだろう。
 君達は与えられたミッションをクリアしているうちに、気付く気付かないに関わらず、各エリアに散らばったウイルスのいくつかを壊していった。だけど、エリアXにいるウイルスを破壊するには至らなかった…。そこでユリーカストーンを10個集めた時、致し方なくタワーが伸び、新たに10個のミッションを課したのだろう」
「それじゃぁ…」
 レッドチームの子ども達はブルーチームの子ども達を見た。
「タワーが伸びたのは、10個目のストーンをユキオ達が入れたからじゃなくて…?」
「20個目の時も…?」
 これで全ての謎が解けた。
 何故子ども達はこの世界に吸い込まれたのか。何故変な事ばかり起こったのか。何故タワーが伸びたのか…。
「全てはウイルスのせいであり、それを解決するためにコンピュータが独自の判断で、問題解決に最適な人物を選んだ。それが君達なんだ」
「よし、出来たぞ!」
 ガリレイが言った。ワクチンが作りあがったのだ。
「よっしゃ! そうと決まりゃ、早速エリアXに行って、ウイルスを全滅させてやるぜ!」
「いや、全滅は無理だ。このワクチンの量じゃな」
「え?」
「それじゃ、どうするの…?」
「調べたところ、このウイルスには増殖能力が無い。正常な細胞に取り付いてそいつを変化させるだけだ。ところが、ウイルスの増える量からして、明らかにウイルスは増殖している」
「どういう事?」
「つまり、どこかにウイルスの母体がいて、そこからどんどんウイルスが放たれているんだ。だからお前たちにはエリアXに行き、その母体をやっつけて欲しい」
「母体…だけ?」
「ああ、そうだ。俺たちここに残り、大量のワクチンを作ってここからエリアXに流し込む」
「え、じゃあおれ達だけで行けって事?」
 コータが弱々しい声で聞いた。サボテンが生えた時は荒々しく、とげとげしい男だったが、またいつもの弱気なコータに戻っている。
「ああ、そうだ」
「出来るな?」
「…………」
 子ども達は互いの顔を見た。答えは決まっている。全員一斉にうなずいた。
「はい!」
 よし、と両博士もうなずくと、2人揃って言った。
「ファイナルミッション。エリアXを侵食するウイルスの母体を、消去せよ!」

 子ども達はペガサスに乗り込み、ガリレオの代わりにトモルが、ガリレイの代わりにユキオが操縦席に座った。
「ブルーペガサス、ダッシュゴー!」
「レッドペガサス、発進!」
 ジェット噴射が出て、ペガサスが加速する。上下にうねる滑走路を通り抜け、周りが光に包まれる……。

 空間に亀裂が入り、レッドペガサスが現れた。すぐにブルーペガサスも現れる。
「さっきよりもウイルスが増えてる」
 ダイが言った。正常な細胞が圧倒的に減り、どこを見ても赤い物体がうようよしている。
「母体はどこにいるのかしら」
 早く見つけなくちゃ、とミオがあたりを見渡す。
「あそこ見るバド!」
 バドバドが前方を指差した。太い枝の向こう側で、なにやら一際明るく、赤く輝いている。
「ユキオ! 前方にウイルスの母体らしき物が!」
「ああ、俺たちも確認した!」
 両ペガサスが加速して、赤い輝きに近づく。
 しかしてそこから現れたのは、今まで見てきたウイルスよりも、何倍も大きな物体だった。
 黒くいびつな形をした板が何枚も組み合わさり、巨大な塊を成している。その中央には、これまた巨大な赤く光る半球。黒い基盤も含め、ウイルス全体が赤く不気味に輝いていた。
「あれが母体なの…?」
 スズカが言うと、それに答えるように母体が動いた。赤い半球から、大量の赤い物体が現れた。間違いない、あれが母体だ!
「ユキオ!」
「ああ!」
 両ペガサスが母体に近づく。それを防ぐように、母体はペガサスに向けてウイルスを発射した。
「うわああぁ!?」
 ウイルスの体当たりを食らってペガサスが揺れる。
「トモル、何やってるのよ!」
「早くワクチンを出すバド!」
「わかってるよ!」
 キーボードを操作して、ペガサスの下部から発射装置を出した。注射器型の装置が、母体を向く。
「ワクチン、発射!」
 操縦桿についている発射ボタンを押す。ボッボッボッボッとワクチンである白い塊がウイルスに向かって放たれる。
 ワクチンを被ったウイルスは、次々と白くなる。そのまま破壊されるものもいれば、正常な細胞となるものもいる。
「いけいけ〜!」
 次々にワクチンを飛ばしていくが、一向に母体に当たらず、周りのウイルスたちに当たっていくばかりだ。
「ユキオ! このままじゃちっとも母体に近づけないよ!」
 コータがやはり不安げに言う。
「くっ…。ワクチンが残り少ない!」
「え、ウソ!」
 スズカがモニターを覗き込むと、確かにワクチンがあとほんのちょっとしか残ってない。残り一発か、二発か。
「どうするのよ!」
 その時トモルから無線が入った。
『ユキオ! オレがおとりになってウイルスを引き離す。そのうちに母体をやっつけてくれ!』
「危険だぞ、トモル!」
『わかってるさ!』
 すぐにレッドペガサスが動き始めた。母体めがけて突っ込んでいくと、ウイルスが一斉にレッドペガサスの周りを取り囲む。その勢いのまま急上昇すると、ウイルスも一緒に母体から離れていく。
「ユキオ、いまだ!」
 ブルーペガサスががら空きとなった母体の懐に飛び込んでいく。だがそれに気がついたウイルス達が、レッドペガサスの追跡を止めてブルーペガサスへと向かう。
「ユキオ、危ない!」
「うわっ!」
 思わずワクチンを発射したが、母体には当たらなかった。これでワクチンが切れた。
「!」
 トモルが気転を利かせた。ウイルスはいま、全てブルーペガサスを取り囲んでいる! がら空きとなった母体の懐に飛び込むと、
「当たれ〜〜〜!」
 と叫んで発射ボタンを押した。
 放たれたワクチンが、母体の中央、赤い半球めがけて飛んでいく……。
ピカッ
 と、母体全体が白く光った。
 ワクチンが当たったのだ。
 何枚もの黒い板が割れていく。パキン、パキン、と外側から順々に割れていき、最後に白く光る球体が残った。一瞬のためらいがあったあと、パキンと音がして母体が完全にその姿を消した。
「や…やった…」
「やったああぁ!!」
「遂に倒したのね!」
「バンザーイ!」
「…って、喜んでる場合じゃないバドーー!」
 バドバドが窓の外を指差した。
「ウイルスに囲まれてるバドー!」
「え!?」
 両ペガサスの周りを、ウイルスが取り囲んでいた。母体を倒しても、ウイルスは消えない。そして両ペガサスとも、もうワクチンは残っていない。ウイルス達がペガサスを取り囲み、真っ赤に染め上げる…。
 その時。
 空から白い塊が降ってきた。
 エリアX中のウイルス達が、次々と消えたり、白くなったりしていく。
「博士たちが、ワクチンを流し込んだんだわ!」
 スズカが喜んで言い、「助かったでチュワン!」とチワワンも飛び跳ねた。

「た、たすか…た…」
 ガリレオが言うと、2人ともその場に座り込んだ。
 ウイルスは完全に消去された。コンピュータが判断し、各エリアの接続が元に戻った。
 モニター画面には他に、外の様子が移されていた。空の半分ほどが黒く染まり、木々もだいぶ消えていた。
「かなり壊れてしまったな…」
 ウイルスを消去しても、破壊された部分が戻るわけではない。
「だが、いまならまだ、修復できる」
 立ち上がり、再びキーボードを叩き始めた。

 子ども達はユリーカタワーの前に立っていた。ガリレオ、ガリレイ、バドバド、チワワン、それにベアロンとピグルもいる。
 目の前には広い世界。森があり、海があり、空があり、雲があり、そして宇宙も。博士達が、完全に修復したのだ。
シュビーン
 と聞きなれた音がして、ユリーカタワーの目が光り、子ども達に告げた。
≪ミッション・オールクリア≫
 子ども達の立つ地面が光り輝き、体が軽くなった。空間に亀裂が入り、どうやらそこに吸い込まれようとしているようだ。
 後ろを振り返ると、ガリレオとガリレイが目をつぶって並んでいた。涙でも堪えているのか、と思ったら、2人の体も光り始め、子ども達は驚いた。
 ガリレオとガリレイは瓜二つ。てっきり双子かと思ったら、そうではなかった。ガリレオとガリレイは、1人だったのだ。
 光った体が重なり合い、2人の特徴を併せ持った男性が現れた。
「ありがとう」
 と男性が言った。
「この世界にとって、君たち自身がワクチンだったのだろう」
 スッと体重が無くなったような気がして、子ども達は宙に浮いた。
 いよいよ、別れの時だ。
「バドバドー!」「チワワーン!」
 ミオとスズカが手を振った。バドバドとチワワンも、手を振り返した。感極まって、バドバドの目から涙がこぼれる。
「ベアローン!」「ピグルー!」
 ダイとコータが手を振った。ベアロンとピグルも手を振り返した。2人とも泣いていた。
「博士ー!」「楽しかったぜー!」
 ユキオとトモルが手を振った。博士は2人を見上げて微笑んだ。
「君たちが大人になる頃には光ニューロコンピュータが開発され、より素晴らしい世界になっているだろう」
 子ども達の記憶に残っているのは、そこまでだった。

「ハッ」
 トモルは目を覚ました。
 ここは自分の部屋だ。目の前のテレビ画面には、「ユリーカ」に行くまでにやっていたゲームが表示されている。
「オレは…」
 電話が鳴った。立ち上がって受話器を取ると、ユキオからだった。
「なぁ、トモル。お前、いままで…」
 ユキオはトモルの話を聞くと、
「そうか、お前もか…」
 とだけ呟いた。

 丘の上に、子ども達は集まっていた。遠くの地平線に赤い太陽が沈んでいる。草花を揺らしながら、風が流れていく。
「なぁ、トモル」ユキオが言った。
「風がどうして吹くか、お前わかるか?」
「お前こそ、夕日がどうして赤いのか、知ってるのかよ?」
 2人は顔を付き合わせると「プッ」と笑い出した。子ども達8人が、一斉に笑う。
「トモル。お前とはこれからもライバルだからな」
「ああ、もちろんだ!」
「あ、見て!」
 ミオが西の空を指差した。
「あ」と子ども達が言った。

 夕日に赤く染められた、ユリーカタワーのような大きな雲が、子ども達を静かに見つめていた。

MISSION All Clear

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